11.オルネバン side1 あたま・・いてえ。 オリルのスリプルは恐ろしく強烈に聞くけど、魔力が強すぎて目覚めたあともしばらく頭が痛い。 さすがINTマニア。鬼のように無駄に(とはいわんが)ブーストしてるだけの事はある。 なるべく刺激を与えないように起き上がるともうテントの中は俺一人だった。 起き上がったものの動く気になれなくてぼんやりと昨日の夜の事を思い出す。 訳知り顔で、ああしたつもりだけど、やはり胸が痛かった。 ヤキがまわったな。自嘲的にそう思って鼻で笑う。 フェイはアホで一直線な単細胞だけど、 いやそんなやつだからリリを変えられるのかもしれないけど、 俺がいつあいつを認めるようになったのか思い出すことができない。 はじめからリリを見てるのは分かってた。別にどうとも思わなかった。 そんな男しょっちゅうお目にかかる。 寝るだけなら構いはしない。リリがいいというのなら俺が口をだすことじゃない。 だけどフェイは、そうじゃなかった。だから、苛ついた。 俺がとっくの昔にあきらめた思いを、望みを、あんなにダイレクトにまきちらすその姿勢に 俺は苛ついて、そしてきっと屈したんだと思う。 商売女なんかに入れこんだりするはずじゃなかった。 最初は確実に同情だったと思う。まあ、身体が、顔が、俺好みだったんだけど。ぶっちゃけ。 気にいって通うようになって、リリもたまに笑ってくれるようになった、その矢先に姿を消した。 主人、うすぎたないヒュームの男がぷりぷり怒っていたけど その時の俺は次のなじみを探さんとなと思っただけで、むしろ自力でにげだしたリリの意志に感嘆したぐらいだった。 次にあったのは風ばっか強い砂丘でだった。 リリはかわっていた。 タルタル2人も上手く守れなくて、傷付いて、敗走して、泣いて、だけど懸命に自分の足で立とうとしてた。 いつも曇っていた瞳には燃えるような意志の力。いつか強くなるという強い意志。 ぴらぴらしたスケスケの安物の衣装ではなく、その細い肩にはふつりあいなごつい鎧と、腰にさした剣。 いつも風にあおられて、汚れて、血にまみれていたけれど、俺はその時はじめて心の底からリリに欲情した。 「オルネバーン?」キュリリが顔をのぞかせる。 「あ、おきた?平気?ごはんはやくたべて。」 「あいつらは?」のろのろとそう聞いた俺にちょこちょことキュリリがよってくる。 「たき火のとこに裸で転がってたのをオリルが早朝に無事保護しました!」 アホか・・・。風邪ひくだろうが・・・。パーティの迷惑を考えろ・・。頭ががんがんする。 「オルネ。」そうよぶときのキュリリはやさしい。 「えらかったね。」そういってキュリリがその小さな暖かい手でのびあがって俺をなでるから。 俺は不覚にもちょっと泣きそうになった。 もそもそとテントをぬけだすとオリルとフェイが向き合ってお茶を飲んでいるのが見えた。 うっすらと柔らかい針のように、あたたかい霧雨が森に落ちている。 はあ〜〜〜あ。なんだよ、フェイ、その顔。 だらしなくにやけて全く見ちゃいられねえ。 俺が近寄るとオリルが言う。 「お茶が欲しけりゃ自分でやれ。」 よよよ〜、冷たいお言葉。嫁に比べて旦那のこのぶっきらぼう加減はどうにかならんのか。 ことり。背を向けた方向から、カップを下に置く音がした。 「オルネバン」フェイの固い声。 答えない。振り向かない。ほんのすこしの俺の意地。 「すまん。・・・ありがとう。」 フェイは何度も言うがアホだ。だけど、人の気持ちも分からない程アホじゃない。 そういう意味で言えばリリの方がアホだ。 「べつに、そんなこと言う必要ねえよ。」 なんて答えたらいいのか分からなくて、背を向けたままそう答えた。 「リリはぁ?」キュリリが問う。 「水浴びいってくるってさ。色ボケした頭にはちょうどいいだろ。」オリルが答えるとフェイが赤くなる。 