「目眩」  後編 「い、いやっ!こんな所…でっ」 驚くアリアの抗議を無視して、ルーヴェルは虎がそうするように、しなやかな獲物を押さえつけた。 いつだったか、バストゥークで彼女を抱いて以来、花がほころぶようにその体は女の魅力を深めつつあった。 彼女自身はまだ良くわかっていないようだが、そのギャップが、また彼を愉しませる。 「やっ、やだ。外ではこういうことしないって…ルーヴが…」 そんな約束は、匂い立つ白い肌の前では無意味だった。首筋をきつく吸い上げる。ひあ、と高い悲鳴が漏れた。 「ルーヴ…いやぁ……」 くすんくすんと泣き出しながらも、ルーヴェルの手によって目覚め始めた彼女の中の「女」が、彼を求め始めた。 秘裂に潜り込ませた指先から、彼の理性を麻痺させる熱がじんじんと伝わってくる。 「熱いぞ」 ふ、と口先で笑ってやると、アリアの全身が羞恥で震えた。やがて、どうあっても逃げられないと観念したのか、 その体からくったりと力が抜ける。ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、ルーヴェルの行為に必死に耐えていた。 「声出せ。苦しいだろう?」 嗜虐心が止まらない。女神に使え、清さと博愛を求められる白魔道士を組み敷いて、己の思うがままに泣かせるのは 悪い気分ではなかった。だが、心のどこかで最後の理性が警鐘を鳴らす。自分はどうして、彼女を求めているのだ?と。 アリアの中に指を差し入れ、掻き乱す。空いている指で外側の花心を転がし、溢れた蜜をすくっては塗り広げる。 それでも彼女は必死で声を抑えていた。もちろん、状況が状況なせいもあるだろう。 初めて外で抱かれる不安に、快楽に溺れたいと願う本能より、羞恥と恐怖が勝っているのだ。 焦れたルーヴェルは、小降りだが形の良い胸に手を伸ばした。手のひらで押し包むと、きつく握って突き出た乳首を唇に挟む。 ぐちゅ、くちゅ、と秘所から水音が響いた。わざと音を立てるようにして、彼は乱暴に出し入れを繰り返す。 そして、しこり始めた花心を指先で強く弾いてやった。 「や−−−−−−っ!!」 とうとうアリアの唇から悲鳴が漏れた。堕とした、と確信したルーヴェルは、さらに彼女を責め立てる。 「いい子だ」 言って、ぽろぽろこぼれる涙を吸ってやる。いまだかつて、娼婦に対しても、こんな言葉を絡めた悪質な責め方をしたことはなかった。 男の扱いを知らない未熟な彼女に、なぜこんな酷いことが出来るのか、ルーヴェルはかすかに残った理性で必死に考える。 「…アリア」 不意に、彼はすべての責めを中断した。はぁ、はぁ、と小柄な体が彼の視線の先で揺れている。こぼれた涙がこめかみを伝って、 黒髪に吸い込まれていった。 「俺に抱かれるのが嫌なら、言え」 アリアが目をまんまるに見開いて、ルーヴェルを見上げた。瑠璃色の瞳に、炎の明かりがゆらめいている。 「ど……して…?」 ヒュームの娘の顔が、くしゃくしゃに歪んだ。泣かれる、と青年は直感する。 「どうして…そんなこと言うの?」 涙を溢れさせながら、アリアはルーヴェルに抗議する。 「どうして、おいてくの?わたし…わたし…びっくりした。怖かったのに…!」 体を起こすと、娘は青年の胸に顔を埋めて、その胸板をどんどんと叩いた。そして声もなく泣いた。 そして、愚かな青年はやっと気付くのだ。自分も、彼女も、お互い自身よりも大切なモノを、他に持っていないことに。 (試していた…のか) 心のどこかで期待していたのだ。驚いた彼女が、自分を追ってくることに。知っていたのに、分かっている筈なのに、 何故そんな酷いことをしてしまったのだろう。原因はひとつ。派遣隊のメンバーにいらないと言われた事、それが、 過去も名前も捨てて、世に必要とされずに生きるようになってから生じた、心の隙間に忍び込んだのだ。 自分はこんなにも、誰かに必要とされたいと願っているのに。 ルーヴェルを求めてくれる愛おしい娘、その頬に彼はキスをした。反対側にも、かるく口づける。頬を濡らす涙を拭ってやる。 (ああ、だから) アリアがようやく泣きやんだ。不思議そうにルーヴェルを見つめる。その唇を、自分のそれで塞いだ。口中に流れた涙を、 舌をからめて舐め取った。長い長いキスを交わし続ける。ようやく離すと、桜色の唇が自分の名を呼んだ。 それは掠れていて、声にはならなかったけれど、彼にはちゃんと分かった。 (俺はこいつが欲しくて、たまらないんだ…) 現在の自分だけを見て、隣に居てくれる希有な存在。それがアリアだった。彼が、彼であるというだけで愛してくれる者が、 いったいこの世にどれだけ存在しているというのだろう? 「…すまない」 自分の胸に彼女を抱き寄せ、ルーヴェルは素直に謝罪した。落ち着き始めたアリアの鼓動が、肌を介してとくとくと伝わる。 