小さな愛のうた <第1話> ジュノへの長い道のりを共に旅するパーティーも、今日で解散。 とうとう旅の目的地、『ジュノ大公国』に到着してしまったからだ。 「お疲れー!」 「お疲れ様でした♪」 「誰も途中で抜けなくてよかったね」 「恐竜が襲ってきたときは死ぬかと思ったー」 「うーん食料が尽きたーでも買うお金ないよ」 「じゃ、後でバザーで格安の見に行こ」 噂に違わぬ、賑やかな街中。行き交う人々は、僕達とは数段格が違う。 各々が別れの挨拶をし始める前に、どうしても聞きたいことがあった。 今回組んだパーティーのひとり、「レミミ」っていう同郷人の女の子。 僕は、彼女にひとめ惚れだった。 彼女の今後の予定を、是非とも聞きだしたかったんだ。 「あの、ちょっといいですか?」 パーティーの面々が、一斉に僕の方に振り向いた。何だか恥ずかしい。 「皆さんは、この後どうするんでしょうか?」 ほぼ同時に全員の答えが返ってきて、ちょっと混乱したけど、何とか まとめてみたら、こんな感じだった。 リーダーのミスラ戦士の、ジェジーさん 「とにかく戦いまくって、自己鍛錬!」 ヒューム白魔道士の、アリーナさん 「私は、チョコボの免許を取ろうと思ってるわ」 同じくヒューム白魔道士の、ベネティアさん 「んー、特に何も決めてない・・・かな」 エルヴァーン黒魔道士の、キィスさん 「俺はちょっとした仕事でも探そうかな」 そして、タルタルモンクのレミミ 「確か友達がル・ルデの庭に居るから、会ってこようと思ってる」 僕はフムフムと頷いて、レミミが会おうとしてる「友達」が男じゃない ことを祈った。そして、みんなの視線が集まる中、僕は慌てて言った。 「えと、ジュノをひと回り見てきます」 ********************************* あーあ、楽しかったパーティーも解散しちゃったし。 私はこれからどうしようかな? さっき私は友達に会うって言ったけど、 どうやらジュノから狩りへ出て行っちゃった後みたいだし・・・。 ん・・・? 何だか視線を感じるわね。何かしら。 「ちょっと、コソコソ見ないでくれない?・・・ローファ・ローダ?」 マヌケにも、赤毛のボンボリ頭が壁からはみ出てるわよ、シーフ失格ね! 「レミミ、後をつけて来たんじゃないんだ、ごめんね」 大胆なんだか、優柔不断なんだか。彼が私に好意を寄せてることは本人以外 誰だって気付いてた。だって、旅の道中はずっと私にベッタリで、戦闘の時 連携技が決まる毎に「レミミ、格好良かったよ」なんて誉めたりしてたから。 私もまんざらじゃ無いけど、ちょっと頼りない感があるローファは恋人って いうよりも可愛い弟ってところかしら。年を聞いたら、私より3つも年上で びっくりしたけど。 「これから、一緒にバザー見に行かない?」 彼はモジモジしながら、私を誘った。なんか、断ったら可哀想な気がするな。 幸い私はまだバザーを見に行ってなかったし、丁度良かった・・・かな? 「うん、いいよ。何が目当て?」 「えと、アクセサリー・・・かなあ」 間延びしたような彼の口調は、結構好き。慌ててる時、何も考えてなかった 時は、必ず「えと、」って始めに付くの。さっきの答えも慌てて答えたんだ ろうな、きっと。ふふ、ちょっと可笑しい。 ********************************** やったー! 彼女をデート(?)に誘ったぞ! しかも、OKだって! 僕は喜びのあまり頭が真っ白になっていて、彼女の質問に適当に思いついた ことを答えてしまった。うん、多分・・・大丈夫。上手くやるんだ、ローファ。 下層はゴミゴミしていて、体の小さな僕達には、生命の危険を匂わすような 雰囲気だった。そうだ、彼女の手を握るんだ・・・僕にしては大胆な発想だ! 手を繋いでいれば、二人が人ゴミに引き離される心配も無い。 