5.フェイ side2 家具の一つ一つがちいさくてヒュームであるフェイには似つかわしくない。 だけれどもこじんまりと居心地のいいその部屋のテーブルでフェイは頭を抱えていた。 「俺、まちがってるかなあ??」 いつもの強気ではしっこい茶色の瞳が逡巡している。 「まちがっちゃいないさ・・。むしろものすごく真っ当だろ。」 テーブルの向いでお茶をのみながらオリルが答える。 キュリリが小さなお盆にアップルパイをのせて(ちゃっかり自分の分だけ)キッチンからやってきてオリルの隣に腰掛けた。 小さな手をのばし、うつむいているフェイの金色の髪をぽんぽんとなでる。 「問題は正しいことってのが必ずしも一つじゃないってことだねえ・・」そういってアップルパイを頬張る。 キュリリからとりあえずいちど家にこいと、呼び出されたのはパーティ解散した翌日の朝だった。 自宅のベッドで悶々と苦しんでいたフェイは、これ幸いとでかけてきたのだが。 二人は事の顛末をだいたいわかっているようだった。 「おまえらは、わかりやすすぎる。頼むから戦闘に支障をださんでくれよ。」 ドアをあけたオリルが呆れたような顔で、そういった。 「リリはさ、しらないんだよ。」キュリリがぽつりという。 「セックスはさ、知っているのに、そこに附随するはずの心をさ、誰もあの子に教えてくれなかったんだろうね。」 なんつーか。タルタルのあどけない口から『セックス』とか生々しい言葉をきくのにどうも違和感ある。 まあ、この2人は夫婦だし、だいぶ年上だし。とか無理矢理自分を納得させながら フェイは無言でキュリリを促した。 「フェイだって知ってるでしょ?あの子の昔・・・」 キュリリが言い淀む。 そうだな。知ってる。きいたわけじゃないけど見てれば分かる。 オルネバンの態度。町でときどきやけになれなれしくリリに話し掛ける男達。 そして、あの、言葉。 でも、そんなのあの大きな戦争のあと、珍しい話じゃないし、 俺だってそういう女が汚れてるとか、そんなこと思わない。 だってげんに、リリはあんなに綺麗なんだから。 「あのこはもう大人だ。自分の身だって自分で守れるだろう。今はもう。 あのこが誰と寝ようが、どこへ行こうが自由だ。 傷付いて助けを求められたら助けてやる。それだけだ。 それが冒険者同士の掟だろ? だから、おれたちは、どうしてやることもできない。」 オリルが無理してそうしているかのようにぶっきらぼうに言う。 「俺が、変えられると思う?」 呟くように。ほとんど無意識に俺はそうきいていた。 2人は無言だった。 「俺さ、女とか不自由したことないんだよ。 いわなくたって向こうからよってきたし、 やりてえんならそういうところにいけばいいし、 だけど、リリはそういうんじゃねえんだよぅ。 だから、どうしたらいいかよくわからねえんだよ。」 そう続ける自分の声は驚く程弱々しかった。 「オルネバンね。」キュリリの言葉に顔をあげる。 「オルネバンもそういったよ。」そういって寂しそうに笑う。 「だけどダメだって。俺は最初から客だから、だから無理だなって。」 「だけどあいつが、やたらめったらわけの分からん男とやらなくてもすむように 俺もついていくって。あのオルネバンが頭を下げたんだよ。」 「それだってひとつの正しいことだと、わたしは思うよ。」そういってキュリリが笑う。 「あんた、どうしていいかわからないとか言ってる場合?そんなんでオルネバンに勝てるの?」 笑い顔をすっとひっこめてキュリリが俺を見据えた。 必要なのは覚悟。あいつを、俺にほれさせる。その、覚悟。 欲しかったのはほんのひと押し、背中を押してくれる手。 俺はただ、だまってうなずいてみせた。何度も、何度も。 「どうなるかねぇ〜?」 「さあな・・」 フェイの背中を見送ったタルタルが2人、少し不安げに顔を見合わせた。