6.リリ side4 やっぱり相当疲れていたんだと思う。 さすがにすっぱだかは寒くて、目をあけたら次の日の夕方に近かった。 途中から意識がない。 責めたてられてそのまま沈んだ、そんなかんじだった。 オルネバンの浅黒い逞しい背中が横にある。 彼もまだ眠っている。 起こさないようにそうっとベットをおりて シャワーを拝借する。 熱めの湯が肌を弾いて落ちていく感触を味わいながら、 なぜかフェイの事ばかり考えていた。 フェイは、どんな顔するのかな?あの時。 そんなことを考える自分をおかしいと思っているのに、 くるくるまわる思考はめぐり巡ってフェイに戻る。 シャワーからでるとオルネバンがおきていた。 「あ、おはよ・・・。」 何となく後ろめたくおもいながら声をかける。 「はよ。」 「俺シャワーあびるから、お前、帰れ。」なんか、冷たい。 オルネバンがとっちらかったままの装備をかたづけつつ、金貨をとりだす。 「あ・・、今日は、いいや・・。」 なんでそんなこと言ったのかよくわからない。 ただなんとなく、お金をもらったらみじめになりそうで。そんなこと、思ったことないのに。 オルネバンは怖い顔でむりやりわたしに金貨を握らせていった。 「なにもわからないくせに、そんなこと言うな。」 なんとなく彼がシャワーから出てこないうちに帰った方がいいような気がして、 いそいできがえて外に出た。 握らされた金貨を見る。やっぱりなんだか、みじめだった。 わたしには何の価値もないような、そんな気分になった。 みんながわかっていることが、わたしにはわからない。 とりのこされる。ひとりで。 暗くて冷たい場所に。 なんでもいいから、さっさとつかってしまおう。 そう思って競売へ足を向けたその時、 むこうからフェイが歩いてくるのが見えた。 このまま回れ右をしてどこかへ。ほとんど反射的にそう思った瞬間、気付かれた。 「よ」右手をあげてちかづいてくる。 「ああ・・」 「これさ、今日暇だったから。」 そういって渡されたのは大好物のかに。 「ありがとう・・」 視線をあわそうとしないわたしをまるで気になどせずにフェイは続ける。 「オルネバンとこ?」 いじわるだ!いじわるだ!フェイもオルネバンもいじわるだ! 猛烈に理不尽にそう思う。 なんでこんな、消えてしまいたいような気持ちになるの? 答えずにいるわたしを見て慌てたように続ける。 「あ、いや、お前んちいったらいなかったからよ。こっちかと思ってさ。」 「・・かに、ありがとな。」 そういって結局一度も顔をあわさず、わたしは彼の横をすり抜ける。 「なあ!」 フェイの声に金縛りのように足がとまる。 「おれ、金は払わねえ!金なんかよりもっといいもんやるよ!だから、いつでも俺ンとこ来いよ!」 フェイも、オルネバンも、あのぶたれた日から まるで何を言ってるのか分からない。突然違う言葉を話しだしたみたいに。 自分がどうしたくて、どうしたくないかも分からない。 迷子の子供みたい。ただ、孤独だった。 わたしはフェイの言葉を最後まできかずに雑踏に駆け出した。