26/truth
17day/November 6(Wed.)
シャーロック&ルイ作
私はその後、ずっと部屋の中でジッと窓の外を見ていた。
胸のペンダントを握りながら・・・。
「ユイ・・・」
ユイの事がずっと頭の中でぐるぐると回っていた。
ユイとのはじめての出会い、私の力をユイに分け与えたこと・・・。
しばらく物思いにふけっていると日が落ち、夜になった。
少々小腹がすいてきた・・・、しかしこの部屋は結界を張られているため出ることできない・・・。
しかしユイに無事の為なら子のぐらい平気だ。
その時だった。
扉が開き、フェーダーが帰ってきた。
顔の様子から伺うと、収穫は無かったようだ。
「ユイは?」
一応私はフェーダーに聞いてみた。
「収穫ゼロだ。ユイの「風」を探ってみたが、あちこち切れてしまっていて後を追えなかった。どうやら天気の関係とユイの移動している場所が悪いらしい。また明日、捜索を再開する」
「そう・・・」
よかった・・・。
「私は上で風を浴びてくる。おとなしくしていろよ」
私は返事をしづ、そのまま窓を眺めた。
そしてフェーダーは部屋を出て、屋上に上った。
このホテルは他の建物より若干高いため、風を浴びやすい場所になっていた。
フェーダーは目を閉じ、周囲の風を浴び始める。
その時、フェーダーはあたりの風の感じが変わったことに気づいた。
「何者だ?」
「あなたね、エレイスをさらったのは」
「お前は真祖の姫君・・・お目にかかれて光栄だな」
「その服装・・・シエルに似ているわね?」
「私の名はフェーダー、埋葬機関の予備員だ。以後、お見知り置きに」
「やはり、ということはここにエレイスがいるのね?」
「ご名答、ここで監禁している・・・シエル姉さん、あなたもいることは知っている。出てきたらどうだ?」
すっとアルクとは反対の方からシエルが姿を現した。
ちょうどフェーダーを挟むようになった。
「真祖の姫君はともかく何故シエル姉さんが?」
「エレイスさんを救出しに来ました。もう私と同じような目に会う人はもう必要ないですから」
「それは機関の命に逆らうことになるが?」
「機関とは関係ありません。これは私個人のことです」
フェーダーは軽く腕を振り、険を出す。
アルクェイドは爪を伸ばし、鋭くフェーダーをにらむ。
フェーダーは、左腿のホルスターからハンドガン「サイレントガンナー」を抜き、背後に立っているシエルに銃口を向ける。
アルクェイドはフェーダーに向かって攻撃を開始した。
フェーダーは爪の攻撃を剣で受け止める。
「シエル!今のうちに!」
シエルは非常階段に向かって走り出すと、フェーダーはアルクェイドの方を向きながら拳銃のトリガーを引く。
弾丸はシエルの背後をかすりそうだったが、一発も当たらずに何とか非常階段に着き、階段を下りる。
「ちっ!」
アルクェイドはフェーダーの腹めがけて爪を食い込ませようとするが、寸前で跳躍し、一回転しながらアルクェイドの背後に回った。
そしてそのままアルクェイドに向かって剣を振る。
しかしフェーダーには分かっていた。
真祖の姫君には到底力が及ばないと…。
フェーダーはうまくこの場を切り抜け、部屋に戻ろうとしているのだ。
トリガーをアルクェイドに向かって引き続け、少しづつ非常階段に向かって後退し始める。
シエルは結界の気配をすぐに察知し、私がいる階へ到着した。
私がいる部屋もすぐに見つけ、黒鍵で扉を開ける。
「無事なようですねエレイスさん」
「シエル先輩・・・」
先輩は、結界を立ちきると私の様子を見た。
「大丈夫なようですね、さっ、早くここから出ましょう」
「えっ、あっ・・・はい」
私は先輩に着いてゆく。
屋上に上がると、私はアルクェイドとフェーダーの戦いを目の辺りにした。
「シエル!」
