頬を叩かれている……
うっすらと目を開くと、二人の男が、顔を覗き込んでいた。
「良かった!息を吹き返したぞ!
息もしていなかったから、一時はどうなることかと・・・・・」
「……」
長髪の男が一方的にしゃべっている。
「ああ、警戒する事はない。俺は、園田哲也。
ペンタグラム・・・・・・・所謂レジスタンスのメンバーだ。
で、そっちにいるのが、上河公輝だ。」
園田に紹介された上河が、ぺこりと頭を下げるのが見えた。
彼は短めの灰色の髪だった。
二人とも汚い鎧を着ていた。
ペンタグラム………シェルターにいたころ聞いた事がある。
たしか、新宿解放を謳い文句にしているレジスタンスだと…
「それにしても、こっぴどくやられたもんだな。
君は・・・・・・・・・どこのデビルバスターだ?」
僕は黙っていた・・・・・・・・・
『シェルターに憎しみを持っているから
地上の人間には、注意しろ。』
シェルターにいた頃、そういう話も聞いた事がある。
他に悪魔を信仰する宗教も流行っているとも噂されている。
何事にも用心することは間違いないだろう。
出来るだけ、自分の素性を話さない方がいい。
ましてや、初台シェルターを壊滅させた張本人であることをばれてはいけない。
「君、デビルバスターなんだろう?
そのアームターミナルは、デビルバスターに支給される物だからね。」
デビルバスターか・・・・・・・・あれだけなりたかったデビルバスターはこのアームターミナル一つでなれるとは。
少し苦笑した。
そこだけは山瀬に感謝しなければいけないか。
「あ・・・・・・・・これ・・・・・・・」
先程、上河と呼ばれた青年が、辺りに散乱した葛城の持ち物から、カードを拾い上げた。
「園田さん。やっぱりこの人、初台の人です。
葛城・・・・・・史人さんですね?」
「何だって!君は初台シェルターの生き残りか!
俺達も初台の有り様は聞いたよ。
それにしても・・・・・初台の生き残りがまだいたとはね!」
初台の生き残り?
あの状況で生きている人はいるのか?
本当なのか?
僕は疑問を持ちながら黙っていた・・・・・・
「君の前に、男女一人づつの生き残りが発見されている。」
男女一人づつ、まさか?
「彼らも君と同じように、この東京をさまよっている所を我々が発見して、ペンタグラムに来てもらった、という訳だ。」
早坂と桐島なのか?
ダンタリオンから逃れることができたのか?
疑問が次々と湧き上がる中、園田はしゃべり続けた。
「原宿も、D.D.M.によって侵入した悪魔にやられた。
俺も、君と同じように全てを失って、何とか地上に出て来たんだ。
やはり・・・・・・こうなると、残る御茶ノ水シェルターも免れてはいないだろう・・・・・・・・。」
御茶ノ水シェルター……
僕がD.D.M.を送ったシェルター。
今頃、地獄になっているだろう。
この罪が重みとして僕にのしかかる。
「どうだ?君も、ペンタグラムに来ないか?
他のシェルターを助けるにしても、労働キャンプを解放するにしても、君一人じゃ到底無理だろう?
それに、その傷だ。このままじゃあ、野垂れ死ぬのがオチだ。
ペンタグラムは、同じ志を持った人間が集まった組織だ。
君にとって、損になる事はない。」
「それに、初台の生き残りの二人もいるし。」
園田の勧めに上河がさらに僕にとって気になる二人のことを付け加えた。
「ただ、ペンタグラムの人間は、シェルター生活者じゃない人間が殆どなんだ。
だから、シェルターに篭って安穏と生きてきた俺達のような人種を、毛嫌いしている。
とはいうものの、デビルバスターの悪魔に関する特殊知識には一目置いている。
十中八九受け入れてくれるだろう。」
このまま、あてでもなくこの東京をさまよう訳にもいかない。
シェルター育ちの人間など、外世界の悪魔やごろつき共を相手にしては、それほど長くは保つとは思えない。
それに、同じ目的の組織があるならば渡りに舟ではある。
どうする・・・・・・・・・?
しかし、このまま単純に相手を信用して良いものか・・・・・
僕は疑いを抱いた。
それを察してか、園田は真剣な面持ちで言った。
「君も解っているとは思うが、このままひとりで行動しても無意味だ。
君が理解している以上に、この地上は危険に溢れている。
悪い事は言わない。
俺の言う事を信じてくれないか?君を助けたいんだ。」
やはり信用出来ない
僕の疑いは、それでも消える事はなかった。
口を結んで園田を見つめる・・・・・・・・・・
「何故なんだ・・・・・何故そうまで?
頼む!
俺の言う事を信じてくれないか?君を助けたいんだ。」
本当に園田は心配しているようだ。
このまま地上に生きていけるのだろうか?
生きるために、
そしてあの悪魔たちを殺すために
僕は園田に着いて行くことにした。
「よし、そうと決まったら、早速行こうか。
このジープの後ろに乗ってくれ。
上河君。彼を手伝ってやってくれ。」
「はい。
大丈夫ですか?そっと行きますよ・・・・・・」
僕は上河に手伝ってもらい、ジープの後ろに乗り込んだ。
「ちょっと揺れますから、しっかりつかまってて下さいよ!」
一行を乗せたジープは、一路ペンタグラム前線基地へと向かった。
がたがたと揺れる車上で黄昏の赤く染まった東京をぼんやりと見た。
かつて東京では、壊滅的な災害が何度もおきた。
その度に、驚異的な復興によって蘇った。
しかし、20年前に落ちたミサイルと悪魔たちは東京の復興を許さないようだ。
凶鳥がはげたかのように空を迂回しながら獲物を探している。
もう、この世界は悪魔のものか?
唯一人間の世界であったシェルターは壊滅し、悪魔の支配するこの荒涼とした東京に絶望を感じた。
昔習った歴史を思い出し、物思いにふけた。