「レミミ、僕の手を握ってて」 言ったぞ・・・僕は、恥ずかしさに打ち震えた。彼女は、というとアッサリと 手を繋いでくれた。顔がカアっと熱くなるのを感じて、数あるバザーを覗い ても、ちっとも内容を把握できなかった。彼女が「コレ良いね」と言えば 「本当だね」と頷いて「高くて手が出せないよ」と言ったら「そうだよね」 と同感を示した。僕は浮かれ過ぎて、彼女が何か言ってるのが、よく聞こえ なかった。僕は何かに当たり、ポテッと転んでしまった。 「オイ、どこ見てんだ、ちびっ子がぁー!」 怖い怒声に、恐る恐る見上げると・・・ヒゲ面の強そうなヒュームのおじさん。 レミミは、すぐに彼に謝ったが、僕はすっかり萎縮してしまって声が出ない。 「兄ちゃん、彼女だけに謝らせて、相当身分の高いこったぁな!」 大ピンチだ! 動け、僕の体! 早く彼に謝らなきゃいけない。 *********************************** 彼が謝ろうとしない態度に、かなり頭に来てるわ、このヒゲオヤジ・・・ ローファは怯えてる。繋いだ手から大量の汗と小刻みな震えが伝わるもの。 私が助け舟を出してあげなきゃ・・・! 「ごめんなさい、彼は口が不自由なんです、許してあげてください」 ローファは私の言葉にびっくりしていたけど、赤毛のボンボリ頭を無理やり 下げさせたら、ヒゲオヤジは何とか納得して帰ってくれたみたい。 一時はどうなるかと思ったけど、何事も無く済んで良かったわ。 「・・・レミミ・・・」 私は耳を疑った。え、彼は何て言ったの? 「レミミ、君はなんて酷いことを・・・」 突然、彼は繋いでいた手を振り払った。私が何か傷つけることでも? あ、さっきの嘘・・・「口が不自由」って言ったことに怒ったのかな・・・ 「本当は、僕は・・・君のことが・・・大好きだったのに」 ローファは人ゴミの中へ駆け出して、すぐに姿が見えなくなった。 捨て台詞に過去形の告白をされて、私としては、腑に落ちなかった。 ああでも言わなきゃ、あのヒゲオヤジはいつまでも絡んでたでしょうし、 何よりも、ローファ、あなたが謝らないからそう言うしか無かったのよ! 不快な気分のまま、私は友達と会わなければならなかった。 「なんだ、随分と荒れてるじゃないか」 「別に」 ぶっきらぼうに私が答えると、大きな友人は豪快に笑った。 「何が可笑しいのよー!」 「いや、すまない、怒った顔が可愛くてね、つい」 タルタル用の小さなカップに、大きな逞しい手が器用にお茶を注ぐ。 彼は、ウィンダスで冒険者の名を挙げたばかりの頃から、私の色々とお世話を 焼いてくれる、ナイトのガルカさん。ジュノに行くことを前もって教えたら、 「レミミも随分と成長したな」って誉めてくれた。最近はずっとジュノに居る らしくて・・・久しぶりの再会に、私はローファとの事なんかすっかり忘れてた。 「ん? 何か俺に隠し事をしてるんじゃないか?」 「う・・・相変わらず鋭いなあ、アステルドさんは」 アステルドさんの鋭い突っ込みに、タジタジとしながら、何時間か前の事件を 話した。 「ふむ、で、その彼はどうして怒ったんだと思う?」 「わからない。私は助け舟を出しただけなのに、なんで怒ったのかしら」 「そうだな・・・きっと、彼の『コンプレックス』に触れたからじゃないだろうか」 『コンプレックス』・・・? 私にはピンと来るものがなかった。 アステルドさんは、彼を傷つけたのは確かなんだから理由を知りたければ直接 会って聞いてみたら、と言った。この広くて人口の多い街で、無事に見つけら れるのかしら。でも、やっぱり気になるから、ローファを探そう。 友人と別れると、私はローファの姿を追って、ジュノをくまなく探し回った。 *第2話につづく* 今回は簡潔に書くのを目標にしてます・・・^^; byるるる