19/約束

13day/November 2(Sun.)
シャーロック&ルイ作


 部屋に着くと、ユイをベッドに促した。
彼はかなり弱っている。
ここまで来るだけで、息を切らしているのだ。
それにまだ髪は赤い。
やっぱり遠野の血がまだ完全に収まっていないのだ。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「まだつらいよね、ユイ」

「大丈夫……大丈夫だから……ステアーは?」

「私は大丈夫よ………」

 突然ユイの足が折れ、ベッドに倒れそうになる。
私は支えようとしたが、間にあわなかった。

「ユイ、大丈夫?」

「はぁ……はぁ…だ…丈夫」

 見るからに大丈夫ではない。
目はさっきより赤くなり、息もさっきより切らしている。

「ぜんぜん大丈夫じゃないよっ」

 私はベッドに乗り、ユイを抱くと再び力を入れ始めた。
体が弱っているため苦痛を伴うが、ユイの為ならそのぐらい平気だった。
 しかしユイはそれを止めた。

「どうしたのユイ?」

「体が受け付けないんだ……限界なのかもね…」

「限界?」

「もう……『不死の躰』の能力が入らないのかもってことさ……、これ以上は……ステアーと一緒に入れないのかもね………」

「そんなっ……そんなこと言わないでよっ!」

 私は彼の胸に顔を埋めた。
もう、離れたくないのだ。
どんな姿でもかまわない、ずっとそばにいて欲しいから……

「ずっと……一緒にいるって言ったじゃない、そばにいるって言ったじゃないっ」

「ステアー……」

 気づくと私は大粒の涙を流していた。
ユイのシャツは、私の涙でぐっしょりと濡れている。

「ユイ………ユイぃ……やだからね……一人なんて……なりたくないから………」

「ごめん……ステアー…ずっと、一緒にいるから……」

「絶対だからね……ユイ……」

 突然、ユイは私を抱いた。
力強く、もうどこにも行かないというほど強く……
 ユイの気持ちが痛いほど伝わってくる。
気がつくと、お互いの顔が近付いていた。
私は目をつむり、そのままユイに躰を預ける。
 そして、私達はキスをした。
そして、私達はその夜をすごした。
ユイがどれだけ、私のことを想っているかも改めて知った。



 異変が起きたのは、夜中だった。
ユイが再び苦しみだしたのだ。
息も荒い。

「ユイ?大丈夫?」

「ぐっ……はぁ、はぁ、はぁ…………」

 突然、ユイは部屋を飛び出すと森のほうへ向かった。
すぐに私も追いかけるが、躰が疲れているせいかなかなか動かなかった。

「はぁ………はぁ…はぁ……くそ……」

 ユイは力尽き、その場に倒れてしまった。
 私も思い躰を引きづり、何とかユイの元へたどり着くことができた。
すぐにユイを抱き起こし、意識を確かめた。

「ユイっ!大丈夫!?」

「奴が……くる………奴が………ぐっ……くるな……」

 私はそれが誰かすぐにわかった。
 ユイを抱きしめ、周りを見る。
 しかし、それらしき人物は見当たらない。
 ふと気がつくと、周りの無視の囀りが聞こえなかった。
 誰かがいる……周りの空気も違う。

「そこにいたか……」

 背後から声が聞こえた。
私は振り返らず、その声に応えた。

「まだ生きていたなんて…何のよう?」

「ふん、愚問だな。貴様等の血が必要なんだよ」

 やはりこいつは私達の血をまだ狙っている。
しかし、こいつにやる血は一滴もない。
ユイをさらに抱きしめ、シキをにらみ付ける。

「あんた、またみんなにつぶされたほうがいいんじゃないの?」

「ふん、無駄だ」

 シキは私の顔の目の前まで顔を近づける。
こいつ目のは恐ろしく冷たく気持ちが悪い。
 吐き気がしそうだ。

「今、この一角は結界を張っている。だから貴様がいくら喚こうが叫ぼうか関係ない。すべて外にはもれない」

 くそ…用意周到なことで……。
 今の私にはこいつを倒す力なんてない。
 そして今のユイにもそんな力はない。
 私は顔が青くなり、少しだけ躰が震えた。
しかし一度目を閉じ再び開けると、さらに鋭くシキをにらみ付けた。