フェーダーは銃口をシエルに向けるが、アルクェイドはすかさずフェーダーの鳩尾に拳を食らわせ、意識を失った。
「エレイスさん、捕まって」
「はい先輩」
私は先輩に捕まると、先輩は高く跳躍しながら移動を始めた。
アルクェイドもシエルに着いていくように移動をする。
フェーダーは薄れゆく意識を何とか取り戻すと、アルクェイドとシエルの去っていった方向を見た。
「逃がすか・・・」
その頃、志貴と秋葉は就寝時間が過ぎても起きていた。
琥珀さんは二人に気を使って紅茶などを出している。
二人とも、疲労で疲れ切った顔をしている。
「志貴さん、秋葉様、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ・・・」
「俺も・・・・・・」
その時遠野家の呼び鈴が鳴った。
翡翠が扉を開ける。
「ただいま、翡翠さん」
「エレイス様っ」
翡翠の声で志貴と秋葉は居間を飛び出し、玄関へ向かう。
「エレイスっ、無事だったか!?」
「はい、何とか・・・」
「無事で何よりです。いろいろ聞きたいことがありますが今日はもう遅いです。また明日にしましょう」
「・・・はい」
私はすぐにお風呂に入り、一日の疲れをなくそうとするがユイとフェーダーの事が気になってなかなかとれなかった。
風呂を出て部屋に戻ると、私はベッドに倒れ込んだ。
ユイからもらったペンダントを握り、無事のようにと祈った。
「ユイにでも祈っているのか?」
その声に私は顔を上げる。
すると窓の外で「風」を使い、空中に浮いているフェーダーがいた。
窓を開け、ゆっくりと中へ入るフェーダー。
「私から逃げられると思っているのか?」
「・・・いいえ、そんなことはこれっぽっちも思っていないわ。でも・・・」
私はフェーダーの前まで近づく。
「あなた、独りぼっちで寂しいんでしょ?」
「なに?」
やっぱりだ。
「どんな過去があったか知らないけど・・・あなた、独りぼっちの寂しさを任務で紛らわしているんでしょ?」
「そ、そんなこと無い」
私はフェーダーを抱きしめた。
そう、いつもユイがしてくれているように・・・。
こうするといつも私は心が落ち着く。
始めは抵抗していたフェーダーだが、徐々に落ち着いてきた。
「どうして・・・私が独りぼっちだと・・・・・・」
「幼いとき、私も独りぼっちだったから・・・・・・そこにユイが来たの・・・だから私には分かる。あなたが独りぼっちで寂しいんだと・・・・・・」
気がつくと、フェーダーは、気持ちを必死で押さえながら泣いていた。
「エレイス・・・・・・」
私は背中をポンポンと叩き、フェーダーをなだめる。
しばらくすると、フェーダーは落ち着きを取り戻す。
「落ち着いた?」
「ああ、すまない……」
「さあ、もう遅いし、寝よう」
「っ……ああ」
私は、持ってきたバッグからもう一着の寝巻きをフェーダーに渡す。
フェーダーは幸いにも、私と体型が似ており、身長も近かった。
そのため、簡単に服を着ることが出来た。
初めは躊躇ったが、何とか寝巻きを着ると、フェーダーは私の隣に入ってきて、すぐに寝てしまった。
スゥースゥーと寝息をたて、さっきまで勇ましかった顔が嘘のように普通の女の子になっている。
次第に私も眠気が襲い、コテンと寝てしまった・・・・・・・・・。
朝日が昇り、小鳥のさえずりが聞こえると、私は自然に目が開いた。
フェーダーもまだ寝ている。
しばらくベッドの中にいると、コンコンと誰かがドアをノックした。
「失礼しますエレイス様」
いつものように私を起こしに翡翠が来た。
おはようと挨拶すると、フェーダーの姿を見て首をかしげた。
「あっ翡翠さん、このことはまだ誰にも言わないで。後で私から説明するから」
「分かりました。では今でお待ちしています」
翡翠は一礼し、部屋を出て行くとフェーダーも目を覚ました。
