20/力のレベル
14day/November 3(Mon.)
シャーロック&ルイ作
シキの死後、私たちは部屋に戻り治療を受けた。
私は胸を貫かれたダメージですぐには動けなかったが、七夜が私を抱き、なんとか部屋に戻り、ベッドに寝た。
ユイは、突然噛み付いたあと、再び気を失った。
何とか志貴に運ばれ、私の隣に寝かされた。
「しかし、災難な奴らだな」
七夜は、私たちを見ながらつぶやいた。
その言葉を残して部屋を出て行った。
私とユイは、一日経っても起きなかった。
私の傷は塞がり、後は躰の疲労を無くすだけだった。
その時、疲労を治している頃、私の心は夢の中にいた。
最初の夢を見た、あの草原だった。
ちょうど私が寝かされたとき、私たちは再び草原で再開した。
しかしユイは始め、躰がまったく動かず、私は彼を介抱した。
頭を抱き、長い時間そのままでいた。
そして、少しずつユイの躰が動き出すと、私たちはそのまま夢の中にいた。
夢の中で私たちはいろいろなことを語り合った。
特に興味を持ったのが、ユイの力「血の刃」だった。
彼の話だと「血の刃」は、遠野の力を使い、自らの血を刃状ににした物だという。
そして、短刀サイズから日本刀サイズまでできると言われた。
ふと、ユイは何を思ったのか私の手を出してと言った。
そっと手を出すと、彼は私の手を握る。
「少し我慢してね」
ユイは手に力を込めると、手が赤く光だし手の中が熱くなった。
何かが私の中に流れ、光が消えた。
「ステアーは「不死の躰」の力しかないからね。だから護身用として持っていてくれ」
「ユイ……ありがとう。大事に使わせてもらうわ」
「試しに出してみてよ」
「うん……こう?」
手に力を込めると、真っ赤な「血の刃」がでた。
私はほぉ〜っと感激する。
「僕の血を少し分けたんだ。だから何時でもつかえるよ、でもコピーだから威力は若干劣るよ」
「それでもかまわない、ありがとうユイ」
私は心のそこからううれしかった。
突然ユイは私を抱きはじめた。
バランスを失い、草原の上に倒れこむ。
「どうしたの?」
私の耳の近くまで口を持ってきて、つぶやく。
「何か急に抱きつきたくなっちゃって」
ユイの息が吹きかかり、くすぐったい。
頬がすぐに真っ赤になり、ビクッと躰を振るわせる。
「どうしたのステアー?」
「息が…耳にかかって………」
「ふ〜ん………」
ユイはさらに息を噴きかけ、さらに舐め始めた。
目をつむり、くすぐったいのを我慢する。
でも、くすぐったい……。
「ゆいぃ………」
「どう?」
「ユイぃ、もう……」
舐められたほうの耳を手で隠し、うつむく。
ユイはニヒヒ〜と悪戯顔になっている。
「耳がだめなんだ〜」
「だ……だからぁ……その、耳を触るのは………いいけど、舐められたりするとぉ……へ………変な……気分に…っな………なっちゃうのっ」
「わかったわかった……やめるよ……」
「もぉ〜……」
「…あれ?…何だか眠気が……来ちゃったな……」
「そうだね……ねぇ、お願い事聞いてくれる?」
「なに?」
「ユイの胸元で寝たいなってね」
「ステア−……ああ、ぜんぜん構わないよ」
私は、ユイを抱くと胸元に顔を埋める。
すぐに眠気が私を襲い、まぶたが閉じる。
私たちが寝ているとき、七夜は再び部屋に戻り、ずっと部屋にいた。
この部屋の窓の近くにある椅子に座り、目を閉じながらずっと私たちの目覚めを待っていた。
ちょうど私たちが夢の中で瞳を閉じ、現世に戻るときだった。
七夜の瞳が開き、私の方を見た。
「起きるか……」
七夜は椅子から立ち上がると、私の方へ寄って来た。
そしてユイを見た後、首筋にきつくキスをした。
「んっ……七夜……」
「起きたか………」
「んっ……」
「寝言か……」
七夜は私の首筋のキスの跡を見て、その場から立ち去った。
ドアが閉まると、私は目が覚めた。
「………ぅん………さむぅ……」
七夜が扉が開けたとき、廊下の冷気が部屋に入ってきたため、私は目がさめてもベッドの中にもぐった。
