かつての同胞の、今はなき故郷。 封印されていたツェールン鉱山からの通路が一部の冒険者に解放されたと聞いて、俺は逸る 心をもてあましていた。 行ってこの目で見てみたいのだ。ガルカ族にとっての伝説の地を。 しかし、未知の場所は危険が多すぎる。地図も情報もなしで乗り出すのは自殺行為に等しい。 曉の薄明の中、俺の胸の上で眠る愛しい相棒の、そのプラチナの髪を撫でる。うつ伏せに、 俺の身体に抱きつくようにして眠っている、その顔に指を這わせる。 行くと言えば必ず同行を申し出るだろう彼女を、そんな危険にさらしたくはなかった。 長い睫と、すぴすぴと寝息をたてているのが可愛らしい。 彼女の体をそっと降ろし、書き置きのみを残し。 「うにゃ…」 どんな夢を見ているのか、眠ったまま、にまーと微笑む彼女に、軽く笑った。 俺は音を立てないよう、そっとモグハウスを出た。 アルテバ砂漠。そこは地平の果てまで続く、熱砂の大地だった。 なんとなくバルクルム砂丘を想像していたのだが、遥かに広くそして暑い。 からからに乾ききった風も砂も、塩を含む湿った風が吹き抜けるバルクルムとは、あきらか に違っていた。 コロロカの洞門を抜ける際にすれ違った冒険者一行の「砂漠唯一の街が西アルテバ砂漠の北 にあるらしい」その言葉を頼りにひとり砂漠を彷徨って、すでに二日が過ぎた。 東アルテバ砂漠は、長年修行を積んだ冒険者にとって、命取りになる程のモンスターは少な いようだ。反面、西アルテバ砂漠の敵はどれも強い。襲って来る敵を辛うじて倒し、到底勝 ち目なさそうな敵は慎重に避けて進む。それがなによりも神経をすり減らす。 そしてそれ以上に堪えるのが、砂だ。口や鼻や目に入る、装備の間に入り込んで擦れる。汗 をかけばこびりつく。 鞄から水筒を取り出し、お湯のようになってしまった水を一口含んだ。じゃりじゃりと砂に まみれた口の中をすすぎ、吐き出す。砂に染みた水は瞬く間に乾いてしまう。 砂の上に奇妙な生き物を見つけた。遮蔽物のない砂漠では距離感がつかみにくい。気づいた 時には近づきすぎていた。 歩くサボテンとしか表現しようのない、愛嬌さえあるその小さな生き物はしかし、恐ろしい 攻撃をしかけてくる凶悪なモンスターだった。 耳障りな叫び声と共に、それは緑色の身体から無数の針を放った。激痛と共に、鋭く太い針 が全身に突き刺さる。獣の咆哮をあげ、痛みを無視して拳をふるい、辛うじて叩きのめす。 そのサボテンが倒れるのを確認する余裕もなく、俺は地に膝をついた。身体を動かすたび、 灼熱が身体中を刺し貫く。 「ぐぅ…」 ぜいぜいと息をつき、前に倒れ込みそうになるのを辛うじて踏み止まる。そこへ。 最初は、空耳かと思った。 聞き慣れたかん高い叫び声が風に乗って届いた。 「ガウェン! どこにいるの? 返事して!!!」 かなりの距離まで届く、冒険者独特の発声で叫ぶその声に、俺は苦笑とも嘆息ともつかない 息を吐いた。 「ここだ! ここにいる!」 痛みを堪えて叫び返した声をたよりに、彼女が砂の向うから姿を現わした。いつもより大き な鞄を背負い、鍔広の帽子をかぶり、丈の長いマントを着込んだ重装備で。 全身から針を生やし、血まみれで膝をつく俺の姿に、彼女は目を見開いた。じっと見つめ、 無言のまま呪文を唱え始める。両手の間に収束した光は砂漠の強烈な陽射しの中にあっても、 神々しく暖かい。 女神の印を受けた回復魔法が全身の傷を瞬く間に癒していく。筋肉が賦活され、刺さった針 がボロボロと落ちる。活力が漲り、俺は目を閉じてその気の流れを体に受け止めた。 静かに息を吐く。 「すまん」 白い顔を汗と砂で汚し、睫にこびり着いた砂も落とさず。疲れの色を濃くその顔に落とし、 大きな青い瞳に涙を浮べ、細い眉をつりあげて。 俺にくらべれば遥かに小さな拳で俺の胸を打って、彼女は叫んだ。 「ガウェンの馬鹿っ!」 砂漠の中に忽然と姿を現わす、緑と青。 滾々と沸き出す水をたたえた泉を中心に、幾許かの木々とが草花が繁る。オアシス。 それを見るなり、パーシヴァルは歓声をあげ、荷物とマントを放り出した。走りながら器用 にブーツを脱ぎ捨て、服を着たまま水に飛び込む。 「こら、まて……」 止める間もないその無防備な行動に呆れつつも、俺は慎重に様子を探った。底まで見通せる 透明な水の中には、どうやらモンスター等の危険はなさそうだ。 「見ないでよねー!」 水の中で服を脱いでは絞って、岸へ向かって放り投げながら彼女が言う。触れと言ったり見 るなといったり、女心は複雑だ。 言われたとおり彼女に背を向け、俺も水の中に踏み込んだ。これだけの気温と陽射しであり ながら、その水は冷たく心地いい。 透明な水は、すくって口に含めば、わずかに塩を含んでいる。 存分に喉をうるおし、空になった水筒を満たしてから、汚れた体を洗っていると、ぱしゃぱ しゃと音を立てて、背後から彼女が近づいて来る。 「どうして一人で来たりした?」 