小さな愛のうた <第3話> 次に私が起きた時、まず違和感を感じたのは、私の服装だった。 なんだかピンク色で、ふわふわしてて、そう、まるっきり「ドレス」だ。 私はスカートは嫌いじゃないけれど、こんなにヒラヒラしてるのは恥ず かしいとしか思えない! 「な、なんじゃこりゃー!?」 そればかりでは無かった。靴も、手袋もついでに髪を結うリボンも、全て がピンクで統一された格好を強制的に着させられたのだ。 「お姫様が、そんな声出しちゃダメじゃない」 金色短髪のボーイッシュスタイルなベネティアさんが、妖艶に微笑む。 全く、唯一「まとも」だと信じてた彼女にまで裏切られるとは・・・ 「おおおお、俺にくれ・・・げふ!」 キィスの腹にすかさずベネティアさんの肘が入る。 これで、この人白魔道士なんだよなあ。本業はモンクなのかも・・・っと、 余計な観察はともかくとして。どうしてこんな事になったのか、ちゃんと 説明してもらおうじゃないの? 「まま、そんなに睨まないでよー。愛の告白ならドラマチック★にしたい  じゃない?」 ジェジーさん・・・アリーナさんを洗脳したわね? 「ひっひっひ。まあ、この計画はオレが考えたんだけどね!」 いや、元凶はアナタ以外考えられません。 やれやれ、どうせ私ひとりが抵抗したって無駄なんだろうなあ。 もう、いい加減諦めて、この人たちに遊ばれてよう・・・ 「ケアルかけたわよ」 「おぅ・・・」 腹を押さえて唸るキィス。 ケアルって、そんな原始的な「技」でしたっけ? ベネティアさん・・・ ********************************* もうとっくに、時計は11時を回ってしまっていた。 レミミはどうしたんだろうか。 僕は呼び出された訳なんだけれど。 もう、彼女には会えないのかな・・・いや、それはイヤだ! そうだ、ジュノに居るのは間違いないんだ。 僕が彼女を探せばいいだけのことなのに、何故今までボケッとしてたんだ。 そう思って、酒場の扉に手をかけると、僕が開ける前に急に開いた。 僕はその勢いに吹っ飛ばされて、カウンターに頭を打ち付けてしまった。 星が見える。あ、夜だから当たり前か。なんて、そんなことは置いといて。 店に入ってきたのはエルヴァーンの黒魔道士のキィスさんで、彼は僕を抱え 上げて、唾を飛ばしながらこう熱弁した。 「レミミ姫が攫われた! 早く救出しなければ!」 レミミ姫・・・はあ。 なんだかよく分からないけど、どうやら何かしら彼女 の身に起きたのは確かだろう。 どうやら周りの吟遊詩人さんたちも、酔いがまわって、見え見えのお芝居に 参加の意思表明を出す始末。なんだか、事が大きくなってきたぞ?? ********************************** 「よし、そっちの首尾は万全ね」 「こちら倉庫前、人影はまだありませーん」 リンクパールまで使って何をしているんだか、この人たちは・・・。 「キィス、そのまま倉庫前まで誘導お願いね」 「了解♪」 あはは、何だかもう、どうにでもなれって感じかなー。 「ジェジー、支度は出来た?」 「いや、もうちょいで完成する・・・」 今度は何を、と思ったら、ジェジーは自慢の銀髪を染めて結い上げて・・・ 顔にはペインティングを施して・・・あっという間に、即席「ナナー・ミーゴ」 の出来上がり・・・?? 「OK、これでバッチリだろー♪」 「あとは言葉使いとクネクネした仕草ね」 「げ、あんな恥ずかしいの真似すんのかよ!」 「言葉使い」 「う・・・んん、そんなことできないわぁ〜」 「・・・ばっちり」 このやり取りには、流石の私も大笑いしてしまった。 だってジェジーの口調や仕草が本当にあの泥棒ミスラそっくりだったんだもの! 何だかんだ言って、仕切ってるのはベネティアさんだし・・・まあ、私もトコトン 楽しんでみようかな? ************************************ 画して、僕はキィスさんに手を引かれて、(歩幅が合わないので)体が半分宙に 浮いたまま、見知らぬ場所へ連れて行かれた。 そこには、とてつもなく不自然に置かれた封筒が・・・ やっぱり、拾って中身を見なきゃダメだよね・・・? キィスさんはニヤニヤしている。この人は、芝居に向いてない質なんだろうな。 がさがさと中身を取り出すと、ボンっと小さく爆発して、メッセージが紙では 無く地面に粉のようなもので書かれていく。凝った演出だなあ、と感心した。 