その夜、呼び出された港の酒場には ここ何日かわたしが必死で接触を試みてきた冒険者達がそろっていた。 「よろしくたのむ」「よろしくね」「よろろ〜♪」 そういってかわるがわる差し出される手を、わたしは握りかえしながら いまさらのように胸が高鳴るのを感じていた。 「こちらこそっ、よろしくおねがいしますっ!」 ほんとに仲間になれるなんて。これで、わたしも進むことができる。 高レベルの冒険者が滞在している。 その噂を聞きつけたのは1月も前のことだろうか。 ここサンドリアはたくさんの商人と新米の冒険者たちが集まる町で、わたしの故郷だ。 わたしの冒険者としての人生も、思えばここから始まっているのだ。 人の流れは耐えないものの、この地に高レベルの冒険者達が滞在することは少ない。 サンドリアから北に向かえば強い魔物たちの住む極寒の地だから、 レベルの高い冒険者たちの姿を見かけることは多いが、 彼等はたいていこの町を素通りしていく。 「パーティメンバーを募集しているらしい」 どこからともなく聞こえてくるその噂をききつけてわたしの胸は高鳴った。 あることがきっかけでわたしはだいぶ昔に仲間の信頼を失い、仲間と呼べる存在を失っていた。 どれだけ後悔して、自分を恨んでもすれ違う心は二度とぴったり重なりあうことはなく、 傷付き、疲れ果ててこの町に戻っても、長い間わたしは新しい仲間を見つけることができなかった。 孤独だった。だから。 彼等の姿を初めて見たのは晴れた日の凱旋門広場でだった。一目でそれと分かった。 彼等はこれといって特別な装備をしているわけではなかった。 普段着なのだろう、ゆったりとしたクロークやチュニックを見につけている。 だけど、あきらかにまわりとはレベルが違う。 まとう空気、雰囲気、視線の強さ。それらすべてが彼等の強さを物語っていた。 タルタルのリーダーらしい男性が通りすがる人に声をかけている。 横におそろいのチュニックを着たタルタル。こちらは女性だろうか。 ちょっとはなれたところでミスラとヒュームとエルヴァーンが座り込んで話をしている。 おそらくは幾多の血を流し、傷付き、あるいは傷つけここまでやってきたのだろう。 だのに、彼等には少しも荒んだところがなく、けっして触れあったり、口数多く話しているわけでもないのに 親密で穏やかな時間が流れているように、わたしには見えた。 わたし自身もエルヴァーンだし、サンドリア生まれサンドリア育ちだったから 美型が多いと呼ばれるエルヴァーン達は見なれている。 だけど広場の木の下で話し込んでいる3人、中でもエルヴァーンの男性は美しかった。 それは生まれもった顔の造作ということではなくて(もちろん造作自体も十分整っているのだが) なんと表現したらいいのか分からない、全体の雰囲気とでも言うべきものだ。 わたしの目はいつしか彼に引き寄せられた。 彼の瞳があまりに穏やかで、でもどうしようもないほど哀しげだったことに気付いたから。 わたしはみっともないことに競売の二階から小一時間程も彼等を観察し、 そしてついに行動を起こすことに決めた。 「あの・・」 意を決してそのタルタルの所へ歩み寄って声をかけた。それが始まりだった。 かわいらしい小さな手を二つ。 しなやかで凛としたミスラの華奢な手と、指が長い瞳のクルクル動く男の子の手。 最後に差し出されたのはその顔だちに不釣り合いな大きくて無骨な手。 「よろしく・・ね」耳の先まで赤くなるのが分かる。 思い出せない程遠い記憶の中から、色鮮やかにたちのぼる、そう、この感情を恋と呼ぶのだ。 ロンフォールの森の西側、アウトポストが今夜のねぐら。 明日夜のあけないうちにサンドリアに戻り、そのまま北へ。 それがわたしたちのスケジュールだった。 わたしがパーティに入った次の日から1週間のあいだ、 息をあわせるため、お互いの戦いの癖を知り合うため、ずっと狩りに出ていた。 彼等はもちろん個人個人強いのだが、わたしが感嘆したのはその信頼関係だった。 皆が皆お互いを絶対的に信頼している。 