「絶対にっ、渡さない!」

「いい覚悟だ……」

 シキは私の首を掴み、軽々と持ち上げると近くの木に押し付けた。
抵抗しようと、シキの腕を持ち引っ張る。

「だが貴様に俺を倒せる力はあるのかな?」

 さっき考えていたことが読まれていた。
 悔しいが、どうすることもできない。
そう考えた瞬間、躰の力が抜けた。

「ない……私にそんな力は……」

 悔しい……、こいつを殺したぐらいにくい……でも……無理だ……。
自然に手に力がこもる。

「くくく……ならおとなしくその血を渡…………………ぐはっ!」

 突然、式の手が離れ、私の躰が自由になった。
尻餅を付き、何が起こったのかを確かめる。
 そこには、激しく怒りをあらわにしているユイがいた。
そう、彼がシキを吹っ飛ばしたのだ。

「貴様……」

「ステアーには、もう触れさせない。貴様を……殺す!」

 突然ユイは自分の腕を刺した。
私は驚いて彼にヒーリングを行おうとしたが、ユイはそれを止めた。
そして血がユイの手に垂れると、そこからナイフ状の『血の刃』が出現した。

「ユイ……」

「ステアー、ここから動かないでくれ」

「うん……」

 ユイはナイフを反対に構え、反対の手でシキに向かって「来い来い」と挑発した。
シキもナイフを出し、ユイに向かって走りこんだ。
 突きを出し、ユイに誘うとするが、それをナイフで受け止めるとシキの腹に蹴りを食らわす。
ひるんだ隙に、次の技を決めようとしたがシキはすぐに回復し、反撃に移った。
 しかしこの戦いは、ユイのほうが不利だった。
ナイフに関しては、シキのほうが圧倒的に上だ。
それに『血の刃』で遠野の血を使っているが、制御するにも相当な精神力が必要になってくる。
徐々に、ユイが押されてきている。
もう、防ぐのが精一杯のようだ。
 私は、祈るように手を組み、きつく目をを閉じてユイに祈った。
しかしそれもむなしく、ユイの腕にシキのナイフが走った。

「ぐっ」

「隙ありだっ」

 二人のほうを見ると、ユイの腹にシキのナイフが刺さっていた。
シキは、刺してもまだ抜こうとしない。

「ユイぃ!」

 私は奥歯をかみ締め、全体重をかけてシキにタックルをした。

「ユイをっ……離せぇ!!」

「ぐおぉ!」

 ナイフがユイの腹から抜けると、ユイはその場にうずくまった。
すぐに駆け寄り、刺された場所を見る。
 鮮血がほとばしり、服を真っ赤に染めてゆく。
すぐにハンドヒーリングを行い、傷口をふさいでゆく。
 なんとか傷口は閉じ、致命傷は免れることができた。

「ユイ、大丈夫?少しでも奴から離れたほうが……」

「いや、ここで…離れるわけ……にはいかない……」

「不意打ちだったな、しかし、そいつを助けたとこでどうにもならない。そいつは今自分の血と戦っているんだろう?自我が何時まで保てれるかな?」

「どういうこと?」

 私はシキを睨みつけながら見ると、不敵な笑みを浮かべながら話し始めた。

「遠野の血に最後まで抵抗した場合、そいつは廃人になってしまう。いままで、遠野家の人間の中には廃人になって死んだ物もいるんだっ」

 私はユイの顔を見た。
 彼のいうとおり、目の焦点が少しばかり合っていないような気がする。
 息も、さっきよりさらに荒くなっている。

「その前に……」

 シキはユイを持ち上げると手に力を入れ始めた。
ユイも最後の力を振り絞って抵抗を試みるが、無駄だった。
 徐々にユイの手足から力が抜けてゆく。

「ユイ!!」

 私は必死でシキからユイを離そうと再びタックルをしようとしたが、逆に吹っ飛ばされてしまい、頭を少し強く打ってしまった。
そしてユイは……

「くくく……意識を失ったか………」

「ユイ!…ぁ…………あ………あぁ…………」

 シキはユイを地面に落とすと、私を睨みつけ迫ってきた。
自然に後ずさりをする私。

「くくく………どこへ逃げるんだ?」

「くっ……あっ!」

 背中に木があたり、私は逃げ場を失った。
 迫り来るシキ、このあたりは結界が張っているため助けを呼んでも誰も来ない。
 シキは私の前に立つと、ユイと同じように私の首を掴んだ。
 そして、その場で立たされると彼は腕に力を込めた。

