私モンクのミアは怒っています。パーティとしては些細なことだったとしても、私にはそれが許せなかったわけで。  「何でわざわざアンタが敵の攻撃受けようとするの!」 ジャグナー森林を北東に抜けた先、小高い丘が点在するバタリア丘陵の入り口で私は大声を張り上げていた。 さっきまでこの地下に広く存在するエルディーム古墳で狩りをしていたのだが、 やむにやまれぬ事情によりエスケプで逃げてきたところだ。 「しょうがないだろ。お前も、みんなも、もう体力は残ってなかったんだから。」 涼しく落ち着き払ったような態度でヒーリングをしている態度が腹立たしい私と同じヒュームの、 赤魔道士ルーウェン(普段はルーと呼ぶ)。昔から犬猿の仲だ。 ことある毎に言い争っていて、未だに行動を共にしているのが何でなのかさっぱりわからない。 モンクである私のほうが、絶対強いのに偉そうに指示ばっかりして。イライラはつのる一方だ。 「あれくらいまだまだ耐えられたわよ!」 っと強がってはいるものの、実はあまり平気ではない。ケアルはかけてもらったがまだ少しふらふらっとする。 が、この男の前でそんな素振りは見せられない。 すごい剣幕で迫る私を彼は見上げ、すこし足にきてるな、と言って視線を落とし目を閉じる。 (こぉのやろぉ・・・・) 見透かしている、みたいなこの態度がムカつくってのに気がついてないのかな。  他のメンバーは私たちの争いに困惑気味で、タルタルの黒魔道士はおろおろと落ち着かず、 ガルカの暗黒騎士はやれやれといった風に肩をすくめ、白魔道士のヒュームの娘は心配そうな表情でこっちを見ている。 「はいはい。もういい加減にしなさいって。いいじゃないみんな無事だったんだからさ。」 ぎゃーぎゃーと言い争っている中に(といっても叫んでいたのは私だけだが)呆れた声が横槍をいれる。 エルヴァーンの女性。ナイトである。名前はリィス。  リィスは私と、ルーと、前々からの知り合いでよく一緒にパーティを組む。彼女と彼とは私よりも古い付き合いらしく、 二人とも互いに絶対の信頼を置いている、らしい。 「なんにせよ、ルーの機転があったから無事に出れたんだしさ。まぁちょっと無理してた感はあったかなとは思うけど。」 長い銀髪をさっとかき上げ喧騒を収めようとたしなめる。 「そうですよー。おかげでボクも安全に詠唱することが出来たわけですし。。。ね?」 少年のようなタルタルが少し冷や汗をかきながらにっこりと笑う。が、こういうときの私って言うのはひねくれているわけで 「そーですか。リィスもみんなコイツの味方ですか。へー・・・こんな貧弱で頭でっかちで、役割もちゃんとこなせないような・・・」 「ちょっとまて。俺はちゃんとやってたつもりなんだがな?」 彼が声を遮るようにすくっと立ち上がり、見下ろしながら反論してきた。  私は彼を背に向け腕組みをしつつ、 「ケアルが遅い。」 端的に言い放った。どうだ、少しは凹め。彼はすぐに答えず、押し黙ってしまった。ふふん、ざまぁみろ。  私がずらずらと彼の今日の戦闘における問題点を指摘してどのくらいたったのか。黒魔道士のタルタルがおずおずと口を挟む。 「あ、あの〜〜ボクたちそろそろ帰りたいな〜〜なんて^^;」 えへへ、と頭を掻く素振りを見せ、空を指差して見せた。あたりはすっかり暗く、空には大きな月がのぼり、星が瞬いていた。 「あ、ごめんなさい。こんな時間になっちゃって。それじゃあ、ここで解散にしよ。いいねリーダー。」 リィスは他の3人にお辞儀をして、こっちに言ってきた。リーダー・・・認めたくないがこの男です。 「ん、あぁ。悪かったねこんなことになっちゃって。」 彼も丁寧にお辞儀をする。私もなんとなくつられてお辞儀をした。 「いえいえ、こんなこともありますし。それじゃボクは二人を送ってから帰りますね。」 にこっと微笑んで小さな手を振りながらガルカとヒュームの娘をそれぞれデジョンで送って、彼自身も光の中に消えていった。  「はーーーーーーーー、災難だった。ね?」 私はリィスに話しかけた。彼女は特に何も言わずうんうんとうなずくだけだったが私はそれだけで十分だった。 「全部アンタのせいなんだからね。わかってる?リ ー ダ ー?」 嫌味たっぷりに言ってやった。大体なんでコイツがリーダーなのか。彼女の方が向いてると思うんだけど。  大体、どこが悪かったって。前衛である私たちは、後衛に攻撃がいかないように守る。そして後衛は前衛をサポートする。 私はこれが鉄則で、至極当然なことだと思っていた。それなのにこの男ときたら・・・。攻撃を行うのは許そう。赤魔道士だしね。 でもそればっかりで回復が疎かになったり、あまつさえせっかく私たちが必死で攻撃が行かないようにしているのに コイツは自分で攻撃を受けに行く。これじゃ私たちがいくらがんばったって仕方ない。モンクたる私のプライドそれをよしとしないのだ。 「アンタは私たちをサポートしてくれればそれでいいの。ね、ケアルタンクさん。これからはもっと・・」 「ミア、バカ!」 リィスが声を上げて次の言葉を遮った。驚いて私は彼女のほうを振り返った。 「・・・悪い、先に帰るわ。」 ずいぶん小さい声で彼が言った。っと思ったらものすごいペースで歩き出した。 「ん、気をつけて帰りなさいね。ミアは私が送ってくから。」 彼女は手を振って見送った。