必ず剥がしてくれると信じて仲間の矛となる。 必ず回復してくれると信じて仲間の盾となる。 必ず倒してくれると信じて仲間を癒す。 そしてそのすべてのバランスを司る。 誰も死なせない、死なない。決して。決して。 その信頼関係の中に自分が受け入れられ、役割を与えられて、組み込まれていく、 その過程は恐ろしいプレッシャーをともなうものの、ある種の恍惚をともなうものだった。 「明日だな。」フェイがぽつりという。 いつも陽気でいささか子供っぽい、その表情にいつもとちがう緊張が浮かんでいる。 ここ数日おなじみになった夕食後のひととき。たき火を囲んで反省会。 「ああ。」リリが答える。 しばしの沈黙のあと。 「生きて戻るぞ。誰も、死なせん。」 オリルが決然と顔を挙げて宣言した。 その声は少年のように幼いのに、それはまさしく宣言とでも言うべきもので。 日頃感情が余り表に出ることのない彼にしては珍しくまるい瞳が決意に燃えている。 オルネバンがそんなオリルをじっと見ると、 かちゃりと傍らの大剣をもちあげて立ち上がり、そっとそれを胸の前にかかげてゆっくりと言った。 「俺の剣を、その誓いに捧げる。」 そんなキザな振る舞い、きっと普段なら誰かがちゃかすのだろう。 だのに誰も口を開かない。 リリが盾を手にそっと立ち上がった。 「ならばわたしは、この盾を。」 それはまるで誓いの儀式のようで。 「俺は、この拳を。」 「わたしは、この杖を。」 わたしもレイピアを片手に立ち上がる。 「わたしの、持てる力のすべてを。」 そして、オリルが最後に立ち上がる。混をささげもつ。 「この、魔力のすべてを、捧げると誓う。」 そういって円陣を組んで立ち上がったわたしたちは、お互いの顔を見て微笑んだ。 わたしはこのパーティの皆が好きだ。 無愛想なオリルも、にぎやかで包容力の固まりみたいなキュリリも、 子供っぽくて素直なフェイも、可愛い顔しているのに勇敢で責任感の強いリリも。 そしてもちろん意地悪でひねくれものだけど、繊細なオルネバンも。 みんなとてもとても分かりにくいけれど、優しい。泣きたくなるくらい優しい。 最初こそ馴染めるか不安だったものの、自分でも意外に思うくらいあっさりと わたしは皆を信じられるようになった。 何の躊躇もなく、わたしはわたしの力を、この人たちの為に差し出せると、今はそう思っている。 だけど、だけどさ。これはあんまりだと思うんだけど。 ねえ、リリ、フェイ、それ、わざとなの? それで、オリルとキュリリはいつのまにふたりでどこいっちゃったの? わたしは毛布に頭まですっぽりくるまって うすい壁一枚向こうから聞こえてくる気配に身をこわばらせていた。 いつも低めのハスキーボイスで、男の子みたいに話すリリがあんな声をだすなんて。 いつも笑い声を含んだような軽やかな声で話すフェイがあんなふうに囁くなんて。 艶やかな喘ぎ声が耐え切れずに漏らされれば、囁く吐息がそれに答える。 助けて。変な気分に、なっちゃうよ。 一生懸命他のことを考える。今日の戦闘中の自分の悪かったところ。 瞳をぎゅっと閉じて眠ろうと努力する。 ・・・・全然ダメ。 わたしのあそこがしっとりと湿り気を帯びているのが分かる。 どうしようもなくて、わたしは涙目でそっと毛布の外に顔をだした。 暗がりのむこう、部屋の角。オルネバンの気配。 声が上手く出なくて、かすれる。欲望だけが先走る。 「オルネバン・・?」 そういったわたしの声に毛布の肩がぴくりとゆれる。 だめだ。もう、とまらない。 わたし、知ってる。オルネバンの哀しみのわけ。 それはきっと今も隣から聞こえるあの声に、無関係じゃない。 リリを見るたび、ちょっと切なそうな顔になるのよ。気付いてないでしょうけど。 オルネバン、あなたリリが好きなのね。 それも、おそらく、フェイに愛されているリリが。フェイを愛しているリリが。 ねえ、わたしじゃダメなの?わたしじゃ癒せないの? 欲情する身体に似つかわしくなく、心が痛む。 そっと頑に壁に向いて動かないその肩に手をかける。 