「あ…あ……」
夜神は呆然として私を見上げた。数秒間目の焦点が合っていなかったのは
私の気のせいではないだろう。
彼は最早現状を把握しようともしていなかった。それ程私の目の前で失禁して
しまったことが衝撃だったようだった。
私は特に態度を変えたりはせず、じっと夜神を見下ろした。シーツを濡らしたまま
へたり込んでいた青年が徐々に混乱から醒めていくのが手に取るように解った。
だからこそ私は彼の髪を掴んでぐいとシーツに押し付けてやった。
「……!」
突然、思い出したように抵抗を始めた夜神の耳元に、噛み付かんばかりにして私は言葉を吹き込んだ。
「粗相をしてシーツを濡らしたのは貴方です、夜神くん」

私がそう云った途端、夜神は息を詰めて硬直した。いかにもなめらかそうな頬から
スッと血の気が引いていくのがよく見える。夜神は明らかにこれ以上抵抗していいものか
どうか迷っていた。
「どうしたのですか。抵抗しないのですか……ああ、出来ませんよね」
云って、私はわざと少しだけ押さえつける手から力を抜いた。
案の定、こちらを殺意以外の何ものでもない激情と共に睨み付けた夜神に向かって、
私は唇だけを笑みの形に歪めて見せた。
勿論私は笑ってなどいない。
「さあ、どうしますか?例えこの状況から逃げ出せたところで、
貴方のしたことに変わりはありませんよ」
私の腕の下で夜神は屈辱と羞恥に体を震わせていた。それでも彼は私から目を逸らそうとはせず、
それが尚更私の嗜虐心を煽るのだった。

「……どうする、つもりだ……」
夜神は必死に自制心を保とうとしてか、何度も唇を噛んだ。これだけ不利な状況下においても
自らの尊厳を保とうとする姿を眺めることは、私に想像以上の愉悦を与えた。
「そうですね、……ご自分で責任をとって下さい」
云いながら私は自分の発言にいっそ笑い出しそうになっていた。そもそも彼がベッドの上で、
そして私の目の前で失禁するように仕向けたのは私だったし、彼もそれをよく理解していたはずだった。
だが恐らく混乱が彼の判断力を失わせているのだろう。彼は言葉に詰まり一層の屈辱を表情に
滲ませたものの、自らで責任を取るべきだという私の発言の矛盾を指摘することは無かった。
「汚してしまったんですから、綺麗にするべきですよね?」
「な……っ!」
私はそのまま有無を云わさず夜神の顔を濡れたシーツに押し付けた。

「んっ、んーッ!」
夜神がようやく全力で抵抗を始めた。だがそれも遅い。頭を押さえつけられた状態では
抵抗らしい抵抗など出来るはずもない。私は用意しておいた潤滑剤のボトルを片手と口で開け、
中の液体を適当に掬った。
最初から彼に失禁させるつもりだった私は既に彼のズボンと下着を取り去ってしまっている。
私が指を彼の内部に突き込むと、夜神は驚いたように身体を竦ませ、咽喉の奥でくぐもった
悲鳴を上げた。
構わず内部を指で擦り上げる。決して急がず、襞の一本一本を辿るようにしながら徐々に
指を馴染ませてやると、度重なる行為に慣れ始めていたそこは柔らかく開いた。
「ん、んぅ……」
やや強めに押さえつけているので呼吸するのも苦しいのだろう。夜神は先ほどまでは
青褪めていた頬を今ではすっかり紅潮させ、時折弱弱しい抵抗を繰り返していた。

私が夜神の身体に押し入る頃には、夜神の抵抗は形ばかりのものとなっていた。
それでも彼が無駄な抗いを止めようとしないのは、私が彼の顔を彼が濡らしたシーツに
押し付けたまま開放しないからであった。
顔を何とかシーツから離そうとしながら、夜神は空しく歯を噛み締めていた。
ぎりぎりと、彼の自尊心が折れそうに軋む音がする。
私はゆっくりと腰を使いながら執拗に夜神の頭を押し続けた。
「うう……っ!」
夜神は呻き声を漏らしながら、少しだけ腰を揺らした。私がいつまでも明確には動こうと
しないので、もどかしくなったのだろう。だがすぐに気付いて一層強く奥歯に力を込めた。
私はそのままじわじわと、彼が絶頂に達する直前までたっぷりと時間を掛けて追い詰めていった。
夜神の息は先程から上がりきったままだ。今にも達するというところだが、素直に感覚だけを
追ってはいられないらしく、それが逆に彼を追い詰めていた。
私は敢えてずるりと彼から身体を引き離した。

「ああ済みません、抜けてしまいましたね」
解り切ったことを故意に口にしながら、私は夜神が唐突な行為の中断に身体を震わせる様を
後ろから伸し掛かった状態のまま眺めていた。
「まあいいです、性行為が目的なのではありませんから……」
そんな言葉を吐いて見せると、夜神が反論したげに抵抗する力を強めた。しかし予想以上に
切羽詰っていたようで、些細な抵抗はあっと云う間に止んだ。代わりに、いかにも苦しげに
下肢を震わせる。
私はさして語調に変化をつけたりなどせず、彼の首筋に唇を這わせながら彼への指示を口にした。
「貴方が汚したのです。舐めて綺麗にして下さい」
「そんな……!」
思わず声を上げた夜神の耳を軽く咬んでやる。まだ昂ぶったままのものを押し当てると、夜神は
絶え入るような吐息を零した。
「自分のしてしまったことには責任を取るべきではないのですか」
「あ、あ…は……っ」
緩く開いたそこを掠めながらぬるぬると周囲を辿っていると、耐え切れなくなった夜神が自ら腰を
押し付けてきた。何とか先端を探り当てたものの、それ以上は私が腰を引いてしまうためどうしても
進めずにいる。とうとう喘ぎに涙声が混じり始めたのを見て取って、私はもう一度彼を促した。
「ほら、夜神くん……するべきことをしてください」

夜神は私の前で涙を流そうとだけは決してしなかった。
だが彼の伏せた睫毛が滲んだ涙を含んで湿っている様子を、私はじっと見つめていた。
「……っ、……」
屈辱の余り今にも崩れ落ちそうになりながら、夜神はゆっくりとシーツに舌を這わせた。ぴちゃ、と
微かに聞こえる水音を確認し、私はやっと夜神の中に熱を持ったものを押し込んだ。
「あ……!」
途端に背を反らした夜神に、シーツを舐める行為を中断しないよう冷たく警告する。そうして私は
最早遠慮も何も無く夜神に欲望を叩きつけた。
私に揺すぶられながら、夜神はほぼ泣き声に近い喘ぎを上げ続けた。きっと泣き出してしまった方が
彼には楽だっただろう。だがそれを自らに許してしまうには夜神自身の尊厳が邪魔をしていた。
「っふ、う……あ、ああっ」
夜神は絶頂を迎えると同時に力なく崩れた。構わず彼の腰だけを抱え上げて行為を続ける。それは
私が性欲を解消しきるまで続いた。
ようやく彼を開放してやると、夜神は堪え切れなかった涙を一筋頬に零し、息を引き取るようにして
目を閉じた。




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