ユイと私の体温がベッドで暖かくなる。
ぬくい〜〜……。
「起きた?」
「ユイ?」
ベッドの中から出ると、ユイが目を開けてにこやかな顔で私を見ていた。
「ありがとう、君のおかげで助かったよ」
「ユイ……」
何だか照れる。
頬をぽりぽりとかき、ユイを見ると何時の間にか顔が近付いていた。
私は素直に目を閉じ、私も顔を近付けた。
そして私たちはキスをした。
しかし、急に視界がゆがみ、私はユイに倒れこんだ。
だが、躰に異変が起こったのは私だけではなかった。
ユイもだった。
私が倒れこむと、ユイは私を支える力もなく、ベッドに倒れた。
おかしい……なぜ…
私はユイを見た。
息が荒く、目の焦点も合っていない。
私は、ベッドのそばに置いてあるベルを鳴らすと、すぐに翡翠が部屋に入ってきた。
「エレイス様?」
「すいません……琥珀さんを……」
「分かりました、少々お待ちください」
翡翠が部屋を出て行くと、ついに、私の意識は消えた……。
程なくして、琥珀さんが部屋に入ってくるとすぐに診断を始めた。
しかし、どこにも異状はなかった。
「変ですね〜、どこにも異状はないですね」
「……なら真祖の姫君に頼んだらどうだ?」
「うわっ、びっくりしましたねぇ……驚かさないでくださいよ七夜さん」
「今、一階の居間にいるんだろう?」
「はぁ〜、確かにいますが……」
「なら早く呼べ」
真祖の姫君、アルクェイドは今、遠野の屋敷に来ている。
もちろん、志貴目当てで来たのだが……。
琥珀さんが、アルクェイドに事情を説明し、私たちの部屋に連れてくるとアルクェイドは眉を細めた。
まず、私たちの側により、腕を持ち上げる。
「ユイとエレイス、極度に血が減っているわ………」
「そうなんですか?」
「このままだと、二人が危ないわ。すぐに血を与えないと」
「わっかりました!、すぐに血液を持ってきますねぇ」
琥珀さんは、パタパタと足音をたてながら駆け足で部屋を出て行く。
「そういえば………自らの血を刃にする力があったな………そのせいか?」
「二人にそんな力が?」
「今のところ思いつく理由はそれだけしかないのだが……」
「すいませ〜ん、ちょっとそこをどいてください。輸血の準備をしますので」
七夜とアルクェイドは部屋の隅によると、琥珀さんは私とユイの腕に点滴の針を刺した。
点滴の量を調節し、私とユイに血液を送り始めた。
しばらくし、七夜とアルクェイドは琥珀さんと共に部屋を出て行った。
私たちを気遣ってくれての事だろう……。
琥珀さんは、時折部屋に入り、私たちの様子を見る。
輸血パック残量を確認のため、また部屋に入る琥珀さん。
ユイの血液パックを見ると、今度は私の血液パックをみる。
その時だった。
「っ………うっ…………」
ユイの意識が回復した。
うっすらと目を開け、あたりを見る。
「気づかれましたか?」
「こ………珀………さん?」
「起きてすぐたおられたんですよ……。どこも痛んだりしませんか?」
「なぜ………輸血を?」
「あ、それはアルクェイドさんがお二人の見て、血が足りないのでは?といっていたので………」
「なるほど………」
「では、私は皆さんに気がつきましたと報告してきますね」
「はい……………琥珀さん………」
「はい?」
「今は誰も入れないでください」
「………はい、分かりました」
琥珀さんが部屋を出て行くと、ユイは窓の外の景色を見た。
月に照らされながら、木が夜風に吹かれゆれる。
その時突然、ユイの両腕に激痛が走った…………。
その頃、琥珀さんは居間にいる志貴達にユイが意識を取り戻したと報告した。
皆、ホッとし方の力を抜いた。
「琥珀さん、今、ユイに会っても平気かい?」
「今はゆっくりとお休みになりたいと申しておりました。ですから今は会わないほうがよろしいかと………」
「そっか、そうだね………」
「では、私はお薬持っていきますね」
琥珀さんは再び居間を離れ、私たちの部屋に向かった。
その頃、ユイは部屋でもがき苦しんでいた。