「捧げろ、その命を我に……」

「く……あ…あぅ……シ…………シキ………」

「ステ……アー………」

 その時だった。
 私がユイが意識がかすかに戻った。
 しかし、声が小さかったため私達は気づかなかった。
 ゆっくりと私達の方を振り向くと、その光景を見て徐々に力を取り戻してゆく。

「ステアーぁ!!」

 ユイは『血の刃』を出し、私を掴んでいるユイの腕を切った。
くっ、とシキがうめき、私を放した。
 ユイは私の隣にしゃがみこみ、私の顔を見た。

「ケホッ、ケホォ」

「はぁ、はぁ、大丈夫かステアー……」

「な……何とか………」

 ユイはゆっくりと立ち上がると、再びナイフを構えた。
そして、間髪いれずにシキに突っ込んだ。
 ユイは、さっき以上にシキに攻撃を仕掛ける。
 どこにそんな力が残っているのだろうか、シキも防御のみになっている。
 しかしそれでもシキの顔は余裕の表情を出していた。

「ユイ……」

「ふん……貴様の動き、徐々に乱れ始めているぞ。やはり遠野の血には逆らえんか?」

 いったん攻撃をやめ、後退するユイ。
そしてその場に跪いてしまった。
もう完全に、目の焦点が合っていない。
 ユイは、ゆっくりと私の方を振り向き、精一杯の笑顔を作る。

「ステアー、ごめん。君との約束……守れないかもしれない」

「えっ?」

「もし、奴を倒しても……もう僕は僕じゃなくなるかもしれない………ありがとうな」

 私はすぐに、それがどんな意味かわかった。
自分を犠牲にしてまでシキを倒す気なのだ。
 いや、それは絶対にいや!
 どんな時でも優しく振舞ってくれ、監視を目的としていた自分は何時の間にかユイを好きになってしまった。
大好きなユイ、離れたくないっ。
 私は、ユイにこれ以上戦わせまいと彼に抱きついた。

「おねがい……もうそんなこと言わないで………」

 ユイはゆっくりと私から離れると、私の頬を触った。

「ごめんな……」

「ユイ!!」

 再びシキを睨みつけ、全力で向かった。
シキは、ナイフでユイの攻撃を防ぐが押されていき、ついには結界の外まで出て行った。
 私は二人を追うべく走った。

「ユイ……一人で走りすぎないでよ……」

 森から出ると、ちょうどそこは屋敷の前だった。
その屋敷の前で、二人は戦っていた。
 わたしが声をかけようとした瞬間、シキのナイフがユイの胸を切った。
そしてとどめにユイの心像にナイフを突き刺した。

「かっ………………はっ…………………」

「ユイーーーーーーーーーィ!!」

 それを無視し、ユイに急いで駆け寄ると見事に傷口がバックリと開き、激しく出血していた。
すぐに傷口をハンドヒーリングし、今度は背中の印に力を入れてゆく。

「ス………テアー……………」

「いいの………………やらせて。それに………だめだよ、ちゃんと生きてもらわなきゃ……独りにしないでねユイ」

 両手を当て、さらに力を注いでいく。
何とか傷口が閉じ、一通りの処置が済むと私はユイを寝かせ、ゆっくりと立ち上がる。

「ふん、貴様はただ傷を治すことしかできんだろう?」

 再び私の首をつかみ、ゆっくりと持ち上がる。
何か言おうにも喉がつまり、何も話せない。
その時だった。

「遅いぞ」

 誰かがシキの腹にナイフを刺し、私を自由してくれた。
咳き込み、何とか息をし、誰が助けに着てくれたかを確認する。
するとそこには、冷たい笑みを浮かべた七夜がいた。

「なな……や………」

「シキ、久しぶりだな」

 シキは何も言わずに七夜に向かって切りかけた。
すかさず上に跳んでそれをかわし、シキの背後に着地する。
 シキが七夜に気をとられている隙に、私はユイのもとへ戻った。
彼を見ると、目を開いたまま躰はピクリとも動かずに寝たままだった。
 ユイの目の前で手を振って意識を確認するが、まったく反応がない。

