------ ジラートの幻影『そのキャラは使われておりません〜召喚士〜』 ------ 「決めたよ。俺、召喚士になることにする!」 ウィンダスのレストランに現れて早々、エルヴァーンの青年はそう宣言した。 彼の右手には一冊の雑誌、左手には大きな鞄が握られている。 「な、なんだよ、唐突に。」 彼の友人はいきなりの大声に驚き、飲んでいた緑茶を危うくこぼしかけた。 「ふふふ……これを見てみろ。」 そう言って彼が見せたのは、ヴァナ・ディールトリビューン今月の特集グラビア。 そこに写っていたのは青白い肌をした細身の女。 肝心な部分は妙な模様で隠されているものの、彼女は殆ど裸同然の姿だった。 「何と召喚士になるとな……こんな美人を『ペット』に出来るんだぞ!  彼女イナイ暦×年の俺でも、あんな事やこんな事がやりたい放題なんだ!!」 「ふ、不純過ぎる動機だ……。気合入れて言う台詞かよ……。」 友人は思わず頭を抱える。完全に呆れてる様子だ。 「まあいい。で、どうやったらその召喚士になれるか……判ってるのか?」 「ふっ、情報通の俺様に抜かりは無いぜ。  召喚の呪文も覚えたし、必要なアイテムも競売で買い占めておいた!」 青年は自信満々に言い放つ。 そして鞄から布でくるまれた袋を取り出すと、中から何かを取り出した。 「それは、カラフルエッグ……?」 「見てろ……。召喚とは、こうやるのだ!」 青年は卵を地面に置いて、その周りをグルグルと回り始めた。 そして怪しげな呪文を唱える……。 「ほんだららった へんだららった どんがらがった ふん♪ふん♪」 「Σ( ̄ロ ̄;)半熟英雄かよ!」 ------ ジラートの幻影『そのキャラは使われておりません〜侍〜』 ------ 密林の中にひっそりと建つ古い寺院、青年はそこに辿り着いていた。 現地の人々には「忌み寺」と言われ怖れられているだけあって、 その周囲には不気味な雰囲気が漂っていた。 辺りを探索して歩き回っているうちに、青年は墓地があるのを見つけた。 「おやっ? さっき通ったとき、こんな墓石あったか……?」 青年が確認しようと近づいたその時! 墓の下から手が伸びてきて、何者かが這い出してきた! 「ア、アンデッドでたーーーー!!! あ、慌てず騒がず……ケアル!」 青年の放った聖なる光が、墓から現れた者を包み込む。 アンデッドならこの光に耐えられずに体が崩れるはず、 だが案に相違して、標的の傷は塞がっていった。 光が収まったとき、そこには鎧兜に身を包んだ壮年の男が立っていた。 「これはこれは……僧殿とお見受けいたす。かたじけない、見苦しい所をお見せしたでござる。」 男は膝を突いて一礼した。その腰には、軽く湾曲した鋭い片刃の武器が提げられている。 「それは……もしかして刀? ってことは、あんたが噂に聞く侍だな!」 「左様。いかにも拙者は侍でござるが……。」 「サインくれ! じゃなかった、侍にはどうしたらなれるんだ?」 しかし二人が話し始めたその時に、地の底から響くような呪詛の大合唱が聞こえてきた……。 そしてランタンと包丁を構えた獣人たちが二人の周囲を取り囲む……。 「くっ、流石にこいつはヘヴィだぜ。侍のおっさん、パーティを組まないか?」 「ぱーちー、でござるか?」 「ああ。俺が回復をするから、あんたは前に出てくれ。そうすれば何とかなりそうな数だ。」 「成程。徒党を組んで物の怪に対するというのでござるな。承知した。」 二人の許にトンベリたちが殺到する。だが、侍は鋭い太刀筋で獣人を次々と薙ぎ払っていく。 程無くすると、魔物たちは完全に調伏されてしまっていた。 「あんた、強ぇな。ノーグってとこで修行すると、皆そんな風に強くなれるのか?」 「農具……? 何のことやら。  拙者の生国は尾張。織田の主公に仕えてござる。」 「……ゲームが違うぞ!!」 ------ ジラートの幻影『そのキャラは使われておりません〜忍者〜』 ------ 「失礼、先程のは間違いでござった。実は拙者は忍者だったのでござる。」 「今度は徳川所属の伊賀忍者とか言わないだろうな?」 「そんなことは無いでござるよ。  ほら、FFIV最強の投擲武器『ほうちょう』も用意してあるでござる。」 「それ……さっきのトンベリの……。」 「ぬぬっ、信じてないでござるな。  ならば見るがいいでござる、ドレスア〜〜ップ!!」 忍者(自称)は跳躍すると、変わり身の術(本人主張)を使った。 バサッと布が広がって、青年の視界が一瞬遮られる。 布を払ってみるとそこに居たのは…… ……マッチョで裸一貫の不気味な変態野郎だった! 「脱ぐな!!」 「装備をするとアーマークラスが悪くなるのでござるよ。裸最強は忍者の宿命でござる。」 全裸で汚らしい姿を曝している馬鹿を見てHate値が大幅に上がったのか、 周囲のモンスターが一斉に襲い掛かってくる! だが、変態ルックにも関わらず…… 「クリティカル! 首を刎ねて、敵即死でござる!」 何故かあっという間に敵を屠っていく……。 侍モードが強かったのも、この能力が原因らしい。 「……そもそも、今時WIZネタが通用するのか?」 ------ ジラートの幻影『そのキャラは使われておりません〜竜騎士〜』 ------ 「という訳で、竜騎士になって帰って来たぜ!」 しばらくぶりに友人と再会した青年は、紫の鎧に身を包み、可愛らしい子竜を連れていた。 「お前、召喚士を目指すって言ってなかったか?  ははぁ、さては紅玉取りが面倒臭くて諦めたな?」 「違う! 召喚士にはなれたぞ! ただ、シヴァたんにふられただけだい!」 「その方がもっと情けないぞ……。」 友人が冷静に指摘する。駄目男っぷりを更に発揮してるだけだと……。 「いいの! 今の俺様にはY子ちゃんが付いているんだから!」 「エロヴァーンと猥バーン……。」 友人がボソッと呟く。幸いその声は青年の耳には届かなかったようだ。 「それにジャンプも出来るんだぞ。その格好良さに巷の女の子もメロメロさ。とぅ!」 青年はピョンと跳び上がり、槍を構えて落下する。 そして着地の瞬間、地面に落ちていたカラフルエッグ(不良在庫)を串刺しにした。 本人は精一杯格好つけたつもりらしい、が……。 「低すぎるな。歴代の竜騎士の滞空時間は、それより遥かに長かったぞ。」 「ムカ、折角見せてやったというのに。仕方ない、名前が格好悪いから使いたくなかったが……」 青年は先程以上に足に力を溜めて、地面を勢い良く蹴り上げた! 「スゥゥ〜パァァ〜、ジャァァァ〜ンプ!」 青年の体は天井を貫き、空の彼方へと飛んでいった……!! 「さて、やっと邪魔者が消えたね。」 友人は残された子竜を向いてニヤリと笑った。 この友人も密かにジョブチェンジを済ませていたらしい。 「こわがらないで。  ずっと君のようなペットが欲しかったのさ。  必ず大切にするから……。  一緒に旅に出ようよ。  安心して、私がいつもついてるよ。」 大分時間が経ってから、ヒュ〜〜〜〜〜と青年が落下してくる。 「どうだ、凄いだろ!! って、うお? どこ行った?」