22/静かな朝
15day/November 4(Tue.)
シャーロック&ルイ作
シャドーユイとシャドーステアーに夢から追い出され、私とユイは目を覚ました。
先に目が覚めたのは私だった。
ゆっくりと目を開けると、まずユイの姿が目に入った。
私の手をきつく握り、眠っている。
そしてドアの近くの壁に顔を向けると、七夜が私を見ていた。
「起きたか?」
「七夜・・・」
「少しはそいつに感謝するんだな、そいつは自らの意思でお前の中へ入ってお前を助けようとしたんだ・・・しかし、俺も捕まったときは無様だったな・・・」
「七夜・・・」
突然、ユイの頭がガクッと動き、目を覚ました。
頭を上げ私を見ると、ホッとしたような顔になった。
「良かった・・・大丈夫かいステアー?」
「ユイ・・・貴方・・・・・・ありがとう」
私は躰を起こし、ユイを抱きしめた。
少し戸惑うユイだったが、すぐに私を抱きしめ返した。
それを見た七夜はフッとため息を漏らし、部屋を出て行った。
ちょうど七夜と入れ替えに志貴が部屋の中に入ってきた。
「おはよう二人とも、もう躰は大丈夫かい?」
「大丈夫よ・・・ところで今何時なの?」
「もう10時だよ、秋葉も心配してるよ。動けるかい?動けたら今で朝食をとってな」
「ん、分かった。あとで行くよ。・・・秋葉か、心配かけたなぁ・・・結構・・・・・・」
「それじゃ、先に居間へ行ってるよ」
「うん、じゃ、ユイ行こうか?」
志貴が部屋を出て行くと、私たちも服を着替えて居間へと向かった。
居間へ入り、私たちは元気よく挨拶をした。
「おはようございますエレイスさん。もうお体は大丈夫なんですか?」
琥珀さんは、笑顔で私達に言う。
私はにっこりと笑顔で返す。
「はい、寝過ぎってくらい寝ましたから」
「ほんとによく寝たね僕達」
「ありがとうございます。そう言って頂けると嬉しいのです。お二人とも顔色がよろしいですね」
ふと視線を変えると秋葉が紅茶のカップを置き、私たちを見ていた。
気のせいか何だか寂しそうな顔をしている。
「もうお体はよろしいのですか?」
「もう大丈夫だよ秋葉、安心して。出もやっぱりみんな聞くね、やっぱり」
ユイは私と同じようににっこりとしながら秋葉に言う。
何だかユイの笑顔を見るのは久しぶりだな。
「当たり前です。どれだけ心配したと思っているんですか?」
「ごめんごめん・・・」
その時、ユイのお腹がグゥ〜っとなった。
思わず自分のお腹を見てしまうユイ。
あはは〜と頭を書きながら顔を赤くする。
「お二人とも、お腹が空いているのですね?すぐに用意しますから少し待っててくださいね」
クスクスと笑いながらキッチンへ向かう。
秋葉の向かい側の長いすに私たちは座り、秋葉と話を始める。
「こうして揃うのも久しぶりですね」
「そうだね。まあ、シエル先輩とアルクはいないみたいだけど」
あの二人が居たらいたで楽しいだろうな・・・でも秋葉は・・・。
「来て頂かなくても結構ですっ」
少しだけ眉間にしわを寄せ、紅茶を口にする秋葉。
ちょっとまずいこと言ったかな私。
「まあまあ秋葉、落ち着いて。せっかく回復したんだから」
ナイスタイミングで志貴がフォローしてくれた。
それを聞いた秋葉も、眉間のしわがなくなる。
う〜ん、効果覿面だ。
ふと私は皆を見た。
それに気づいたのか秋葉が私にどうしたのですかと尋ねてきた。
「え?あ、うん・・・やっぱり、いいなって・・・、戦ったりしないのは」
それを聞いたような秋葉は、あきれたようにため息を吐き、紅茶のカップを置いた。
「当然でしょう、それが一番なんですから」
その時、キッチンから琥珀さんが、
「ご飯ですよ〜」
と声が聞こえた。
私は椅子から立とうとすると、急に視界がゆがみ、倒れそうになった。
すると、何時から居たのだろうか、七夜が私を支えてくれた。
「不安定だな、まだ」
「大丈夫よ、もう。貴方も来る?」
七夜は黙ったままだったが、私にはそれがOKサインだとわかった。
無言のまま食卓へと向かい、椅子に座ると、翡翠が一品ずつ料理を並べてゆく。
