唸るような夏の暑さの中、俺はいつもの仲間達とユグホトに来ていた。 仲間のエルヴァーン赤魔道士であるクレアーヌが久々にサンドリアへ里帰りするというので 嫌がる彼女を無視して皆でついてきたのだ。 「ね〜?こんな薄気味悪いところ早く出ようよ〜。サンドリア行こうよ〜!」 そう言い出したのは白魔道士のタルタル、ポルル。どうやら彼女は薄暗いところが苦手らしい。 「この先の温泉水を持ち帰るように頼まれているの、もうちょっと辛抱してちょうだいね」 「温泉!?あたし温泉なんてはじめてっ!入りたいにゃー!」 目をキラキラさせて言ったのは黒魔道士のミスラ、リーナ。興奮すると語尾に「にゃ」がつくらしい。 「でもオークとか入ってて汚ねーんじゃねぇの?」 水を差したのはヒュームのモンク、タクト。 「いや…常に温泉が湧き出てお湯は綺麗だと聞いたが…」 リーダーのナイト、エルヴァーンのグレイスが言った。 「俺小さい頃親父と一緒に来たことある。お湯キレイだったよ」そうジェスがつぶやくと リーナがみんなで入ろうとはしゃいでいる。さっきまで暗い顔だったポルルの顔にも笑顔が戻った。 「ホラ、この先が温泉よ。傷によく効くんですって。だから治療に使う人も多いのよ」 「へぇ〜!早速入るにゃ!」 …既に下着になって温泉につかっている。ミスラとは皆こういうものなんだろうか?目のやり場に困る。 一緒にポルルも下着姿で入っている。『極楽極楽…』なんて言ってる姿はお婆さんを連想してしまう。 「タクトも入ろうよ!ほら〜!」 「オレ風呂キライ」 「そうやっていつも入らないの!?汚いにゃ!入って洗いなよ!ジェスも入ろ!」 リーナが俺とタクトの腕を引っ張る。 「俺はいいってば!いいって!オイやめろ…あ」 次の瞬間タクトと俺はお湯にどっぷり浸かっていた。装備を着けたまま… 「…鎧が錆びたらどうしてくれるんだよ」 「あちぃ〜〜〜!!だから風呂はキライなんだよ!」 お湯の中からタクトが飛び出した。もしかしたらコイツは竜騎士に向いてるかもしれないと思わせるほどの 飛び上がり方だった。 クレアとグレイスがクスクス笑っている。 「お湯も汲んだし、サンドリアへ向かいましょうか。タクトとジェスは装備が濡れたままだけど、 うちまでしばらく辛抱してね」 「早くクレアのママのお菓子食べたいな〜」 ポルルが早くサンドリアに行きたがるのはお菓子のせいだったらしい…。 「母も久しぶりのお客様で腕によりをかけてるに違いないわよ?」 クレアの家族の話しを聞きながら俺たちはロンフォールへ入った。 「クレアは兄弟とかいるの?」 尻尾をハタハタさせながらリーナがクレアに言った 「・・・妹がひとり。今年で19歳になるの、リーナと同い年よ。きっと仲良くなれるわ」 「楽しみにゃー!名前は?」 「ル・・・」 名前を言いかけたその時 「たーーーーーすーーーーーけーーーーーーーてええええええええええ!!!!!!」 「オイ…あの声は…」 グレイスが呆れた顔をしている 「ルティアーナの声だわ…」 クレアは肩をがっくりと落としている 「え?クレアの妹も冒険者なのか?てか大丈夫なのか?」 びしょ濡れのタクトが歯をガタガタさせて言った。 「事情は助けた後で!みんな戦闘態勢に入って!」 何がなんだか分からないまま剣を抜いて声のする方へ走った。 「・・・オイオイなんだありゃ」 オークとゴブリンが列になって走っている。その数約5〜6匹。 その先頭で満面の笑みの銀髪の女の子が手を振っている。もの凄い勢いで走りながら。 「馬鹿ルティ!何回トレイン起こせば気が済むの!」 「おねえちゃ〜〜〜ん!」 おねえちゃん!?あれがクレアの妹!?顔立ちは少しだけ似ているが雰囲気は全然違う。 「ポルル!ルティにケアルを!ジェス!挑発しろ!ルティ!俺の所まで走ってこい!」 「はーい!」 グレイスはクレアの妹と顔見知りのようだ。しかしあの女、自分の状況わかってるのか…? ロンフォールの敵は俺たちから見れば練習相手にもならない。ものの数分で倒せた。  ロンフォールの森にパァン!という音が響く。 「痛ぁい!何すんのよー!」 「ルティ、あなたは冒険者じゃないのよ?こんな所まで来たら死んじゃうかもしれないのよ?」 「は!?冒険者じゃない!?」 