「ちょっ! やめてよもうっ! 離してって言ってるでしょ!!」 強くつかまれた腕が痛い。憤りに声を張り上げて盛大に抗議しても、下層の競売 前の喧噪はそれをかき消してしまう。 人を押し退けないと1メートルも前に進めない人混みを、彼はあたしの腕を掴ん だままぐいぐいと押し渡っていく。 ……怒ってる。 インビジ切れそうなの気づかなくてトレインを巻き起こしたのはあたしだし、そ れで戦闘不能になったのは悪かったと思ってるし反省してるし必死で謝ったのに。 細い路地にひっぱり込まれて、背中を強く石壁に押し付けられた。その押し黙っ た険しい顔がちょっと怖くて、イキオイで後ろ頭をゴツンとぶつけた痛みも、ど こかへ行ってしまった。 「ごめんなさいって、謝ってるじゃないっ!」 精一杯胸を張っても、彼はいつものように微笑って許してくれないし、おまけに 薄暗い路地に差し込む光がその真剣な表情を照らしていて。思わず息を飲んだ。 そして。 「……!」 何が起こったのか解らなかった。 気がつけば彼の柔らかい舌があたしの口の中を探っていて、あたしは舌を吸われ ながら、ぼんやりと、甘い息を吐いていた。 「んっ……」 思わず強く、彼の胸を叩いた。力いっぱい。 唇が離れる。限り無く真剣な彼のまなざしに、一瞬くらりと、目眩に似た感覚に 襲われる。 押し付けられていた力が緩んだ。首筋に、彼の唇が触れる。ぞくりと背筋が泡立 つ。 「なに……すんのっ……」 いつもの調子で言ったつもりなのに、声がかすれる。その言葉にも彼は応えない。 かわりに手が脇腹を這う。 「ヤ、ヤダッ……」 くすぐったさに身体をよじる。思わず力が抜ける。するりと、彼の手がすべり込 んで来た。柔らかく、優しく、でも確かな感触が、乳房を包み込む。 「こら……! ダメ、だめだってばっ……ちょ、どこに手入れて……」 指が蠢く。 時折指先が先端をかすめ、ピリピリと電気が走るみたいな感覚に襲われる。 身体がぴくんと反応してしまう。 「ん……」 耐えきれず声を漏らしたあたしに、彼が微笑んだ……気がした。 @しらかん