「ああああ!し、しまった!忘れてたぁ!」 私は思わず頭を抱えた。 クリスを探しにいってくる。と荷物を纏めたミズキを見送った後、しばし甘い余韻に浸っていたのだが・・・。 「ミ、ミルル!」 私は夕日に向かってダッシュよろしく、ミルルを昼寝させていた岩場にむかって走った。 「ミルル?!」 しかし返事はない。 見ると、ミルルに掛けておいた私のマントだけがポツンとそこに残されていた。 「なんタル事だ!」 あんなちっちゃい子が一人でどこへ・・・? 『おとうさーん・・・どこいっちゃったのー?』 砂丘を一人、ぶかぶかのかぼちゃパンツの幼児が泣きながらてくてく歩いていく姿が脳裏をよぎる。 「こうしちゃおられん!」 私は埋めてあった鋼鉄鎧を急いで掘り返して身につけると、隠し海岸から飛び出した。 私は砂丘を走り回った。 小さな岩場の陰も見たし、石碑のある洞窟も。ミルルが隠れられそうな船の残骸のある場所も・・・。 「どこ・・・いっちゃったんだよ・・・」 私は両手を膝につけて、肩で息をした。走りすぎて眩暈がする。 日が傾いてきたせいか、うっすらと夕日に照らされた海岸に海水浴客の姿もなかった。 これが普通の迷子なら、もしかしたら親が見つけて連れて帰ったのかも〜、なんて甘い期待があったりなかったりもするのだが、 彼女は一人でここまで来たと言っていたわけだし・・・。 「緊急・・・事態だよな」 私は誰に言うとでもなく呟いた。 「あれ?あ・・・ロバートさん、ご苦労様です。」 OPの前にいた衛兵が私に気がつくと、ピッと敬礼した。 「えっと・・・」 「あぁ、セルビナにいる知り合いの・・・所へ、ちょっと用事があって。」 「鎧が砂だらけ・・・ですが。」 「ちょっとビーチバレーを。」 「はぁ・・・」 「ミッションにあるのだよ、ミッションに。『ギャルと浜辺でビーチバレーでハッスル』ってのが。」 「ミッション・・・ですか・・・」 「うむ。」 「今時、ハッスルって言い方もどうかと・・・」 「あぁそれより君。」 「はい?なんでしょう?」 「さっきセルビナで、ちょっと小耳に挟んだのだが・・・」 わたしはわざとらしく切り出した。 「昼間に迷子が・・・」 「ああああああ!ロビィ!なにやってんの!」 いきなり突き抜けるような声がして、振り向くとそこにクリスとミズキがいた。 「こんな時に出てこなくても・・・」 「なにやってんのよ?!」 「あぁ、ミッションの方ですね?ご苦労様です。」 「なにやってんのってば!」 「いあ、あの・・・、えっと・・・」 「ああ、ロバートさんもミッションだそうで・・・。なんでしたっけ?ギャルと浜辺でビーチバレー?」 「う、うむ・・・」 「ほぉおお?」 クリスは片方の眉をきゅっと吊り上げて私を見た。 「随分ステキなミッションですことぉ?」 「あ、いや・・・その・・・」 ミズキは顔を真っ赤にして、大きな目をうるうるさせている。 「マスター・・・そ、そんなミッション・・・」 「う、あ、いや、その・・・」 誤解なんだがしかし、この場で『嘘でした』とも言えず・・・。 「で、お前達ミッションの進行具合は?」 「まぁまぁかな〜?」 ミズキはクリスの横で「ビーチバレー・・・ビーチバレー・・・」と呟いている。 「報告ですか?」 衛兵が声を掛ける。 「あ!そうだ!」 クリスが突き抜けるような声を上げて、手をバタバタさせる。 「大変なのよー!」 「どうかしましたか?」 「さっきあっちのほうにね、ゴブリンが女の子の手を引いて連れて行ったのよ!」 「えぇ?!」 「タルタルの女の子。茶髪のツインテールの・・・」 「なぬ?!」 「あたし一人だったし、どうしようかと思って、ミズキと一緒ならって思ってその前に報告・・・」 「ミルルーーーーー!」 全部聞き終わらないうちに、私はクリスの指差した方向へダッシュした。 