25/フェーダー

16day/November 5(Tue.)
シャーロック&ルイ作


 私が遠野家に戻ったのは昼過ぎだった。
屋敷に入ると、琥珀さんが待っていてくれた。
なにやらニコニコしている。
怖い・・・・・・。
 すぐに秋葉にあって事情を話す。
すると

「・・・こちらとしても、あまり貴方がたの行動を制限するようなことはしたくありません」

呆れた顔をしたがすぐに許してくれた。

「ふぅ〜・・・、琥珀さん、紅茶入れてくれますか?」

「はい、ちょっと待っててくださいね〜」

 パタパタと足音を立てながら台所へ向かう琥珀さん。

「お帰りエレイス」

「ただいま、志貴。ごめんね」

「な〜に、構わないよ。俺もやっていたことだし」

「兄さん、今は夜どこにも出かけていないから構いませんが、もし今度したら・・・」

「分かった分かった、もうしないから」

 秋葉はまた呆れ顔になる。
志貴はまぁまぁとなだめるが、あまり効果がなさそうだ。
 しばらくすると琥珀さんが紅茶を持って来てくれた。
ゆっくりと紅茶を味わいながら飲む。

「ふぅ〜・・・」

 しばらく話していると、私は部屋へ戻った。
荷物も整理しなければならない。



 その人はずっと私をつけてきた。
アパートから出ると、気配を隠しながらいっていの距離を保ち、「跳びながら」つけてきた。

「ここは確か遠野の屋敷、シエル姉さんの報告書にも記載されていたな・・・ここも関係するのか、これは運がいい」

 遠野家の警備網を簡単にくぐりぬけ、近くの木の枝へと着地する。
そして目を閉じてあたりに漂う「風」を感じる。



 私は部屋に入ると、荷物を置いてベッドに座った。

「はぁ・・・」

 荷物の中から一つの本を取り出した。
 この本は私の能力に関することや、私の祖先の能力が記されている。
私の能力はまだ私が幼い頃に私の親たちが徹底的に調べ尽くし、ここに記したのだ。
私は暇があればこれを読むようにしている。
しかしユイのことが頭の中に出てきて読む気がうせてしまった。

「ユイ・・・・・・」

 ペンダントを握り、ベッドに倒れる。
そういえばユイがいない生活は初めてである。
すっとユイと一緒に行動をしていた。
私は目を閉じ、少し眠ることにした。
気持ちを落ち着かせるために・・・。

「ふん、こいつがナムバレック機関長が恐れている人物の一人なのか?」

 誰かがこの部屋の窓から入ってきた。
その人はジッと私を見る。
フゥとため息をつき、手首を軽く回すと剣を出した
そしてその刃先を私の喉もとに突きつけた。

「・・・初対面の人間に、その挨拶は無いんじゃない?」

 私は剣の刃を握り、ゆっくりと目を開ける。

「ふん、やはり起きていたかエレイス・ステアー」

「誰に聞いたか知らないけど、すでに私の名を知っているなら自己紹介ははぶかせてもらうわ。で、これは何のつもりかしら?」

「私の名はフェーダー、埋葬機関のものだ。機関長の命により、これからお前を抹殺する」

「埋葬機関・・・確かシエル先輩がいる所だっけ?そこからの命令か・・・。残念だけどその対象が私になっている時点でそれは失敗しているわ・・・だって私、死なないもの」

「それは承知、なら貴方は本国へ送還される。まあユイ・キサトはここで抹殺されるがな」

「彼も・・・そう・・・・・・」

「どうした、怖気づいたのか?」

「別にそういうわけじゃないわ、ただ貴方はまた大変な命令を受けたなって・・・」

 私は起き上がり、彼女の前に立つ。
そして自分から刃の刃先を首に当てた。

「申し訳ないけど、ここを離れるつもりは無いわ」

 私はフェーダーを強く見つめる。
しかしフェーダーは余裕の表情を見せている。

「ならば実力を行使するまで。嫌でも貴方はここから離れてもらう」

「実力行使か・・・いかにも、脅迫らしい・・・。けど私はここで連れて行かれて訳にはいかないの」

 私はフェーダーと同じように刃をだし、刃先をフェーダーの眉間につける。

「彼を待っているから・・・」

「ふん、ならば罠でも仕掛けて待つかな?」

 呆れた・・・。
そんな低俗な考えなの?