「おはようフェーダー」
「ああ、おはようエレイス・・・いい朝だな」
「フフ、そうね」
私はベッドから躰を起こすと、いつもの黒がメインの服を着る。
今日は黒のジーンズに白のラフなカッターシャツにする。
フェーダーは躰を起こすと、まず拳銃を調べ始めた。
「それ、変わった銃ね?」
「私自身が改造を施した。拳銃のモデルはステアーM−GB、・・・といってもお前には分からないか。まあそれをモデルに改造したんだ、シエル同様にな」
「へぇ〜・・・」
「こいつの名はサイレント・ガンナー、今の姿の名はな」
「どういうこと?」
サイレント・ガンナーが光だし、ゆっくりと人の形になってゆく。
光の粒子が消えると、一人の女の子の姿だった。
服装はフェーダーの法衣に似ている。
「始めまして〜、サイレントといいます♪」
「こんにちは、私はステアー、エレイス・ステアーよ。よろしく」
握手をすると、サイレンとはにっこりと笑顔でよろしくと言う。
フェーダーとは正反対の性格だと私は思った。
「さあ、皆が待っているし、行こうか?」
「しかし……」
フェーダーは顔を曇らせる。
そう、昨日に志貴と秋葉を傷つけてしまったからだ。
そのことで二人に合う顔がないと思ったのだ。
「大丈夫よ、私が何とかするから」
「あ、ああ・・・・・・サイレント、戻れ」
「はいマスター」
サイレントは再びガンナーに戻ると、フェーダーの腿のホルスターに収まる。
そしてドアを開け、外へ出ると居間へと私たちは向かう。
居間へつき、ドアを開けると、秋葉と志貴の顔の表情がすぐに変わった。
「何故貴方がここにいるのですか?」
秋葉は激しくフェーダーを睨みつけながら理由を問う。
さすがにフェーダーもこれにはたじろぐ。
「二人とも安心して、もう大丈夫だから・・・・・・」
私は二人に理由を話す。
秋葉も最初は厳しい表情だったが、次第に顔の表情が和らいでくる。
しばらくして二人とも理解を完全に理解を指定くれた。
「分かりました、昨日のことは不問にいたします。フェーダー、これからもよろしく」
「あ、ああ・・・よろしく秋葉」
「は〜い、皆さん。ご朝食の準備が出来ましたよ」
ふとフェーダーは何かにひらめき、サイレントを呼び出した。
「これは私の精霊のサイレントという。こいつを使ってくれ、何かと役に立つ」
「は〜い、サイレントといいます〜♪皆さん、よろしくお願いします!」
「琥珀と翡翠、こいつは家事が得意だ。手伝いをさせてやってくれないか?」
「う〜ん、どうしよう翡翠ちゃん?」
「姉さんにお任せします。私はどちらでも構いません」
「じゃあ決定、サイレントちゃん、よろしくね」
「はい!」
「じゃあ早速お手伝いを頼もうかしら」
琥珀が台所に向かうと、サイレントはトコトコと琥珀さんについてゆく。
こうしてまた新たにフェーダーとサイレントという友人が出来た・・・・・・。
朝食を食べ終わり、私とフェーダーは自室へ戻っていた。
フェーダーはずっと青空を見ていた。
「ねぇ、フェーダー。貴方、空を飛ぶことが出来るんでしょ?」
「ああ、周りに漂う「風」を使って躰を浮かせ、後は気流を読むんだ」
「気持ち良いの?」
「なかなかの物だぞ・・・そうだ、一緒に跳んでみるか?」
「えっ、良いの?」
「ああ、ここに居座ることが出来たのはエレイスのおかげだ。私につかまれ」
フェーダーの背中に捕まると、彼女は窓の外へと飛び出した。
すぐに躰は上昇し、フェーダーは腕を翼のように広げる。
すごい。
まるで本当に鳥になったようだ。
「すごいねフェーダ−、本当に鳥になったようだわ」
「私もこうやって青空と一体化した気分を味わっているんだ。こうしていると嫌なことも何もかも忘れられる」
「本当ね・・・これなら嫌なこともすべて忘れられる・・・」
