花*花 あんなもの、ウィンダス調理ギルドだか天昌堂だかの陰謀にきまってる。 ジュノの競売前の華やいだ雰囲気にため息をつきながら 調理スキル0のタルタルの黒魔道士は恨めしそうにバザーを覗き込んだ。 作れないならせめて買えばよかったが、 魔法屋で新しい攻撃スペルを購入した為極めて懐が寒い。 「ああ、蟹肉でも取りに行こうかな…そだ、卵も取っちゃって…」 お金がないならなんとやらで、食材でも狩りに行けばいい。 恋人のナイトには蟹肉を取ってくれば自分でゆで蟹を作るだろうし、 親友の赤魔道士にはメロンパイでもつくってもらってそれをあげよう。 (ちなみにその卵からメロンパイを作るのも当然ナイトの役目) 「要は気持ちだよね〜」 基本ポジティブシンキングな彼女は気を取り直して歩き出した。 …途端に首根っこを捕まれて足が地上から浮き上がる。 「ふぎゃーーーーーーーっ!!」 「なんでそう、色気の無い声が出せるんだ…」 「なんでそう、何でもかんでもいきなりなのよ!」 エルヴァーンの目線でぶら下げられたまま彼女はぐるぐると唸った。 粗野な恋人は、反省するそぶりもなく自分の傍らにストンと着地させる。 「こいつ。…前話しただろ。」 「…はじめまして」 頭の上から鈴を転がすような声がふってきて、娘は驚いて振り返った。 見上げた先には白魔道士装束に身を包んだヒュームの女性。 彼女はしゃがみこんで、小さなタルタルに目線を合わせる。 「あ…こちらこそ、はじめまして。こんにちは!」 「こんにちは。いつもお話伺っています」 へ…いつも? ふと思ってしまったが 自分達とて何時も一緒にいるわけではない。 お互いが知らない馴染みの冒険者がいても不思議ではないのだ。 現に彼女自身も友人が多く、その中の数人はまだ紹介していない。 「彼女は俺が昔よく組んでたんだ。最近ばったりジュノで会って」 「体調、大丈夫ですか?風邪引いちゃったって聞いてたんですけど」 「それならばっちりですよ〜でもまだなんか流行ってるみたいね」 エルヴァーンの青年は二人の会話が進みだしたのをみて満足げに頷き、 手にした包みを開け始めた。 「ん?何、どーしたのそれ」 「あー。今彼女がくれたの。」 がさがさと取り出したのはハートチョコ。 思わず硬直した少女に気づかないまま、青年はばきっと真っ二つに割り… 「ほれ、手作りらしいぞ」 「!!!…あ…ああああああありがとう」 おいおいおいおいお前いくらなんでも真っ二つかよ! アホか!手作りチョコ本人の前でこっちによこすなーーーー ぎゃーー彼女こっちみてるよーーーなんか悲しそうな顔だよ〜〜〜 心の中ですさまじい突っ込みの嵐が吹きすさぶ中、 少女は半ばパニックになりながらチョコをかじった。 カカオの香りが口の中に広がって、しつこくない甘さがとても心地よい。 「…わ、おいしい…」 「な?彼女は料理上手いんだよ。こりゃうかうかしてると調理抜かれるな」 「う、うん。すっごいおいしい!ありがとう!ご、ごめんねわたしまで御相伴に…」 「ううん、いいの。貴女にも食べてもらえればいいなって思ったし」 おいしいチョコと女らしい物腰の彼女にちょっとの嫉妬心。 そして、少し悲しそうだった表情に罪悪感と… …あー…あたし、今すんごい優越感 感じちゃってるよ〜… …うわ、それってすごい嫌な女じゃん…最悪… 自己嫌悪に苛まれながらも 少女はそれを全く表面に感じさせずにこやかに会話を弾ませる。 唯、青年のマントの裾を握った手がぎゅっと白くなった。 ******************************************* 内心鬱々とした気持ちのまま狩りに出てしまった。 モグハウスのドアノブに手を掛けて、思わずため息をつく。 しっかりしろと気合を入れる。暗い顔を見せるわけにはいかないのだ。 「ただいま〜〜」 「…お、おかえり。」 寒かったよぅ、といいながらカバンの中から蟹肉の入ったタッパーと卵を取り出す。 「はいこれ。茹でて食べて〜」 「何お前、これ採りに行ってくれてたの?」 「うん。でね、こっちでパイ焼いて〜。メロンパイあげたいの〜」 ちゃっかりお願い事までされた青年は お前、俺が作ったら意味なくない?と笑いながら赤い頭をくしゃくしゃとなでてやった。 