尋常ではないほどの痛みが両腕に走り、点滴の針は抜き取られ、ベッドの上で苦しんでいた。
「あ……ぐぅぅぅ……ぎぃぃぃ!!」
「失礼しま〜す」
ドアをノックし、部屋に入ると琥珀はユイの姿を見て絶句した。
「ユイさん!!大丈夫ですか!?」
ユイの側に寄ると、琥珀さんはユイの腕を見た。
腕を抱くようにし、苦しんでいた。
「ユイさん!腕が痛むのですか!?……しっかりしてくださいっ」
これには琥珀さんも迷った。
処置の施しようがないのだ。
琥珀さんは眉を寄せ、顎にてを添え考える。
「仕方ありません………」
琥珀さんは着物の裾から一本の注射器を出した。
キャップを取り、ユイの腕に当てる。
「我慢してくださいねっ」
「琥珀さんっ、待った!!」
私は突然、意識がもどった。
頭の中で、ユイが助けを呼ぶ声が聞こえたのだ。
「琥珀さん………私に任せて……」
「えっ?」
私は思い躰を起こし、ユイの方へと寄った。
そしてユイを抱き、背中の印に手を添えた。
手に力を込め、少しずつ力を注いでいく。
「っ………」
躰がふらつきベッドから落ちそうになるが、琥珀さんが支えてくれた。
躰にかかる負担が少しずつ大きくなってゆく。
しばらく力を注いでいると、落ち着きを取り戻してゆく。
「ユイさん、落ち着いてきましたね」
「そう……ね………ユイ、大丈夫よ」
力を止めると、ユイはぐったりとベッドに倒れた。
「ユイさん?」
「気絶したみたいです……琥珀さん、下の人たちを呼ばなくていいんですか?」
「あっ、はい、そうですね。では、知らせてきます」
琥珀さんは部屋を出ると、私はユイの上に布団をかけた。
何事もなかったように気絶している。
遠野の血がなければこんなことにならなかったのに……。
琥珀さんは、今へ戻ると、私たちのことを報告した。
皆、驚きの表情を隠せない。
「ビックリしました〜。部屋に戻ったら、ユイさんが苦しんでいて、何とかしようと思ったんですけど……、結局…エレイスさんに助けられちゃいましたよ〜」
「それで二人は?」
七夜は、何事もなかったように冷静に話し始める。
「ユイさんは気絶してしまって………今はエレイスさんが付いて看てます」
「エレイスが?彼女は大丈夫なのか?」
志貴は椅子から躰を起こし、琥珀さんに聞く。
「はい、しかし力を使っていましたよ」
「っ!」
これには七夜は反応した。
座っていた椅子から立ち上がり、部屋に向かおうとする。
「とにかく部屋に行きましょう」
琥珀達は急ぎ足で部屋に向かう。
ドアをノックし、合図を待つ。
「はい……」
ドアが開き、琥珀たちが入る。
私は、ユイの肩を子どもをあやすように撫でる。
「ユイさんは?」
「今のところ大丈夫です」
「力を使ったようだな……また」
「ん、まあ……ね」
アルクェイドが私の前に来る。
私は何ですかと聞く。
「ユイ、聞くところによると「血の刃」というものを使えるそうね?」
「はい、私も使えますが?」
「貴方も?」
「まあ、彼のコピーですけど……」
「その力、私に見せてくれない?」
「はぁ……」
手に力を込めると腕がボォと赤く光だし、血の刃が出現する。
それをアルクェイドに渡すと、彼女は何かに気づいたようだ。
「こんな感じの刃です。ユイは日本等位の長さまでできるんですけど、私は半分が限界です」
「わぁ〜、すごいですね〜」
琥珀さんは子どもみたいにはしゃぐ。
しかし、アルクェイドは眉を細め、刃の匂いをかぐ。
「どうした?」
志貴はアルクェイドにより、彼女の顔をのぞくように見る。
「この刃、ユイの血の匂いがするわ……」
「じゃあ、エレイスさんの中にユイさんの血が?」
私は思わずユイを見た。
私の身を案じて、自らの力を私に分け与えたと思い気や、自分の血まで分け与えていたのだ。
これには私も驚いた。
「ユイ……」
「おそらく、血の刃を使いすぎてその代償が来たんでしょうね。ある意味、自業自得ね」
アルクェイドはさらっと言う。
しかし私には、それが酷く聞こえた.