「ユイ?しっかりしてユイ?」

「あ……ぁぁ………す………て………たす………る」

 その言葉を聞いて気づいた。
 完全な廃人になりかけていると。
 遠野の血に逆らった代償がとうとう来たのだ。

「ユイ……ユイぃ………」

 私は彼の頭を抱き、涙を流した。
私にできることは………。
 私は覚悟した。
すべての力を手に集中させた。
そしてユイの背中の印に手を当てると、ユイに力を送る。



「シキ、貴様に一つだけ聞きたいことがある」

「なんだ?」

 二人は間合いを取り、お互いに睨み合った。

「なぜそこまでこいつらの血にこだわる?」

「ふん、貴様がそれを知ってどうする?」

 シキはナイフを七夜に振った。
七夜は上半身を後ろに傾け、ナイフを避けると今度は七夜がシキの手を蹴り上げる。
 ふと、シキが私達の方へ走ってきた。
私はとっさにユイの頭をきつく抱いた。
 七夜はナイフを投げると同時に走りこんだ。

「ちっ」

 ナイフを避けると七夜に蹴りを入れようとする。
シキは寸前で避け、今度はシキに拳を出す。
 その時、私の顔の隣を何か紅い物が通った。
それはシキの背中にあたり、激しく出血し始めた。

「なっ……何を!?」

 ユイを見ると、手からさらに長い赤い刃が出ていた。
 シキはゆっくりと振り向き、激しく睨む。

「貴様っ、どこにその力………」

「これ以上…お前は生きていちゃ………いけない………」

 力を振り絞って最後の言葉を言うと、再び気を失った。
しかしまだ刃が握ったままだった。
 シキは「血の刃」を抜くと、ユイに向かって襲い掛かってきた。
私はとっさにユイの持っていた「血の刃」を獲ると、シキのナイフをそれで受け止めた。
「血の刃」はものすごく硬く、私でも簡単に扱える刃だった。

「貴様が相手か?」

「絶対に……殺さない………ユイを!」

 私は思いっきり刃を押すとシキは吹っ飛んだ。
ユイをそっと地面に寝かせると、私は刃を構えた。

「お前だけは………絶対許さない!!」

 私はシキに向かって走った。
刃のグリップを強く握り、切り込んだ。

「うわぁぁぁ!!」

「ちっ!」

 シキはナイフを翳し、振った刃を受け止めると鼻の先で私達はにらみ合った。
 私は一度刃を振り上げて再度切り込んだ。
 しかし降りかかる瞬間、シキは隙が合った私の腕を切りつけた。
 鮮血がほとばしり、同時に痛みが走る。

「ぐ……ぁぁぁ……」

 あまりの激痛で私はよろけたが、七夜が私を支えてくれた。

「気をつけろ」

「ありがとう……」

「ちっ」

 シキは何を思ったのか屋敷の中に向かって走った。
私はシキを追いかけようと走りかけた。
しかし、七夜が私を止めた。

「あいつは俺が追う、お前はユイを見てくれ」

「う……うん………」

 そういって七夜はシキの後を追った。
私はすぐにユイのところへ駆け寄り、彼を抱き上げた。
 シキは屋敷の中に侵入すると、二階へと駆け上がった。
七夜も後を追うが見失ってしまった。

「ちっ、逃げられたか。さすがはかって知ったる自分の家、といった所か・・・」

 その時七夜は背後に気配を感じた。
振り返ると、そこには志貴がいた。

「遠野か・・・」

「どうしたんだ、そんなに慌てて」

「どうもこうもない・・・。シキが生きていた・・・今ここまで追ってきたんだが・・・見失ってな。見ていないか遠野?」

「何だってっ? 俺は見ていないけど……エレイスはっ?」

「エレイスは後で来る。問題は……ユイのほうだ。血が強くなっているにも関わらず、それに逆らったから今ではほぼ廃人と化している」

「何だってっ?」



 私は何とかユイを担ぎ、屋敷の中へと戻った。
「不死の躰」をユイに与えたため、疲労がたまり、躰が思うように動かない。

「ふっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 何とか玄関の階段に付き、少し休もうとそこに座った。
さすがにつらい。

