HAPPY BIRTHDAY TO……?
novel
それは突然だったが、当然の問いかけだった。
「誕生日、いつなんだ?」
HAPPY BIRTHDAY TO……?
もうすぐスィンの父の誕生日である。
テッドは日頃の恩がため、スィンは家族として息子として、その日を祝うために今日は贈り物を選びに街を歩いた。そうしてやがて二人、贈るものを決め、祝うための食料やら何やらを買い込んで、家路についた。
「誕、生日、ねえ……」
大きな品物を抱えたスィンは、その荷のせいで前が見えにくいらしく少し顔を顰めている。その様子を横目に、テッドは空を仰いだ。
遠くオレンジに染まった空。
「訊いたことなかったと思って」
スィンはずれ落ちかけた荷を抱えなおして言った。
「そう言やそうだな」とテッドは半ば反射で返し、
「お前はいつだったっけ?」
つい話を逸らそうと、そう続けると、スィンはむっとテッドを睨んだ。
「訊かれたくないならそう言えばいいだろ」
「別にそーゆうわけじゃあ、」
ないんだけどな、と言いつつ、テッドも右肩からずり落ちかけた荷物を左手で引っ張り上げた。つられて左腕に抱え込んでいた紙袋が落ちそうになってしまい、少し焦る。
「ちょーっと買い込み過ぎじゃないかこれ」
「……まあ、父さんの誕生日だから」
答になっているのかいないのか、スィンはそう苦笑する。
「誕生日の度にグレミオがすごく張り切るんだ。いつものことだよ」
だとしたら、スィンの誕生日の際にはきっと言葉には表せないくらいのことになるんだろう。テッドは推測ではなく確信した。
おいしい食事ができるのなら、全くもって問題の一つもないが。
「前にもあったろう?」
「ああ??そう言えば」
あれはクレオの誕生日だったろうか。確かにこんな風に荷物を抱えて歩いた記憶がある。
女性へのプレゼントなんて分からなくて、ソニアに救援を頼んだことも覚えている。
「そう言えば、テオ様の誕生日、ソニアさんは……」
「来ると思うよ」
多分ね。スィンは付け足し、「ああ、仕事が忙しくなければ、だけど。これは父さんにも言えたことだし」と続けた。
「確かに、主役がいなくちゃ始まんないからなぁ」
それは困る、とテッドが振り向くと、「だろう」とスィンは笑った。
しかしやがて笑い声が小さくなっていき、会話が途切れた。
「……」
「……」
妙に気まずくて、お互い口を開いては閉じる。
「えーと、」
意味もなくまた荷を担ぎなおしてテッドは言葉を探したが、スィンが息を吸い込むほうが早かった。
「悪かったよ」
「へ?」
何が。心底から不思議に思ってそう問うと、視線の先で彼は顔を曇らせていた。
「訊かれたくなかったのかと、思って」
「あ、あー……」
誕生日、か。
頬を指でかいて、テッドはちょっと視線を泳がせた。
「いや、まあ……そうじゃ、なくてだな」
誕生日は、いつも気付けば過ぎていたことばかりで。
それを今更祝ってもらうというのは、何とも……。
「なんか、恥ずかしい、……」
「………………は? 恥ずかしい?」
「っつーかその、照れくさいとゆーか……」
何だかこっぱずかしいことを言っているような気がする。
ついつい赤くなっただろう頬を隠そうと、テッドがふいと顔を背けると、少々の間の後に、
「……ふぅん?」
にやりと言う擬音が似合いそうな笑顔が想像できる声音で、スィンが相槌を打った。
ぎくり、とテッドが慌てて振り向けば、予測通り何かを企んだような、スィンの意地悪い笑顔が目に飛び込んでくる。
「お、おい?」
「教えてくれないんじゃ仕方ないよねえ」
「ちょ、ちょっと??」
妙に楽しそうなのが途轍もなく不安だ。
待て、と言いながらテッドは肩を掴もうとするが、するりとかわされる。
かわしながらもテッドを振り返り、スィンは口を開いた。
「テッドの誕生日は、みんなの誕生日の度に祝おうか」
「ぁあ!?」
「だって教えてくれないんじゃねえ?」
「ちょっ、だから待てッ、って」
何を言い出すんだと慌てて止めようとしてみても、くすくすと笑い返されるばかり。
「ほら、急がないと遅くなっちゃうよ!」
走り出したスィンに、テッドも苦笑して後を追った。
そして誕生日当日。グレミオはやたらと大きなケーキを作って、みんなに切り分けた。
その中で主役のケーキは当然大きかったけれど、テッドの分のケーキも負けず劣らず大きかった。
テッドは相変わらず誕生日をスィンに教えていない。
しかしそれがケーキがおいしかったからだというのは、テッドにとって、誕生日以上の秘密である。
end
2004.3.2
2005.11.24 改稿
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