作:たつみ
何故上陸を許した。
何故連合軍がベルリンに進行している。
何故優秀たるアーリア人が負ける。
何故、何故、何故、何故、何故、何故・・・・・・・・・。
煙がまだ出ている銃を持ち、呆然とした。
我が愛する女性はもう物を言わぬものとなった。
私の作戦ではこんな結末ではなかったはずだ。
そうだ、ラスト・バタリオンはどうなった。
彼らを投入すれば、誇り高き我が帝国からあやつらを追い出すことができるではないか?
「おい、ラスト・バタリオンを戦地に投入しろ!・・・・・・誰かいないのか?・・・おい・・・。」
「誰もいないようだな。大方逃げたのだろう。」
私の後ろにいつのまに闇色のロープを着ているエルンスト・プレッシュが立っていた。
彼は私に普遍的無意識と交流し、精神の力を操る魔術を教えた。
「逃げるような者は正当なアーリア人の血統ではない。」
と言いながら、通信機に手を伸ばした。
「無駄ですよ。」
「何が無駄だ。」
「疲れもしない、眠りもしない、不死の軍隊という都合のいいものはこの世には存在しないのだよ。」
「我が帝国の技術を持ってすれば、機械化した軍隊はできると言ったのはおまえだ。
それを今更無いとは何だ。あの時見せた、あの兵隊はどうなった。」
「機械化した軍隊なんぞ、この世のどの国の技術でも作る事はできまい。
少なくとも今世紀中はそんな者は存在しないのだよ。ただ悪夢から生み出されたもの以外は・・・」
何か自分の中で壊れた気がした。慌てて棚に飾っていた古ぼけた槍を取り出した。
「ラスト・バタリオンなんぞ無くとも良い。私にはこのロンギヌスの槍がある。
すべてを支配するこの槍のおかげでここまで帝国が大きくなった。
この槍を掲げながら指揮をとれば連合軍なんぞ蟻の大群に過ぎんわ。」
「良く考えてみることだな。2000年弱前のたかだか一兵が持つ先端が欠けた槍がまだこの世に存在していると思うか?
たとえ存在したとしてもその槍を持ちし過去のどの人物が世界を支配したことがあるか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
何も反論できなかった。
闇の中で見えないはずの彼の顔に嘲笑めいた表情が浮かんだ。
手の中にある槍が砕け、砂になった。
「おまえが信じていたすべてがおまえの都合のいい幻想に過ぎないのだよ。
アーリア人が優秀だ?そんなものおまえが開いた遊戯大会で見事に否定されたではないか。
二面作戦が成功するか?そんなもの成功するわけあるまい。」
「うるさい!!」
乾いた音がした。しかし、それでもまだ喋り続けている。
「その麗しき女性と純愛をしていると思っているのか?」
屍体の口から何か聞こえた。
頭の中が何か巨大なものに食われている。
「おまえが正当な血を持っているアーリア人なのか?」
頭が真っ白になった。もお、何も考えられない。
「ククククク・・・・・・」
冷たい笑い声が部屋を響く。
「おまえのような人間は私は大好きだよ。自分の欠陥を知らない振りをし、ただ支配することに喜びを感じる。
そういうものにほんの少し力を与えるだけ人々の間に混乱が生じる。そして多くの人々は苦悩し、滅ぶ。
人々の苦しみは私の喜び。この喜びを得るためになかなか人選が難しいのだよ。
これほどうまくいったのはあのナポレオン以来だ。」
彼の顔が醜く変容している。まるでワニの顔に無数の触手が生えているかのようだ。
「そういえばナポレオンもまたロシアで失敗したな。クククク・・・・・・。」
その笑い声を聞くだけで頭が割れそうになる。
「槍に刺されたあいつもなかなか面白かった。『神よ、なぜ私をお見捨てになるのですか?』と私に言ったのだよ。
最初から予定された死なのに、それを受け入れようとはしなかったんだよ。神に捧げた身なのにな………はははははははは………」
原始的な太鼓の音が聞こえてくる。
「おまえは何者なんだ。」
「私は千の顔を持つもの。そして、顔を持たぬもの。最近では私のことをナイアルラトホテップと呼ぶものもいる。」
私の口が何か発した。
「しかし、名など意味はないものだ。大切なのは本質だ。私はすべての暗き意志。白痴の塊の使者。
私はいつもいつもいつもいつもいつ…も……いつ……気がクルぅっているんだよ。」
銃声が遠い所から聞こえた・・・・・・・・・・。
「ひゃはははははは、おまえは永遠になったのだよ。おまえの名は恐怖の印。
おまえの妄想が新たな狂気を生む。おまえの思想は新たな悲劇の引き金となる。」
意識が薄れていく。
「おまえは幸せだよ。人間の新たな原形となったうえ、これから訪れるアーカム計画の産物による冷たい戦いを味わなくて済むとは・・・。ヒャハハハハアア……」
後書き
第2弾の小説です。
一応ペルソナ2罪のラスボスをイメージにしました。
やっぱりクトゥルーものです。
だんだん危ないものを書いている気が…。