23/自分の家
15day/November 4(Tue.)
シャーロック&ルイ作
昼になり、昼食を食べた私たちは各自の部屋でくつろいでいた。
私とユイは、部屋のベッドでごろごろとしていた。
ユイもふにゃ〜と力を抜き、外から入ってくる風を浴びている。
私は前からもっている本を読みながら紅茶を飲んでいる。
ほんとに肩の力が抜けるほどリラックスできる。
こんな風にリラックスできたのは久しぶりだ。
「ねえステアー」
「なに?」
枕に顔を埋めたまま、ユイが何かを尋ねてきた。
「久々にどっか行かない?天気もいいし」
「そうね、最近どこも行っていないからね・・・行こっか?」
「うん」
私たちは出かける準備を始める。
まるで初めてこの遠野家に来る前日みたいだ。
準備が出来ると、私たちは翡翠さんに出かけると伝え、遠野家をあとにした。
まず私たちが向かったのは公園だった。
そう、すべてはこの場所から始まった。
あの時、もしアルクェイドとシエル先輩が戦わなかったなら私たちは今どうなっていただろう?
ユイも「遠野の血」に目覚めず、そして「血の刃」という能力も使わず平和に暮らせただろうか・・・・・・。
シキにも会わず、普通に学校に行けたのだろうか・・・。
しかし、今考えてももう過去の話、とやかく言っても始まらない。
「あそこのベンチに座ろうか?」
「えっ?うん」
あのベンチ・・・あの時も座った場所だ。
ゲームの話で盛り上がり、何時しか夜遅くまで居た運命を変えたあのベンチだ。
私たちはあの時とまったく同じ場所に座る。
こうしてみると、まだ騒動が起きる前みたい・・・。
もし出来るなら・・・あのときに戻りたい、私はそう思ってしまった。
しかし、秋葉たちの出会いはなくなってしまう。
それはそれで嫌だな・・・・・・。
「何だか懐かしいような感じだね、あの時もここに座ってステアーと話していた・・・」
「ユイ・・・」
ユイも分かってこのベンチにを選び、座ろうと言ったのだ。
自然に私はユイの肩に頭を乗せた。
「ねえ、これからどこに行こうか?」
「えっ?」
「久しぶりにどこかに行こうよ、最近どこにも行っていないじゃん」
「そうね・・・どこにしようか」
私は目を閉じてどこに行こうか考えた。
ふと、最近行っていなかった場所が頭に浮かんだ。
そう、ユイの家だ。
「ユイの家じゃダメかな?」
「僕の家?」
「うん、最近行っていなかったから久しぶりに行きたいなってね」
「そうだね、ここ最近ずっと遠野家にお世話になっているし・・・いこっか?」
「うんっ」
公園を離れ、私たちはユイの家へと向かった。
大通りを抜け、交差点を抜けるとユイと私の家に続く家に出る。
ユイの家は四階建てのマンションの一室で、それなりにいい部屋である。
2LDKの日当たりの良い場所で、私も良くここに遊びに来た。
ユイの部屋の前に着き、中へ入る私たち。
少しだけ散らかっているが、私は別に気にしていない。
「そこのソファーに座ってて、何か飲み物を出してあげるから」
「あ、ありがとう」
ソファーの前の机には、近々発売のゲームが乗っている本やスパイ映画の小説などが載っている。
彼らしい本だなと私は思った。
しばらくすると、ユイはトレーに乗せた紅茶を机に置いた。
「アッサムティーだよ、何かお菓子はいる?」
「あっ、大丈夫だよ」
フ〜フ〜と熱いのを冷ますと、ゆっくりと紅茶を飲む。
美味しい、ユイのは何時飲んでも美味しい。
「久しぶりにユイの紅茶を飲むけど、琥珀さんといい勝負だよ」
「そうかな?」
紅茶を飲んでいると、急に私のお腹がなった。
「うっ・・・」
「ははっ、そういえばもうお昼だね。僕が何か作ってあげるよ」
「う・・・うん・・・」
自分でも頬が赤くなるのが分かる。
あう〜・・・なんてときになるのよ・・・。
ユイは再びキッチンへと戻ると、冷蔵庫から野菜や肉を出す。
野菜を切る音、しばらくすると材料をいためる音が聞こえてきた。
私は気になり、キッチンへ向かう。
フライパンで炒めている隣のガスコンロでは鍋を使って何かを茹でている。
「今日はラーメンですかな、ユイ君?」
人差指を立てながら私は答えると、ユイはチッチッチッ指を降った。
「はずれ、僕の得意のスパゲティーだよ」
「ちぇ、外れちゃった。でもいい香り〜」
ほんとにいい香り、トマトもじかにつぶして最初から煮込む。
そういえばユイは料理関係に関しては少しうるさいほうだっけ?