「そんなことしても無駄よ。彼はそんな簡単に作にはまる人じゃないわ。たとえ来たとしても、成功することは無いわ」

 フェーダーは不敵の笑みを浮かべ、少しだけ剣に刃先を私の喉に食い込ませた。
私は彼の剣を少しだけ握っている刃に力を込める。

「やるならやれば?貴方にやる勇気があれば・・・」

「ではお望みどおり」

 フェーダーは刃を更に突き刺そうとするが、私は手を後ろについて躰を支えてそれをかわす。
ホゥと少し感心した顔をしている。

「少し甘く見てたみたいね」

 続けてフェーダーは躰をひねって更に攻撃をしてきた。
私は後ろに手をついた状態でその剣を刃で受け止めると、右手をばね代わりにして躰を起こすと、今度は私がフェーダーに切りつけた。
その場でしゃがむと、私の腹目掛けて切りつけてきた。

「そらぁ!」

 これには一瞬逃げ遅れ、腹を掠めてしまった。
服が裂け、腹からタラリと垂れる。

「ふむ、なかなかやるではないか。楽しめそうだ」

「当たり前でしょ、これまで幾度となく殺されかけてきたんだから・・・あーあ、気に入っていたシャツだったのに・・・血まみれ」

「はっ!」

 その時、私の首に手刀を当ててきた。
すぐに気を失い、その場に倒れた。

「ふん、隙を見せるとはおろかな・・・確かここにユイが帰ってくるとか言ったな。ならば・・・」

 フェーダーは部屋の四方に短刀を指し、簡単な結界を作った。
普通ならこれでユイが帰るまで何事もなく行くはずだった。
しかし・・・



「っ!」

 突然、秋葉が椅子から立ち上がり、部屋を出た。
何かを感じ取ったのだ。

「何かいる・・・何かが、いる・・・・・・」

 秋葉は志貴の部屋に向かい、ドアをノックする
すぐに志貴はドアを開ける。

「秋葉?」

「何かがこの屋敷にいるんです!」

「誰が・・・この警備網でよく・・・・・・」

「分かりません・・・とにかく行きましょう!」

 秋葉はその気配をたどって結界の張っている部屋へとたどり着いた。

「エレイス!開けてくれ!!」

 志貴は扉をノックし、ノブを回すがビクともしない。

「くっ、多分、結界が張っているんだわ・・・兄さん、お願いします」

「仕方ない、下がって」

 志貴は眼鏡を外し、ドアの「線」を見る。
「線」を確認すると、七つ夜の短刀でドアを「殺した」。
 秋葉が中に入ると、中の様子をみて絶句した。

「エレイスさん!・・・貴方がエレイスさんを」

 秋葉は徐々に髪が紅く変わる。
志貴も短刀を構え、フェーダーを睨む。

「何者?」

「埋葬機関のものだ、名はフェーダー。以後、お見知りおきを」

「ふん、まったく・・・ろくな人間がいないのね、埋葬機関には」

「結構、だがお前達にはこの剣に関しては関係が無い。去れ、この場からな」

「関係ないですって?バカなこと言わないで下さらない?彼女は私の友人であり、ここの客人ですっ。例え誰であろうと彼女をきづつける人はこの私が許しません!!」

 秋葉はフェーダーに向かって爪で攻撃を始めた。
一歩遅れて志貴も短刀で攻撃を始める。
 フェーダーは軽く腕を降ると、剣が出現した。
その剣で爪と短刀を弾くと、剣を戻し、腰のベルトから拳銃を取り出した。
さすがにこれには立ち止まる二人。

「ではこの辺で」

「待ちなさい!」

 フェーダーは窓から飛び出すと、空を「跳んだ」。
追うすべもなくただ見るしかない秋葉と志貴。
しばらくする跳ぶと、あるビルの屋上に着地した。

「さて、ここまでこれば大丈夫かな。シエル姉さんに挨拶をするか」

「その必要はありませんよ風使いのフェーダー」

 フェーダーが振り返ると、換気口の上に立ったシエルがいた。
トンとフェーダーの前に着地するシエル。

「また派手にやったみたいですね」

「仕方の無いことだ、それより機関からの私のへの指令は少なからず耳には入っているな?」

「ええ、聞いています」

「出来れば手を貸してもらいたい。ユイが今、旅をしているとのことだ」

「・・・お断りします」

「ふむ、ならばそれなりの理由はあるはずだな?」

「私には他の任務がありますし・・・それに、彼女達を機関に渡すつもりはありませんから」

 フェーダーは眉を細める。

「それは機関の命にそむく事か?」

「いえ、私は私の仕事をするだけですから」

「了解した。なら一人でこの任務を行う。邪魔したな」

 フェーダーは振り返り、周りの「風」を読み始める。

「待ちなさい、機関へ連れて行ってどうするつもりですか?」

 フェーダーは立ち止まり、ゆっくりとシエルに振り返る。

「おそらくお前と同じことをされるだろうな・・・お前とな」

 そう、過去にシエルがされたこと・・・。
シエルはそれを聞き、手を強く握る。

「そんなこと、私が許すと思いますか?」

 シエルは黒鍵を出す。
それと同時にフェーダーも腰のハンドガンをだし、シエルに向けた。
フェーダーを強く睨むシエル。

「私と戦うつもりか?」

「そんな事はしませんよ・・・ただ知り合いを危険な目にあわせたくはありませんから」

「ふん・・・気持ちは分かるが機関の命だ。仕方のないことだ」

 ゆっくりと黒鍵を降ろすシエル。
それを見てフェーダーも腰のホルスターにハンドガンを戻す。

「・・・私は手を出しませんから・・・・・・」

「了解した。では失礼する」

「しかし気をつける事ですね。ユイ君の血には」

「ご忠告感謝する。ではこの辺で」

 フェーダーは「風」を読み取ると、空高く跳んだ。
シエルはフェーダーを睨みながらその場を後にした。
 シエルが向かった先は遠野家の屋敷だった。
屋敷に入ると秋葉が居間の窓の側に立っていた。

