ロンフォール 深い森に夏の日差しがキラキラと差し込む中、ジェス一行はセルビナを目指していた。 歩いて行けば1日半かかる道のり。ジェスの気持ちは少し急ぎ気味だった。・・・が。 「・・・で、こう来たら・・・・こう!」 「こう?」 「ちがうちがう、ちょっと惜しい。ここが・・・こう!」 「うーん、・・・こう?」 「そうそう!そんな感じだ!ルティは飲み込みが早いなぁ!」 「うへへ」 サンドリアの門を出て5分もしないうちに、タクトの「格闘技講座」がはじまっていたのである。 ルティが「何か教えてほしい」なんて言い出すから目をキラキラさせて教えている。 弟子ができたつもりでいるんだろうか?タクトのこんな嬉しそうな顔ははじめて見た。 「んじゃ正拳つきながらあのデカイ木までGO〜!」 「おー!」 「あい〜!」 「にゃー!」 なんでポルルとリーナまで正拳しているんだ。これじゃセルビナに着くのは予定より時間がかかりそうである。 「うひゃあ!タクトー!襲ってきたゴブリンに勝てた〜!」 「なにっ!お前強いな!」 「あ!バストゥークに着くまで戦うなって言っただろうが!」 「ジェス心配するな!ルティ結構強いぞ!俺が見込んだだけある!うん!」 先が思いやられる・・・。 「いいかルティ、ここを出るとラテーヌ高原だ」 「うん!」 「こっから先はお前一人じゃオークに襲われて死んじまうような所なんだ」 「うん!」 「一人でウロチョロしたりしないように。俺から離れるんじゃないぞ」 「はーい!」 「はーい!」 「あーい!」 「ほーい!」 「お前らは一人でも平気だろうが・・・」 「私も一人じゃ死んじゃうぅぅ〜〜〜♪」 「ポルル・・・大羊のエサにしてやろうか?」 「きゃ〜!ジェスが怒った〜!」 「にゃ〜!」 「きゃ〜!」 「お前が『きゃー』言うな!タクト!」 サンドリアを出てからずっとこの調子である。グレイスやクレアと旅をしていた時は明らかに雰囲気が違う。 まるで遠足だ。自分にリーダー性がないのか、それともルティの影響か、ジェスは少しだけ気にしていた。 そうこうしているうちにラテーヌ高原は夕暮れを迎えていた。 「ジェス、これ以上進んでもバルクルム砂丘に着く前に夜になっちまうよ。」 「そうだな、たしかこの先に小さな池があったよな?そこでキャンプを張ろう」 「キャンプ!?私はじめて!」 「・・・バーベキューしてキャンプファイヤーするキャンプとは違うんだからな」 「それくらいわかってるよ〜。で、ごはん何!?」 ・・・あんまり区別がついていないようだ。 タクト達は池のそばの平地にキャンプを張り、ジェスは夕食の支度をしていた。 ジェス以外は調理ができないので仕方なくジェスが調理担当というわけだ。 「そのお肉、どっから持ってきたの・・・?」 「さっきそこでピョンピョン跳ねてたヤツだ」 「どうやってお肉になったの・・・?」 「どうやってって・・・首を切って血を抜いて、それから皮を剥いで・・・」 「あわわわわ!ジェスそれやったの!?」 「あたりまえだろ。俺がやらずにどうやって肉になるんだよ。ウサギが自分で毛皮を脱ぐのか?」 「・・・そうだけど、気持ち悪くないの?」 「最初はな。もう慣れた。」 「へぇ・・・」 ジェスは手際よく野兎を調理し始めた。 「ルティ、野兎の肉ぐらいで騒いでるようじゃ冒険者としてやってけないぞ」 「・・・うん。私も慣れるように頑張る」 「よろしい」 出来上がったのは野兎のグリル。 全員一心不乱に食べている。食事時だけは静かなのがこの3人(※)の特徴である。 ※タクト・リーナ・ポルル 「ジェス!おかわり!」 「ない。食いたきゃ自分で作れ」 「じゃあ寝る!おやすみ!」 「おい、片付け・・・」 「私も寝るっ!おやすみ!」 「私もにゃっ!」 そう言うともの凄い速さでテントに入っていった。 「食ったら寝る・・・こいつら赤ん坊か」 「後片付けは私やるよ、ジェス先に休んでていいよ」 「平気か?」 「平気だよ、そこの池で食器洗うだけだもん」 「じゃあ俺は荷物整理してるから、何かあったら呼ぶんだぞ」 「うん」 ルティは調理に使ったナイフや食器をすぐ側の池へ持っていき、洗い始めた。 「ふんふんふ〜ん♪」 グリルが美味しかったせいか、ルティは上機嫌で鼻歌を歌いながら次々に食器を洗っていった。 ・・・・バシャン 池の向こう岸で何かが音を立てた。 「ん?」 向こう岸に目をやるが暗くて何も見えない。 『魚でも跳ねたのかな?』 ルティは再び食器洗いをはじめた。すると・・・ ・・・・バシャバシャ 「え・・・」 池の中の自分の手を見ると水面がユラユラと異常なほど揺れていた。 池の真ん中の水面をよく見ると何かが水の中にいる。時々ヒョコっと黒い影が水面に出てきてはバシャバシャと音を立てている。 「やだ・・・なによー?」 