長い冒険が一段落したため、私たちは休息を兼ねてサルタバルタに来た。 私の彼… 銀髪のタルタルの男性と初めて出会った頃、この辺りを案内されたことを思い出す。 彼は色々な事を教えてくれた。といっても、要点を簡潔にしか言わない喋り方だったけど。 口数は少なかったけど、その分一言一言に重みがあるように感じた。 そして私は何よりも、彼の話す声に惹かれていた。 「ララブーモエー」 でもいつもは凛々しい彼の声も、今日はちょっと浮ついている。 ウサギを抱きかかえてじゃれ合っている。 可愛い動物には目がないみたい。 この前の冒険の間中ずっと私のことを守ってくれてたから、 今はゆっくりと羽を展ばしてもらいたいと思う。 「ガウガウガウ」 彼の横では黒い虎が吼えている。通りすがりの人が見たら、きっと腰を抜かすだろう。 でも実は黒虎の彼は、この冒険で仲良くなった私たちの仲間だ。 獣使いの心得がある彼に物凄くなついてしまっている。  ベチッ! 横から黒い虎が割ってきて、ウサギを地面にはたき落とした。 (ペットは一匹までにしろ!) とでも言ってるのかしら。案外嫉妬深いのね。 あれ、それともウサギに嫉妬してるのは私かな? 「何もしてないのに殴りつけるのって、どぅよ?」 一瞬虎の方を怒った目で見つめた後、彼はペットアルファを取り出してウサギの傷を手当てした。 それはチョ・モーイという伝説の獣使いが発明したんだと、依然彼に教わったことがある。 「ガウガウ」(その材料には野兎の肉を使ってるだろ) その時に作り方も教えてもらったんだっけ。 あまりにもタイミングが良かったので、思わず虎さんがツッコミを入れたような気がした。 ぐー そのとき虎さんのお腹の虫が鳴った。 なんだ、お腹が空いててイライラしてたのね。 太陽も空高く上がり、今は丁度お昼時。 私は持ってきたシートを地面に広げてお弁当を取り出した。 星降る丘でピクニックだ。 」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」 ???「無辜の兎の苦しむ声が我らの双葉を震わせる。  弱き民草を助けるために正義を名乗りここに立つ!」 突然、何処からか声が聞こえてきた。 私は周囲を見渡してみたけど周りには雑草が茂っているばかりで、 思わず彼の悪戯ではないかと疑った。 ???「これが虎……初めて見たです。とてもとても強そうな虎です。」 今度は私の背中の側から聞こえてきた。 その方向を向くと草葉の影で赤い布が揺れているのが見えた。 ???「悪い子はいねぇがぁ〜。タイーホしまつ!」 そのとき突風が吹き、ザッ!と草が掻き分けられた。 そしてタイミングを見計らったかのように、隙間から三体のマンドラゴラが跳び出してくる! Tom「星降る丘の平和のために、たとえ火の中、水の中! でもメテオだけは勘弁……。  ドラゴラ・バーンアウト、Tom!」 一体目は全身真っ黒なマンドラゴラ。本来ならボヤーダとかにしかいないはず… それに手足に包帯を巻きつけているのは、一体どうしてなのだろう? Tit「皆さんお久しぶり、ドラゴラ・ファンシーリボンことTitです。  ……って、これだと僕は誰に話しかけてるのかと訊かれそうです。」 二体目は双葉に可愛らしいスカーレットリボンを結んだマンドラゴラ。 マンドラゴラに性別ってあるのかな? ちょっと考えたけどよく判らない。 Tat「(=゜ω゜)ノいよぅ、漏れTat! ドラ(#゚Д゚)ゴルァ!・ジツハウツージンナンデツ。」 最後の三体目は… えぇと… ともかく『(;¬_¬) ぁ ゃι ぃ』マンドラゴラみたい。 Tom「植物戦隊ドラゴラマン見参! サルタバルタを荒らす悪党共め、俺達と勝負だ!」 