「ミルルーーーーーーー!!」 私は再び砂丘をダッシュしていた。 ゴブリンのキャンプならいくつか見かけた事がある。大体の位置も・・・。 いくつかのキャンプを駆け抜ける。 「ミルルーーーーー!」 しかしどこにも見当たらない。 もしかするとミルルはゴブリンにコンシュのほうかはたまたラテーヌ高原に連れ去られてしまったのでは。 最後の最後にたどり着いたキャンプに、数匹のゴブリンの姿が見えた。 なぜか傍らに1頭の羊の姿も見える。 しかしミルルの姿は見当たらない―。 「はひー、はひー。」 走り続けたせいで、喉がキリキリと痛む。 「どこ・・・いっちゃったんだ・・・」 「ゴブ?」 「ゴブゴブ?」 「あ、しまった。」 近づきすぎたせいか、焚き火の近くに座っていたゴブリンがのそのそと立ち上がってこちらに近づいて来た。 「いや、あの・・・攻撃するわけでは・・・」 言っても理解できるわけでもないのに、私は思わずそう口走ってしまった。 「ゴブゴブ!」 「ゴブー!」 殺気立ったのだろう、数匹のゴブリンがダガーを手に取ってにじりよって来た。 「えぇい!」 私は帯剣を抜くと、さっと身構えた。 「マスター!」 一瞬その声に振り向くと、ミズキが私のほうへ走ってくるのが見えた。 「来るな!」 「ゴブー!」 「あわわ!・・・パ・・・パライズ!」 ミズキはそう叫んで両手を前に出した。しかし走りながらの詠唱であったため、当然ゴブリンに効くわけがない。 「ゴブーーー!」 パコーン!といい音がして、ゴブリンの杖が私の頭にヒットする。 一瞬目から星が出て、私は思わずその場に転倒してしまった。 ・・・・・・めちゃめちゃかっこ悪くないですか?私・・・。 「マ、マスター!!!」 「んにゃ・・・あー、もううるさいなぁ・・・」 その声にハッと顔を上げると、キャンプの傍らで大人しくしていた羊のお腹の毛がモコモコッと動いて、 そこからピョコンとミルルが顔を出した。 「ふぁあ・・・よく寝た〜」 「ミ、ミルル!」 「むにゃむにゃ・・・あ!お父さん!」 ミルルはピョンと立ち上がると、慌てて私の所へ走りよってきた。 「迎えにきてくれたんだね!」 「は、早く逃げなさい!ゴブリンが・・・」 「ゴブゴブ?」 「うん、平気だよ。ミルルのお父さんだから」 「ゴブゴブ、ゴブ。」 ゴブリンは小さく頷くと、私にペコリと頭を下げた。 「へ?」 「ごめんなさい、だって。」 「あ、いやそうじゃなくて・・・なんでゴブリンが君のいう事を・・・?」 「え?だって、サルタバルタで・・・」 「へ?」 「マスター!」 ミズキは慌てたように走ってくると、私の首にしがみついた。 「マスター・・・マスター・・・」 「大丈夫だ、心配ない・・・」 私はミズキの髪を撫でて、その頬に軽くキスをした。 「おとうさん・・・」 ミルルは大きな目をまんまるにして、私を見つめていた。 「お、おとうさん?!」 ミズキも目をまんまるにして私とミルルを交互に見比べた。 「マスターの、こ・・・子供・・・」 「違う!お、落ち着け!」 「おかあさん・・・」 「へ?」 ミルルはまんまるな目から、ドバーっと涙を流した。 「おかあさん!おかあさんなのね?!」 ミルルはうわーーん!と声をあげると、ミズキの胸にヒシッと抱きついた。 「あいたかったぁ!あいたかったよううう!」 「マスター・・・これって・・・」 ゴブリンキャンプ。 焚き火を囲んで、私とミズキとその他の方々・・・というか数匹のゴブリン・・・。 ミルルは羊のお腹の毛に潜ってスヤスヤと眠っている。 私はミズキに、ミルルと出合った時から今までのいきさつを話した。 ゴブリンがお茶の入ったカップを手渡してくれる。 「あぁ、どうもすみません・・・」 中身はどこで手に入れたのか、私の好きなサンドリアティーだった。 