「先輩!?」

「シエルさん・・・」

「お二方、ご無事みたいですね」

「先輩、あいつは何者なんだ?」

 シエルはフゥとため息をつくと、ソファーに座り、説明を始めた。

「彼女は風使いのフェーダー、埋葬機関では予備員として動いていますが実力は私と同等くらいでしょう。機関長ナムバレックがエレイスさんとユイ君を抹殺するために送り込んだのです。われわれ埋葬機関は吸血鬼を対峙するのがメインですが、このような任務は極めてまれです」

「風使いのフェーダー・・・」

 秋葉はそうつぶやき、窓の方へ再び向いた。

「それで今、エレイスさんは無事なんでしょうか?」

「・・・おそらく大丈夫です。ユイ君を見つけるまでは手出ししないと思います」



 フェーダーが私を担ぎながら移動しているとき、私は意識を取り戻した。

「気づいたか?暴れると落ちるぞ」

 ふと視線を下へ向けると、建物が小さく見えた。
私たちは今、空にいるのだ。
思わず私はフェーダーの服をギュッと掴む。

「今どこへ、どこへ向かっているの?」

「ユイのとこへだ。今はここから約40km前後の場所にとどまっている」

「ゆ、ユイを探しているの!?」

「そうだ・・・しかしこのままでは日が落ちて移動はお前と一緒に移動しているのは危険だ。どこかで一夜を過ごさなければならないな」

 フェーダーは当たりを見回すと、近くのホテルに目をつけた。
高度を下げ、そのホテルの屋上に着地すると、フェーダーは「風」を使って空いている部屋を探し始めた。
 すぐの開いている部屋は見つかり、再び「風」を使って中から鍵を開けると、中へ入った。
中へ入るとすぐに部屋の四方に結界を張る。

「これで誰も来ないな、おまえ自身もここから出るのは不可能だ」

「・・・・・・」

 脱出は不可能か・・・・・・。

「さて・・・ユイの居場所を探るか・・・」

「えっ?」

「今なら奴を抹殺することは簡単に出来るだろうな、まだ近くにいるようだしな・・・」

「お願いっ、やめて。ユイにとってこの旅はとても大事なの!とても意味のあるものなのっ!だから・・・」

 私は必死でフェーダーにお願いをする。
しかし彼女は表情一つ変えずに私を見たままだった。

「関係の無いことだ、私は命に従い、お前とユイを抹殺するだけ・・・」

「それは分かってる・・・けど・・・・・・どうしてもダメなのっ。お願い・・・」

「もしやめて欲しければ力づくでも私を止めることだな・・・・・・」

 フェーダーは腕を軽く降り、剣を出すと、刃先を私に向けてきた。
私は戦わなくてはいけないことに嫌悪感を思いつつ、血の刃を出した。
 フェーダーは突きを主に攻撃してきた。
私はそれを的確に読み、刃で防御するがそれが精一杯だった。
動きが速すぎて攻撃を出す隙が見当たらないのだ。

「どうした!なぜ攻撃してこない!?」

「くぅ・・・」

 私は刃で剣を受け止めながらしゃがみ、フェーダーの腹目掛けて拳を打ち込もうとするが、ふぇーだは簡単に避けてしまい逆に私に強烈な膝蹴りが、私のみぞおちに炸裂した。
後ろの壁まで吹っ飛ばされ、意識を失いかけた。
しかし必死で意識を保とうと努力し、私はフェーダーを睨む。

「貴方、今まで自分から他人を助けたことがあっても、他人の命を奪った事があまり多くないだろ?」

「な・・・?」

「貴方のその剣捌きを見たらすぐに分かる、その力もおそらくはユイから貰った物なんだろ?」

 くっ・・・言い返せない・・・。

「他人に依存しないと生きていけない性格なんだな?違う?」

「そ、そんなこと!」

「だから貴方は非力なんだ、自分じゃ何も出来ない、他人の力を借りて生きている。非力もいいとこだ・・・」

 確かにフェーダーの言うとおりだった。
この力はユイが私にくれた能力・・・・・・。
守るために使う物・・・・・・
でもこの力はもともと私の者じゃない・・・ユイから貰った物だ・・・・・・。

「ふん、どうやら見事的中したみたいだな・・・・・・。ここでおとなしくしていれば今は危害を出さない・・・・・・」

 私はフェーダーの言葉が頭の中に入ってこなかった。
自分の力のことで頭が一杯だ。
 私は非力なのか・・・・・
そのことで頭が一杯になってしまった。
その間にフェーダーは部屋をでてユイの捜索に向かった・・・・・・





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