「ふ〜ん・・。じゃ、わたしもいってこよっと。」 キュリリが歩き出した。 男3人無言で茶を啜る。 「ん〜〜。」ちょっと考えて口を開く。 「俺ちょっといってくるわ。」 なんの気なしにそういうとフェイが首がもげるんじゃないかと思うくらいの勢いでこっちをみる。 「なにしにだよ!この、エロヴァーン!」 「誤解すんなや。手なんかださねえよ。話あんだわ。」 「だからって今じゃなくていいだろ?」 ぎゃんぎゃん、うるせー。べつにリリはおめーだけのもんじゃねーよ。苛ついてそんなことを思ったり。 「オリル。」めくばせするとタルタルはこれ見よがしにため息をついて、うなずいた。 「バインドッ!」オリルが立ち上がるのとほとんど同時に完了する詠唱。 完全にかたまったフェイを横目にオリルは再び座り込むとふざけてんだか真面目なんだか分からない口調でこう言う。 「とけるのには5分。キュリリに手だしたら、殺す。」 ださねえし・・ていうか、リリだったらいいのかよ、おい・・・。 いそいでキュリリが消えた方向へ。 湖岸にでると大きな岩の影でキュリリがかぼちゃぱんついっちょになってリリを探してるかわいらしい後ろ姿が見えた。 あれじゃ欲情のしようがねえよなあ。とか思いながら、 「キュリリ」そっと声をかけると、キュリリの背中が固まる。 「見てねえ!見てねえよ!」殺気を感じてあわててつけくわえるとここでも言われる。 「・・・エロヴァーン・・・」 「リリに用あんだよ。」無視してそうつづけるとキュリリが服を着て岩影から出てきた。 「まだあびてないのにぃ・・。」おおげさにそうため息をついてキュリリが水面をさす。 「あのへんにいるよ。」「どーでもいいけどやってる時間はないからね!」 ぷりぷり頬をふくらませて、不機嫌きわまりなくそういいすててキュリリが戻っていく。 俺は岩影でリリを待つことにした。 ぱしゃん。水が跳ねる音がしてリリの赤い髪が水面に舞い上がる。 そのままこちらに泳いでくる。 ネコは水が嫌いそうなもんなのに、リリは鼻歌を歌いながら手足をのばして気持ちよさそうに泳いでくる。 浅瀬にあがってぷるぷると頭をふる。岩にすっぽり姿を隠した俺には気付かない。 すんなりとのびた、手足。豊満じゃないけど、きたえられて締った細いからだ。金色のしっぽ。 白くもりあがった双丘の上、ちらばる赤い所有の印を見た時、俺は一瞬逆上したんだと思う。 リリが布をとろうと手をのばした瞬間、すばやく背中側から手をまわしてしっぽをひきずりたおす。 「ふぎゃっ?!」 バランスを崩してうしろにたおれこむ。 そのまま馬乗りになった俺を睨み付けると、リリは素早く布で胸元を隠した。 「なにする!どけよ!」 「よかったかよ?」リリの声をうちけすように。 「フェイは、よかったかよ?」意地がわるいなんて分かってる。とめられなかった。 当然罵声がかえってくるものだと思ったのに。 リリの顔が悲しげに歪んで、瞳が俺からそらされた。 「オルネバン・・」 「わたし、酷いことしたな。謝る言葉もない。・・すまない。」 そう呟くリリの瞳にうっすらと涙が浮かんでいるから、おれはうちのめされて悲しくなる。 ああ、そうだな。気付いちまったな。リリ。もう、あんなふうには、お前を抱けないんだな。 本当に胸が痛かった。どうしようもなくて。 「・・・あやまるな。」 そういってリリの胸元に唇を寄せる。 フェイが刻んだ印の上に重ねるように舌を這わせた。 リリは動かなかった。 「こぉぉぉぉ〜〜〜〜〜らぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜」 高速で近付いてくる声。あのはやさは、とんずら。 こんなとこでアビリティつかってやがんの。あの男、アホだ。やっぱり。 襟首を後ろからつかまれてリリから引き剥がされる。 