おとなしくされるがままになっている娘を見て少し眉をしかめる。 「…きゃ」 突然抱き上げられて娘は小さな悲鳴を上げた。 目の前にはちょっと怖い表情の恋人。 「お前、何か隠してるだろ」 「何って…」 ソファに腰を降ろした青年は、向かい合わせになるように彼女をひざに乗せ、 俺にはわかるんだぞ、と額を合わせる。 「お前、さっき競売で会った時から元気なかっただろ」 「そんなことないよ〜」 ちゅっと鼻の頭にキスをして、急に変なの、と笑ってみせる。 嫉妬してしかも優越感に浸ったなどと素直に伝えられるほど彼女は自信家でなく。 内心は図星を指されてどきどきしていたのだが思わず意地を張ってしまうのも年上ゆえか。 そんな彼女に業を煮やしたように青年はやや強引に唇を重ねた。 顔を背けようとするのを許さず、角度を変えて更に深く口付ける。 「んぅ…はふっ…」 顔を離すと濡れた音とともに唾液が糸を引いた。 すっかり身体の力が抜けてしまった少女の耳元で、幾分か掠れた声が囁いた。 「…まだ、意地張るつもり?」 「ひゃ…あっ」 耳の中に舌がずるりと這い、少女は背中が粟立つ快感に悲鳴をあげる。 「だって」 言えないよぅ、とイヤイヤをして胸元に顔を埋めた。 何か隠していることを白状してしまったようなものだ。 可愛らしい様子に青年は口元に笑みを浮かべる。 「だってじゃないだろ…?当ててあげようか」 さっき会った彼女だろ。と 耳打ち。 びくりとして顔を上げた娘に違った?と片眉を上げてみせる。 「違わ…ない…けど」 「何、ヤキモチやいてくれたの?」 ねえねえ、と鼻先を擦り合わせる。 「…なんでそんなに嬉しそうなの…」 「いや、だってそりゃ…お前全然そういうとこみせねーし」 「でも…それだけじゃないよ」 嫉妬だけならまだ可愛げがあるのだ。要はそれだけですまなかったのが問題であって。 タルタルの娘は小さな声で自分の心情を吐露し始めた。 最初は神妙な顔つきで聞き入っていた青年だが次第に顔がほころんでいく。 「もう、許してくれ」 たまらずに小さな身体をぎゅっと抱きしめて、見開いた瞳に浮かんだ涙を舐め取ってやる。 「お前可愛いすぎだよ…こっちがおかしくなりそう。」 「嫌じゃないの?」 「だーかーらー嫌なわけ無いじゃん。却って安心したよ」 束縛されなさすぎるのも不安になるからさ、と続けられ 自由奔放に振舞うくせに複雑な、と少女はため息をついた。 何だか気が抜けてしまって男の腹にくったりと身を任せ…足の間に硬いものが当たって飛び上がった。 「な、なに」 「ごめん。もうおかしくなってたみたい」 「ななな」 なんですって、と言い返すまもなく唇を貪られる。 さっきと打って変わって余裕の無いキスに意趣返しとばかり軽く舌を噛んでやる。 ボタンが引きちぎられるのではないかと心配するほど荒っぽく着衣を剥ぎ取られ、 彼女は慌てて静止の声を上げた。 「…ま、まって、ちょ…あ、あんッ」 「…待てないんだ…悪い」 胸元の尖りを舌先で転がされ、堪らず背を反らせる。 長くて無骨な指が一本ゆっくりと秘部に忍び込み、膣内をほぐすように掻き混ぜた。 次いで二本、三本。愛液がぐちゅぐちゅと音を立てて青年の手を汚す。 「…入れるよ?」 「うん…っ…」 跨った状態のまま、腰を降ろすように誘導される。 胎内に侵入してくる圧倒的な質量におもわず彼女は身体を浮かせようとするが 腰骨をしっかりつかんだ手がそれを許さず、そのままずぶりと根元まで咥え込まされる。 「いやぁ、やだ、や…あ、あ、あぁーーーッ」 「ごめん…俺も、加減…できそうにないんだっ…」 泣き叫ぶ娘を抱き締め、詫びながらも青年は攻め立てることを止め様としない。 強く腰を打ち付け、先ほど指でしてやったように今度は彼自身で膣内をぐりぐりと掻き回す。 やがて少女が何度目かの絶頂に達し、柔らかい襞が別種の動物のように絡み付いて震える。 さすがにその刺激には耐えられず彼は食いしばった歯の間から獣のような呻き声をあげた。 小さな胎内でどくどくと脈打つ感覚、次いでじわりと暖かいものが広がっていく。 汗で少し湿った胸元に抱き締められた少女は幸せそうにため息をついた。 *********************************************** 「ああ、メロンパイだー。