そこら中のオークの巨体から燻った煙が青空に昇っていく。雲ひとつない空だ。  その下で対峙するラインハルトとルーウェン。ラインハルトはある一定の距離を保ちながら、静かに口を開く。 -------------------------------------------------------------  あの告白を受けたのは、どんな日和だったろう。そんなことなど完全に忘れてしまっているが彼女の放った 言葉だけは忘れることは出来なかった。 「あのね、ライン。これ・・・絶対秘密だよ。」 親友であったヒュームの彼女は顔を真っ赤にして僕の目を見つめてそう言った。 「ラインを親友だと思うから言うんだからね、これ誰かに話したら・・・絶交だからね?」 「うん、わかったけど・・・なに?」 こんな執拗な念押しをするのだから、大層な秘密に違いない。僕は彼女と秘密を共有することに喜びを感じていた。  僕はレンのことを愛していた。もっとも内に秘めて出せぬ思いであったが、どんな関係でも彼女とより多くの 時間を共にすごせればそれだけで幸せで、満足だった。今でも表情には出さないが、心臓は強く脈打ち、 その音が彼女に悟られるのではないか、いやむしろ悟ってほしい。気付いて欲しいという気持ちだったように思う。 「実は・・・私ね・・・」 もじもじと顔を伏せる彼女を見、さらに胸が高鳴ってくる。 「お兄ちゃんのことが・・好きなんだ。」  レンの兄。ルーウェンは僕の姉のリィスと相棒の赤魔道士だ。少し固いが義理堅い人。よく家に来て、 姉さんと色々なことを話しにくる。僕も、冒険者の端くれとして出発したところで、経験の豊富な二人の 会話を聞き、さまざまなことを学んだ。  ある日、いつものようにルーウェンは僕達の家を訪れた。その日いつもと違ったのは、彼が一人ではなく もう一人、見知らぬ女の子を連れて来たことだった。 「こいつ、俺の妹。最近冒険者になったばっかりでな。ここに来るって行ったら一緒に行くってきかなくて。」 ほら、挨拶。彼がそう促がすと、ひょこっと顔を出し 「初めまして、いつも兄がお世話になってますっ」 と元気な声と、弾けるような笑顔でちょこんと頭を下げる。僕と傍らの姉はその暖かな表情にくすっと微笑んで 二人を家に招いた。これが、彼女とのはじめての出会いだった。  それから後、ちょくちょくルーウェンの後ろについて家にやってくるレン。彼女の兄が姉さんと何か真剣な話をしている間、 僕と彼女はよく一緒にいた。なんの取り留めのない話や、モンスターをどう倒すか、装備品高いよねなどと言った会話。 そんな時間を過すうちに、僕の秘めた思いは膨らんでいったんだ。 「ラインはさー、黒魔道士だよね。何で?」 「んー・・なんでだろ。エルヴァーンにしては魔力が高いほうだったらしくて、適正があるならいいかなーと思ったんだ。  もともと運動が苦手だしね。君は?何で赤魔道士になったの?」 「ほら、やっぱりさ。カッコイイじゃん?剣も使えて魔法も使えるなんて。まー、お兄ちゃんの影響もあるけどさ。」 戦ってるときのお兄ちゃん、かっこいいんだぁ。ホワホワと微笑む彼女。その時は何も思わなかったが、前述した告白を 受けた後に至っては、もうすでにこのころから彼女は自らの兄のことを思い慕っていたのだと気がついた。  一番近くにいる、一番近しい異性。彼女にとってルーウェンがそうだったのだ。しかし悔しくはなかった。 彼のいいところは知っているし、僕もよくしてもらっているから。 「でも、やっぱり変かな・・・実の兄のことを好きだなんて・・・。」 顔を伏せたまま、弱々しくなった彼女はそういう。 「そんなことないよ。・・・多分。」 自信はない。でも何とか彼女の励みになるのなら。そう思って僕はなんら否定などせずに彼女に合わせる。 「うん・・・そうだよねっ!ありがと、ライン。」 ぱっと顔を上げ、いつものように微笑む。そして立ち上がると、僕に手を振りながら自分の家に帰っていった。  それからというもの、二人で話す時に決まって一度は、ルーウェンとの事を楽しそうに話すレン。 