グレイスとクレア以外の全員の声が重なった。よく見たら装備しているのは冒険者が 身につけるような物ではない。 「冒険者じゃないのによくここまで来られたな…」 タクトが関心している。リーナとポルルも関心したように驚きの表情で溜息をついている。 「お姉ちゃんもグレイスも来るっていうから迎えに来たんじゃない!」 「そうやって理由をつけてサンドリアから出ようとしたのね?私が知るだけでこれで3度目よ? もういい加減になさい!」 「サンドを3度出ようとした・・・プ」 タクトがおかしなところでウケている。 「お姉ちゃんばっかりズルイよ!私だって冒険したいのに!」 口をとがらせてプンプンしているその表情は子供そのもの。とても19歳には見えない。 そんな彼女を見てクレアは大きな溜息をついた。 「ごめんねみんな、これが妹のルティアーナ」 「ルティアーナです!ルティって呼んでね!よろしく!」 「ルティ、私の仲間の・・・」 「あたしリーナ!黒魔道士!同い年だよっ!友達になってにゃ〜!」 「私はポルル。白魔道士よ、よろしくね!」 「モンクのタクト。お前足速いんだなー!」 「えへへ、そうでもないよ〜〜。みんなよろしくね〜。」 誉められたのが嬉しいのか、さっきまでの膨れっ面が笑顔でデレっとゆるんでいる。 クレアが呆れた表情でルティの後頭部をパシっと叩く。 「こちらのびしょ濡れの戦士さんは?お姉ちゃん」 そう言ってクレアの妹は俺を指さした。 「戦士のジェスタージュよ。見れば分かるだろうけどエルヴァーン」 「よろしくね!ジェスタージュ!」 「ジェスでいいよ。」 「じゃあジェス!ジェスは私と同じ歳くらい?」 みんながクスクス笑いはじめた。 「・・・俺は今年で・・・25だ」 「うそ!?じゃあお姉ちゃんとグレイスの1個下!?見えなーい!」 ついに全員ゲラゲラ笑いはじめた。俺は昔から年相応に見られないこの顔がコンプレックスだった。 それをこのガキ…堂々と言いやがって。クレアと大違いでうるさくて失礼なヤツだ。 「おいおい、それ以上笑うとジェスが可哀想だ。そろそろサンドリアへ入ろう」 グレイスがそう言うとみんな涙目になりながらサンドリアの門へと向かった。 「ねーねー、ジェスごめんねー?でもそんな膨れっ面してると余計に子供っぽく見えるよ〜?」 「・・・・」  サンドリアの門を抜けると一人の神殿騎士が俺たちを迎えた。何やら様子がおかしい。 「あ!お久しぶりですクレアさん!ルティアーナを見ませんでしたか?」 「…ルティ、隠れてないで出てらっしゃい」 するとルティがグレイスの後ろからおずおずと顔を出した。 「ルティ…頼むから騎士団の訓練から抜け出すのだけはやめてくれ!父上がお怒りになって家でお待ちだ」 「はーい・・・今日はお姉ちゃんたちがいるから短く済みそうね♪」 「ルティ!少しは反省しなさいっ!そんなんでお父様の跡を継げると思うの!?」 「私は神殿騎士なんかにならないもん!冒険者になるんだから!」 そう言いながらルティは街の中へ消えていった。 クレアの家庭状況は今の会話で大体わかった。 「神殿騎士って・・・まさか」 ポルルがビックリした表情でクレアに訪ねた。 「我が家は代々神殿騎士に入隊して王家に仕えているのよ。私が冒険者になっちゃったモンだから 妹には神殿騎士になってもらわないとお父様は困っちゃうのよね」 それを嫌がって何度もサンドリアから抜け出そうとしている、というわけだ。 ん?待てよ?ってことは・・・ 「クレアの親父って大将か将軍?」 「ん・・・一応将軍ね」 「うっにゃ!じゃあクレアはどうしてお父様の跡を継がなかったの?」 「色々あるのよ。まあ外を見てみたかったっていうのもあるんだけどね」 「それはルティも一緒でしょ?ちょっと可哀想かも」 「その話しをしに戻ってきたんだけどねぇ・・・まあ後でゆっくり話すわ。 さあ、ここが私の家よ。入って頂戴」 気付いたら石造りの立派な家の前に立っていた。 「クレアーヌです、今帰りました」 奥からバタバタという音と共にエルヴァーンにしては小柄な貴婦人が出てきてクレアを抱きしめた。 「お帰りなさいクレア!楽しみにまっていたのよ!グレイスも立派になって!」 「お母様、元気そうで何よりです」 「おひさしぶりです」 「そちらの方達があなたのお仲間ですね?