琥珀さんが元気良く今日の料理を説明する。
「今朝は和食ですよ〜、ユイさん、エレイスさん、食べれますか?何か他のを用意しなくても大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、ねっ、ステアー」
「うん、琥珀さんの料理、いつも楽しみにしていますから」
「ありがとうございます。たくさん食べてくださいね、出も食べ過ぎには注意してくださいよ」
「「は〜い」」
私とユイは声をそろえて、子どもっぽく言ってしまった。
私たちは顔を見合わせると、プッと笑ってしまった。
「お二人とも、食事中ですよ。お静かにしてください」
「相変わらずお厳しいことで・・・」
「何か言いましたかユイさん?」
「いえ、何も・・・」
朝食を食べ終わり、私は外の空気を吸うために庭へ出た。
11月というのに、今年はいつもより暖かい。
庭においてある椅子に座り、日光浴をする。
「気持ちいいなぁ〜」
目を閉じ、気持ちを落ち着かせる。
その時、誰かが私に抱きついてきた。
「わっ!」
思わず目を開け、誰かを確認するとそれはユイだった。
「な〜にしてるんだい?」
「びっくりしたなぁ、日光浴よ」
「ふ〜ん」
「おっと、ラブラブだな二人とも?」
振り返ると、そこには志貴がいた。
ニヒヒ−とした顔で私たちを見ている。
「でしょ〜」
こらこらユイ、貴方もそこで言わないの。
「まぁ、秋葉が知らないうちに離れたほうがいいぞ。そういう風にしていると怒るからさ」
「そうなの?」
「嫉妬するじゃないか?あいつ、恥ずかしがりやだからね」
意外な一面があるものだな、あの秋葉にそんな一面があるなんて・・・。
正直私は驚いた。
「あっ、これあいつに内緒なエレイス」
「確かに・・・これは知られるとまずいねぇ」
「そうですねぇ、もし知られたらエレイスさんとユイさん、追い出されてしまいますからねぇ」
「あ〜、それはまずいですよねぇ・・・って・・・」
志貴じゃない・・・じゃ、だれ?
誰だと思い、ゆっくりと振り返るとそこには琥珀さんがいた。
琥珀さんは、どうしましたと言う顔をして私を見た。
「っ!!琥珀さん!何時の間に・・・・・・」
ユイも私と同じように振り返り、少し大げさに驚いた。
「嫌ですねぇ、人をお化けみたいに」
「す・すいません・・・気づかなくて」
しかし琥珀さんは平然とした顔だった。
志貴は、今までのことは内緒だよと釘を打ってきた。
私は笑いながら手をあげ、は〜いと言う。
ユイと琥珀さんも、分かってますと言う。
その時だった。
「何が分かっているの?琥珀」
ドキィ!!
再び振り返ると秋葉がちょうど庭を出て、こっちに向かっているところだった。
しかしほんとに驚いた。
「いえいえ、何でもないですよ〜。それでは私は仕事に戻りますから」
「あっ、はい」
ユイはペコリとお辞儀をする。
しかし秋葉は、私たちをジロリと睨む。
まるで他人のごとく・・・あっ、他人か・・・。
「怪しいわね・・・何か隠しているんじゃないでしょうね?」
「何にもだよ秋葉、何も隠していないから」
「琥珀さんは、私のことを心配してここに来てくれただけだよ」
私とユイは、表情を出さずに何とか秋葉の疑いをかわそうと努力する。
しかしまだ秋葉は私たちを疑っている目をしている。
「まあいいでしょう、そういうことにしといてあげます。話は変わりますが・・・ユイさん、貴方は大丈夫なんですか?」
「僕?躰はもう大丈夫だけど・・・」
「私が聞いているのは血のことです」
そうか・・・、ユイは遠野の血を持っているんだ。
同じ力を持つユイを心配するのは当たり前だ・・・。
ユイは大丈夫だよと言い、私の手を握る。
「ステアーのおかげで今は普通に過ごせるよ」
「ユイ・・・」
私はユイが握る手をそっと握り返す。
それを聞いた秋葉も少し顔の表情にゆとり出た。
「何も無いならそれで結構です。少し気になっただけですから」
「悩み事でもあるの秋葉?」
「悩み事ですかユイさん、そんな物常にあります」
悩み事・・・、確かにこの人はたくさんあるだろうな。
