「いぃっ、痛いっ! もっと、優しく……!」 「シェリー、お前いつも注文つけてばかりだよな。俺ってそんなに下手か?」 「ううん、そんなことないよ。ま、マルスにはまだまだ修行の余地が有るけどね。  そもそも、素直に『気持ちいい』なんて言うのはわたしのプライドが許さないの。」 「何だよそれ……。」 「だってそんなこと言ったら貴方が手を抜くかも知れないでしょ。  全力で奉仕して貰わないと、あたしは満足できないわ。」 「おいおい……。」 「それにね、女の子は体だけがいくら気持ちよくっても駄目なの。  男が頑張ってるのを見て、愛されてるって思えないとね。」 <<<『闇の放浪者』第三話「満月」>>> 「ココ……ダッタナ、オ前ガ感ジヤスイノハ……。」 (俺は彼女の全身をまさぐっていた。性感帯を徹底的に狙う。  耳に息を吹きかける。首筋を舐める。腋をくすぐる。胸を揉みしだく。  乳頭を突付く。腰を擦る。内股を撫でる。足の裏をいじる。  正直な話、自分の体よりもよく覚えている。  散々シェリーには調教された……それを今ここで返すことになろうとは。) 「さすが……わたしの……騎士様ね……!  よく……知って……いらっしゃる……。」 (彼女は恥らうように身悶えする。上気した肌が微かに震える。  俺の体は既に彼女に呑み込まれ始めている。  だが彼女はそれを急かす様に、俺を貪るように腰を振る。  俺は彼女の動きに同調させて自分の体を前後に揺らした。  二人の腰が強くぶつかる度に、彼女は小さく呻き声を上げた。  可愛らしい声が耳元で囁かれる。) 「痛っ……!」 (二人の体は粘液にまみれて繋がっている。濡れた肉が肌を滑り激しくぶつかる。  肉が擦れ合う毎に粘液は溢れ出し、二人の肌と肌の間に広がって隙間を塞いでゆく。  彼女の優美な肢体が俺の腕の中で弾む。それを包み込むように俺は体を押し付ける。  反射的に彼女の太腿が閉じかける。俺は両脚を使って彼女の股を無理矢理こじ開けた。  するとその瞬間、今度は逆に俺の体を凄まじい勢いで吸いつけ始めた。) 「これが……あたし……なの……!?」 「安心シロ、オ前ノコトハ俺ガ一番ヨク判ッテイル……。  オ前ノ全テハ俺ガ受ケ止メル……!  後ノコトハ俺ニ任セテ、感情ノ赴クママ動ケ……。」 (彼女の体がうねるように蠢く。その野獣のような動作に合わせて俺の体も自然に動く。  彼女の望む方へ招かれるように追いかけてゆく。  少しでも肌が触れ合えるように。少しでも隙間が狭くなるように。  俺の体が溢れ出して彼女の中に溶け込んでゆく。  彼女から迸る扇情をかき集めて腕の中に包み込む。  二人の血と肉と汗が、まるで一匹の巨大な生物のように暴れ狂う。) 「いっ……あぃっ……!」 (彼女の顔に苦悶と恍惚、虚脱と愉悦の表情が浮かぶ。俺の一番好きな表情だ。  俺にはこいつがいる。愛おしくて堪らない。もう独りじゃない。永遠に一緒だ。  好きだ。愛してる。狂おしい程に。ずっと抱き締めていたい。もう離さない!  俺は彼女の体を更に強く抱き締めた。そして唇を重ねる。) 「……! ……んぅっ……! んぐっ!」 (悦楽。悶絶。絶頂。歓喜。至福。喜悦。興奮。快感。昇天。  彼女のしなやかな体が一際大きく跳ね上がる。そして次第に彼女の体がだらしなく弛緩する。  俺は愛撫を続ける。彼女が気が済むと言うまで。) 「冷タクハナカッタカ……。」 (交合の儀式は終わった。俺は彼女に脱いでた服を着せ掛けた。) 「ううん……大丈夫。……熱かった。」 (ずっとそうだった訳ではないだろう。この体温を失った腕に抱かれていたというのに。  だが俺はその彼女の優しい配慮が嬉しかった。) 「これまで……不安だった。何も解らずに、この世界に放り出されてしまって……。  大事なものを失った気はしてた……。でも……それが何なのかは思い出せなかった……。」 (彼女の双眸が憂いの色を帯びる。俺は愛おしさに駆られ、彼女の髪をそっと撫でた。) 「だけど、ね……ようやく、探してた人を見つけられた気がする。  貴方のこと……待ってたんだ、って……。」 (丁度そのとき雲が割れ、彼女の滑らかなシルエットが月光のシャワーを浴びて映し出された。  白い透き通るような肌が暗闇に映える。俺は、ある詩を思い出した。) 「満月ハ狂気。フェンリルガ騒ギ立テ、血ニ飢エタ牙ヲ剥ク。  セイレーンハ不安ニ駆ラレ、誘惑ノ旋律ヲ奏デル。  魔狼ノ毒牙ガ乙女ノ喉笛ヲ喰イ破リ、美シキ悲鳴ガ闇ニ木霊スル。  ソノ声音ニ魅入ラレテ、魔物ハ泡沫ノ潮ニ呑マレル。  再ビ静寂ガ支配シタ水辺ヲ、淡イ月ノ光ガ照ラシ続ケル。」 「それは……?」 「昔、オ前ガ俺ニ詠ッテクレタ詩ダ。意味ヲ解説シロト言ッタラ怒ラレタガナ。」 「そっか……。確かに、ずっと前どこかで聞いたような気もする……。」 (彼女は白い満月を見上げて伸びをした。  どこか遠い所を眺める……そんな感じの瞳をしていた。) 「満月は、狂気……。」