(どうしてこんなことになったんだ・・・?)
僕は朦朧とする頭で考えるが、熱に浮かされた思考はまともに働かない。
ただどうしようもなく躯が熱かった。

つい先日のこと。僕の森に新しい子どもがやってきた。
その奇異な姿や振る舞いはひどく浮いてい、そのため仲間外れに近いような扱いをされていた彼を僕は放っておけなかった。
だから彼を僕のテリトリーに入れてやり、この森で生きてゆくためのすべを教えてやろうと思ったのだった。
僕はこの森にとても長いこと住んでいるので大抵のことは知っていた。
森のきれいな湖のことも、色付いた木の葉のうつくしさも、何もかも。
そのことを彼に教えてやりたかった。
・・・なのに。
「・・・ぁっ、は・・・や、やめろえるっころ・・・!」
ぐちぐちと生々しい音が木のうろに響く。
僕は荒い息の下から必死でそう云うが、彼はその行為をやめようとはしなかった。
「どうしたんですか月ぞーくん。ほんとうにやめていいんですか?」
今やめたら後がつらいですよ、と耳元で囁く声にぶるりと躯が震えた。

「い・・・やだ、やめろ・・・どうしてこんなこと・・・、」
ぽろりと涙が零れた。どうしようもなく哀しくて、つらくて、くるしかった。
けれども、その奥に疼くような快感がはしるのに僕は気付いていた。
そして彼もそのことに疾うに気付いていたのだ。
僕の頬を伝う涙に彼は舌を這わせた。
彼が躯を動かす度に、繋がっている箇所に刺激がはしる。
「・・・っ、える、ころ・・・っ」
震える声で彼の名前を呼ぶと、彼は爆発的な喜色を見せた。
いつもと変わらない無表情の中でもそれは僕にはっきりと伝わってきた。
「月ぞーくん、気持ちいいですか? 
いいはずですよね。だってあなたのここはこんなにも悦んでいますよ」
そう云って笑うと、彼はまた深く腰を進めた。
「・・・っ!」
急速に増した圧迫感に息が詰まる。くるしくてたまらない。
いやだ・・・怖い、くるしい、怖い、いやだいやだいやだ・・・
自分の躯なのに自分のものじゃないみたいだ。
熱くて熱くて死んでしまいそうだ怖い怖い怖い・・・いやだ・・・!
恐慌状態に陥る僕に彼がくるしそうに声を掛ける。
「・・・っ、月ぞーくん・・・息を、ゆっくりと吐いてください」
大丈夫です、怖くありません、さあ深く息を吸って・・・そう、その調子です・・・。
彼の声に合わせて呼吸を繰り返す。
喘ぐように浅く、断続的だった呼吸が次第に落ち着いてくる。
・・・大丈夫、怖くありませんよ、私はずっとあなたの傍にいます。
ゆっくりと紡がれる彼の言葉にこころが穏やかになってゆくのを感じた。
圧迫感はまだ消えないが、ぼろぼろと流れ続けていた涙はとまった。
そっと繋がれた手はあたたかく、とてもやさしかった。
大丈夫です、大丈夫・・・どうか泣かないで下さい・・・
あなたに涙を流されると私はどうしようもなく哀しくなります。
そう呟く彼の方こそ泣いてしまいそうで、僕は思わず彼に手を伸ばしていた。
ちいさな彼は今までどうして生きてきたのだろうか。
庇護してくれる相手はいたのだろうか、つらくはなかったろうか。
自然の中で生きてゆくと云うことは考える以上に困難なものだ。
この広大な森の中で、ひとりで生きてゆくのはとても哀しいし寂しい。
僕は彼に伝えなくちゃならないことがあるんだ。
「えるっころ・・・僕はね、お前に逢えて良かったと思ってるよ。
僕はずっと孤独だったんだ、誰かと寄り添うことなく今まで生きてきた。
こんな風に、他人と触れ合うことが心地いいなんて思いもしなかった。
・・・僕はね、お前が好きだよ、とても好きなんだ」
そうして微笑してみせると、彼は瞠目した。
繋いだ手にきゅっと力が込められるのを感じる。ちいさく震えた手。
「・・・いいよ、お前なら大丈夫。もう怖くないよ」
「・・・・・・月ぞーくん、」
僕らは互いに孤独だった。だから僕らは逢うべくして逢ったんだよ。
「・・・生まれてきた中で、今夜がいちばん幸せです」
「うん、僕も」
彼が心底嬉しそうに笑う。
僕は、彼がこんな風に笑顔を見せるためなら、
少しくらい痛みを我慢することなんて何てことないと思った。

(終わり)





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