その顔を見ていると、認めてはいるものの、心の奥底では納得がいかないと思っているのかもしれない。 兄のことで僕には見せたことのない表情をする彼女。その笑顔を見るのが、だんだんと辛くなってくる。  彼女は、普段家で過すときは、そんな気持ちなど全くと言っていいほど顔には出さないらしい。 「だってさ・・・お兄ちゃんに知られて、変な顔されたら嫌だもん。」 正直なところ、彼女の想いを知ってルーウェンがどんな顔をするかなんて知る由もない。 しかし、彼の性格上、いい顔はしないのではないか、というのが考え付くところである。 「ま、言うつもりもないんだけど・・・。ずっとお兄ちゃんのそばにいられれば。」 見たことのない、切ない笑顔。僕はどうすればいいか、分からなかった。  家に帰り、リビングでお茶を飲んでいると、イスに座って色々な魔法のスクロールを広げた姉さんが横目で僕を見、 「ライン、あんた最近レンちゃんと一緒にいるみたいだけど、まさか手を出したりしてないでしょうね?」 「んーー?・・・出せないよ。それより姉さん。もし、僕がさ、姉さんのこと好きだなんていったらどう思う?」 「はぁ?何言ってるのよ気持ち悪い。」 「・・・だよねぇ。」 「変な子。あ、前買ってきてやった魔法、ちゃんと覚えた?ホラ、またさぼってる・・・。」 「はいはい・・・はぁ。」 大きくため息を吐く。姉さんは首をかしげ、ホント変な子。と言って再びスクロールに目を落とした。 (・・・やっぱり、ルーウェンもそう思うんだろうな) 受け入れられる可能性の極めて少ないと思われるレンの想いを考えると、胸が痛かった。  それから幾日も同じように時は過ぎ、彼女の兄を想う気持ちはますますエスカレートしているように感じられる。 時々、胸の内を伝えるかのような事をほのめかすかと思うと、やっぱりだめだよねぇ。と自己完結して 僕の入り込む余地はなかった。  あくる日、心成しか嬉しそう顔をして僕に会いに来たレン。 どうしたの?と聞くとえへへ〜と笑って可愛らしくピョンとはねるようなしぐさをする。 「これ!今日お兄ちゃんに買ってもらったの!そろそろいい時期だろうって。」 もー、ちょ〜嬉しいー。そういいながら防具屋の袋を両手で抱き締めた。 「なにを買ってもらったんだよ。」 「うへへへへ〜〜、見たい?」 変な笑い声と怖いぐらいの笑顔で僕の顔を覗くレン。思わず僕は顔が熱くなるのを感じ、少し視線を逸らす。  ちょっと待ってて、・・・覗かないでよ?と言いながらスタスタと家に上がり込んで奥の部屋に引っ込む。 数分後、部屋の中からひょいっと出てきた彼女は、レザー系の防具を身に纏っていた。 「どう?ライン。似合う〜?」 にっこり微笑みくるりと一回転して全身を見せる。体にぴったりとフィットする防具なので、 線の細い彼女の、するりとしたボディラインがはっきりとわかる。僕は思わず目を背けた。 「こう、この辺の腰のラインが・・・ん?どうしたの?顔真っ赤・・・」 顔を背けている僕に気がつくと、きょとんとした目でじろじろと見る。 「・・・ヘンなの。・・・あっ・・もしかして、この私のボディに欲情しちゃってるのかな〜?」 にやにやと変な目付きで僕を見、人差し指でほれほれっといいながら頬を突っつくレン。思わずカッとなって その指を振り放してしまった。 「やめろよ!」 大きな声を出した僕に驚き、彼女はびくっと後ろに下がって 「う・・・ごめん・・。」 と小さな声で謝る。 「あ・・・・いや、その・・大きい声出しちゃって・・・」 変な沈黙。レンはしゅんと首を垂れ下げてしまっている。 「・・・んー・・・じゃ、今日は帰るね。あっ、明日、一緒に冒険いこっ。ね?約束っ」 「うん。」 彼女は小さく手を振って、家から出て行った。何かやりきれない空気が、漂っていた。  次の日。約束していた時間はとうに過ぎたが、レンは待ち合わせ場所にやってこなかった。 (どうしたんだろう。) 北サンドリアの中央広場にあるモニュメントの端に座り、組んだ足をぶらぶらとさせる。  どのくらい過ぎただろう。ぼーっとしていた僕ははっと顔を上げ、周りを見渡すと 向こうからレンが歩いてくる姿が見えた。