「おまっ、おま、おまえ!」フェイが俺を指差していいつのる。 「フェイ。」リリのかすれ声。 「すまない。いいんだ。わたしが、悪いから。」 あ〜あ。安物のドラマじゃあるまいし、俺こういうの苦手なんだよ。まったく。 「リリ!」フェイが困ったように言う。 「リリ、お前もう、俺と寝ないか。」めんどくさくなって、体勢を立て直したリリに静かにそうきく。 「わたしは、わたしはもう身体を売らない。だから、もうオルネバンとは寝れない。」 リリは静かに、だけどはっきりとそう答えた。 「金は払わない。それでももう俺と寝たくはない?」たたみかけるようにそう問いかける。 フェイは黙っている。 そう、ここが正念場。おれたち3人の。 沈黙のあと。リリは瞳をあげてこう答えた。 「オルネバン、わたしはフェイが好きだ。だけど、あんたのこと、嫌いなわけじゃない。 寝ることはできないけど、酷いことしたけど、わたしにセックスがみじめなばっかりじゃないって 教えてくれたのはきっとあんただ。大事に思ってる。仲間でいてほしいと、そう思っている。」 言い終えたリリの瞳は砂丘で再びであった日のように強くきらめいていた。 俺は静かに答えた。「そうか。」 よく言った。リリ、お前はもうわけもわからず求められるままに身体をあけわたすバカな娼婦じゃない。 お前は、冒険者だ。お前はナイトだ。それでこそ誇り高い、ミスラだ。俺が守りたかった、リリだ。 俺は嬉しくて、そして猛烈に悲しかった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− (ここから下はおまけ。非公式設定です。3Pにむけた(自爆) こういう脳内設定受け入れられる方だけ以下の設定onにしておいてください(笑)) 「オルネバン」フェイが口を挟む。やけに切なげな顔。 「俺さ、あんたのこと認めてる。リリは別に、俺のもんじゃないよ。 俺、リリのこと好きだけど、リリがあんたと寝るなんて考えただけで嫉妬で狂いそうだけど、 だけど、ダメとかいえねえよ・・・。」 なにをいいだすのか、この男は。驚きでとっさに反応できなくて、リリも俺も黙り込む。 「リリさ、オルネバンのこと嫌いじゃないんだろ? オルネバンだってそうだろ?それなのに俺がいるから?おれたちがこうなったから? だから今までのはナシですとか、そういうもんじゃねえだろ? ・・・・あ〜〜〜!うまくいえねえけど!」 「お前それ、俺のことそそのかしてるようにしか聞こえねえけど・・・」 半分呆れてそう言ってやるとフェイは困った顔で言う。 こいつ、ガキみてえだな。よくも悪くも。 「だけど俺の知らないところでオルネバンがリリとやるのはヤダ!絶対ヤダ!」 考える。そんなはずないと何度も打ち消す。 だけどやっぱりこういうことにしかならない。 「お前な・・・それ・・・3P・・・」 ぶわっとリリの顔が赤くなる。 「なな、なにいってる!ふたりともおかしいぞ?!わたし、もう行く!」 そう言ってリリは小走りにキャンプに戻っていく。服もマトモに着ないままで。 「・・・・本気にするぞ?」 リリが消えた方向をぼんやり見たまま俺が言うとフェイが同じようにぼんやりこたえる。 「・・・・検討の余地ありだな・・。」 男ってのは基本的に鬼畜なんじゃないかと、 フェイの気の抜けたような横顔を見ながら俺はそう思った。 (ここまでー) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 大丈夫。おれ、こんなにいい男だもん。 きっとどこかで出会う。リリがフェイに出会ったように、俺の運命の女に、きっとであう。 だってこの世界には星屑のように煌めく出合いが用意されているのだから。 その夜、したたかによっぱらってそう呟いたら、珍しくオリルがぽむぽむと背中をたたいてくれた。