「スニないくせにさっさと行くな!魔法がとどかないって言ってるでしょ?!」 「だいたいさー、今日は前からみんなで言ってた約束の日だよ?  それを遅れてくるなんてさ!」 冒険のかえり、オレたちはジュノの酒場でこの日の反省会と称し、一杯やることになった。 着くなり彼女は酒をたのみ、オレに対しての文句をベラベラ言い続けている。 「ま、無事に目的も果たせたんだし。その辺で彼のこと許してあげたら?」 赤い帽子をかたわらに置き、仲間の一人である赤魔道士の青年が彼女に言う。 「許すもなにも、だから怒ってないって!」 「いや、ほら…どうみたって怒ってるでしょ?」 「怒ってないってば!」 いいながら彼女はコップをドンとおいた。 短かめのポニーテールが衝撃で揺れている。間違い無く怒ってる証拠だ。 「………だって、さ」 少々呆れた顔をうかべながら、彼はオレをみた。 「なにやらかしたの?今日は一段と彼女の御機嫌ななめだねえ?」 片手にグラスをもった暗黒騎士のエルヴァーンの女性が、くすくすと肩を震わせる。 「彼女の気持ち、あたしすっごく分かるよー?」 オレンジジュースをゴクゴクと飲みながら、ジロリとこちらを見るとんがり帽子のタルタルの少女。 「ようはあれだな!少しはお前も俺を見習えってことか!」 タルタルの少女の傍らで、同じようにジュースを飲むナイトであるエルヴァーンの青年。 「きみのこと見習ってもねぇ…?」 と、赤魔道士のヒュームの青年がエルヴァーンの彼をみてにやりと笑った。 「なにおう!」と飛びかかろうとするエルヴァーンの青年に、「二人とも、喧嘩はだーめ!」と タルタルの少女が小さい手をいっぱいに広げて二人を制した。 そんな微笑ましい風景を目の前にしても、 「ごめん…」 オレはこれしか言えなかった。 ************************************************************ 彼女が怒ってる原因は、オレであるのは間違いない。 今日は古墳で戦士であるオレと黒魔道士であるタルタルの少女のAFを取ろうと、以前から約束してあった日だ。 約束の時間にきたのは、白である彼女 赤である彼。そしてこの約束の主役の黒のタルタルの少女に、暗黒騎士 のエルヴァーンの彼女と、同じくエルヴァーンであるナイトの彼。 そして、もう一人の主役であるオレは…遅刻してしまった。 ただそれだけの事である。 …でも、それだけでこんなに彼女が怒るわけがない。 実はオレ、釣りが趣味で。よくリンクパールをはずしては、こっそりと釣りに勤しむ毎日を送ってる。 一人で過ごすあの時間が大好きで、何日もLSの仲間を顔を会わせないこともザラで、もちろん彼女とも何日も… へたしたら一ヶ月近く顔を合わせて無いのも当たり前になった。 そんな中、久しぶりに仲間と交わしたAFの約束。 今日、ジュノに向かおうとしたオレに、釣り仲間の女性がクエストを手伝ってほしいと言ってきた。 約束の時間までに十分時間があるし、軽い気持ちでOKしたのだが…ついつい釣りの話しで盛り上がってしまい… 気が着いて慌ててジュノにいくも、とうに約束の時間はどっぷりと過ぎてたわけで。 最初は遅れてきたオレに対して彼女も「気にしなくていいよ」と笑顔だったのだが、遅れた理由を話すと黙って しまい、ついには今の状態に… 「明日ひさしぶりに会えるね」と、彼女がどんな気持ちで言ったのか、それを考えると胸が痛むが、 しかし今の彼女の姿をみてると、なんで自分がここまで怒られなくてはならないのかと (そりゃ自分に落ち度があるにせよ)困ってた仲間を手伝って何がわるいのか。 こんなつまらない事で怒る彼女のわがままさに、腹がたってしょうがない。 「そんなに釣りと釣り仲間が大事なら、ず〜っとなかよ〜く釣りでもしてればいいじゃない」 「こっちでなにかやろうとすると、行けないだの遅刻するだの…」 「お願いだからできもしない約束なんかもうしないで、こっちがいい迷惑なんだから!」 