」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」 「というわけで、第一回星降る丘ポートボール対決を始めるクポ!  ボールを巧く誘導して、味方キーパーに触れさせれば得点クポ!」 Tom「俺はサッカーがやりたいって言ったのに、何でポートボールなんて微妙にマイナーな競技なんだよ!」 Tit「それはシステム上、仕方ないです。引く手段は有っても、押す方法は少ないんです。」 Tat「そもそもヴァナ・ボールのパクリという罠。」 何だか、よく解らない展開になってきた。どこからともなくモーグリまで現われたし。 Tom「まあいい、こっちのキーパーはTitだ。そっちは誰だ?」 「むぅ。いつの間に参加が決定したんだろう。」 Tat「や ら な い か ?」 「ガルルルルル……」(おまえが言うと違う意味に聞こえる…) Tit「これは健全なスポーツ勝負です!」 ちょこまかと動き回るマンドラゴラたちがあまりにも可愛いので、私はこのような提案をしてみた。 「ねぇ、面白そうだからやってみようよ。いいでしょ?」 」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」 「キックオフクポ! (ピーッ!)」 審判モーグリがクロウラーを連れてきて解き放った。それがボールなのですか… Tom「ふっ、ボールは頂いた!」 黒いマンドラゴラが挑発すると、クロウラーが真っ直ぐに向かって行く。 なるほど、こうしてボールを運ぶのね。 「まてぃ。こっちに来いや〜」 彼がクロウラーを呼び寄せる。ボールの支配権がこっちに移った。 モンスターの扱いに慣れているだけあって、彼は巧みにクロウラーを誘導する。 こっちのサイドに引き込んだから、あとはキーパーの私が呼ぶだけ… Tat「電波デンパ伝播でんぱデムパー!(ノ ̄Д ̄)ノwwヘ√レ^vv〜─wwヘ√レ^vv〜」 な、なんなのそれは… 意味不明な掛け声に誘われるように、クロウラーがフラフラ〜と動き始めた。 「なんじゃそりゃー! おい、おまえもほんきだせ!」 「ガウガウ!」(よっしゃ、まかせとけ!) 虎さんのレイザーファング!! ゲシィッ! 「(ピーッピッ!)ボールを傷つけるのは反則クポ!」 「なに殴っとるねん!」 「ガウゥ……」(ほんきだせと言ったのはお前だろ) 」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」 ペナルティを取られたので改めて仕切り直し。 今度はさっきと違って、ボールの保持者が交互に移る接戦になった。 皆がフィールドを駆け回る姿は、元気に子供達がはしゃいでるようだった。 そういえばこのメンバーだと私が一番背が高いのか。私はしゃがみ込んで視点を下げてみた。 地面すれすれでやりとりされる攻防。見下ろしてる時とは違った不思議な臨場感がある。 サルタバルタの草原に心地よい風が吹く。皆の流す汗を優しく拭き取るかのように。 その時、私と彼の目が合った。勝負に熱中してるはずの時でも私のことを気にしてくれるのね。 私は彼に向かって微笑みを贈る。ちょっとだけ顔が赤くなった。 そしたら彼は私の方に駆け出してきた。嬉しいけど試合を放棄してもいいの? ほら、だってボールは… え、私に突撃してきてる!? ビタァン! 「痛ぁ〜いっ!」 「(ピピーッ!)ゴールクポ!」 一瞬何が起こったのか解らなかった。私は地面に打ちつけた後頭部をさする。 「さてはまたボーっとしてたな〜」 「ガウッ」(ドジっ子全開…) 今度は心の底から赤面した。照れ隠しのため立ち上がって大声で叫ぶ。 「いいじゃない、得点入ったんだから。さぁ、次行くよ!」 サルタバルタの星降る丘に明るい笑いがこだまする。 皆はそのまま時間を忘れて日が沈むまで遊び続けた。