「で、ミルルちゃん・・・マスターをお父さんと勘違いして?」 「うん、そうなんだ。泣かれちゃってね・・・かといってほっとくわけにも・・・とほほ。」 「そっかぁ・・・」 「誘拐犯にされるし・・・」 「う、うーん・・・」 「どうしようか・・・う〜ん、困った・・・」 「それにしても・・・」 私たちの向かいカ側に座ったゴブリン達を見ると、チョコンと腰を降ろして私とミズキを交互に見ている。 「どうしてミルルちゃん、ゴブリンたちと一緒にいるんだろう・・・」 「しかも襲ってこないし。激しくナゾだよな。」 「うん・・・」 「ミルル〜〜〜〜!!」 その時、遠くから声がした。 振り返ると、1匹のゴブリンがテテテテ・・・と私たちのいるキャンプのほうへ走ってきた。 「ミルル〜〜〜〜、どこにいるんだゴブ〜」 「あのゴブリン・・・。し、喋ってる・・・」 「あ、おじいちゃんだー!」 羊のお腹の毛がモコモコッと動いて、ミルルが顔を出した。 「へ?」 「は?」 「おじいちゃぁん!ここだよぅ!」 ミルルが小さく手を振る。 「ミルル!」 ゴブリンは杖を放り投げると、飛び出したミルルとヒシと抱き合った。 「アイタタ・・・エライ目にあったゴブ。荷物に隠れて船に乗ったのはいいが、セルビナで見つかって追い掛け回されたゴブ・・・。」 そういうと、ゴブリン・・・いや、ミルルのおじいちゃんは頭にできたコブをそっと撫でた。 「おじいちゃん!今日も海でいっぱい遊んだの!楽しかったよ!」 「そうかそうか。よかったゴブ」 ゴブリン・・・いや、ミルルのおじいちゃんの手がミルルの頭を撫でる。 「でもおじいちゃん、どうしてミルルがここにいるってわかったの?」 「ブブリムにいる仲間が教えてくれたゴブ。お前がマウラのほうに歩いてくのを見て、声をかけてみたが気がつかないみたいだったと。 それで暫くお前を待っていたみたいだが、一向に出てくる気配がないので。もしや船に乗ったんじゃないか?と。」 「エヘヘ・・・ごめーん、おじいちゃん。」 「無事ならいい、気にするな。」 「あの〜・・・」 「あぁ、うちのミルルがお世話になったゴブ。仲間がいきなり叩いたりしてすまなかったと言っているゴブ。」 そう言っておじいちゃんはペコリと頭を下げた。 「ワシが釣りに行ってる間に・・・孫がこんな所まで来てしまうとは。」 孫って・・・。 「でも、あなたとは血が繋がってないんですよね・・・?」 ミズキがおじいちゃんに尋ねる。 おじいちゃんは小さく頷いてから、どこか遠くを見るように天を仰いだ。 おじいちゃんの話によると、おじいちゃんが住んでいるサルタバルタにある一組の夫婦がいた。 彼らは可愛いタルタルの夫婦で、共に獣使い。 そんな二人と、おじいちゃんの交流が何年か続いたある日。タル夫婦に一人の女の子が生まれた。 それがミルルだという。 「ミルルの両親は、ミッションでヤグードの城に行って・・・そこで・・・」 「おじいちゃん・・・」 「だからミルル、この人たちはお前の両親じゃないんだゴブ」 「・・・くすん。」 「お前が悲しむといかんと思って、どこかで生きてるといいなとは言ったが・・・お前の両親は・・・」 「おじいちゃぁん!」 ミルルはおじいちゃんの胸にヒシっと抱きついて泣き出した。 「でもお前には、サルタバルタにたくさんの友達がいるゴブ。みんなお前が大好きだゴブ。」 「う、うん・・・」 「いつかお前が大きくなったら、きっと立派な獣使いになれるゴブ。そしたらお前はみんなが怖がるどんな場所にだっていけるゴブ。 だって、世界中の生き物はみんなお前の友達だから。」 「本当?!」 おじいちゃんが頷くと、ミルルは嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねた。 