私は、ユイの手を握り、私の口元に運ぶ。
そして、ユイの手の甲に口付けする。
「ユイ…自分の能力のことは、ちゃんと知っておかなきゃ……」
「で? お前は大丈夫なのか?」
七夜は私の隣に来ると、肩に手を置く。
私はうんと首を盾に降り、ずっとユイを見つめる。
「これから力を使うときは、よく考えてから使うんだな」
それはできない……。
どうしてもできない……。
「そんなこと言ったら……ユイを助けられないよ」
ユイの頬を撫で、残念そうに話す。
しかし突然、七夜は私の胸倉を掴むと、力任せに目の前までに引き寄せられる。
「いい加減にしておけ、どれだけ、心配したと思う……」
私は驚いた。
ここまで七夜が取り乱すのは初めてだなのだ。
私は七夜の肩に手を置き、誤ると七夜もすまん、とつぶやき手を離した。
私は改めて思った。
七夜もここまで私のことを想ってくれているのだと改めて知ったのだ。
思わず彼の背中に手を回してしまう。
「あらあら、ユイさんピンチですねぇ」
七夜は始め、少し戸惑ったが、私の背中に腕をまわしてくれた。
琥珀さんはのんきに何かを言うが私はそれを無視する。
「あまり無茶するなよ」
「う………うん……」
ゆっくりと離れる七夜。
その時、ユイの意識が戻り始めた。
「っ………うん……………」
「ユイ?」
「っ……ぁ……」
まだユイは苦しんでいるのか、なかなか目を覚まそうとしない。
私は彼の手を握る。
ギュッと強く握り、大丈夫だよと祈りながら握る。
琥珀さんは仕事があると言い、申し訳なさそうに部屋を出て行く。
私は、ありがとうございましたと言い、琥珀さんを見送る。
アルクェイドも居間へ行くといい、琥珀さんと一緒に出て行く。
「七夜、大丈夫よ、ね」
ため息を吐きつつも七夜は、その場を離れる。
私とユイだけになるのを確認すると、ユイの手を胸に抱く。
「ユイ、目を覚まして…………。やさしい顔を………私に………見せて……」
何時の間にか声が少しだけ震えていた。
それを堪えて、ユイに向かって話す。
「ユイ……」
「ステ……アー?」
ゆっくりと目を開けるユイ。
「ユイッ、気がついた?」
「僕は………」
「朝、倒れたの覚えている?一度目を覚ましたんだけど、腕が痛んでそれを私が抑えてからまた気絶したの……。………今はどこも痛んだりしない?」
「大丈夫……今のとこはね…………でもまだ痛いよ…………」
「琥珀さんに、痛み止めを貰ってこようか?」
ユイは首を横に振る。
そして何を思ったのか握っていないほうの手から、ナイフ型の血の刃を出した。
それを手を握っている腕に刺した。
「ぐっ…………くぁ………」
傷口から血が流れ落ちる。
私はすぐに刃を抜き、傷口を私の手で抑える。
「こうすれば痛みが治まるかなって思ってね………?まあ、刺した痛みはあるけど」
「だからって………こんなに……」
私は腕に口を当て、流れ落ちる血をを舐める。
しかし何でだろう………血が何だか美味しい………。
頭の中がボォッとしてくる。
「ス………テアー……?」
ユイが何か言うが、頭の中に入ってこない。
ボォッとしたまま、傷口に舌を這わせる。
ユイは痛みのせいか、少しだけ顔をゆがめる。
「ユイ、どしたの?」
「いや………なんでもない……」
「そう……なら良いや」
口についた血を舐めとると、私は再び傷口を見る。
傷口は塞がっており、もう血は流れていなかった。
ユイの顔を見ると、少し心配そうな顔をしている。
私は、何かと尋ねる。
「何だか様子がおかしかったよ……その………目の焦点が合っていないというか……」
「私なら大丈夫よ……ふぁ………何だか力を使ったら眠くなってきちゃったな……………」
「ステアー、一つお願いしてもいいかな?」
「何?」
「その…………また一緒に寝てくれないかなって……」
ユイは、顔を赤くして言う。
でも、私はうれしかった。
もちろんOKと指でサインする。
ユイの腕に頭を乗せ、また私たちは眠りにつく。
やっぱり、ユイと寝るのが一番だな………。