いつもうちの娘がお世話になっております」 「いやいや!お世話になってるのはこっちでありまして!はいぃ!」 タクトがペコペコしている。何となく気持ちはわからなくもない。 「さあさ、お疲れでしょうから奥でお菓子でもどうぞ。今お茶を入れますからね」 「おっ菓子♪おっ菓子♪クレアのママのお菓子ぃ〜♪」 ポルルが変な歌を口ずさんでいる。奥の部屋にはこれでもかと言わんばかりにお菓子がズラっと 並んでいる。パイにケーキにクッキー、チョコレート。ポルルとタクトががっついて食べている。 「うめー!マジうめー!」 本当においしそうな顔をして食べている。口の周りがチョコでベタベタだ。 ジェスはクレアの母に頼んで温泉でぬれた装備品を乾かせてもらっていた。 「ならん!断じてそれだけはならん!」 突然の怒鳴り声。そして扉がバアンと大きな音をたてて開いた。 「私は騎士なんてなりたくない!」 「待て!どこへ行く!」 扉の向こうには、恐らくクレアの親父さん。そしてルティが飛び出していった。 「やれやれ、あのジャジャ馬め…」 大きな溜息をつきながら親父さんが部屋から出てきた。 「いやいや、みっともない所を見せてしまいましたな、私がクレアーヌの父です。」 その威圧感はさすが将軍という感じであった。皆姿勢がよくなり各国の敬礼をして挨拶をした。 「将軍、ルティはまだ冒険者になろうと?」 グレイスが訪ねた。どうやらクレアの家族全員と認識があるようだ。 「うむ…神殿騎士の寄宿舎にも入れたのだがな、何度も逃げ出すので家に戻した。」 「家にいても何度も抜け出すし。剣の腕だってそれなりなのに、もったいないわ」 クレアのお袋さんが困った顔をしてお茶を運んできた。 「そのことですが、お父様、お母様。みんなも聞いて。」 全員がお茶をすする手を止めた。 「私、冒険はそろそろ終わりにしようと思っています。」 「えっ!?」 グレイス以外の全員が驚いて声をあげた。 「どうして!?うちらと冒険するのもうイヤにゃの!?」 「なんでだよ!今まで一緒に戦ってきたじゃん!」 「やだよー!どおしてよー!」 お前ら口から食べカスが・・・。クレアがポルル達を見てくすくすと笑っている。 「ですから神殿騎士団には私が入団します。ルティは外で好きなようにさせてやってください。」 「ふむ・・・」 クレアの親父さんは唸るようにして何か考え始めた。 「グレイスは何か知ってるんだろ?理由、教えてくれよ。」 グレイスは俺にニッと笑うとクレアの親父さんの前に立った。 「将軍・・・いやお父様」 次の瞬間グレイスが視界から消えた。と思ったら… 「本日はお嬢さんとの結婚の許可を頂きたく参上しました。」 なんと土下座している…! 『クレア・・・結婚するから冒険やめるのか?』 『そういうこと♪結婚すれば子供もできるし、あちこち飛び回ったりできないでしょ?』 ジェスが小さな声で話すとクレアもジェスの耳元に小さな声で返事をした。 戦闘ではいつも冷静沈着なクレアが照れくさそうに顔を真っ赤にしている。 クレアの親父さんは椅子に座り目を閉じてゆっくりとお茶を飲んだ。 『オイオイ!まさかグレイスとクレアがデキてたとはな!』 たぶん気付いてなかったのはお前だけだ、タクト…。 「・・・クレア、なぜグレイスと一緒になりたいと思ったんだね?」 「彼以上に尊敬し信頼できる方はいません。彼とならどんな困難も乗り越えていけると思っています」 するとクレアもグレイスの横で土下座をはじめた。 グレイスとクレアが目を合わせてニコっと笑ったのをジェスは見た。 「彼との結婚を許してください。」 「我が家の婿養子となると大変だぞ?」 「私が騎士になったその時に覚悟は決めておりました」 クレアの親父さんはグレイスとクレアの前にしゃがみ込み、肩に手をポンと置いた。 「家族が一人増えるというわけか。楽しくなりそうだな」 「お父様…!」 「ありがとうございます!」 『うっうっ…グレイスよかったなぁ!オイ!』 なぜお前が泣く、タクト。よく見たらリーナとポルルまで泣いている。 「お前らこれで涙拭け・・・」 「ありがと。お前以外とかわいいハンカチつかってんだな」 ヂーーーン!!! 「あっ!鼻かみやがった!汚ねぇ!」 「じゃあ今夜はご馳走をつくっちゃうわよ!