「あ・・・」 ミルルは私のほうへ向き直ると、ぎこちなさそうに私とミズキにペコリとお辞儀した。 「ごめん・・・なさい。おとうさんとおかあさんと間違えちゃって・・・」 「ううん、いいのよ・・・」 ミズキがくすっと笑うと、ミルルは恥ずかしそうにもじもじした。 「あの、えっとぉ・・・」 「ん?どうした?」 「あ、やっぱり・・・いいや・・・」 「言ってごらん?」 「う、うん・・・あのね・・・」 ミルルは顔を赤くしてもじもじした。 「だっこ・・・して欲しいの。」 「おいで。」 私が両手を差し出すと、ミルルはぴょんと私の膝の上に飛び乗った。そっと抱きしめると、小さな手がぎゅうっとしがみついてくる。 「おとうさ・・・あ、違うや。」 ミルルはエヘヘと笑って舌を出した。 「ふあー!退屈ぅ〜〜〜!」 ソファの上にだらしなく寝そべると、クリスは大きく伸びをした。 「なんだ、女の子がこんな昼間から股広げて寝そべって。しゃんとしなさい。」 「いいのいいの。堅い事は言いっこなし!」 そう言ってクリスはケラケラと笑った。 「ゲートハウスに報告は済んだのか?」 「おういえーす。ミズキはついでに市場でお買い物してくるってさ。『マスターにおいしいもの食べさせてあげたいの』とか 言っちゃってもう!」 「そ、そうか・・・」 「あー、照れてる!照れてるよ!」 「うるさい!」 クリスはソファから立ち上がると、私の背後に回って甘えるようによりかかってきた。 「んふふー」 「なんだなんだ?なにも買ってやらんぞ?」 「ロビィもなかなかやるねぇ・・・この!」 人差し指がむにゅっと私の頬にめり込む。 「なにがだ。」 「まさかこのカタブツがぁ〜、まさか・・・ ア オ カ ン するなんて〜!イッヒッヒ。」 「な!なにをバカな事を!」 「クリス様にはバレてるんですよぉ?ん〜?このぉ!ムッツリスケベ!」 「・・・・・・」 「だって、ミズキの水着のヒモがねー・・・日焼けの跡からズレてたんだもん!どっかで1回脱いだってことよねー?」 「うぐッ・・・!」 「全く・・・ね〜。イッヒッヒ。」 「くッ・・・」 「新しいお洋服〜・・・欲しいなァ〜」 そう言ってクリスは腰に手を当てて、ふふんと楽しそうに笑った。 「わ・・・わかったわかった!もう・・・!」 「やったぁー!」 クリスがぴょんぴょん跳ねると、ちょうど帰ってきたのか、ミズキがドアを開けてリビングに入ってきた。 「ミズキミズキー!ロビィが、ミッション成功のお祝いに新しいワンピ買ってくれるってぇ!」 「ほ、本当?!わぁ・・・嬉しい!ありがとう、マスター!」 「あ、いや・・・う、うん・・・。た、たいした物は買ってやれんが・・・」 来月のお小遣いが・・・。お小遣いが・・・。 「あ、そういえば、玄関に荷物届いてましたよ?ミルルちゃんのおじいさんから。」 3人で外に出ると、玄関に大きな木箱が届いていた。 「わー、サルタオレンジだー!」 「ジュースいっぱい作れるね〜」 「うんうん。」 「ねぇ、クリス。今度3人でウィンダスに行ってみない?」 「さんせー!」 「ね?いいよね?マスター」 「ん?まぁ・・・たまには旅行も・・・いいかも知れないな・・・」 夏の陽光を受けて、箱いっぱいのサルタオレンジが金色に輝いていた。 おしまい ******************************************************************************************* なんか長々と引っ張ってしまってすマンコ。 今度はもちっとこう、違う路線でも書いてみるべか!と思ったら 花粉症の季節なせいか、漏れの鼻と目がなにやらステキな状態に(涙) 暫く、神な方々の作品を拝見しつつマターリと休養していまつ。ペコリ。