ありがとう」 ちょっと前まで情事に耽っていたソファーに3人仲良く並んでお茶を飲む。 び、微妙だわ…と真中にちょこんと座ったタルタルの娘はマグカップをふぅふぅ吹いた。 大体このミルクの中にとかされたチョコだって、ヒュームの青年がお土産にと持ってきたものだ。 「俺、チョコレート嫌いだからあげる。」(にっこり) あんた鬼か!あんぐりと口をあけたが、 それでもいいと言うんだから、世の中には打たれ強い女性もいるものだ。 「くれた娘はすごくいい子だから、おいしいとおもうよ〜」 …やっぱここらへんの微妙な優しさが罪よね… 「あ、そういえば彼女にチョコもらったんだって?」 「そうそう。それでさー、こいつがさー、ヤキモチ焼いちゃってね〜vね。」 「う…うるしゃい…」 ふぅん、と興味深く彼女をみつめた青年は、 じゃあ取り越し苦労だったねぇと呟いて優しく頭を撫でてやった。 「あの子もね、自信持てばいいのにね。すごくチャーミングなんだから」 「え?え?」 「ああ、彼女好きな奴いるんだってよ。俺、試食係。調理教えたの俺だし。」 「あら…じゃあ…」 取り越し苦労にも程がある。自分1人でじたばたしていたのが馬鹿らしくなって、 娘は天を仰いで やれやれと呟いた。 「でも…うらやましいなぁ。俺にも嫉妬してくれないかな」 ヒュームの青年がぼそっとつぶやく。 何だとー!と過剰反応するエルヴァーンの青年を横目で眺め、ふふんと笑う。 わたし、ダシかな。 二人の間で首をすくめ、少女はずずーっとミルクを啜った。 ******************************************* ジュノをぶらぶらしていると、彼女を見つけた。 何だか元気なさそうだ。 不安がなくなったからといって突然親しげに声を掛けるのもなぁ、と首をかしげて それでもまあ挨拶は、と歩み寄ると背後からぽんぽんと肩を叩かれた。 振り返ると馴染みのガルカが手を振っている。モンクの彼は古い友人の1人だ。 「あ〜〜〜おっちゃ〜ん、ひさしぶり、どこいってたの」 「おっちゃんはよせ…。用事でバスに帰っていたんだが、やっと終わってね。」 「じゃあ又ジュノにいる?あそぼうよ〜〜」 「ああ、またしばらくここにいるつもりだから、今度ダンジョンにでも行こう」 他愛も無い会話をしばらく交わした後、ばいばーーい、と手を振って別れる。 彼女に挨拶できなかったなぁ、と後ろを向くとその本人が泣きそうな目でこちらをみている。 ど、どうしたんだろう、ま、まさか 走りよって、こんにちは、と挨拶する。 ぺこりと頭を下げたヒュームの女性はしばらく迷った後、意を決したようにしゃがみこんだ。 「あ、あの」 「はい?」 「あの方と、親しいのですか?」 はいビンゴーーーーーーーーーーー 「あの方って…さっきのモンクだよね?」 はい、と彼女は薔薇色の頬を更に赤くした。 お茶を飲みながら話を聞く事にする。 曰く、何度かPTを組んで彼の人柄に惚れこんでしまったと。 街で出会えば手を振り合って会話も交わすが、いまいち一歩すすめない… 「あの人、大人だし…私みたいな小娘相手にしてもらえないかもって思うと…」 「それに…甘いものとかおよびじゃなさそうで…」 手にした包みをぎゅっと掴む。可愛らしい… だが。 彼女は思い違いをしている… 「あのね、あのひと、若いよ」 「え?」 「老けてるからおっちゃーん、なんて言ってるけどあたし達と同じくらいだよ。」 ついでに甘いものには目が無いのだ。 「貴女みたいな女性にチョコもらったらあいつ浮かれるだろうな〜〜彼女いないし」 ガルカでも群れから長く離れて暮らす冒険者はあまり種族の風習にとらわれない。 頬を真っ赤にして包みを見下ろす女性に、ちょっとでもマイナスの感情を抱いた自分が恥ずかしい。 確かに自分の恋路は譲れないが…他人の恋路は応援するのが筋というものだ(少し違う) タルタルの娘は故郷で取ったお守りを取り出した。 「これ、もってるといいこと有るんだって!貸して上げる!」 「四葉…?」 「そそ。上手くいったらちゃんと返してねv」 はい!と何度も頷く彼女にぱちんと片目をつぶってみせる。 今度みんなでPTでも組もう。 四葉の効果はきっとでるはずだ。 おしまい