僕は立ち上がりその姿に向かって手を振った。 (・・・・?) ずいぶんと歩みが遅い。顔もどこか俯いていて、暗い。いつもの太陽みたいな彼女とは似ても似つかない。  やっと表情が目に見て取れるあたりまで近寄ったが、やはり変だ。 「・・・どうかしたの?」 「・・ん?あ、んーん。なんでもないよ。」 ぱっと顔を上げにこっと微笑んだ。が、その表情はやはりどこか影を落としている。 「じゃ、いこっかー。」 軽やかに身を翻し、僕の目の前をさっさと歩いていく。その後姿は元気を装ってはいるが それは、明らかに空元気だった。 「ちょっと休もっか。」 ロンフォールの西北にあるゲルスバの野営陣。オークの拠点だが比較的弱いオークばかりがいる。 その中腹で、あたりの敵を片付けて僕達は疲れを癒す。 「・・・なぁ、大丈夫?明らかに無理しているけど。」 「そう?平気平気〜。」 虚勢を張る彼女。見るからに疲労の色が濃い。傷を癒してやれない黒魔法しか使えない自分が酷く情けなくなった。  空は色のいい青空だ。吸い込まれそうになるくらい高い空。上をずっと二人で見上げる。 「・・・ね、ライン。少し・・・一人にしてくれないかな?」 ポツリと彼女が呟く。 「え?ここで?危ないよ。」 「・・大丈夫。危なくなったらすぐ逃げるからさ。お願い・・」 何か考え事をしているのか彼女はずっとうつむく。僕は、そこから離れるしかなかった。  レンと離れてから、幾分か時間が過ぎ彼女のことが心配になってくる。それにその心の内も。 何を思っていたのだろう。今日はじめてあったときから何か心配事があったのだろうか。 もしかしてルーウェンのことだろうか。それともまた別の何か。いらぬ想像が僕の脳内で巻き起こり それを振り払うかのように弱そうなオークに覚えたばかりの魔法を浴びせる。  ふいに空をつんざくような叫び声が、遠くから聞こえたような気がした。 (・・・・?なんだ?) 嫌な予感がした・・・。まさか・・・!  僕は彼女と別れたところに走った。しかし、そこにいたはずのレンの姿はない。 (どこに・・・!?) まさか上に登ったのか?まだそっちのオークは手に負えないぐらいで、しかも相当な数がいるはずだ。 予感がよぎる。胸が高鳴り心臓が口から飛び出しそうだ。そして次の瞬間、何かが上から落ちて、 激しく近くを流れる川に叩きつけられる音が聞こえた。  僕は橋から川に下り、音が聞こえたほうにむかって走る。途中、陸魚が襲い掛かってきて腕に傷を負った。 しかし即座にその陸魚を叩き殺し、先を急いだ。  すこし進んだところに、何かがうつぶせになって川に倒れていた。・・・・レザーベストを着た人間。 「レン!!」 バシャバシャと激しく水が飛び散る。僕は彼女の元へ駆け寄った。  背中に大きく何か刃物で引き裂かれたようなベストの下に赤く血が滲む。僕はレンの体を抱き寄せ 顔を水から出す。・・・まだ息はある。 「げほっげほっ・・・」 「レン!レン・・・よかった・・・」  しかし・・・だらんと垂れ下がった細い左腕はおかしな方向に折れ曲がっていた。 体に纏っていたベストは切り裂かれ小振りな胸が露になっている。さらに物凄い力で掴まれたのだろう。 あばらの部分に大きく痣ができ、血が滲んでいる。荒々しい息をする彼女。その息とシンクロするように ひゅーひゅーとどこからか音がする。あばらが折れ突き出している。肺に穴が開いているのかもしれない。 下半身に履くレザートラウザは引き剥がされたのだろう。そして、想像も出来ないような太いモノが 捻じ込まれたのか、秘所は裂け、血が溢れる。 「一体どうして・・・」 「ごめ・・・んね、ライ・・ごほっ。ドジっちゃった・・」 「喋らないで!すぐ人を・・・」 僕は必死に声をあげた。しかし、誰に聞こえるわけもなく悲痛な叫びはこだまになって僕の元へ戻ってきた。 「うっ、げほ、はぁはぁ・・・あ・・ライン、怪我してるね・・・」 腕の中でもたれている彼女はそういって少し痛々しく微笑む。するとさっき陸魚から受けた傷に弱々しく 右手の人差し指をあてがう。やわらかい光が傷を包み、すっと消えた。 