麺が茹であがると、それをトマトを煮込んでいたフライパンの中に移すと、サッと炒めて皿に盛り付けた。
「はい、出来たよ。特製のトマトスパゲティーだよ」
「お〜、美味しそうじゃない♪いただきま〜す」
「どうぞ召し上がれ」
フォークで麺を撒き、それを口へ運ぶ。
おぉ〜、本格的な味じゃない。
「おいしいぃ〜」
「良かった、実はワインを少し入れたんだ」
「へぇ〜、ほんとに美味しいよ」
ユイは麺類、つまりスパゲティーやラーメンなどは得意中に得意なのだ。
しかしなかなかの味付け、本場のイタリア料理の気分になれる。
何だか久しぶりだなこんな昼食。
遠野家では私語厳禁だから少し食事がつまらない。
秋葉に教えたいぐらいだ。
しばらくすると、私たちは食事を終えると、ユイの紅茶を再び飲み始めた。
今度はローズティーという紅茶だ。
私は気になってユイにどれだけ紅茶があるか聞いてみた。
するとユイはキッチンへ案内してくれ、紅茶が入っている棚を見せてくれた。
アールグレイ、アッサム、ダージリンのほか、今飲んでいるローズティーや、オレンジペコ、フレバリーバニラティーなど数十種類の紅茶が揃っていた。
「すごい・・・こんなに揃っているんだ」
「まあ僕の趣味でね。いろいろな紅茶を集めているんだ」
「へぇ〜、驚いちゃったな」
そうこうしているうちに、時刻は夜の7:00なってしまった。
遠野家の門限は7:00、8:00以降はすべての門に施錠がかけられてしまう。
もう今から帰っても秋葉の怒りをかうだけであった。
「うわぁ〜、秋葉に明日怒られる・・・」
「仕方ないよ、明日誤ろうよ」
「う・・・うん・・・・・・」
「夕食を造ってあげるよ」
再びユイはキッチンへ戻ると、夕食の準備を始めた。
ザクッザクッと野菜を切る音が聞こえる。
と、その時・・・
「いって!」
ユイの苦痛の声が聞こえ、キッチンへ向かうとユイは指を抑えていた。
指先には血がポタポタと落ちている。
「大丈夫?」
「たいしたこと無いよ、指を少し切っただけだから」
「ちょっと貸して」
私はユイの指を引っ張ると、傷口を癒すように舐める。
次第に出血が止まり、傷口は消えた。
「はい、もう大丈夫よ。気を付けなさいよ」
「うん、ありがとう」
ユイは調理を再開する。
私はキッチンの角でユイのことを見始めた。
鍋に水を入れ、コンロの上に載せると火をつけ始めた。
もう一つのコンロにフライパンを置くと、油を乗せ、野菜と肉を炒め始める。
先ほどの水が沸騰し始めると、その中に麺を入れた。
あっ、今度はラーメンだ。
「今度はラーメンなんだ」
「うん、お昼のことがキッカケでね。好きでしょ?」
「うん、でもユイが造った物なら何でも好きだよ」
「へへへ、そういってくれると嬉しいな」
麺が茹で上がり、器にスープの元をを入れお湯をかける。
そして麺をいれ、炒めん野菜を入れる。
「はい、出来たよ」
「うん」
席に座り、いただきますと言って箸を取る。
スープを飲み、麺を食べる。
「うんっ、美味しい!!」
「よかった、さあどんどん食べて」
お昼に食べた料理と違い、また違った味ですごく美味しい。
最後にはスープまで飲んでしまった。
「ふぅ〜、ご馳走様でした〜」
「うわぁ〜、良く食べたね。でもまだデザートがあるんだよ」
「あっ、欲しい欲しい」
ユイは冷蔵庫に向かうと、綺麗な器に盛り付けたデザートを持ってきた。
もう片方の手にはサイダーの缶が握られている。
缶のふたを開けると、ゆっくりと器の中に入ってゆく。
「はい、どうぞ」
私はスプーンをとり、デザートを食べ始める。
汁を飲むと、口の中がさっぱりした。
グレープフルーツに缶詰のフルーツ特有の甘い汁の味、そしてサイダーの味が混ざってまたこれも美味しかった。
「さっぱりして美味しい〜♪」
「これ、今日始めて作ったんだ。よかったぁ」
そういえばユイの手料理は始めてかもしれない。
今まで遊びにはきたことがあったが、食事はいただいたことが無かった。
もっと早く食べたかったな〜・・・。
デザートも食べ終わり、食器を台所へ持っていく。
それを洗い始めると、ユイは僕がやると言うが、せめてものお礼にやらせてと私は頼んだ。
スポンジに洗剤をつけ、ギュッギュッと握ると泡が出始めた。