さあ忙しくなるわね!ルティ手伝ってちょうだ…あら?」 「さっき飛び出していったけど、まさか…」 「ロンフォールには出られないだろう。神殿騎士の見張りも強化してある」 「でも心配だな。夏で日が長いとはいえ、もうすぐ夕暮れだし。男共で探すか」 「悪いね・・・グレイス」 将軍が申し訳なさそうな顔をするとグレイスはいえいえと笑いながら外へでた。 グレイスはサンドリア港。タクトは北サンドリア、そして俺は南サンドリアを探した。 女子は家で夕飯の支度の手伝いだ。 探しはじめて2時間 ルティは見つからない。日はとっぷり暮れ、空は紫色に染まり、月と星が顔を見せはじめた。 「どこ行きやがったんだ・・・ったく」 途方に暮れて空を見上げる。屋根の上で何かが赤く光っている。 まさかと思い2階のバルコニーから屋根の上に登ると・・・ 「・・・いた」 「うげ、なんでわかったの!?」 「お前の頭の髪飾りが光ってたぞ」 「これガーネットが細工されてるんだよ。いいでしょ。」 「・・・ケッ!俺だって…見ろ、ガーネットリングだ」 「おぉ〜!それがウワサの!こっち来て見せてよ!」 ルティに手招きされ、ジェスはルティの隣に座ってガーネットリングを渡した。 「きれーい。どこで買ったの?」 「ジュノで依頼された仕事の報酬だ」 「冒険者は色々なお仕事してお金稼ぐんだねー」 「仕事じゃなく敵を狩りまくったり生産して食ってるヤツもいるさ」 「冒険者も色々なんだね・・・」 ルティはリングを返すと溜息をついて月を見上げた。 「今日のお月様、目玉焼きみたい。お腹減ったぁー・・・」 「・・・クレアとグレイス婚約したぞ。今夜ごちそうだってさ」 「やっぱりね。私が小さい頃からずっと一緒だったんだよ、あの二人」 「ふーん・・」 しばらくの沈黙。ジェスはルティの横顔を見ていた。 月を見ているルティはとても綺麗だった。 袖無しのワンピースのから伸びる手足はスラっと長く、肌もきれい。 銀髪が風になびいてキラキラして、ロマンスグレーの瞳を銀色の長いまつげが縁取っている。 小さな唇はアヒルのような形でとてもかわいい。 その唇が突然開いたのでジェスはドキッとした。 「・・・ごちそうは食べたいけど家には戻らないよ?」 「それはお前の勝手だけど。・・・クレアが神殿騎士団に入るってさ」 「へ?」 すっとぼけた顔をしてルティはジェスの方を向いた。 「グレイスがお前んちの婿になるんだってさ。冒険は続けるみたいだけど。クレアの方は 冒険者やめて騎士団入るって。だからお前は家の外に出ていいってさ。 詳しいことは直接クレアに聞けよ。姉妹なんだし。」 「・・・わたし冒険者になってもいいの!?」 ルティの大きな目がジェスの顔を覗き込む。 「・・・ああ」 自分の顔が赤くなっているんじゃないかと、ジェスは気にしていた。 「う・・・うれしぃ〜〜〜!」 ルティの目から大粒の涙がこぼれていた。 「な・・・!泣くことないだろ!」 「だって小さい頃からずっと冒険者になりたかったんだもん!」 しまいにはシャクリをあげはじめた。 「だー!泣くんじゃない!」 ジェスは片手でルティの顔を自分の肩へ寄せた。 「・・・!」 ドキドキしていた。 頭を軽くポンポンと叩いてやるとルティはピタっと泣きやんだ。 「よし、落ち着いたな?帰るぞ!」 「おー!」 その場に立ち上がり屋根から降りようとした時 「・・・ねぇジェス?」 「ん?」 「・・・来てくれてありがとうね」 そう言うとニコっと笑って屋根から飛び降りた。 胸のドキドキは満月のせいではなのか?それとも・・・? そして二人は家に帰り、仲間と家族と共に楽しい夜を過ごした。 もうすぐルティの冒険がはじまる。 おわり。 ========================================================= ジェス…エル♂F7A クレア…エル♀F6A グレイス…エル♂F1B ルティ…エル♀F5A コルル…タル♀F8A リーナ…ミスラF7A タクト…ヒュム♂F2A ========================================================= 駄文&長文ごめんなさいぃ(;´Д⊂) しかもエロないし、すいませんでしたー!