清々しい晴天の朝、Twinkle Tree 秘密基地。 Tit「Tom隊長、大変です!」  今朝も偵察に出ていたTitがトテトテと駆け込んでくる。 Tom「なにっ! 前回出たのがタル♀×エル♂で、あるべだー様と被ってるのに今頃 気付いただと!?」  Tomがピョコンと跳びはねる。被り物マニアとちみっこ萌えの連中を覚えていると は、記憶力は中々らしい。 Tat「漏れも四葉たんが欲すぃでつ……。」  Tatは何かを読んで悶えている。今にも萌え死にしそうな様子だ。 Tit「そうじゃなくってぇ……。事件ですよ、事件! この近くで禿げたドジョウ髭 の大男が、裸一貫で馬鹿デカい剣を振り回してウガウガ暴れてるんです!」 Tom「ムムッ、そんな変態を野放しにしておくわけにはいかないな。Tit、Tat、出撃だ!」 「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」  ガルカの咆哮が轟くと大気が慄然と戦慄いた。足元を強く踏み締める度に大地が 陥没して巨大な穴が穿たれる。 「よんじゅぅぅぅぅぅぅ、にひきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」  ガルカの持つ漆黒の大剣がクロウラーの頭部を容赦無く叩き潰す。いや、それは剣 と呼ぶにはあまりにも大きすぎた。大きく、重く、そして大雑把すぎた。それは正に ……鉄塊だった。  ガルカは真っ赤な血走った眼で周囲を睨み回す。瞳が爛々と輝く様は、まるで地獄 の亡者のようだった。 (Tom「おい、あんな化け物に勝てるのかよ?」) (Tat「((((((;゚д゚))))))ガクガクブルブル……。」)  ガルカは敵が見えないことを確認すると、その場にドカッと腰を下ろした。クロウ ラーの屍体が重さに耐えかねてグシャリとひしゃげる。  そしてボソリと呟く……。 「はぁ……。戦士上げときゃよかった。カオスブリンガー弱すぎTT」  相手が弱そうだと判明した瞬間、Mandragora達は茂みから跳び出して襲いかかる! どうやらガルカの足元は死角だったらしい。 Tat「モツカレ〜。」 Tom「怪獣、覚悟しろ!」  一気に間合いを詰めてガルカに殴りかかる。回復でもされたら厄介だ。 「うがっ! こんな時にぃぃぃぃ!!」  ドカバキベキ! Tom「ふぅ……。今回の相手にはビビったぜ。」  だが、Tomは後ろを振り返ったとき或る事に気が付いた。 Tom「ありゃ、Titは何処だ?」  ウィンダスからほどない所にある小さな池。  まだ幼い子ミスラがジャブジャブと洗い物をしていた。  そこへ一体のマンドラゴラがトテトテと駆けつけて来る。 「あ、今日も来てくれたんだにぅ。」  少女はマンドラゴラをムギュっと抱きしめる。双葉の先まで含めると、二人は丁度 同じ位の背丈だった。  マンドラゴラは少女の担いできたカゴの中から服を一着取り出すと、水に浸けて ゴシゴシと擦りはじめた。 「いつもいつもありがとうにぅ。ママが忙しいから助かるにぅ。」  エヘヘとマンドラゴラは鼻(っぽい位置)を掻く。  二人はしばらく洗濯を続けた。 「ところで、いつもそんなお洋服だけで寒くないのかにぅ?」  マンドラゴラは小首を傾げる。言ったことが解らなかったのだろうか。 「そうだにぅ!」  ポムッと少女が手を叩く。何か思いついたようだ。 「今日、ウチに連れてってあげるにぅ。」 「ここだにぅ〜。」  誰かに気付かれないようにコソコソと歩きながら、二人は森の区へと辿り着いた。  少女は家の扉を開けると中にマンドラゴラを招き入れる。 