遠野家の当主、学校・・・あと・・・思いつくのは・・・・・・
「アルクとかシエル先輩のこととか?」
「ええ、でももっと身近な人ですっ」
「身近・・・、ああ〜、ぜんぜん秋葉の言うことを聞いてくれない志貴とか?」
「お、俺っ?」
「それが一番の悩みだわっ・・・先にも、後にも・・・・・・」
頭を抑えながら志貴を見る秋葉。
それを見る志貴は少し焦リ始める。
「おいおい、それは無いだろう秋葉・・・」
「秋葉の言うとおりだよ。秋葉はいつも志貴の心配をしているんだから・・・」
「心配した時間が無いときなんて無いわっ」
ふん、と顔を横にそむけ、少々医ら着いた顔に戻る。
でも、それも志貴のことを思ってのことだろうと私は思った。
「秋葉は志貴が大好きだもんね〜」
顔を覗くようにして秋葉を見る。
すると秋葉は、頬を真っ赤にしていた。
「そ、それは兄妹としての感情でっ・・・」
「もしかしてそれ以上の感情を持っていたりして〜?」
「!!」
「おいおいユイ、それは言いすぎだろ?」
秋葉は更に頬を赤くさせ、耳まで達している。
ユイと同じで素直なこだなぁ〜。
「まぁ、あんまり秋葉を攻めるなよ」
「だって、何だかからかいがいが・・・」
その時だった。
私たちの周りの空気が割れるような音がした。
秋葉のほうを見ると、周囲に黒いオーラを放っているのがは見える。
「ほう・・・・・・私をからかうのがそんなに楽しいですか?」
「やば!、ユイ誤って!!」
「ごっごめん秋葉!あのっ、そのっ、言葉のあやだよ!!言葉の!!!」
「それは違うと思いますが」
振り返ると、今度は琥珀さんではなく翡翠さんがそこに立って鋭い突込みを入れた。
この突っ込みは痛い・・・。
もうユイには言い逃れができないだろう・・・・・・。
この場合・・・
「さっ、琥珀さん、志貴、屋敷の中に戻ろうか?」
「えっ?ステアー?」
「じゃ、あと頑張ってねユイ」
「グッドラック」
「志貴ぃ!」
「怪我したらちゃんと治してあげるからね」
「ちょっとぉ!!」
「さぁ・・・どうしようかしら」
「ユイ、生きて会えることを願うよ」
秋葉は手をバキボキ鳴らし、私は胸に十字架をきる。
ユイは今にも泣きたそうな顔をしている。
そそくさと私と志貴、そして翡翠は屋敷の中へと戻る。
「秋葉・・・だからさっきのはその・・・」
「行きましたか・・・・・・すいません、手荒のことをして。でも貴方とはじっくり話したかったんです」
そういうと秋葉は、椅子に座りユイを見る。
ユイも椅子に深く座りなおし、秋葉を見る。
「僕と?
「ええ、・・・何の話かはお分かりだと思いますが・・・」
「遠野の血・・・」
「そうです。・・・しつこいかと思われるかも知れませんが、本当に変わりわないんですか?・・・例え、誤魔化すことが出来ても後々分かります、分かってしまうんです。ですから・・・」
秋葉の目は辛そうだった。
同じ遠野の血を持つ人間として心配しているのだ。
しかしユイはニコッと笑い返す。
「ありがとう秋葉、でも大丈夫だよ。今の所、ステアーのおかげで安定しているから・・・、でも僕も強くならなくちゃね」
「そうですか・・・。もし何かあったら教えてください。力になれることはなりますから」
「うん、秋葉も何か会ったら相談してな」
ユイは秋葉の耳元によると、ボソッと秋葉に話す。
「特に志貴のことは聞いてな。秋葉はその辺のことが不器用だからさ」
それを聞いた秋葉また耳まで赤くする。
「あ、あ・・・ありがとうございますっ・・・と、とにかくあまり無茶をなさらないようにしてください。いいですねっ?どうも貴方方お二人はどうにも自分のことを考えてないところがあるようですから」
「はい、分かったよ。心配かけてすまなかったね」
「では、私は部屋に戻ります。何かあったら呼んでください」
「ああ、じゃな〜♪」
ユイは秋葉を見送ると、再び椅子に座り、日光浴を再開した。
何も考えずに、無心になって太陽の光、そよ風を浴びる。
やっぱり戦いが無いと言うのはほんとにいいとユイは思った・・・・・・。