ユイは自室に戻り、寝る準備を始めている。
シーツを変え、ベッドを綺麗にすると押入れからラフなカッターシャツとズボンを出した。
私は食器を洗い終えると、ユイの所まで向かった。
すると先ほど出したシャツとズボンを私に渡した。
「今日はこれ着て寝ろよ、これで寝ていいから」
「あっ、ありがとう・・・これでいいの?」
「大丈夫だよ、お風呂も沸いているから先に入って」
私がうんと首を縦に降った瞬間、突然首に激痛が走った。
思わずひざまずくほど激しい激痛。
「っ・・・うっ・・・はぁ・・・」
「ステアー?どうしたんだっ!」
「痛い・・・首のキズが・・・痛いよ・・・・・・」
ユイの袖をきつく掴む。
しかし痛みは消えない・・・・・・。
「ステアー、いったいどうしたんだ!?」
「何で・・・くっ・・・・・・」
ユイは何を思ったのか私の首筋に手を当ててきた。
そして、私がいつも力を分け与えるように自分の中にある「不死の躰」の力を注ぎ始めた。
しかしそれは遠野の血を目覚めさせることになりかねない。
少しずつユイの髪が赤くなり始めている。
それでもユイは私の苦痛を和らげようと必死で力を注いでいる。
少しずつ痛みは和らいできているが、その痛みが消えるのはまだまだ先になりそうだった。
これ以上はユイも危険だ・・・。
それにこの痛み・・・あいつのシグナルだ・・・・・・・・・。
私はユイの腕を掴む。
「・・・もう・・・いい・・・違うの・・・・・・・」
ゆっくりと力の放出を止めるユイ。
息も酷く荒くなっている。
「ど・・・いうこと・・・・・・」
「これ・・・あいつが呼んでるの・・・・・・だから・・・行かなきゃ・・・・・・」
「でも・・・」
「大丈夫、必ずここに帰ってくるから・・・・・・」
私はそっとユイの頬に触る。
ユイの目はさっきまでの力強い目ではなく、弱弱しい目になっている。
「わかった、必ず帰ってきてね・・・・・・」
「うん・・・」
重い足を引きずり、私はユイの部屋から出た。
幸い、傷みはまだつづいている。
これを発信機代わりにしてたどっていけばつけるはず・・・・・・。
どこ?
学校・・・公園・・・違う、どこも違う・・・・・・。
じゃあ・・・残りはあそこしかない。
私はすぐそこに向かった。
そう・・・路地裏に・・・・・・。
路地裏に着くと、そこには一人の男が立っていた。
「やっと来たか・・・」
「何の用?」
「えらく気が立っているようだな・・・何かあったか?」
七夜は冷たく笑いながら言う。
今日は無性に七夜の笑い声に腹が立った。
「誰のせいだと!!」
「んっ?俺のせいだと言いたいのか?」
「くっ!一つ聞きたいことがる。この傷・・・どうしてつけたの?」
「理由を知ってどうする?」
「いいから答えて!!」
「人が・・・人が人を好きになるのに、理由が要るのか?」
驚いたが、笑えない冗談だなと思った。
しかし七夜の目は本気だった。
「もう一つ、何故ここに呼びつけたの!?答えなさい!!」
私は血の刃を出し、七夜に向ける。
しかし七夜は何も動じない。
皿に刃を近づけると七夜は軽く笑い出した。
「お前は何か勘違いしていないか?」
「えっ?っあ」
刃を持つ腕を掴まれ、私は壁に押し付けられてしまった。
つかまれた腕を解こうともがくが、七夜の方が力が上だった。
「お前は俺を呼べば助けてきた、幾度となくな・・・。しかし俺は飼い主に呼ばれて尻尾を振る犬ではない、見ての通り人間だ」
「それくらい・・・」
「分かっている・・・か、なら、人が他人に何かしたらすることは何だ?」
「それは・・・何かしてもらったら・・・お礼をするんじゃない?」
「例えそれが犬であったとしても、ご褒美として飼い主から貰えるだろうな」
「別に私は貴方の飼い主ではないし・・・」
「しかし感謝されていいはずだな、ん?」
七夜は更に力を込める。
「っつ、な・・・何が言いたいのっ?」
「今ここでそれを貰おうとしてるだけだ・・・」
「?、どういう・・・」
七夜はまた冷たく笑う。
私は無意識に片手を七夜に振り上げるが、それを軽くつかまれてしまい、さっきと同様に壁に押し付けられてしまった。
七夜は更に顔を近付け、片手で私の両手首をすばやく掴んで、拳に私の刃を突き刺した。