「ちょっと待ってるにぅ。すぐ戻るにぅ。」  少女は運んできた洗濯カゴを床に置くと隣の部屋に入っていった。 Tit「どうせなら、やぐこ姐さんにウィンダス語の発声も習っておくべきだったです……。」  Titは室内を見渡しながら考えた。ふと、ここはウィンダス国内だということに思い至る。 以前、鼻の院のタルタルに捕まり、怪人ミカンマンドラに改造された仲間達が脳裏に浮かんだ。  Titは辺りを慎重に窺う。幸い、ここは森の区でも片隅の方に有って、通りがかる者は少ないようだ。 「おまただにぅ〜。」  少女が戻ってくる。持ってきたのは、レースのフリルをふんだんに使ったお姫さま のようなピンク色のドレスだった。 「さぁ、着てみるにぅ。」  後ずさりかけたTitの頭の上から、少女はドレスをバサリと被せた。袖から手を入 れてTitの腕を引きずり出すと、今度は頭に取りかかる。大きいだけあって中々通ら なかったが、グイグイ押し込んでる内にどうにか頭を出す事ができた。 「入ったにぅ!」  少女は喜色を浮かべる。それから少女は鏡を取ってきてTitの方に向けた。 「マン子ちゃんかわいいにぅ〜。きれいだにぅ〜」  そこには少女趣味的な衣装に身を包んだ奇妙なマンドラゴラが居た。 「実はにぅ……ほんとは言いたいことがあったんだにぅ。」  少女が声のトーンを落とす。なんだか浮かない面持ちだ。 「ワタチ……明日の朝一番の飛空艇で、カザムに帰る事になってるんだにぅ……。」  そのとき、外で何やら物音がした。 「ちっ、あの男しけてやがんな。俺様のこと抱いといてペリドット一個かよ。」  一人のミスラが尻尾を揺らしながら歩いていた。右手は宝石を弄び、左手はサブリガ の中をポリポリと掻いている。 「やっぱレズってた方が楽しくてイイぜ。男の体なんかつまらねぇよ。」  ガチャとミスラが扉を開ける。Titは慌てて背中を向けた。 「あのぅ、どちらさんですかにぅ?」 「ありゃ、俺……じゃなくて、アタシ間違えちゃったかしら〜。」  来訪者は急に口調を変えた。人前ではこの声で話すらしい。 「ママはお留守にゃので、ごようききならできますけどにぅ?」  しめた!とミスラは思った。見れば女の子二人しか居ないようだ。これは食べ頃、 ミスラは思わず舌なめずりをする。 「そうね〜、ちょっとお願いがあるな〜。」  ミスラは甘い猫なで声を出しながら少女に近づき、両手で少女の体を抱え上げる。 「今晩お姉さんに付き合って欲しいの〜。楽しいこと色々教えてあげるわ〜。」  ミスラは少女の耳の内側を舐める。ザラッとした感触が柔らかい皮膚の上から伝わった。 「やめるにぅ! 放すにぅ!」  このときTitはある事を思い出した。 一般にはミスラの大半は女だと言われているが、それは正しくない。だがミスラの男 は外出を厳しく制限されるため、外に出るときは性転換手術を施すのだという。ミス ラ族に伝わる性転換の秘術を使うと、常人には容易に見破られない。そのため中には、 女の姿を利用して男を誑かして金品を巻き上げたり、女同士の振りをして秘密を暴こう とする者もいるという。人はこれを猫魔と呼ぶ。 ―――魔法新聞社刊『ミスラたんの生態』より  目の前の猫魔を放っておくと少女が危ない、そう判断したTitは振り向いてミスラ の足にかじり付いた。 「あら〜、どうしてこんなとこにマンドラゴラが居るのよ〜!」  ゲシッ!とミスラはTitを足蹴にする。体を壁にしたたかに打ちつけて、Titは危うく 昏倒しかけた。 「にぅ! マン子ちゃん〜!」 Tit「くっ、ボク一人の力では勝てないです……。」 Tom「Titよ、だからお主はアホなのじゃぁっ!」  