「お父さん、今だよ!」 (俺が動揺している隙に、子供は腕の中から抜け出した。  そして壁に架かっていた剣を父親に手渡す。) 「アイルベーシュ……わかった!」 (エグゾロッシュは剣を抜き俺に向けて構える。  その顔は先程までとはうって変わって、生気に満ち溢れていた。) 「一つだけ言っておく……私が守りたいのは騎士の名誉ではない……。家族だ!」 (エグゾロッシュの剣が鋭く繰り出される。  俺は咄嗟に身を翻し、窓を突き破って外へ脱出した。) <<<『闇の放浪者』第六話「生存」>>> 「おや、あんた今まで何処行ってたんだい? リュートが心配して探しに出ちゃったよ。」 「婆サン……アンタデイイ。戦争ガ二十年前ニ終ワッタトイウノハ本当カ?」 「その通りだよ。有名な話じゃないかぇ?  わしの住んでいた国も獣人たちに滅ぼされた……。  タブナジア侯国といったんじゃが……知らないだろうねぇ。」 「タブナジアダト!!」 「おや、知ってるのかい? 勉強熱心だね。  あそこは光と風に包まれた、綺麗な国じゃった……。  戦争も終わりに差し掛かった頃に、闇の軍勢に蹂躙されて酷いことになったけどねぇ。」 「アア、知ッテイル……。」 (懐かしき我が祖国……。だが、あの美しい街並みは二度と戻ってこない……。) 「侯国が滅亡した日……わしゃね、獣人たちが攻めてきたのを見て、  早々に気絶してしまったんじゃよ……。  目が覚めたとき、わしは戸棚の中に居た……多分、旦那が隠してくれたんだろうね……。  当人はわしを守ろうとしたのか、外で死んじまっていたがね……。」 (老婆の話に俺はあの惨劇の日を思い出し、怒りに全身が震えた。) 「わしには娘もいてねぇ、重症じゃった……。  もし、大聖堂の白魔道士様が来るのが遅ければ……あの子は死んでいた。  戦争が終われば恋人と結婚するって、随分浮かれてたのにねぇ……。」 「結婚ノ、約束……!?」 「そう。でも結局、あの子の恋人は戦争から帰っては来なかった……。  マルスって名前の、元気で優しい男の子だったんだけどねぇ……。」 (それは……俺のことでは!?) 「婆サン、モシカシテアンタノ娘ハ……シェリー、トイウ名前ジャ無イカ?」 「あれ、どうして知ってるんだい? リュートにもまだ話してないはずなのに……。」 「シェリーハ何処ニイル!? 頼ム、教エテクレ!!」 (俺は老婆の……義母になるはずだった人の肩を掴んで揺さぶった。  そんな俺の態度に、老婆は困惑しているようだった。) 「タブナジアを見下ろせる丘にね、修道院が建てられたんじゃ……。  シェリーはそこに行った……。そこで聞けば、あの娘のことは判るよ……。」