「エレイス?」

 二階から声が聞こえたため、振り向くとそこには志貴がいた。
私達のもとへ駆け寄り、ユイと私の容態を伺う。

「大丈夫か?」

「志貴、ユイを連れて行ってやって。私はあいつを・・・シキを探す。ユイがこんなになったのは、あいつのせいであり・・・私のせいでもあるから」

 悔しかった。
もし、自分に戦う力があればユイはこんな風にならなかったかもしれない。
自然に、奥歯をかみ締め、「血の刃」を持った手をきつく握った。

「だから志貴、ユイをお願い」

 私は階段を駆け上がった。
自然に駆け足になる。
その時、視界が突然ゆがんだ。
足元がふらつく。
その時七夜が現れ、渡しを支えてくれた。

「気を付けろ」

「ありがとう………」

「見つかったのか奴は?」

 私は首を横に振った。
七夜は、そうか、っとつぶやくと再び捜索を再開した。
 慎重にあたりを捜索してゆくと、誰かが倒れているのが見えた。
近付くと、それは翡翠さんだった。

「翡翠さんっ、しっかり」

「エレイス……様?」

「ふぅ、よかった。一体どうしたの?」

「あの……誰かが私の首に手刀を当てたんです。気を失う瞬間、何とか服を見ましたが・・・顔は……」

「どんな服だった?」

「はい、和服でした………」

 あいつだ。
あのやろぉ………。

「あいつ、どこへ行ったかわかる?」

「おそらく屋根上ではないかと……」

 なるほど、いい情報よ。

「ありがとう翡翠さん、あっ、今、したが大変みたいだから……行ってあげて、お願いね」

 翡翠さんの肩をぽんとやさしく叩き、屋根上へと向かう。
 その頃一階では、秋葉と琥珀さんが志貴の元に駆けつけ、ユイの介抱をしていた。

「兄さん、ユイさんの容態は?」

「七夜の話だと、廃人になりかけていると聞いた。早く部屋に連れて行こう」

「何て事………なの……」

「そういえば……エレイスさんの姿が見えませんが………」

「エレイスと七夜はシキを追っている」

 秋葉はシキというワードで表情が険しくなった。
眉間にしわがより、目つきが鋭くなる。

「何ですって………」

「秋葉様……今はユイさんを何とかしなくてはいけません………どうか抑えて下さい」

「っ……そうね………取り合えず部屋に運びましょう」

 深呼吸をし、心を落ち着かせる秋葉。
 志貴はユイを担ぎ、ゆっくりと二階の部屋へと運ぶと、すぐにベッドに寝かせた。
ユイは意識がないまま目をつむり、動かなくなっている。

「ユイさんもですけどエレイスさん大丈夫でしょうか?」



 私たちは何とか天井上に上ると、シキを見つけた。
傷の回復をしているのかじっと動かない。

「見つけたわよシキ」

 私たちはナイフをを構える。

「エレイス、大丈夫か?」

「大丈夫よ……このナイフ、使って見せるわ」

 ナイフのグリップを強く握り締め、鋭くシキを睨む。
月明かりに照らされながら、ゆっくりとシキが振り向くと、ニヤッと笑みを浮かべた。
ゾクッと背筋に悪寒が走る。
 私がシキに突っ込もうとしたとき、シキはいきなり屋根から飛び降り、木の枝を使いながらどこかへと向かった。

「まっ……」

 その時だった。
七夜が私を抱くと、来た道を戻りだした。

「七夜!」

「後を追うぞ」

「追うって!?」

「黙れ、下を噛んでも知らんぞ……しかし奴のほうが早いか……」

 全力疾走でユイが眠る部屋にたどり着き、私はドアを蹴破った。
そこには秋葉と琥珀が倒れており、ユイを担いだシキが立っていた。
 秋葉と琥珀は、気絶だけのようで見た限りでは命に別条はなさそうだ。