「はい・・治ったよ・・うぅ!げほげほ」 「バカ!僕のことなんてどうでもいいんだよ、大丈夫、絶対サンドリアに連れて帰るから!がんばって」 それを聞くと彼女はふるふると顔を横に振った。 「・・・無理・・だよ・・私なんかが一緒にいたら・・はぁはぁ・・ライン、逃げ切れない・・」 「そんなことない!絶対連れて帰るから!だからもう喋らないで!」 「・・・あのね・・私、今日さ・・・待ち合わせに遅れたの・・あれね、実はお兄ちゃんに叱られて・・ね  嫌われちゃったかなとかって・・・ぼーっとしちゃ・・ってて・・・ごめん、ね・・・遅れて」 どんどん息が荒くなる。 「さっきも・・・ずっ・・とね、どうしたら、お兄ちゃんに・・・謝ればいいか・・って・・考えて・・」 「分かったから!もう喋らないでくれ!お願いだよ!」 彼女はにこっと笑うと、続けてこういった。 「あのね・・・ライン・・・お願い・・があるの。私との・・約束、ずっ・・とちゃんと・・・守って・・てね。  誰かに・・言っ・・たら、絶交・・だか・・らね?」 「分かってる!分かってるよ!だから!!」 「それと・・・もう・・一つ・・」 「しゃべるな!」 「私を・・・殺して」 信じられない言葉。僕は目を丸くし、彼女はにっこりと力なく微笑む。 「・・・なんでだよ!連れて帰るって言ってるだろ!そんなことなんでいうんだよ!」 「お願い・・・げほげほっ・・私が・・いたら、逃げられ・・ないし・・それに・・・」 僕は、いつからだか目から涙を流していた。レンは動くほうの指で、その涙をすくった。 「苦しいの・・・・お願い・・ホラ、男の子・・は、泣い・・ちゃダメだ・・・ぞ」 なぜ、レンは、笑っているのだろう。僕は涙で前が良く見えない。見間違いだろうか? 「・・・レン・・・・」 「お願い・・・ライン・・、親友・・でしょ・・?」 「・・・・・・ずっと・・・ずっと・・好きだった。」 僕は腕の中でどんどん冷たくなっていくのがわかる彼女をぎゅっと抱き締めた。鼻を啜る。うまく息が出来ない。 「・・ありが・・とう・・・」 その言葉を聞いて僕は手を離し、彼女の腰のサイフォスを抜き、ずっと彼女の心臓を深く貫いた。 一瞬顔を引き攣らせたが、終わってみたあとの彼女は、晴れやかな、今の空のような笑顔だった。 声にならない慟哭と共に空を仰ぐ。彼女が昇って行った天は、嫌になるくらい高かった。 -------------------------------------------------------------  「そして僕だけがサンドリアに帰った。」 さっきから一定の距離を保ったままの二人。しかし以前と違うのは、ラインハルトは立ったままだが、ルーウェンは 膝をつき、もはや何も聞こえていないかのようだった。 「君に会うのが怖かったよ。何を言われるのか分からなかったし、それ以上に、僕は君を・・・  レンをあそこまで苦しめたお前を殺してしまわないかってね!僕には許せなかった。  僕が愛した女性が愛した男。その男が彼女が死んでからもその気持ちを知ることもなく  いつかその女性がいたことも忘れてのうのうと生きていくのかと思うと!!」 声が荒くなる。表情も今までの冷ややかな笑みとは違い、強い目でルーウェンを睨み付ける。 「あの後お前は僕に会うなり、掴みかかってきたな。『どうしてあんなところで妹を一人にしたんだ!』って。  そしてこんなことも言ったな。『お前が殺したも同然だ!』。はっ。言い返せないよな、本当に殺したのは  僕なんだから。でも僕はなにもいわずお前にされるがままだった。あの時はもう、気力がなかったからな。  お前にわかるか?愛した女性に剣を突き刺す時の気持ちが。剣を通して、触れたかったその白い体を  刃が引き裂いていく感触を。そして腕の中で、まるで別のものみたいに真っ白に、冷たくなっていく様を  成す術もなく抱き締めることしかできないその無力さを!」  雲行きが怪しくなってきた。今にも雨が降りそうなくらいの黒雲が立ち込める。 既にバインドも、サイレスも効果が切れているだろう。しかしルーウェンは黙ったまま。 