ミスラ戦士さんの受難 ******************************************* オレはジェジーっていうミスラ族の戦士だ。副業はシーフ。 まあ、これから話すことは、長くなるが単なる愚痴だ。あんまり気にしないように頼む。以上! その日は、パーティー組んでクフィム島でカニを食って帰ったんだ。 すると、留守にしているはずのオレの部屋から、何故かヒトの気配が・・・って灯り点いてるし。 んで、一体どこのどいつがオレの部屋を荒らしてるんだ・・・? って覗くと・・・ オレの愛用しているベッドの上に寝っ転がってる図々しいエルヴァーンが1匹いるじゃねーの。 扉をワザとデカイ音を立てて開けても、ベッドの上から降りる動きは全くナシ! 「・・・はぁい♪」 でろん、とダラシ無く体を起こすと、女みたいな気色悪い声でご挨拶・・・ちなみに正真正銘、男だ。 「うが! 何でオマエが! オレの部屋に!」 このグータラで根暗でロリコン変態エルヴァーンは、キィスという。オレと一緒にジュノまで来た、 元パーティーメンバーだ。ヤツは別名:寄生虫のキィスとも言われている(ということにしよう)。 「何だよう、俺たち仲間じゃねぇかよう」 「あー、オマエの脳ミソん中じゃあ、お仲間ってのは同棲してなきゃなんね・え・の・か・よ!」 黒魔道士が、最近パーティーからの誘いが無くて干されてるっつー噂も聞くが、そんなのコイツに 関係ないだろうな。冒険をしない冒険者(謎)だからな、毎日適当にブラついてるんだろ、どーせ。 さて、一体何しにオレの部屋に上がりこんだ・・・って、そこ! オマエだよ! どこ漁ってやがる! 部屋の中を勝手に物色し始めるなーーーー!! 「へぇー、ヒモパンばっか・・・ヴおえぇええ」 「このまま昇天させたろか〜〜〜わりゃ〜〜!」 両手で胸倉を掴んで首根っこで腕をクロスさせる。これが相手を「落とす」のに一番手っ取り早い。 3、2、1、ダウン。あっけなくオレの勝ちだな、フン! ザマミロ! 丁度、キィスが「落ちた」頃に、扉をガンガン叩く音が響いた。あーーウッセェな! 分かったよ! ハイハイ、今出ますよぅ! こんな時間に誰だよ全く・・・ 「ジェジェァーーーーー、ひいれよぉーーー、もう、ヒィフっららひろいろろーーーー」 顔面から「臥竜の滝」のような勢いで涙を流しているベネティアが、意味不明の言葉を叫びながら、 オレの部屋に入ってきた。何なんだよもー、オレの方が泣きてぇ・・・だんだん頭が痛くなってきた。 どうやらさっきの奇声は「ジェジー、聞いてよ、もう、キィスったら酷いのよ」だと状況から予想。 ブロンド短髪のボーイッシュスタイルで普段はとびきりクールな印象のヒューム白魔道士の彼女は、 実は激情家なのね、と今知ったワケだが。床で失神しているキィスを見るなり、彼女は驚くべき凶行 に走った。頭思いっきり踏んでるよ、オイ、ヤバイだろ、頭は! なんか、鈍くて嫌な音が・・・ 「こらこらこらこら、待て! 待ちたまえ! 気持ちは分かったから、コイツ失神してんだから!」 背後から羽交い絞めにして止めるも、何発かのマジ蹴りで、キィスの頭から床にどす黒いシミが・・・ 「こんなヤツ、死んじゃえばいいのよーーーー!!」 いや、殺すのは構わないが、オレの部屋に死体が転がられても困る。本当に困る。 わーーーーーーっと泣き叫んでオレに抱きついた後、彼女はオレの愛用のベッドシーツを剥ぎ取って 顔面から溢れ出るいろんな液体を拭いた。イヤ、もう別にいいんですけどね、こういう場合は・・・ 「何があったんだよ、ベネティア・・・?」 こめかみに血管が浮き出てヒクヒクしているのを押さえつつ、オレは彼女に出来る限り優しく接した。 そうすると、優しくした効果が逆に出たのか何なのか、彼女はひーーんと再び泣き出して、オレの服 までベッドシーツの二の舞にした。ああああ、一体何の恨みがあってオレの部屋に来てんだコイツラ! 「・・・キィスが」 突然、ぼそりとベネティアが呟いた。 「キィスが・・・どした?」 早く話せよ・・・イライラするから。間が持たないんだよねぇ・・・オレ、気ぃ短いんで・・・うがああああ! 「私の下着が女性らしくないって・・・」 オイオイ、いつの間にアンタラそんなに進んでたんかいっ! モロ突っ込みを入れたくて仕方がない。 って、ベネティア、アンタ男の趣味の直した方がいいよ、マ・ジ・で・・・! ロクな男じゃないから! んー・・・キィスか。知識はある方だし、体格も顔も悪くなくて・・・外見は男前だな、性格はアレだけど。 あ〜あ〜、そして騙されてる女がここに・・・ダメだ、ベネティア。コイツの中身はただの変態だぜ・・・ 「・・・ん? ここはどこだ・・・お!? うお、頭から血が!?」 今話題のバカがいいタイミングで覚醒してしまった・・・この後、ベネティアが「ケアル」をかけつつ キィスに暴行を加えるという凄まじく精神的に悪そうな修羅場が訪れた・・・ オレが、この部屋の主であるはずなのに、彼女らに部屋を譲って外へ逃げた。 う、嵐の後の部屋を誰が掃除するんだ・・・って、オレしかいねぇよなー・・・頭イテェ・・・ はああ、世の中には星の数ほど男女がいるけど・・・あんなクレイジーなカップルにはなりたくないわな。 オレは、よろよろと、ジュノの街が朝を迎えるまで、あてもなくさ迷い歩くのだった・・・