その言葉にカチンときた。 ああもう、なんでこんなつまらない事ばかり言うんだろうか。 「…おまえ、少しうるさいよ」 彼女の表情が一瞬固まった。 ************************************************************ 「ほ…ほらほら、そこらへんにして楽しもう?あんた少しお酒入りすぎだよ」 エルヴァーンの女性が彼女をたしなめた。 「…そんなに飲んでない」 「飲んでる飲んでる。今日の戦利品で闇クリあっただろ?酔い冷ましにさ、あれで私にワインつくってくれない?」 「あ、僕もお願いしていいかな?」 「俺も!」 「あたしもー!」 お前は酒よわいだろ、と小さな彼女の頭をコンとエルヴァーンの彼がこづく。 「うん、いいよー。じゃあちょっと作ってくるね」 カタンと彼女が席を立った。 「あ、グレープなら私がもってるから、ほら」 とエルヴァーンの彼女がサンドリアグレープを取り出すが、 「いいよ、上層で買ってくる。あたしがおごるから。…みんなごめんね。」 パタパタと酒場から出ていってしまった。 …しんと再び静まりかえった酒場。 別にオレは、と言いかけたとき、 「たしかに、ねーちゃん言い過ぎてるな〜って思ったけど…」 タルタルの少女がオレの言葉を遮り、じぃっとオレの方をみて話し出した。 (ちなみにねーちゃんというのはオレの彼女のアダナだ。この少女は誰にでもあだなをつけたがる。) 「あたしがもし、ねーちゃんの立場だったら…やっぱり怒ってるとおもう。  にーちゃんホントたまにしか連絡してこないしさ。せっかく会っても遅刻してくるしさ。  で、遅刻した理由が他の女の人と一緒だったってのもね〜。  そりゃにーちゃんにもにーちゃんなりの理由があるだろうけれどさ…」 じっと少女はオレの方をみた。 「ねーちゃん、そりゃ寂しいよ。怒ってないと、泣いちゃうよ」 ************************************************************ 月明かりのジュノ港を、小さな影と大きな影がテクテク動く。 「あたしのお膳立てはここまで!あとは、にーちゃんがどうするかだね〜」 「おまえ、見た目は子どもでもしっかりと大人なんだな〜」 「あったりまえでしょー♪少なくともあんたよりは人生経験豊富さ〜♪」 それに、やっぱりあたしはいつもの元気で明るいねーちゃんの方が好きだもんと、タルタルの少女が付け加えた。 そんな少女を見て、参りましたと笑うエルヴァーンの青年。 喧騒がたえないジュノも、さすがにこの時間になると人は見当たらない。 酒が苦手な少女のために、オレンジジュースを調達しようと材料を買いに港まで足を運んでる途中だ。 まだ調理スキルが安定してない少女の代わりに、調理スキルの高いエルヴァーンの彼が同行した。 青年が同行した理由は、本当はそれだけではないのだが… 「…あのさ」 頭をかきながら、青年が少女に問う。 「ん?」 「俺、お前に寂しい思いさせてないよな…?」 「え〜?」 一瞬キョトンとした顔をみせた彼女だが、そのあと何かに気付いたようにニヤリと笑う。 「ナンだよ…」 「べっつに〜♪ほらほら、さっさとジュースつくって〜っ、と!」 ポポイとサルタオレンジを青年に投げ渡す少女。 それを受け止め、何か言いたそうな顔をし、しぶしぶと合成をはじめた。 それをみて満足したのか、少女がピョンと彼の背中に飛びついた。 「んが!」 「『寂しい』なんて思わせてくれる暇、あたえてくれないじゃ〜ん♪」 ニコニコしながらタルタルの少女はエルヴァーンの青年に抱きついている。 その言葉に少し赤面しつつ、気付かれないようにと黙々とジュースをしぼり始めた。 <後半にツヅク> 2レス上の名無し