振り返らずに問いかける。 「ガウェンが一人で行ってしまったから。貴方がバスをたってまだそれ程経ってなかったか ら、すぐに追いつけると思ったの。砂漠には手こずったけど」 「二度とするな」 「嫌」 「パーシヴァル……」 「嫌よ!」 振り返れば、強烈な陽射しの中に白い肢体をさらして、彼女が立っていた。胸あたりまで水 に浸かっているが、その裸身を隠すのには役に立たない。 俺は再び背を向ける。 「頼む、お前を危険にさらしたくない」 「あたしもよ、ガウェン」 水の中でも熱を失わない手が、背中に触れる。 「貴方一人を危険にさらすのは嫌。一緒にいさせて。貴方を助けたいの。それにあたしは冒 険者だわ、箱入りのお嬢様じゃない」 「しかし……」 「さっき死にかけてたのはどこの誰?」 「ぬ……」 それを言われると痛い。 「あたしの知らない所で死んだりしたら、許さないから」 細い腕をめいいっぱい伸ばして、腰にはりついてくる。 傲慢に他者を束縛するその言葉に、俺は苦く笑う。恋愛感情というのは不思議なものだ。こ れでまったく腹も立たないばかりか、嬉しくさえ、あるのだから。 「怒ってるの?」 軽く息を吐けば、打って変わった不安気な声で、問いかける。 「いや」 「こっち向いて」 「見られたくないのではなかったのか?」 「……ばか」 女心は複雑怪奇だ。 振り返れば、潤んだ目でじっと見上げる相棒の顔が、愛おしい。頬を撫でればうっとりと目 を閉じる。 ヒュームや他の種族のように、繁殖のための性行為があるわけでもなく。当然それによって 彼等が得る快楽や興奮も理解はし難い。しかし、その時に見せる彼女の表情、快楽に陶酔し た甘い声は目を耳を愉しませる。 「あ、ん……ガウェン……」 水の中にあっても、そこは熱い滑りに包まれていた。すべらかに指が滑る。 眉根をよせ、少し苦しそうにしながら、小さな手ですがりついてくる。頬を朱に染め、快感 に耐えるその顔が、なんとも可愛らしい。 「……ああ……あっく……んぅ……」 小さな突起をいらう。指先のわずかな動きにすら、ぴくぴくと身体を震わせ、彼女は喘いだ。 「ここが、気持ちいいのだな?」 聞かなくても解るのだが、言葉に出すことで彼女がさらに興奮する事を知った。 唇を噛みしめながらこくこくと頷くその身体は、熱の塊を抱いているかのように熱く火照っ ている。 「ああああっ!ガウェン!ガウェン!」 喘ぎの色が変わる。切迫した声で快感を訴える。 その頬を唇で触れ、唇同士を重ねあわせる。すぐに、彼女の暖かい舌が侵入する。未だに慣 れない行為だが、悪くはない。歯を立てないよう軽く吸ってやれば、彼女はくぐもった声を 漏らす。 そのまま、滾るような秘裂に指を挿し入れれば、堪え難い感覚なのだろう、細い腰を仰け反 らせて悲鳴を上げる。最初はその反応の激しさに驚いたが、途中で止めるのは余計に辛いら しい。 俺は指先でその柔らかい胎内を擦り続けた。 「ひぁっ!ああっ!ああっ!あんっ!あああっ!」 彼女の興奮が徐々に昂っていく。頬を朱に染め、瞳にはとろりと情慾の色を浮かべて。目尻 に涙を滲ませ、我を忘れ、口を半開きにしてがくがくと腰を振る。その姿は気丈に振る舞う 普段の彼女からは、想像もつかないほどに淫らだ。 なるほど、許した者だけにこのような痴態を見せるのならば、多種族の男達が女に夢中にな り、その身体を独占したがるのも解る気がする。 「も、だめっ、いっ…イっちゃうっ!」 びくんと彼女の身体が跳ねた。長く尾を引く悲鳴をあげながら痙攣するのを抱きとめる。 荒く息をつき、改めて羞恥を自覚した彼女が耳まで赤くなってすがりつく。くたりと脱力す る身体を水の中から抱き上げた。 たっぷりと休憩を取り、食事を採って体力を取り戻した俺達は、未だ知れぬ街を探して、出 発した。 元気よく砂を踏んで、彼女が前を歩く。 「たぶんこっちよ。ついてきて」 「場所、解るのか?」  「ううん。勘」 俺はあっけにとられて口を開け、そして思い出した。そうだった。出逢った頃、彼女はパル ブロ鉱山やダングルフの枯れ谷を、地図なしで走り回っていた。天性の勘のよさと地理感覚。 方向音痴気味の俺と違い、それは彼女の優れた資質だった。でなければこの広い砂漠で、ど うして俺を見つけだせただろう。 多くの時を旅と戦いに費やし、探索し尽くした既知の世界で、俺はそのことを忘れていたの だ。 俺は小さく頼もしいその背中を追って、砂に踏み出した。 Percival Hum♀:F4b size:M job:WhiteMage Gawen Galka:F7a size:L job:Monk -------------------------------------------------------------------------- @しらかん http://blue.ribbon.to/~shirahagi/ffxi/ 過去作品アリマス。