西サルタバルタの星降る丘。既に日は沈んでいたが、満天の星空が辺り一帯を明るく照らし出していた。  その輝く夜空の下で妖しく蠢く大小二つの影。脇には服と鎧が打ち捨てられていた。 「ねぇ……、こんな所に居ると誰かに見られてる気がしない?」  小さい方の影は、あどけない顔をしたタルタルの少女。上気した素肌からは湯気が立ち昇っているかのように見えた。 「でもそういうの、嫌いじゃないだろ?」  影の片割れ、長身のエルヴァーンの青年が言葉を返す。彼は引き締まった筋肉質の胸に少女を抱いて、その背中を優しく撫で擦っていた。 「ところでさ、その被り物……いつまでしてる気?」  青年は少女の頭を軽く叩く。そこに有ったのは白くて丸い大きな帽子。真ん中には可愛らしい緑の双葉がピョコンと生えていた。曰く、バレンモレン帽子屋の最新作らしい。 「いいじゃん、このままで。モンスターとしてるみたいで燃えてきたりしない?」  少女は悪戯そうな瞳をして青年の顔を覗き込んだ。それから自分の肉体を彼の腕の中に強く押し込む。 「俺が燃えるのは120cm以下の女の子だけだよ。」  青年は笑ってそう答えると、体勢を入れ替えて少女の上に覆い被さった。  あぁっ、という苦しそうな呻き声が少女の小さな口からこぼれた。 星降る丘、Twinkle Tree秘密基地。 Tit「Tom隊長、事件です!」  偵察に出ていたTitが慌てて駆け込んでくる。光合成は出来ない時間帯なのに、ゼィゼィと贅沢に二酸化炭素を排出していた。 Tom「さっきの変な音のことか? 大方タルタルが受粉でもしてるんだろ。無視だ、無視。」  報告を受けたTomは余り取り合おうとはしない。既に体半分を地面に埋めて眠る体勢だ。 Tat「ちゃうねん。ど〜も、マンドラの誰かがエロヴァーンに襲われてるっぽ。助けるべし、助けるべし。」  TatもTitに少し遅れてやってきた。そして手をパタパタと動かしてTomを急かす。  二人の話しをしばし聞いてから、Tomはどっこいしょと言いつつ土からピョコンと跳び出した。空中で前転して気合を入れた後、Tomは二人に号令を掛ける。 Tom「話しはわかった。同族のピンチを放っておく訳には行かないな。Tit、Tat、出撃だ!」 Tit「らじゃ、です!」 Tat「いえっさ〜、と言ってみる。」  草むらの中からは二人の荒い息遣いと、周期的に漏れる獣の様な喘ぎ声だけが聞こえてきた。星明りに照らされた二人の顔は、苦痛のためか愉悦のためか酷く歪んでしまっていた。 「アタシ……もう……ダメ……。」 「くっ……出すぞ……。」  二人がそう言い交わした……瞬間!! Tom「とうっ!」 Tit「お待たせです!」 Tat「痛いエロヴァーンが居るのはここでつか?」  突如、三人のMandragoraが草葉の影から跳び出してきた! Tit「か弱い(=Tiny)Mandragoraを苛めるのは許さないです!」 Tat「サルタバルタを荒らす香具師は逝ってヨシ!」 Tom「我ら、植物戦隊ドラゴラマン、ここに見参!!」  バーン!という背景の描き文字と共に、三人のポーズが見事に極まる。  言葉は通じてない筈なのに、草むらの二人は思わず硬直してしまった。 Tom「Tit、Tat、フォーメーションTTTだ!」  Tomの掛け声で三人は一斉に散開し、エルヴァーンの青年の三方を取り囲む。そして頭の双葉の下から種を取り出すと、空中高くへと投げ上げた。  解説しよう。MandragoraのTomとTitとTatの怒りが頂点に達したとき、三人の持つ種子のどれかがランダム(?)で召喚獣Tom Tit Tatへと生長するのだ!  今回発芽したのはTomの持つ素敵種。種は地面に潜り込むとすぐさま大きな双葉を生やす。そして土の下からは巨大な体躯のMandragoraがムクリと起き上がってきた。 Tom「行け、Tom Tit Tat。このエルヴァーンをやっつけろ!」 Tit「頑張るです!」 Tat「抉り込むようにして打つべし! 打つべし!」  Tom Tit Tatはヒョコヒョコと青年の前まで歩いていくと、柔らかそうな手をググッと握って腕を大きく振りかぶる。  青年は動こうとしたものの、さっき驚いた拍子に堪えていたものを流してしまい、完全な虚脱状態に陥っていた。 Tom「喰らえ正義の鉄拳! フルゥゥツ……パァァァンチ!!」  Tomの台詞と共に繰り出された拳がパッコーンと青年にクリーンヒットする。  青年の体は見事に吹っ飛び、星空の彼方へと消えていった。  [WINNER: Tom Tit Tat!] とエフェクトが出るのに合わせて、三人は勝利のポーズを極めた。結成以来初めての快勝に三人のポーズにも気合がこもる。今日は徹夜で祝勝会をすることが、この瞬間に確定した。 Tom「譲ちゃん、悪党は退治したぜ!」 Tit「困ったことが有ったら、いつでも呼んで下さいです。」 Tat「でわ、さやうなら。」  疾風のように現れた三人組は、帰りも怒涛のように去っていった。  少女は両脚を広げたままヒクヒクと痙攣していた。だが、勝利の美酒に酔いしれていた三人はそのようなことなどに構う由も無かった。 Tit「ところで隊長ぉ。さっきの娘、少し変な顔してませんでした?」 Tom「戦いに勝ったんだ。些細なことは無視だ、無視。」 Tat「タル子タソ、ハァハァ……。」