その後も私たちはしばらく空と一体化していた。
昼になっても、昼食のことなど忘れ、ずっと空になっていた。
気がつくと、三咲町からかなり離れたところまで来ていることに気づいた。
かなりの山奥だ。
「ねえ、そろそろ戻らない?ここ、三咲町からかなり離れているよ」
「そうだな、そろそろ・・・・・・ん?」
「どうしたの?」
「あれ、ユイじゃないか?」
フェーダーが指を指す方を見ると、偶然にもあるお寺からユイが出てくるのが見えた。
髪の色は、以前にも増して赤味がかかっているが、ユイに間違いなかった。
「どうする?降りるか?」
「・・・・・・お願い」
フェーダーは首を縦に振ると、ゆっくりと降下を始める。
ユイも私たちに気配に気づき、顔を上げる。
そっと着地すると、私はユイに駆け寄った。
「ユイっ」
「ステアーッ? どうしてここに・・・」
「この人、フェーダーっていうの。埋葬機関の予備員・・・」
私は彼にすべてを伝えた。
フェーダーに襲われたこと、フェーダーのこと。
「そうだったんだ・・・、フェーダー、よろしく」
ユイはそっと手を差し伸べた。
フェーダーははじめ、戸惑ったがそっとユイの手を握り、握手をした。
「ねえ、ユイはまだ調べることがあるの?」
「いや、もう今、帰るとこなんだ」
「ならよかった。フェーダー、ユイも一緒に跳べる?」
「簡単だ」
「どういうこと?」
「彼女は空を飛べるのよ。だからここまで来たの」
「あ〜、納得」
「私につかまれ、行くぞ」
私とユイは、フェーダーの肩を掴むと、背を低くし、大空へと舞い上がった。
腕を広げ、躰を安定させるとそのまま遠野家へと向かった。
しばらくすると、見慣れた町並みが現れた。
三咲町に到着したのだ。
フェーダーはゆっくりと躰を下へと傾けると、降下を始めた。
すぐに遠野家の屋敷が見え、庭へと着地した。
「ん〜、気持ちよかった〜♪」
ユイはぜんぜん平気な顔をしている。
私も楽しかったけど、やっぱり少しだけドキドキした。
屋敷に入り、秋葉たちにただいまと挨拶し、ユイは荷物を置きに部屋へと向かった。
私もユイを手伝うため、、一緒に部屋に向かう。
「ユイ、何か見つかったの?」
「うん、ある程度ね。少し長くなるけど良いかな?」
「うん、構わないよ」
私はベッドに座ると、隣にユイが座る。
そしてユイの家系について話し始めた。
「僕の家系に遠野の血が混ざったのか・・・そこを重点的に調べてみた。シャーロック家が出来たのはかなり前なんだけど、遠野の血が混ざったのは明治後半からなんだ。ある遠野の血を引く女性と結婚し、僕の曽祖父が生まれたんだ・・・」
私の知らない情報だった。
これは重要な話だ。
「そして遠野の血が覚醒しないかどうか慎重に行動をしていたが、幸いなことに僕の父さんまでが遠野の血が薄かったんだけど・・・・・僕が突然変異で以上に強い血をもってしまったんだ。そしてその血を抑えるために、遠野本家には秘密で・・・君の家族、つまりステアー家に依頼を頼み、僕を監視させる・・・その監視役が君だったんだ・・・」
知らなかった。
私にそんなことが私にあったなんて親からも知らされていない。
「本当なのそれ?」
「間違いない・・・最悪・・・・・・僕を抹殺せよとも依頼したそうだ・・・・・・」
「そ、そんな・・・」
信じられない・・・・・・たとえそれを聞いたとしても・・・・・・私には出来ない。
ユイはそっと私の肩に手を乗せると、ゆっくりと私を抱いた。
「仮に僕が再び暴走しても、その判断はステアーに任す。ステアーに殺されるならそれが本望だよ」
「バカなこと言わないで、私は貴方を助けた、それは今だって変わらない。貴方が好きなんだから!」
「フフッ、ありがとう、ステアー・・・・・・嬉しいよ・・・それと、ただいま・・・・・・・・・」
「お帰りなさい、ユイ」