7.リリ side5 「リリ!フェイをたのんだよ!」キュリリの声に我にかえる。 わたしの傷はキュリリのケアルでほとんど癒されていた。 キュリリがオルネバンのもとへ駆けていく。 いそいで立ち上がって倒れたきり動かないフェイのもとへかけよる。 わたしのせいだ。こみ上げてきそうになる涙をこらえて息を確かめる。 大丈夫。まだ生きてる。 シーフはとにかく素早さが命で、そのために装甲がうすいから一撃一撃がひどく応える。 普段だったらフェイがこんなに傷をおうこともないのに、 こんな無理をすることになったのも、すべて集中力を欠いたわたしのせいだ。 ぼんやりと危ない場所で座り続けてよけいな敵の標的となった。 フェイも、オルネバンも拍子抜けするほど、いつもと同じだった。 だからよけいに。視線はいつもフェイをおってる。 わたしどうしたっていうんだろう。 守るどころか、味方に多大な損害をあたえて、そんなのナイトの風上にも置けない。 自己嫌悪で吐き気すら覚えながら、とにかく目の前の状況に集中する。 上着を手早くぬがせておおきくえぐられた脇腹に手をかざす。 精神を集中させて魔力を解放する。 死なないで。死なないで。フェイ。 堪え切れなかった涙がまくを張るように瞳をおおって前が見えない。 「とにかく誰も死ななかったんだから。」キュリリの言葉が逆に辛い。 「ごめん・・。」 「いったん退却するか。」オリルがすばやくエスケプを唱える。 その日の狩りはおひらきにすることになった。 リーダーのオリルの判断だ。 ありがたかった。 自分の不注意が仲間全員の命を左右する。 そんなあたりまえのことさえ忘れていたの?わたしは?どうかしてる。 なんとか、なんとかしなくては。 その夜の最初の見張りをわたしはオリルにかわってもらった。 オリルは最初から分かってたとでも言うように、「じゃよろしくな。」とあっさりいってテントに消えた。 いつもそうなのだ。結局わたしはキュリリとオリルに頼るしかない。 いつまでも、子供のように。ちっとも大人になんか、なれない。自嘲的にそう思う。 勢いを落としたたき火を手持ち無沙汰につつきながらちらちらとキュリリの様子をうかがう。 今日の戦闘でやぶれたローブをつくろいながら、キュリリはきっとわざと黙ってる。 「あのね?」 「なーに?」 ローブから目を離さずにキュリリが答える。 なにをいったらいいか、わからない。しかたがないのでこう言う。 「わたし、どうしたらいいのかな?」 キュリリは答えない。 「おかしいんだ。いろんなことがわからなくなって・・」 「フェイが・・こわいんだ。だけど近付きたいんだ。 オルネバンはこわくないけど、近付かせてくれない。くれなくなった。 だからオルネバンもこわいんだ。 ふたりとも正反対の事を、言うのに・・同じこと言ってるみたいにも聞こえる。 ・・わたし、どうしたらいいの?」 自分で喋っていても呆れるくらいなにいってるのかわからない。 だけどキュリリは答えてくれる。 「リリ。」 「誰も傷付かないように。なんて夢みたいなこと思っちゃダメよ。 誰だって傷付くし、傷つける。 どうしたらいいのかわからなければ、シンプルに今一番欲しいものを考えればいいのよ。」 キュリリの言葉を反芻して考える。 長い長い沈黙のあと。決心して口を開く。 「キュリリは・・・そのぅ、あの・・」 「自発的に、おっ、男の人と寝たいとかおかしなこと思ったことあるの?」 こんなことキュリリにきく日がくるなんて夢にも思ったこともない。 だけど、だけど。 わたしが今一番欲しいのは。 孤独じゃないっておしえてほしい。 わたしには価値があるって思いたい。 寝るたびに心が遠くなるんじゃなくて、一方的にうけいれるんじゃなくて、損得じゃなくて。 そんなことがあるの?ねえ、フェイ。 わたしの言葉にキュリリは丸い目を一層丸くして、そして爆笑した。 「あははははは!あーはっはっはっは!」 「ちょっ、キュリリ、みんながおきちゃうよ」 慌てたわたしをみながら笑い過ぎて滲んだ涙をふく。 「ごめんごめん。」 「リリ、かわいいねえ。」 まだちょっと笑いながらキュリリは言う。 「わたしがなんでオリルと結婚したと思う?」そうきく。 キュリリはわたしをじっと見つめて言った。「それが今の質問への、答えよ。」 キュリリはウインクしてたちあがった。 「さーて、ねよっと。あと、頼んだわよ?」