分かっているのかいないのか、アリアがふっと頬ずりした。その感覚が、青年の理性を打ちのめす。 彼は再び、毛布の広がった地面にアリアの体をころんと横たえた。 「抱いてもいいか?お前が欲しい」 ストレートに問われて、アリアの目が見開いた。やがて彼女は小さく溜息を付く。 「ひどい、ルーヴ…こんな時だけ、そんな風に言うなんて…」 強がる瞳が、ルーヴェルを睨んだ。細い指が伸びて、彼の長い耳をぎゅっとつねる。痛みで、ルーヴェルの顔が歪んだ。 意趣返しとばかりに、ルーヴェルはアリアの腰から腋へのラインをつうっと撫で上げる。そして、耳から指が離れると、 今度は彼女の耳を甘噛みしてやった。短い悲鳴が岩屋に響く。 下衣を脱ぎ、互いに全裸になる。はちきれんばかりのグロテスクな器官、それを視界の端に認めて、 アリアがひっと声を上げた。しかし、ルーヴェルは容赦なく彼女の膝を割り開くと、滾った欲望をゆっくりと沈めていった。 ぎりぎりの空間を慎重に進むと、彼女の中を支配する感覚で、ルーヴェルの本能が愉悦に震える。 突き進むその部分からずっ、ずるっ、と音が立つような錯覚に陥ってゆく。 「あふっ…うぅ…」 アリアが必死で苦痛に耐えている。ヒュームとしては成熟しているが、エルヴァーンと比較すれば少女にも近い体格だ。 そんなギャップもあって、彼女と出会う前は、ヒュームの女を抱くのは苦手だったのだが。 「こんな…事。ルーヴとしか、しない。出来ないよ…」 乱れる息の下で、ルーヴェルに必死に縋り付きながらアリアがそう言った。やがて、自分の質量で彼女をいっぱいに満たすと、 男は徐々に劣情にその身を委ね始めた。腰を引いて、また押し上げる。繋がっている部分は恐ろしく熱くて苦しくて、 切なさと愛おしさが彼らを満たす。 「アリア…はあっ…くそ、くそ…」 行動に、ゆとりが無くなっていく。先ほどとは比較にならないほど淫猥な水音が、下腹部から立ちのぼった。 ルーヴェルの腕の中で、小柄な体が翻弄されている。 腕を回してアリアの背が地面の起伏に痛めつけられないようにしてやろうとしても、それはかえって、 自分の胸に彼女を押しつけてきつく抱きしめる形になってしまう。 「あっ、ああっ、ダメ、ルーヴ…無茶しないで…っ!」 貫かれながら、アリアが必死で抗議する。その間にも、胸をもみくちゃに弄ばれ、長い腕に全身を強く締め付けられる。 それなのに、押し寄せる快感と、圧倒的な質量に暴れ回られる苦痛、それらに抵抗する術が無い。 「だめ、いや…っ!助けて、ルーヴ、お願い…もう…もう…!」 ルーヴェルの乱れる吐息を耳元で感じて、アリアの心がパニックを起こす。好き、と、怖い。恋心と恐怖が、同時に彼女を責め立てる。 「俺が…必要か?」 外の雨音と雷鳴、焚き火の音、繋がる部分から響く音、乱れる呼吸の音。そんなものにまじって、 その言葉だけがやけにはっきりとアリアの鼓膜に響いた。それを思惟するゆとりもなく、体は何度も貫かれて、 じんわりと広がる悦楽が理性を麻痺させているのに。 「ルーヴ、ルーヴ、ルーヴ…!」 ただ、その名を呼んで、アリアは彼の首に再び縋り付いた。熱い体、初めて彼女を抱いた男を、ただただ求めて、 想いを伝えようとする。ルーヴェルが、ひときわ乱暴に彼女の体内を突き上げた。それで、思考が真っ白に染まる。 意識が飛ぶその瞬間まで、娘は青年の体にしがみついていた。 自分の中に、彼の本能と想いがすべて吐き出されたのも分からないまま。 焚き火の、最後の残り火がぱちんとはぜて、そして消えた。 「『比翼の鳥には、なるなよ』……」 いつか、ギルドリーダーの男にそう言われたことを、ルーヴェルは思い出した。 彼は不思議な人物で、いつも全てを見通したような目で、他人を評し、言葉を与えていた。 ルーヴェルとアリアが体の関係を持っていることを、彼はすでに知っていて、ある日突然、何気なしにそう言われたのだ。 比翼の鳥。片翼を失えば生きては行けぬ、美しくも脆い存在。 「遅かったな、パウ…もう、俺は」 無理だ。そう、呟く声は音にならなかった。きっとこれから一生、自分はアリアを手放せない。それは確かな予感。 そう考える自分が、少し狂っているのではないかと思う時もある。でも、それはむしろ心地よくて。 愚かな自分は幸福すら感じている。 「ん…、ルー…ヴ……」 腕の中で眠る娘が、寝ぼけながら彼にすりよった。きゅうと抱き返してやると、安心したかのように表情を緩めて、また深い眠りにつく。 雨が止んで、外が白み始めるまで、二人はずっとそうしていた。まるで、それがさも当たり前の事であるかのように。 Fin *+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+* ルーヴェル:エル♂F4銀髪 アリア  :ヒュム♀F4黒髪