『アナタの大切なヒトは預かったわぁん★ ナナー・ミーゴ』 もうとっくにお芝居と分かっていたのだけれど、この文章は誰が作ったのだろう ・・・と考えると、ちょっと背筋が寒くなる。多分、キィスさんだ・・・。 ここまでして僕達を応援してくれる(ただ単に遊んでいるのかもしれない)みんな。 いろんな意味で、涙が零れた。 「ナナー・ミーゴめ・・・許さない・・・!」 僕は俳優になれるだろうか。みんなが、もう後戻りはさせてくれないだろう。 演じきって、いい舞台として、思い出に残ればいいじゃないか。こんな楽しい事、 今まで無かったのだから・・・ ************************************ 「さあて、可愛いタル坊やがやってくるわよぉん」 もう完全に、ジェジーはナナー・ミーゴに扮装している。私はやっぱり、お姫様 を演じなくてはならないのだろうか。まあ、ちょっぴりなら、自信あるけど、ね。 「よし、キィスはそこで消えて」 「アリーナ、スモークの準備よろしく」 なんだか、お芝居の舞台裏を見ている感じ。もうすぐここも舞台になるんだけど。 シュゴゴ・・・すごい量の煙。 そして、その中から登場するナナー・ミーゴ(もどき)。 ローファも、とっくに気付いているはずなのに、お芝居をしている。 「レミミ姫を返すんだ!」 「バカねぇ〜、返せと言われて、返すヒトがいるもんですかぁ〜」 私は、えーと。どうすればいいかな? とりあえず、煙を吸って涙でも・・・ 「ローファ様〜私はここよ〜」 どう? なかなかイイ演技でしょう? 「今、助けてあげるから、もうすこし待ってて」 あれ、なんか、彼は素で台詞を言ったような気がするけど・・・ ギャラリーは続々と増え続け、本当に、『舞台』になった。 吟遊詩人が曲を奏で、即席の詩を歌う。 「なんか、ちょっと大げさになってきたかしら?」 ベネティアさんが、これだけの人数の参加にちょこっとだけ首を捻った。 ************************************** ここからは、芝居だけじゃ足りない。 僕は、真剣に、彼女に告白をするんだ・・・! 「そうねぇ・・・彼女を愛する証を立てたら、返してあげてもいいわぁん」 僕は一瞬考えた。どうしたら、彼女に伝わるのだろう。 そうだ、僕に出来ることは、これしかない・・・! 僕は深呼吸をして、早まる鼓動を抑えた。 吟遊詩人さんは丁度、あの曲を奏で始めていた・・・ 『・・・♪〜』 君への想いを、大好きなフレーズに乗せて。 『・・・♪〜』 例え、僕の体は君まで届かなくても・・・僕の声なら届くはずだ。 『・・・♪〜・・・♪〜』 そして、僕の言葉が消えて、ただの音になっても・・・ 『・・・♪〜・・・♪〜』 この調べは、君に届くんだ。 『・・・♪〜』 僕は君が好きだ。 『・・・♪〜』 僕は、レミミ、君が好きだ・・・ *************************************** 「ローファ・・・」 なんて綺麗な声・・・ううん、綺麗な音なんだろう。 私は切なくて、涙が零れた。これは、煙のせいなんかじゃない。 みんな、彼の音を聞いている。 ローファのうただけが、聞こえている。 誰もが、その夜のことを忘れないだろう。 私は、彼のうたに、想いに、深く包まれていた。 *************************************** 僕は、うたい終わると、レミミの傍に片膝をついた。 「レミミ、君に、僕の全てを捧げたい」 静かだ。 まるで、世界には僕と彼女しかいないように。 「ローファ・・・私も、アナタのことが・・・」 一瞬にして湧き上がる大歓声に、彼女の言葉の末は呑み込まれてしまった。 僕とレミミは各々が胴上げをされ、それによってグングンと距離を引き離された。 吟遊詩人さんたちまで、自分たちの楽器そっちのけで胴上げに参加している。 大勢の人々に祝福され、舞台の続きは上層の大聖堂にまで及んだ。 流石に、僕も彼女も驚いてしまったけれど。 花で出来た指輪を交換し・・・ 恥ずかしがりながらもお互いに口付けを交わして・・・ その夜のうちに、なんと、僕達は結婚式を挙げてしまった・・・! 後に、あの4人組と彼女の友人のアステルドさんは、こんな話をジュノで広めていた。 「愛の告白は、当『ローファ劇団』の舞台で」 今でも、僕は彼女と一緒にうたう・・・短くて、小さな、愛のうたを・・・ *The End* これでおしまい・・・では無く、また書きたいなあ、このキャラたち^^; byるるる