血臭が、充満していた。 それが己の血であるのかオークのものであるのか、もはや区別はつかない。 こんな奥まで来るつもりはなかった。激しい後悔が俺の頭をよぎるが、そんなコトよりもまずは仲間の 命を守るために、俺は剣を振るった。 周囲を取り囲むものは幾匹ものオーク。不細工な禿面に凶悪な表情を浮べて、武器をかかげる。縄張り に踏み込んできた人間達を見のがすつもりはこれっぽっちもないようだ。 背後にピタリと身体をよせたエルヴァーンの白魔道士が、その魔道士離れした膂力で両手紺をぶん回し た。そうして剣を向けるオークを牽制しつつ、高らかに呪文を詠唱する。「スリプル」だ。頼む!効い てくれ!俺は両手剣を目の前のオークに打ち込みながら、思わず祈った。 「かかった!悪いコはおねんねよ!起こさないで!」 「おうよっ!」 一匹や二匹眠らせたところで、俺たちが生き残る可能性は低い。だからといって諦めるのは御免だ。 「TP130%!ファストいつでも打てるよ!!」 足下で小さな剣を振るっていたタルタルの赤魔道士が、タクティカルポイントを叫ぶ。 「あと一撃待って撃て!」 「ぉけ!」 彼が集中を始める。俺も目の前の敵を見据えた。ココで外したら後がない。 流れる血が目に入って染みる。霞む視界に舌を打つ。 回復魔法をかけ続ける彼女をオーク共が憎々しげに睨み付ける。何発かのクリティカルヒットが彼女に 入った。 膝をつく彼女の名を呼ぶ。……返事が、ない。 振り返って確かめたくとも、敵の攻撃がそれを許さない。 「ぎゃっ」 タルタルの青年がその小さな身体を吹っ飛ばされて転がった。一転して跳ね起き、お返しとばかりにファ ストブレードを叩き込んだのは流石だ。 間髪入れずにWSを叩き込む。断末魔の悲鳴を上げて崩れるオークには目もくれず、背後を振り返る。 かろうじて立ち上がった彼女がニヤリと笑った。親指を突き立て、そして目を閉じた。 「駄目だ!よせ!」 俺の叫びに彼女は応えず、敬虔な祈りの言葉と共に女神に訴える、祝福を。 暖かい光が俺たちを包む。女神アルタナの祝福は対する男神プロマシアの徒たる獣人の憎悪を一身に受 ける。 身体の傷を全て癒し、活力を与える祝福と引き換えに、彼女はオーク達総攻撃にあう。罵声を浴びせ、 武器を打ちならして挑発しても奴らの耳には入らない。 「糞ったれがぁぁぁぁぁぁ!」 今度こそ地に倒れふした彼女の姿に、俺は叫んだ。 ----------------------------------------------------------------------------------- @しらかん