「シキ!?」

 シキは窓から飛び出し、庭へと出る。

「しまった!?」

 私は窓からみを乗り出し、シキを見る。
その時だった。
 誰かがシキの腕を切り、ユイを手放した。
突然、七夜は私を抱き、シキと同じように窓から飛び降りた。
着地と同時に私を離すと、七夜は、落ちてくるユイを受け止めた。
 誰がシキの腕を切ったと思い、その人影をみるとそれは志貴だった。

「志貴、きさまぁ……」

 私は刃を再び握りしめると、ゆっくりとシキを睨む。
そして、シキが志貴に気を取られている隙を狙い、私はシキに向かって走った。

「ぅああぁ!!」

「ちっ!」

 私は、シキに向かって刃を降った。
しかし私のことに気づき、身を翻すと私の背中をナイフで切った。

「!!!……がっ!」

 すぐに背後に刃を降る。
そして突きの繰り返すが簡単に避けられてしまう。

「あまいっ」

 シキが私の頬に思いっきり殴りつけ、私はユイのところまで吹っ飛ばされた。
何とか「不死の躰」の力を使い、背中と頬のダメージを回復させる。
 私が再び立ち上がろうとしたとき、誰かが私の服を掴んだ。
振り返ると、ユイが力を振り絞って私の服を掴んでいた。

「ユイっ?」

「ふし………の…………………らだ……………ちから………やいば…………そそぐ……………」

「え………ユイ、それどういうこと?」

 私はユイの口の近くまで耳を近づけさせる。
 その頃、志貴と七夜は、シキと再び激しい攻防戦を繰り広げていた。
今のところ、どちらも優勢とは言えない。

「やるではないか」

「ふんっ、七夜、貴様の動きに若干の迷いがあるぞ」

「知るか………」

 七夜はシキの腕を切るが、すぐに傷が回復してしまった。
これには七夜もハッとした顔になった。

「あいつの血を吸っておいてよかった、すぐに傷が回復する」

「血を………吸った? あいつの……………」

「お前は知らないか、じつは過去にあいつが現れたとき、ユイとエレイスの血を吸ってしまったんだ・・・」

「なるほど………しかしそれも無駄に終るだろうな」

「なにぃ?」

「当然だろう。……お前の話は聞き飽きた…………とっと終らせるぞ、遠野」

 志貴と七夜は、ナイフを再び構える。
 私は、七夜たちを見るとユイの言葉を試すことにした。
再び気を失ったユイをゆっくりと寝かせえると、ゆっくりと立ち上がる。

「志貴、七夜、ここは私にやらせて……」

「何だって、エレイス?」

「言ったとおりよ志貴、私にやらせて」

 両手で「血の刃」を持ち、刃に「不死の躰」の力を注ぎ込む。
すると、刃がボォッと青白く光りだした。
 私は再びシキに向かって走り出す。
シキの胸目掛けてナイフを突つさせると、シキはナイフでそれを受け止める。
しかし、すぐに顔面目掛けて振り上げる。
シキはサッと避けるが、顎を少し掠めた。
続けざまに刃を一回転させると、今度は腹を狙う。

「なんだこれ、さっきと動きがまったく違うではないかっ!?」

「はああぁ!」

 その時、志貴と七夜は動きを止めるため走り出し、シキの足を切った。
そして七夜は、左腕でシキの首を掴んで地面に叩きつけ、そのまま押さえた。

「ふんっ!」

 チャンスだった。
すぐに私は跳躍し、シキの胸目掛けて刃を振り落とした。

「あんたさえいなければぁぁ!!」

 刃は胸を貫き、心臓を突き刺した。

「ぐぁあああああああああああ!!!!!」

「はぁ……はぁ……このっ!!」

 一度、刃を引き抜き、今度は刃を深く刺した。
しかしシキは最後の力を振り絞り、私の胸を貫いた。
体を貫通し、心臓を握りつぶす。

「がはぁ!!!」

 その時だった。
ユイが突然起き上がり、シキに近付いた。
そしてシキの首を噛み付くと、そのまま噛み千切った。
これが決定的となり、ついにシキは完全に「死んだ」。
 私を貫いた腕は、粉状となり、シキの体とともに消えてしまった。

「はぁ……はぁ……はぁ………あぁ……」

 私はそのまま地面に倒れこんだ。
そして私は気を失った………。






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