8.フェイ side3 「いってえ・・・」 「シーフのくせに無茶するからだ。バカ。」 ちからまかせに包帯をひっぺがすエルヴァーンが吐き捨てるように言う。 「バカって言うな。」 「お前のせいだ。」 「はぁ?なんで?」 「まあ、当たらずとも遠からずだな。」 すみっこで魔法書を読んでいたオリルまでそんなことをいう。 そこへキュリリがもどってきた。 「ほぅ。」オリルがキュリリに目線を送る。 「あ〜あ。気に入らねえ!」そういって包帯を貼り終えたオルネバンがどかっと足を投げ出す。 キュリリがちょこちょことオルネバンのもとへやってきてそのふくれっつらをそっとなでた。 「慰める言葉もないな」とても慰めてるとは思えない口調でオリルが言う。 「さっさといけよ。ヘボシーフ。」投げ捨てるようにそういうオルネバンを怪訝な顔で見返すと、 キュリリがオルネバンをよしよししたまま「見張り。交代して。」と言う。 え?え?何だ、この空気。 「オリル、やってらんねえからスリプルくれ。」 「そうだね〜それがいいね〜。よちよち。」 「ああ」 状況がイマイチ飲み込めないまま、3人がこれ見よがしに言い続けるテントを出る。 たき火のそばにリリが座っていた。 9.フェイ side4 火が赤くリリの顔を照らしている。 こうやってみるとやっぱり、リリは綺麗だと思う。 ミスラ達は総じて顔かたちが綺麗だけれど、(エルヴァーン達とは違った意味で) リリはほんとに野性的で、凛々しくて、・・・綺麗だ。 気配を感じたのかリリが一瞬こっちを振り向く。 その瞳が夜目にもわかるほど開いて、潤んで、すぐにそらされる。 ずくん。とからだの奥が疼いた。 こういう・・ことかよ。 俺今、たぶんすげえ顔してるんじゃないかな。 リリの隣に黙って腰をおろす。 視線もあわせずに ものすごく不自然にからだをひねって、リリが少し俺から離れる。 ものすごく自然に俺はもう一歩リリに近付く。 ふ〜〜ん? リリが明らかに狼狽している。 俺はちょっと嗜虐心をそそられる。 「きっ、傷はもういいのか?」 いつもの低めのハスキーボイスじゃない。 うろたえたような半音上ずった声。 あ〜あ。そんな声だしちゃって。誘ってるつもりはないんだろうな。たちわりぃ。 どんどん加速する心。身体。 「ああ。」そう答えてじっとリリを見る。わざと。 金色のしっぽがおちつかなげにゆれてる。 耳もあっちにうごいて、こっちにうごいて。 瞳だけかたくなに火を見つめている・・・ふり。 焦れて請う。 「リリ、こっち向け。」 言ってもかたくなに視線を動かさないから。 すっと手をのばしておとがいを掴む。 ひきよせる。 リリの赤みがかった瞳が一瞬ゆれて、そっと伏せられるのを見た。 俺が冷静だったのは、そこまで。 夢中だった。 やわらかい小さな唇をくわえこむように味わう。 うすくあいた唇の間に舌を滑り込ませて、熱い口腔の中をあばれまわる。 息もさせないように。 「ふっ!う!フェ・・ヒ・・」 強い力で胸を押される、どんどんと打たれる。 離すと銀色の糸がつっと唇と唇を結んで、きれた。 で。なんで?なんで泣いてんの? 「なんで、泣く?いやか?」そう腰を抱いて体重をかけながらきくとリリが答える。 「わからない。」 「わり。いやとかいわれても、俺もうとまんね。」 「いやじゃない。」 俺の腕のしたにいるリリは目に涙をためて、ただとまどっている。 「どうしたらいいかわからないんだ。」 「なぜ、わたしを抱く?なぜ、抱かれたいと思う?」 そう消え入りそうに言って顔をおおう。 ああ、神様。おれ、今、死んでもいい。いや、うそ。もうちょっとあとにしてください。 「俺が、お前を好きだから。お前が俺を・・好きかもしれないから。」 簡潔にそう答えて 「もう質問は終わり。」そういってリリの顔をおおう手をどかして唇を吸った。