祝福  星降る夜とはこのことだろう。見上げれば手が届きそうな満天の星空。 月明かりがこの巨大なジュノの街並みを照らす。  点々と一層明るく地面を照らす街灯。民家から漏れる暖かい光。そんな夜の街をヒュームの女性が駆けていく。  彼女が向かった先には、同じリンクグループが一同に介していた。今日は久しぶりに皆が集まり 酒を飲み交わし、冒険談に花を咲かせる日。さらに、グループ結成の記念日だったのだ。 「ごめーーーん!遅れた〜〜〜。」 「遅いぞー。もう俺らはやってるぜ。」 「やほー。ひっさしぶりー。」 「元気だったー?」 「うんうん、みんなは?」 「元気じゃないように見えるか?はははは!」 彼女が酒場に着くと、皆待ちわびたように次々と言葉をかけていく。 「さて、これで全員・・・だな。よし、じゃあ改めて。」 その場にいる20人そこらの冒険者たちは立ち上がり、各々酒やジュースの入ったコップを持つ。あとから来た彼女は 一番近くのテーブルに招き入れられサンドリアグレープで作られたワインを手に取った。 「今日というこの日、こうして皆集うことが出来たことに。乾杯!」 「かんぱーーーーーい!!」  リーダーであるエルヴァーンが音頭を取り、全員が一斉にコップを上にあげ、一気に飲み干す。 気分は好調。最高の夜になりそうだ。  久しぶりに会った面々は、口々に己の武勇伝を語ったり、取り留めのない世間話をしたり、実に様々で 普段集まる機会のない彼らは本当に再会を楽しんでいる。中には・・・志半ばにして散っていった者もいる。 しかし彼らはそれをすべて受け入れ、今に至っている。彼らにとってすべてが糧であり、決して忘れず 『心は我が友と共にあり』 全員が胸に刻んでいる。  最後に来た彼女は、近くにいた仲間と暫し再会を喜び合うと、きょろきょろ誰かを探し始めた。 「お」 見つけたのは少し離れたところにいるエルヴァーンの男だった。彼女とは、グループ結成初期のころから 共に歩んできた仲間である。  彼女はわいわいと賑わう中を彼の方に歩み寄り、よっと手を上げてみせる。 「久しぶり。飲んでる〜〜?」 人懐っこそうな顔でにっこりと彼に話しかけると、彼も笑って右手でコップをあげる。 「やっだー、全然飲んでないじゃないー。ジャンジャン飲みなって。どうせリーダーの奢りなんだし。」 「ハイ、そこー!ありもしないこと言わない!」 「うは、リーダー地獄耳〜〜〜!」 「リーダーの奢り!!??おやじーーーー!酒全部もってこいー!」 「だから違うって!!ワリカン!ワリカン!」 「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜リーダーのケチンボー!」 「ケチーーー!!」 「だ〜〜〜〜もう!分かった、分かった!マスター!!どんどんもってこい!」 「さっすがリーダー!」 「いよっ!合成廃人!」 「廃人いうなっ!」  店内で笑いが巻き起こる。彼女と、隣にいる彼も声をあげて笑った。  楽しい時間は、気がつかないうちに過ぎて行く。もう夜もとっぷり暮れているが、皆「朝まで飲むぞー!」とか言っているから 彼らにとってはまだまだ早い時間らしい。 「最近なにしてた?」  ヒュームの彼女が彼に話しかける。 「んー。あまりかわったことはしてなかったよ。まぁ、国からミッションをやらされたけどね。」 彼がくいっとコップを持ち上げ、酒を飲み干す。 「そっかー。パールで話そうと思ってもなかなかでないし、どうしたのかな〜っておもってた。」 にぎやかな方では、ガルカのモンクが、タルタルの背丈ほどある樽の天板をぶち抜いてコップがわりにし 酒をなみなみと注いで一気に飲み干そうとしていた。周りから歓声と拍手が巻き起こる。 が、さすがに許容範囲を超えたのか、仰向けに倒れてしまった。ズーーーーンっと大きな音がして店内がゆれる。 「わーーー!誰か回復魔法ーー」 「酒酔いを覚ます魔法はないなぁ。」 「それよりこっちがいいんじゃない?」 タルタルの黒魔道士がウォータを唱えガルカの体がびしょびしょに濡れ、あまりの水量に飛び起きる。 無論、攻撃魔法なのでダメージも受けているので・・・ 「・・・・・・・・し・・死ぬ・・・・」 「うぁーーー今度こそケアルーーー!」 「何してんだお前らーーー!」 ヒュームの赤魔道士がいち早く回復魔法をかけ大事にいたらずに済んだ。 「な、ちょっと外いかない?」 エルヴァーンの彼が彼女にそっと囁く。  外には落ちてきそうな星々が瞬いていた。肌を刺す風がちょっと寒いが、ほろ酔いの彼らには心地よかった。 「あー、楽しいねぇ。みんなで久しぶりに会うのは。」 「そうだな。」 海の見えるジュノの上層。相当高いところにあるから、落ちないように手摺がいたる所に作られている。 それに手をかけ、海を眺め、空の月を眺めながら背中に聞こえる仲間たちの笑い声を聞いていた。 「で、何かいいたいことがあるんでしょ。」 「よく分かるね」 「長い付き合いじゃん。」 でしょ?といって微笑みかけると、彼もそうだったなと苦笑する。っと、彼は一瞬で真剣な顔になった。 「・・・・今朝、国から通達があった。明日からサンドリアに帰る。」 「またミッション?」 「・・・闇の王を討つ。」 一瞬の静寂。 「・・・だからその前にお前にいわなきゃいけないことがあるんだ。」 彼は彼女に向き合い、じっと見つめる。彼女もその眼差しに答え、彼の目を見る。 「ずっと好きだった。」 彼女は何も言わない。そして彼はこう続ける。 「だけど・・・もし俺が・・・帰ってこれなかったら・・・」 そういいかけると、彼女は微笑み手を伸ばすと彼の頬をそっと触れ、すっと背伸びをし、唇を合わせる。 何時間もそうしているような錯覚に見舞われる。本当はずっと短い時間だったのだろうが 彼らにはものすごい長い時間に感じられた。  ゆっくり顔が離れる。すると次に彼女は彼の頭をそっと胸のあたりに抱き寄せる。心音が重なり合う。 そして彼女は目を閉じたまま小さく、優しく囁いた。 「あなたに女神の祝福があらんことを」 頭を抱く力が弱まって体が離れる。 「なんつって」 えへへ、と紅潮した顔をほころばせる彼女。彼も照れてしまい、顔が赤く染まっているのが分かる。 「・・・絶対帰ってきてよ。」 「・・・もちろん。俺には女神様から授かった祝福があるからな。」 そいうってお互い微笑みあい、今度は彼が彼女の両肩を抱き寄せ、静かに口づけをする。 青い月明かりが二人を照らす。それはまるで、月が二人に祝福を与えているかのようだった。 Fin @ナ梨 ----------------アトガキ--------------------- 例の荒んだ修羅場小説を書いていたらなんか・・・ 辛かったのでこんなぬるいのを書いてしまいました。 なんつか、勢いだけです。スイマセン(;´Д⊂) で、結局最後まで書かなかったというか、事の顛末は書かないで終わったんですが 彼が闇王を倒せたか倒せなかったか、その辺は各々で妄想してください(ぉ 修羅場小説のほうもがんばって書き上げますので このナ梨の道楽にどうぞ付き合ってくんなまし。 いじょ。