右手に握っていたレイピアは地面に落ち、膝を突いたままうつむいて、ぴくりとも動かない。 「だからそこで僕は考えた。いつか、この男を殺してやろうと。しかしただ殺すだけじゃ収まらない。  大事に思っているものを、なるべく壊してやってから、この話を聞かせて、失意の中で死んでもらおう。  ・・・どうやら成功かな?あぁ、そうそう。ミアちゃんのことも話してやるか。」 そういうとラインハルトはにやりと微笑する。 「彼女は強いね。用意した4人の男に無理やり犯らせたんだが、その内一人は最初のもみ合いでダウンしたよ。  蹴られてね。でもまぁ、多勢に無勢。口とアソコと尻の穴と3本突っ込ませて犯ってやったよ。  いい気分だったな。お前の大事なものがどんどんと犯されている姿。震えがきたよ。」 くっくっくっと小刻みに震え、声をあげて笑う。 「でな、もう十分だろうと思って3人、あぁ4人か。彼らには帰ってもらったんだが。  彼女の目は死んでなかったよ。あんな女初めて見る。強い目だ。・・・殺したいほどにな。  だが、面倒になると嫌だったし、大雨も降ってた。どうせそのままほっぽっとけば死ぬだろうと思ったし  スリプルをかけてそのままにしておいたよ。彼女、生きてたかい?」  すると、ルーウェンがゆっくりと立ち上がった。そして顔をあげると、ラインハルトの顔を見る。その表情は どことなく落ち着いていて、そして迷いがなかった。 「・・・ラインハルト・・・。」 「なんだ?」 「・・・すまなかった。」 「?はっ、ずいぶん殊勝じゃないか。さて・・・そろそろ死んでもらおうか。僕の今使える最高の魔法で殺してあげよう。」 そういうと彼はすっと両手を下に向け、神経を集中させる。 「・・・闇より出でし灼熱よ・・・」 魔力があつまる。長い詠唱が始まった。炎の古代魔法フレアの詠唱だ。  ずっと立ち尽くし聞いていたルーウェンは、一歩一歩ラインハルトに近づく。 「・・・辛い思いをさせたんだな。お前にも、レンにも・・・。悪かったな。」 「だけどな、ミアのことについては・・・お前を許せないのは俺も同じだ。」 そしてまた一歩近づく。 「・・この距離でそんな魔法を撃ったら、お前にも影響があるだろう。」 一歩。しかし詠唱は確実に続く。 「・・・せめて、一緒に逝こうか。ラインハルト。」 二人はほとんど隙間がないくらいにまで近づいていた。詠唱の合間にラインハルトが呟く。 「一緒にか・・・どうせお前を殺したら死ぬつもりだったしな・・それもいいか。」 長い長い詠唱が続く。いつのまにか、大粒の雨が降り注いでいた。  その時。 「ダメェ!!お願い効いて・・・サイレス!」 彼らの後方からエネミの声が響く。沈黙にする魔法がラインハルトに発動する。しかし、レジストされ、効果が出ない。 ルーウェンは振り返り、エネミに声をかける。 「・・・エネミ、ありがとな。ごめん。さよなら。」 笑顔で彼女に手を振る。エネミはその場に崩れ落ち目を大きく見開いていた。 「・・・・もうすぐだ。・・・死んだら、レンに会えるかな?ルーウェン。」 「さぁな・・・。」 長すぎる魔法の言葉の羅列が終わりに近づく。後方のエネミは声にならない叫びを上げていた。  詠唱が止んだ。ルーウェンは目を閉じた。 (終わったか・・・・) しかし痛みがない。そのかわりにズンっと重たいものが体に圧し掛かってくるのを感じた。 (・・・?) 目を開けた彼の体には、気絶したラインハルトの姿があった。そしてその後ろには、彼の姉、リィスの姿があった。 「・・・・バカな子・・・」 いままで一度も見せたことのなかった、涙が、彼女の頬を伝っていた。 つづく。 @ナ梨 --------------あt(ry-------------- あと1話です。 てか、めっちゃ長いしΣ(;´Д⊂) でも個人的には何となくよく出来たかなとか思ったり。 弟君の本質というか、本当は繊細で優しくて。決して自らのためではなく 『他人』を想っているというところが何となくかけたかな〜と。 自己満足ですか。そーですか(´・ω・`) それではあと少しです。がんばります。応援よろしく!(ぉ