ルティは食器をその場に置くと立ち上がった。池の中にいる「何か」は段々とこちらに近づいてくる。 「うあ・・・じぇ、ジェスーーー!!」 「どうしたー?」 ルティの呼び声から少し間を置いてジェスが返事をした。 その間に黒い影はルティの足下までたどり着いていた。 「何か変なのが・・・きゃーーーーーーー!!!!」 「ルティ!?」 はじめて聞くルティの悲鳴にジェスは驚き、片手剣を持って池へと走った。 見ると池の岸でルティがうつ伏せに倒れている。 「ルティ!」 「ジェス・・・足、右足に・・・!」 「あ、足!?」 戸惑いながらルティの足を見ると何かが右足首にからんでいる。 「すごい力で取れないの、早く取って〜!」 「わかった、じっとしてろよ」 片手剣を鞘から取り出し断ち切ろうとしたその時 「うわああ!左足にも!!!」 「え!?」 ジェスは不思議に思いルティの足首にからんでいる物をよく見てみた。 「・・・人間の手じゃねえか」 「え!?」 確かに人間の手である。池から2本の腕がニョキっと飛び出し、ルティの両足首を掴んでいるのだ。 「早くとってよお!気持ち悪い!!」 「・・・まさか」 ジェスはルティの上半身を両手で抱きかかえた。 「な!何してんのよー!足についてるの取ってってば!早く取ってよ!」 「いいから」 「良くないわよ!気持ち悪いよー!」 ジェスはルティの体を池とは反対側へ引っ張った。すると足首に絡んでいる物が岸へズルズルと音を立てて上がった。 「・・・ルティ、大漁だ」 「・・・へ?見えないよ」 ジェスはルティの足を掴む手を解こうとしたが、凄い力で解けなかった。 丁寧に指を1本づつ解いていくとようやくルティは立ち上がれた。 「ホントだ・・・私すごいの釣っちゃったね」 「釣りの才能あるかもな」 池の岸で横たわるもの。それは一人のエルヴァーンの老人であった。 「なんでこんな所にお爺さんが?」 ルティは横たわる老人の顔を覗き込んだ。すると 「おおおおお!女神様じゃー・・・ここは黄泉の国かッ」 老人は突然目をカッと見開きおかしな事をしゃべりはじめた。 「どうぞ、腹に何か入れた方が早く体が温まる」 「おぉ、すまんのぅ若者よ」 『若者』という言葉が少しだけ気にかかったが、こんな爺さんじゃ誰を見ても『若者』と思うのだろうと ジェスは自分に言い聞かせるように頭の中で呟いた。 「おじいさん、寒くない?火をもっと強くしようか?」 「いやいや、充分ですぞお嬢さん。しかし地獄で仏とはまさにこの事、いやー助かった。」 「お爺さん、なんで池なんかに潜ってたの?」 すると老人はジェスにもらったアップルパイを頬張りながらしゃべりはじめた。 「潜っていたのではない。実はのぅ、夕食に魚を釣ろうと思ったら足を滑らせて池に落ちてしまったのじゃ」 そういうとカカカと笑い声をあげた。 「あなたも冒険者ですか?」 「今日冒険者になったばかりのペーペーじゃ」 「じゃあ私と一緒!私は昨日なったばかり!」 「おおお、奇遇じゃのぅ!お前さん達はどこへ向かっておるのじゃ?」 「ルティ、言うんじゃな・・・」 「私たちはね、バストゥークに向かってるの」 「おおお、なんと奇遇な!わしもバストゥークへ向かっているところなんじゃ」 「本当?じゃあお爺さんも一緒に行こうよ!」 言ってしまった。 「ありがたやーありがたやー・・・老体での一人旅は辛いでのう」 「今寝てるけど他にもセルビナまで一緒に行く仲間が3人いるの。お爺さん名前は?ジョブは?」 「名前・・・はて、ワシの名前はなんじゃったかの?ジョブは赤魔道士じゃ」 「あんた自分の名前覚えてないのか!」 「じゃあ他の人に何て呼ばれてるの?」 「息子夫婦や孫達には『オジジ』と呼ばれておる」 「じゃあ『オジジ』ね!」 おかしなものを拾ってしまった・・・とジェスは老人を助けた事を後悔していた。 こんな半分痴呆の老いぼれ爺さんを連れてバストゥークまで行かなきゃいけないのかと思うと とても憂鬱な気分になった。 朝 「ジェス〜、朝ご飯まだか〜?」 タクトの目覚めの第一声はいつもこれだ。 「起きろー!腹減ったー!」 タクトは自分の隣で横になっているものを揺さぶった。 「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!」 「どうしたのー?朝から〜・・・」 歯を磨きながらリーナとポルルがテントに入ってきた。 「ジェスが・・・!」 そう言われてタクトが手にかけているものを覗き込むと・・・ 「ジェスがおじいちゃんになってるにゃーーーー!!!」 「バカかお前らは!」 3人が振り返るとそこにジェスが立っていた。 「なにっ!ジェスがいる!じゃあこの爺さんは誰だ!」 「誰って・・・」 『昨日の夜、池で拾ったオジジです』なんて言えるわけがない。 