「だめだ。」固い声。かすかに震える愛しい声。 無視してそのまま顔を覗き込む。 オルネバンが瞳を開いた。透き通るようなアイスブルーの瞳。 瞳をじっと見返したまま、唇を寄せる。あなたが、好き。 触れそうになる一瞬。オルネバンが唇をひく。 「後悔・・させる。」そう言うから。 「代わりで、いい。」そう呟く。 寸前まで近付いた顔をそっと離してオルネバンを見る。まっすぐ、見る。 「思い上がらないで。わたしはわたしの意志でこうするのよ。 後悔なんて、死んだってしないわ。好きな男と寝るって言うのに?」 「代わりでかまわない。比べたっていい。 だけど見損なわないで。そのうちあなた、わたしに夢中になるわ。」 それはハッタリ。一世一代の虚勢。 自分で自分の口からポンポンと出てくる言葉に驚く。 オルネバンがわたしの言葉に撃たれたように目を見開く。身を起こす。 口元にほほえみ。わたしの大好きな、ちょっと斜に構えたようなあのほほえみ。 「お前、たいした女だな・・・」 そういってわたしを見る。切なそうなあの瞳で。 「甘えても、いいのか?」 芯までとろけそうになるテノールの低い声でオルネバンがそう囁いてわたしの肩を抱いた。 全て受け止める。あなたの欲望も、哀しみも、切なさも全て。わたしにちょうだい。 彼の頭をそっとかき抱いて髪の毛を優しく梳く。 「好きにして。めちゃくちゃに、して。」 わたしこんなこと言えるんだ。自分で自分に驚愕する。 わたしがそうオルネバンの耳もとで囁くと彼は荒々しくわたしを押し倒した。 身体中が震えている。わたしも、彼も。 オルネバンがわたしの瞳をそっと覗き込んでいった。 「俺、きっとお前のこと、好きになるんだろうな。」 そんなことを、それはそれは優しげに言う。 涙が出そうになる。わたしは瞳を閉じた。そのままだと泣いてしまいそうだったから。 唇がおりてくる。優しく唇を吸われる。 舌がわたしの唇をノックするから、そっと差し出す。 すぐに激しくなる。彼の暖かい舌がわたしの口腔を隙間なく這い回る。 それだけで頭の芯がじんじんする。身体が燃え上がる。 オルネバンの大きな手がわたしのローブのしたに潜り込んだ。 脇腹を優しくさすられる。その手がそっと上にあがって乳房を包む。 下から持ち上げられるようになぶられる。 触られてもいないのに、先端が固く立ち上がっているのが分かる。 わたしはこのごにおよんで激しく動揺していた。 どうしよう・・オルネバン、上手い・・・。 思いもよらない強烈な感覚にうっすらと恐怖を覚える。 荒くなる息がせりあがって行き場をなくす。 オルネバンの指が一瞬だけ先端を掠める。電流が走る。 「はんっ・・・あ・・」 ぴったりと重なった唇の間から声がもれた。 その声に反応するようにオルネバンが唇を離す。 「・・・かんじやすいんだな。」 彼の口元には今きっとあの意地悪なほほえみが浮かんでいるに違いない。 目があけられなかった。羞恥が急に脳裏に忍び込む。 わたしは身体をひねって彼の手から逃れようとした。 服の下からすごい早さでもどってきた力強い腕に押さえ込まれる。 「めちゃくちゃにしてって、いったのはフェリシアだ。」 そういう、いたずらっぽい声。かなわない。この人に。そう思う一瞬。 そしてそれはそのまま甘い恍惚をともなう感覚となってわたしの身体を駆け抜けた。 オルネバンの手が手際よくわたしの服をとりさり、 わたしは呆気無い程簡単に生まれたままの姿を彼にさらしてしまう。 「きれいだ。」 オルネバンたらそんなことをいう。ずるい。普段は絶対そんなこと言わないのに。 比べられてもいい、そう思った心にウソはないけど、嬉しく思う。 「あんまり、みないで・・・」顔をそむけてそう懇願するとふっとオルネバンが笑った。 不意に乳房を掴まれる。そのまま先端を唇に含まれた。 「ああっ・・・ん・・あ・・・」 背筋を幾度もぞくぞくとした甘い感覚が駆け抜ける。 オルネバンの指がわたしの下腹部を探っていることに気付く。 わたしは恥ずかしくて脚を固く閉じた。