「いっ!!・・・ああ!!」
「確かここが弱かったな」
体を近付け、顔を左耳に寄せて右手で私の右耳を触る。
思わず感じてしまい、涙目になってしまう。
「ぁん・・・んっ!!ふっ・・・なんで・・・こんなことを・・・」
「さあな・・・、正直、俺にも分からん。ただ前よりも強く・・・」
七夜は耳から手を放すと、私の心臓の上に手をい置く。
「・・・お前の命を奪いたいと、思うようになった・・・・・・それだけだ」
今度は首の傷に口をつけ、下でそれを舐め始めた。
「っ・・・んっ・・・、貴方はただ焦っているだけなのよ・・・。今まで知らなかったものが自分の中にあって・・・気になるのに正体が分からなくて・・・だからこんな・・・ことを・・・してしまうの」
「俺が・・・焦る?」
「あっているところもある・・・でしょ?」
七夜は首から顔を離すと、私の目を見つめた。
「ところでお礼は決めたの?」
「ああ、そうだな・・・」
「決まっていなかったら私が決めてもいい?」
「なんだ?」
「キスしない?ちゃんと・・・」
「ちゃんと?」
「ほら、今までは特に意味が無かったり、貴方が一方的にっていうパターンだったでしょ?だから一度くらい合意っていうか・・・意味のあるのをしたいの。それじゃあダメ?」
七夜はそっと刃を外し、腕を開放してくれた。
私はお礼をいい、そっと目を閉じる。
私を見つめながら七夜はそっと口付ける。
「んっ・・・どうだった?何か違った?」
口を離し、目を開ける。
しかし七夜は私を見つめたままだった。
「七夜?お〜い大丈夫か?」
ハッと私の顔を見て、赤くなる。
あの七夜が赤くなったのだ。
「えっ、い、今・・・赤くなった・・・」
「っ、見間違いだ!」
サッと顔をそむける。
私は覗く様に七夜の顔を見る。
「うっそだ〜、もっとよく見せてよ」
「やめろっ!」
また私を壁に押し付ける七夜。
顔は何事も無かったようにもとの顔になっている。
「あっ、戻ってる・・・」
「ふん、ギャラリーも来たようだな・・・」
「えっ?」
道路の方を振り向くと、そこには壁に持たれているユイがいた。
息を切らし、酷く疲労ををしている。
なれない力の放出で、動かない体を無理に動かしたためだろう。
すぐに私は七夜から離れ、ユイによった。
「ユイ!しっかりして!」
「ははっ、心配だったから探しちゃったよ・・・・・・うっ・・・」
倒れそうになるユイの躰を私は支えた。
ゆっくりとユイを座らせる。
「ごめんね・・・私のせいで、こんな・・・」
「大丈夫だよ・・・それより何かあったの?」
「そんなの知らなくていいよ・・・。ああ、また髪が少し赤くなっている・・・」
私はそっとユイを抱きしめ、背中の印にさわり力を注ぐ。
力を注ぐと、ユイは緊張が解けたのかガクッと後ろに倒れた。
すぐに抱き上げると、きつく抱きしめた。
「ユイ・・・ごめんね・・・・・・ごめんね・・・・・・」
「ステアー・・・もういいよ・・・・・・さあ、もう夜は遅いし・・・帰ろう・・・」
「うん・・・」
私は七夜に挨拶しようと振り返ったが何時の間にかいなくなっていた。
七夜・・・・・・。
「ユイ、立てる?」
「うん・・・ゆっくりならね・・・・・・帰ろう」
「そうね・・・・・・」
私たちはゆっくりとだがユイの家へと戻った。
ユイの家に着くと、すぐに私はユイをベッドの上に寝かした。
まだ息は荒い。
「ユイ・・・」
私はユイの頭を持ち上げ、私の膝に乗せる。
そして頭を撫で、ごめんねと誤る。
「ステアー、ずっと一緒にいるからね・・・・・・」
そっと撫でている私の手にユイは手を乗せた。
「うん・・・その言葉・・・信じるから、ね」
「ああ、約束する・・・あっ・・・お風呂入っているから先にどうぞ・・・」
「うん・・・じゃあ先に入ってくるね・・・・・・」
私はそっとユイの頭を枕に置き、お風呂場へと向かう。
服を脱ぎ、お湯につかるとハァ〜っと力が抜けた。
しばらくし、お風呂から出てユイのとこへ向かうと、ユイが先に寝ていた。
「もう・・・先に寝ちゃったの?仕方ないなぁ〜」
私はついている電気を消すと、ユイの隣の中に入り、そっとユイを抱きしめたまま寝た。
何もかも忘れて・・・・・・。