その時オジジがダルそうに体を起こした。 「あ、起きた」 ポルルは不思議そうにオジジの顔を覗き込んでいる。 いくつになっても容姿がかわらないタルタルからすると老人はめずらしいのかもしれない。 「おぉ、他3人の仲間とは君たちのことだったのか!」 「俺タクト」 「あたしリーナ」 「私ポルル」 「オジジじゃ。セルビナまでだがよろしく」 そう言うと笑顔で全員と握手していった。 「変な名前ー!」 もう意気投合している。やはり変な物同士で気が合うのかもしれない。 「ジェス、朝ご飯は?」 「ない。ルティの母さんにもらったアップルパイでも食っておけよ」 「残りあと1個だけど仕方ないかー」 その時ジェスは昨夜オジジにアップルパイを食べさせたことを思い出した。 『しまった!あれが最後の1個だったのか!』 ふくれっ面のタクトを先頭にして一行はセルビナへ入った。 「それじゃあ私たちは次の船にのってマウラへ行くよ」 リーナは船乗り場で3人分の料金を支払った。 「ジェス、ルティ、元気でね。オジジも。・・・タクトいつまでそんな顔してるつもり?」 ポルルはタクトのスネを軽くバシッと叩くがタクトの表情は変わらない。 「タクト。これやるよ」 ジェスが紙袋をタクトに差し出すが相変わらずブスっとしてジェスを見ようともしない。 「・・・いらないのか。さっきそこでバザーしてたヤツから買ったメロンパイだけど」 「いる!」 メロンパイと聞いたとたんジェスの手にあった紙袋を奪い取った。 「タクト、気を付けろよ。最近は獣人の動きが活発だからな」 「お前もな。」 二人は軽く笑い合い、拳を軽くぶつけあった。 「元気でね〜〜〜!!!」 ルティが大きな声で叫ぶと船上から3人が手をふっている。 「忘れないでねええええ!!!!」 なぜか3人とも手にハンカチを持ってブンブンと振っている。 「あ!タクト!それ俺のじゃねーか!!!」 タクトが手にしていたハンカチはサンドリアのルティ宅で貸した物だった。 「返せバカヤロー!!!!」 「忘れないでくれよおおお!!!」 聞こえているのかいないのか、タクトは手を振り続けている。 そして船は海の彼方へと消えていった。 「ルティ、オジジ。ここでは休まずに一気に北グスタベルグへ向かうぞ」 「そうなるとバストゥークまでは2日近くかかるのぅ。あそこはクゥダフがウロついていて3人では危険じゃなかろうか?」 「俺がいれば平気だろう」 「じゃあ北グスタベルグへ行こー!」 3人がセルビナを出ようとしたその時 「あのう・・・すみません」 呼ばれて振り返るとそこに一人のガルカが立っていた。 「なんでしょ?」 「あの、そのですね、あの・・・」 「・・・?私たちバストゥーク行くの。用事がないなら先を急ぎたいんだけど」 「バストゥークへ向かうんですか!丁度よかった!私バストゥークまで一緒に行く仲間を探してたんです、はい!」 「あ、そうなんだ?じゃあ丁度いいから一緒に行こうよ」 またやった! 「ルティ、今このパーティのリーダーは俺だ。誰それ構わずパーティに入れようとするな」 「だって、このガルカさん魔道士でしょ?一人じゃバストゥークまでなんて無理じゃない?」 よく見たら魔道士のローブを身につけている。 「オイあんた・・・ガルカなのに白魔道士なのか・・・?苦労するな」 「はい、MPも低くて迷惑かけてばっかりで・・・。すいませんです、はい。 ですがバストゥークは私の故郷でして道案内はできます、はい。」 そう言うとガルカはペコペコと頭を下げた。 「まあそれなら一緒に行ってもいいが・・・」 「本当ですか!?ありがとうございます、ありがとうございます!」 そう言うとまた頭をペコペコと下げた。大きな体に似合わない発言と行動だ。 「名前を聞いておこうか」 「ゼルドと申します。よろしくお願いします、はい〜」 ゼルドと名乗ったガルカはニコニコ笑いながらペコペコ頭を下げて挨拶をした。 「よし、セルド。おれはジェスタージュ、ジェスだ。バストゥークまでの道案内をよろしく」 「私はルティ!」 「オジジですじゃ」 「道案内はまかせてください!わたし頑張ります、はい!」 こうして4人となった一行はセルビナを後にする。 セルビナの追い風がバストゥークへ急かせるような気がした。 ========================================================= ジェス…エル♂F7A ルティ…エル♀F5A ポルル…タル♀F8A リーナ…ミスラF7A タクト…ヒュム♂F2A オジジ…エル♂F8A ゼルド…ガルカF1A ========================================================= なんだかダラダラ長くてすいませんです(;´Д⊂) パー子