突如、腕組みをした姿勢でTomが洗濯物の上に跳び下りてきた! 折角洗ったもの が泥だらけだが……それはこの際置いておく。 Tit「Tom隊長……どうしてここが?」  すると今度はTitのスカートがモゾモゾと動いて、中からTatが這い出してきた! Tat「電波を受信しますた。('◇')ゞ」  Tatの頭の上では双葉がプルプルと旋回している……これもあまり深くは考えない でおこう。 Tom「やい、そこの大きいの! よくもTitを蹴り飛ばし、あまつさえこんな珍妙な格 好をさせたな!」 Tit「いや、服はあの子ですけど……。」 Tat「このネカマが!(藁)」 Tit「それを言っちゃだめですよぅ〜。」 「なんなの〜、こいつら〜?」  驚いてるミスラの前で三人はいつものポーズを極める。 Tit「植物戦隊ドラゴラマン! その子のために見参です!」  三人が種子を投げつけるとTitの芽ロ出ィーズオブライフが弾け飛び、中からTom Tit Tatが召喚された。 「何よ〜、変なことするとこのガキが怪我するわよ〜!」  ミスラは少女を自分の前に構えた。明らかに盾にするつもりだ。 Tom「ムムッ、卑怯な!」 Tat「必死だな……。」 Tit「その子には傷一つ付けさせませんです!」  Tom Tit Tatは突然クルクルと踊り始めた。手には一輪の花が握られている。 Tit「安らかにお眠り下さいです! 夢想花!」  Tom Tit Tatが花をポーンと投げ上げると、桃色の花びらがヒラヒラと宙を舞った。  その動きを用心深く眺めていたミスラは……。 「何だか……眠く……なって……。」  バタッと猫魔の体が崩れ落ちる。Titはそこへ跳びかかって、少女を腕の中から救出した。 「カーディアンさん、こっちだにぅ〜。」  ドタドタゴロゴロと足音が聞こえてくる。 「ムッ★コイツハ☆結婚詐欺デ☆指名手配中ノ……」  翌日、Titはあの池のほとりに佇んでいた。 Tit「はぁ……、あの子は行ってしまいましたですか……。」  Titは黙って水面を見つめる。するとそこに、三角形をした二つの耳が映し出された。  Titは驚いて後ろを振り向く。 「エヘッ、飛空艇を一本遅らせてもらったにぅ。」  そこにはあのミスラの少女が立っていた。身に着けているのは、昨日着せられた ピンクのドレスだ。無理に頭を通したせいで、首の周りが伸びてしまっている。 「昨日はありがとうございましたにぅ。」  少女はペコリと頭を下げる。Titも微笑みを返したが、果たして少女には伝わった だろうか。  少女は頭に着けていたスカーレットリボンを解くと、Titの双葉の周りに結び直した。 「これプレゼントするにぅ。ワタチのこと、忘れないでにぅ?」  うん!とTitは深々と頷いた。少女は嬉しくなってTitをムギュっと抱きしめる。  そのとき二人の瞳が、合った。 「ちぅ」  少女とTit、二人の頬が朱に染まる。少女は慌てて手を離すときびすを返した。 「おっきくなったら、また会おうにぅ! 女同士の約束だにぅ♪」  テトテトと少女が走り去っていくのを、Titはパタパタと手をあおいで見送った。  Titの唇(っぽい位置)には、まだ少女の温もりが残っていた。  少女の姿が見えなくなってしばらくしてから、空を飛空艇が飛んでいくのが見えた。  果てしない青空の彼方に船が消えていくのを眺めながら、Titは一言こう言った。 「ボクは女の子だったのでしょうか……?」 Tom「で、お前はいつまでそのリボンを着けてる気だ?」 Tit「いいでしょう、ただの趣味です。」 Tat「緑色の宝石……綺麗でつね……。」