私がなんだかわからないうちに、もう姿は見えなくなってしまった。・・なんか張り合いないな。今日は。  「何さ。本当のこといわれたからって。少しは言い返してみなさいっての。」 ふんっと鼻を鳴らす。何となく勝ったような気分と、後味悪いような妙な気分だった。っと後頭部に衝撃が走った。 「いったぁ、なにするのーー?」 私は頭を押さえて衝撃の正体、つまりリィスの方を向き直す。 「・・・明日、ちゃんと謝っておきなさいよ。ミアの性格じゃ嫌だろうけど、せめて形だけは、ね。」 「う、うん。」 彼女はきょとんとしている私の前にでてジュノに向かって歩き出した。そのあとを私は追いかけていった。  一晩明けて。私は彼を探して朝っぱらから賑わっているジュノを右往左往していた。今日はいい天気だ。 (ったくどこにいるってのよ〜。) 昨夜彼女から言われたとおり、(納得いかないが)せめて形だけでも謝っておこうと朝から探しているのだが。。 (あのバカのことだから。。。) そうだあそこだ。思い立って私は上層の教会に向かった。  荘厳な雰囲気の大聖堂。サンドリア出身の彼は毎朝ここでのお祈りを忘れない。バストゥーク出身である私にとってはバカらしいの一言だが サンドリアのものにとっては大きな意味があるらしい。よく知らないし知りたくもないけど。  思ったとおりルーはそこにいた。祈りは終わったのか、他の信者となにやら話をしていた。そこに私が近寄る。う〜〜んバツがわるいなぁ。 「・・・よっ」 ちょっと右手を上げて声をかけた。彼は振り返ると、少し怪訝な顔をしたような気がした。 「おはよう。」 「なに?まだ機嫌悪いの?」 「別に。普通だろ。」 普通じゃないっての。完全に昨晩のが尾を引いている。ねちっこいヤツ。 「あーそのなんだ。昨夜のことなんだけどね。私がー・・・その。」 くー言いたくねーこんなこと。 「とにかく、ごめん。はい謝ったからこれでいいよね?」 思い切って言った。よしこれで責任は免れた。 「別にあやまんなくてもいいよ。どうせおれは回復が遅くて敵に攻撃されてパーティを危険にさらす様なケアルタンクですからね。」 ふんっと私から顔を背ける。私は・・・だんだんと腹立たしくなって・・・彼の顔を思いっきりぶん殴った。  さすがに無意識で手加減したのか、彼は少しだけ後ろ吹っ飛んで驚いたように私を見た。 「はぁ?謝ってんのにナニそれ。ばっかじゃないの?何一人で拗ねてんのよ。あーーーーーーーーーーーーーーー謝って損したっ!」 さっと踵を返し教会の扉を開いて、外に出て、わざと思いっきり閉めた。扉が壊れるかと思うくらいの音が真っ青な空に響き渡った。  「なんで!あいつは!あーーなんですか!ってのー!」 リィスのレンタルハウスに押しかけてさっきの事を洗いざらい話す。かなり怒ってます。ハイ。 「大体女の子が恥を忍んで謝ってるのにだよ!?信じられる、リィス!?」 彼女は黙ってうんうんと頷いてテーブルに用意したお茶を啜る。カップを置くと、少し落ち着いたら?と私をたしなめた。 「ミアさ、ルーが何で怒ったか、わかる?」 「知らないわよ、ただひねくれてるだけなんじゃないの?」 ふんっと鼻を鳴らしてお茶を一気に飲み干す。 「アイツね、結構苦労して、今があるのよ。彼のスタイルは、そういった境地からのものでね。体に染み付いてる戦い方なのよ。」 ゆっくりとリィスは話し出した。こういう事を、まだ聞いた覚えのない私は、素直に、へぇと言って耳を傾けた。 「昔はね、それこそ昨日ミアが言ったケアルタンク?だっけ。そういう扱いでね。現実と、彼の理想と食い違って。  一時期かなり自暴自棄になってたのよ。それが最近になって、ようやく自分で納得いく形になって。  喜んでたよ、やっとみんなの役に立てるって。」 ふふっと思い出し笑をするリィスの話に、テーブルに肘をついて聞き入っていた。 「だから、昨日貴女にそう言われたので、怒ったとかひねくれたとか・・というより多分落ち込んでるのよ。  実際は、ごもっともだ、って感じてたんだと思うよ。」 「・・・・だからってさ、私謝ったじゃん。あんな言い方ないと思う・・・」 聞いてるうちに、だんだん自分のほうが悪い気がしてきた。知らなかったとはいえ、酷いこと言った・・・。 「ルーは不器用だからねぇ。言葉が見つからなかった、というか。。んーーなんだろ。よくわかんないからね、彼は。」 リィスは微笑んだ。 「とにかく、今は何いっても多分無駄だから。そっとしておこうか。ね?」 「うん・・・」 「元気だしなさいって。ミアまでそんなんじゃダメじゃない。」 リィスは笑いながら私の背中をぽんっと押す。ありがと、といって彼女の部屋から出た。  ジュノ下層。競売所がありこの街で最も騒がしい地区。私はその喧騒の中一人でぼーっと歩いていた。 「あ、あの・・・」 その私の後ろから声をかけてくる人がいた。ん?っと振り向くとそこには昨日組んだ白魔道士の娘だった。 「あ、昨日はどうも〜〜。ごめんね、最後にあんなんで。」 バツが悪い。小さく会釈をした。 「で、どうかした?」 話かけられる様なほど、彼女に関して何もしてなかったからなぁと思いつつ、聞いてみることにした、 「少し、お時間よろしいですか・・・?」 「うん、いいけど・・・なに?」 「彼の、昨日のリーダーさんのことでお話が・・・」 ツヅク トオモウ