どこまでも広がる白い雪の上に、おのれの流す血が赤く赤く染み込んでいく。 全身をずたずたに切り裂かれた。特にひどいのはざっくりと裂かれた腹で、いろいろこ ぼれ出た赤い固まりから湯気が立っているのが、もう瞬きする気力すら残っていない目 に、映る。 は、は、は、と短く浅い呼吸は、おのれの命が尽きるまでの秒読みだ。 ヤキが回ったと、自分でも思う。 いいかげん強くなったつもりでいたが、北の地を徘徊するドラゴンにあっさりと殺られ た。 自業自得。おのれの馬鹿さかげんに呆れてしまう。 例えここで息絶えても、冒険者として契約を結んだ時にかけられた魔法が、魂がアルタ ナの涙に還る「真の死」を迎える前に拠点へと死体を転位させ、強制蘇生を施すだろう。 しかし、死は死。結末は結末だ。 死の苦痛から逃れる術はないし、たとえ蘇生を受けても失うモノは確実にある。それは 魂に刻まれた「何か」であり、大切な魂の時間の一部が、失われるのだ。 サク……。 雪を踏む音がした気がした。 もっとも、すでに暗くなりかけている視界では、それを確認することも出来ない。 「グランセスさん! 貴方ですか? 待って下さい今蘇生しますから」 若い男の声が遠くに聞こえる。長い詠唱の声、女神の聖句が響き渡る。降り注ぐ光が、 遠ざかりつつあった意識を強引に引き戻す。 見えない力が倒れた身体を持ち上げ、収束する光が魂をつなぎ止める。 傷ついた身体に引き戻される強烈な苦痛に、俺は目を開けた。脱力感が身体を襲う。そ のままよろめき地に跪く俺を、さらに第四階位のケアルの光が包み込む。一瞬にして傷 を癒し体力を回復させる、最高位の回復魔法だ。 「ありがとう。助かった。恩に着るよ」 俺は、命の恩人に頭を下げた。馬鹿で哀れな死体に蘇生魔法を施してくれたのは、若い ヒュームの白魔道士だった。 端正な顔だちの青年だが、赤と白のコントラストが鮮やかな専用装備のおかげで、なん となく可愛らしい雰囲気になっている。 「いえ、こちらこそ、こんなところで恩が返せるとは思いませんでした。グランセスさ ん。間に合ってよかった」 「どこかで、会ったか?」 見覚えのない顔だった。それに俺は白魔法は扱えても蘇生魔法を拾得するには至ってい ない。 首をひねる俺に、彼はにこりと笑った。 「昔、死体になって転がってたところを、貴方に助けられました。貴方が魔道士を呼ん で蘇生を受けさせてくれなければ、俺は白魔道士の道を諦めていたと思います。きっ と……挫折していた」 衰弱した身体を休ませる俺を護り、周囲に気を配りながら、彼は語った。 「白魔道士として、パーティを全滅させてしまったのは、あれが始めてだったんです。 俺、あの時初めて蘇生魔法を受けました。……それはもう、感動しました。あの時のこ とがあったから、白魔道士を続けてこられたと思うんです」 記憶が蘇る。レイヴンと共にいたヒュームの白魔道士。 「思い出した。ユグホトか……。懐かしいな」 遠く、目をやる。 雪に閉ざされる不毛な北の地。徘徊するのは不死の化物や骸骨ばかりだ。 緑豊かな故郷からは想像もつかない、白い世界。 「彼女は……」 「レイヴンは元気だよ」 「あんな事があっては無理もありませんが、彼女は何も言わずに去ってしまった」 俺は何も言わなかった。それはもう今さら触れても仕方ない過去だ。 「元気すぎて手を焼いてるくらいだよ」 「そうですか。よかった」 言葉とは裏腹に、彼の表情が陰る。俺はがらりと口調を変えた。 「今度一緒に狩りに行かないか? 優秀な白魔道士は中々みつからないんでね」 「喜んで。でも今日みたいにあっけなく死なないで下さいね。俺、未だレイズII は 手にはいらないんで」 「いやもう、油断してたんだ。反省してる」 「や、冗談ですって」 がっくりとうなだれた俺に、彼が慌てて手を振った。 Glances Elvaan♂:F2a job:Knight WhiteMage Hume♂:F2b job:WhiteMage --------------------------------------------------------------------- @しらかん http://blue.ribbon.to/~shirahagi/ffxi/ 過去作品アリマス。