だって、もう濡れてる・・・。 オルネバンが半身をおこしてわたしの膝に手をかける。 「むだだよ。」そういって。 彼が腕にほんのすこし力を加えるだけでわたしの脚は力を失う。 「いや・・・あ・・・・ああぁん・・・」 彼の指がスリットをなぞる。恥ずかしい。こんなに溢れて。 羞恥は一瞬のうちに彼の指が与える快感に押しながされていく。 指はあっという間に一番敏感なつぼみをさぐりあてる。 執拗に攻められる。意識が遠くなる。 わたしの口から押さえられない吐息が媚を含んでながれでる。 「だめ・・・・あ・・・はぁ・・いっちゃうよぉ・・・やめて・・・」 彼の舌がわたしのつぼみを執拗に捕らえて離さない。 舌で押し付けるようになでられて、わたしは陥落直前だった。 「だめ!いや・・いやぁ・・・」 必死で彼の頭をおしやり、わたしは舌から逃れた。 「どして?」そういって不承不承と言う感じで頭をあげた彼の腰にわたしは反撃とばかりに唇を寄せる。 いえない。一緒がイイなんて、そんなこと。 腰衣をおろすと窮屈そうにしていた彼のものが勢いよく飛び出してきた。 オルネバンが驚いたように腰をひく。 「いいって・・そんな・・」 最後まで言わせない。わたしはそのまま彼を口に含んだ。 愛おしくて愛おしくてたまらない。 丁寧に舌を這わせて唇を押し付けて動かす。 オルネバンの顔が見たくてそっと上目遣いで様子を伺う。 彼の端正な顔の眉根が寄せられて、息が荒くなる。 わたしはうれしくてうれしくて、たまらなかった。 はりきって唇を動かす。もっと感じて。もっと、もっと。夢中になったらいい。 先端からおさえられない欲望が糸をひいて流れる。 「うぅ・・・フェリ・・シア・・やめてくれ・・」 彼のものがどんどん大きくなる。根元をぎゅっと押さえて、イカないように。 「だめだ・・・いれさせて・・・」 そういって彼が根をあげる。 唇を離し、ちゅっとキスを彼のものに落とすと、 わたしは自分の入り口に彼をあてがってそのまま腰を落とした。 「あぁ・・・きもちいいよぅ・・・」 彼のものがずぷずぷとわたしの中におさまっていく。 たったそれだけの刺激で。わたしの意識はとびそうになった。 やばい。動けない。腰を落としたままのわたしに焦れたようにオルネバンが身を起こした。 「だめ・・・あはぁ・・・うごかない・・で・・」 そう請うわたしを困惑したように抱きとめる。 「え・・・そ・・んな・・・いたいのか?」 オルネバンがきくからぷるぷると首をふる。声をだすのも辛い。よすぎて。 「だ・・めだ・・お前の中、うごきすぎ・・・つれえ・・うごくぞ」 オルネバンも涙目。そのまま仰向けに転がされる。 彼の腰がうごきだす。 わたしの意識が早々に悲鳴をあげはじめる。どんどん遠ざかる。 ああ、これは、死に似ている。恐ろしい程の快感の波が身体の中心から沸き上がる。ふくれあがる。 すべてを飲み込まれる。 オルネバンの吐息、わたしの吐息。どんどん遠くなる。 がくがくと揺らされる身体。どこにも何も力が入らない。 ただ快楽のためだけの、肥大した器官。 「あ・・だめだ・・・い・・っちま・・う」 そう告げるオルネバンの声を遠くにきいてわたしは意識を手放した。 結論からいけば夜があける前の出発は無理だった。 わたしが次に意識を取り戻したのは夜明けだったし、第一その時点でだれも戻っていなかった。 リリとフェイはともかく、しっかりもののオリルとキュリリが戻ってないなんてめずらしいな。 そういってオルネバンは照れくさそうに頭をかいた。 外に出て火を起こしているとオリルとキュリリが森の方から戻ってきた。 「すまんな・・・」オリルがそういってふわあああと大きなあくびをした。 キュリリはそのままそそくさとリリ達を起こしにいった。 戦いの前なのに、穏やかで平和な朝だった。 「服くらい着て寝なさいー!」 やがてそう叫ぶキュリリの声がきこえてくる。オリルはそ知らぬ顔で湯を湧かす。 オルネバンがくすりと笑った。 わたしはただ、出会いの幸運に感謝していた。