18/反転
13day/November 2(Sun.)
シャーロック&ルイ作
私は、いますごく心地がよかった。
ユイは、何だか頼りないけど、なんだかホッとできるのだ。
彼がやさしいだからだろうか……私はずっとユイが、遠野の血に目覚めず普通のユイで居て欲しいと願う。
「失礼します」
翡翠さんと琥珀さんが、私の様子を見に来た。
手には、いつものようにお盆の上に薬があった。
「あらあら、またお二人とも抱き合って寝ていますねぇ」
「姉さん…」
「なに?翡翠ちゃん」
「その手にもっているのはなに?」
「これはお二人のために持ってきたお薬ですよ?」
琥珀さんは、手に持っていた物を翡翠さんに見せる。
それは、赤い色をした液体がはいったビンを持っていた。
「ほら♪」
「なら良いですけど、私は少し用があるので姉さん、後はお願いいたします」
「いってらっしゃい、翡翠ちゃん」
扉が閉まると、琥珀さんの目の色が変わった。
キュピーンと目を光らせ、私たちを見る。
「ふふふ、さぁて。新しくできた薬で、レッツ実験ですよ〜♪」
軽い足取りで、私たちのベッドに近付く琥珀さん。
ユイの方へ来ると、ユイの顔を覗き込むようにしてみる。
「うふ♪可愛いですねぇ。それじゃまず……ユイさんから逝って、いって行ってきましょうか」
琥珀は、着物のすそから、注射器をとりだすと、手に持っていた赤い色の液体に針をさし、それを注射器の中に入れていく。
注射器の中にはいっちる空気を外に出だすと、針をユイの腕にあてた。
「それじゃ、いきま〜す。えいっ」
針をさし、薬をユイの中に入れてゆく。
ゆっくりと入れてゆき、すべて注入し終えると、今度は私の方に来た。
ユイと同じように、薬を注入していく琥珀さん。
「やりました、やってしまいました〜。おっと、ここで薬の説明をいたしましょう!今回はなんと、薬を入れた人の人格が変わってしまう優れもの!つまりユイ山河エレイスさんに、エレイスさんがユイさんになってしまうんですねぇ〜」
なんて薬を作ったんだこの人は……………。
ていうか誰に向かって説明してるの?
朝になり、私は異変に気づいた。
何故か躰が軽いのだ。
あれだけ力を使ったのに躰がすごく軽い。
なぜだろうと思いつつ、私はユイの方を見た。
「っ!?………何で自分の顔が………なんでっ」
そう、自分の顔がそこにあったのだ。
そういえば何か自分の体なのに違和感を感じる。
私は飛び起きて、鏡の前で自分の顔を見る。
鏡に映ったのは………ユイの顔だった。
「どうしたのステアー?」
「あっ、ユイ……」
「あれ?起きたの?」
「………!!僕が二人!?」
ユイも目が点になっている。
う〜む、こうなってしまった原因は………あの人しかいない。
「ユイ、ここでおとなしく寝てなさい。まだ完全じゃないんだから」
「あっ……うん。どこ行くの?」
「このふざけた現象の首謀者のところ」
足音荒く、部屋をでると、私はあの人物を探した。
この朝だから、厨房か居間に居るはずだ。
一階に降り、今へ入ると秋葉、翡翠、そしてその人物はいた。
「フフフ〜♪」
「琥珀?良い事でもあったの?」
「いえいえ、なんでもないですよ〜」
「あなたが上機嫌だと嫌な予感がするわ」
「秋葉様ったら人を疫病神みたいに言わないでください」
疫病神なんだよ……琥珀さん!
「ユイ様、おはようございます」
「おはようございます翡翠さん、秋葉………こ〜は〜く〜さ〜ん〜」
「あら、ユイさん、もうよろしいですか?」
「ええ、秋葉。ご心配かけまして………」
「それはよかったですね♪」
何がよかったのよ………
「何かございましたか?ユイ様」
「ええ、ちょっと琥珀さんに………」
私は琥珀さんを鋭くにらむ。
「琥珀……どういうことかしら?」
「いやですよぉ、秋葉様ったら」
「しらばっくれても無駄ですよ、琥珀さん。ちゃ〜んと腕に注射器の後が残っているんですから」
私は袖をまくり、秋葉達にみえるようにあいてるほうの手を、注射の跡に当てる。
しかし……
「それはお二人のためのお薬じゃないですか」
「ほぉ〜、じゃあ、なんで私達のための薬でっ、私とユイが入れ替わっているんですか!?」
「……なっ!」
「!!」
さすがに秋葉と翡翠さんもこれには驚いている。
そこに壁にもたれながら、弱弱しい私……、いやユイが現れた。
「エ……エレイスさん?」
「なっ、まだ寝てろと言ったでしょっ」
ふと視線を変えると琥珀が、そろ〜り、そろ〜りと逃げる準備をしていた。
しかし秋葉はそれを逃がさず、襟をがっしりと掴んだ。
「逃がさないわよ…、さぁ、説明していただきましょうか?琥珀」
「あ、あはは〜」
「笑っても許しませんよ」
「あうっ……うう、わかりました〜。ここ最近は何かと忙しいじゃないですか、ですから暇なときにいろいろ造っていたんです。そうしたらですね、失敗だと思っていたのがあーら不思議っ。偶然にもできてしまったんですよ♪やっぱりできたからには試したいじゃないですか〜」
「それで、薬と偽って私達に打ったんですね」
「またしょうのない理由で貴方は……」
「姉さん、元に戻す薬はできてるの?」
「残念ながらまだ元に戻す薬はできていないんですよ〜♪」
あぁ〜この人は……頭が痛くなってくるよ………。
薬を打つなら元に戻す薬を作ってよ……。
「それじゃあダメのよ!!」
「そんなこと言われましても……これは偶然の産物ですから〜」
「だったらそんなもの使わないでっ!!」
「ひぃ〜!そんなに怒らないでくださいよ〜、血圧あがっちゃいますよ?」
その時、私は一つの可能性を思いついた。
これなら成功する確率は高い。
私は翡翠さんに志貴を呼ぶように伝えた。
「何か思いついたんですか?」
「ええ秋葉、とても簡単ですよ。志貴にやってもらえばいいんですよ」
「兄さんに?」
「お呼びしましたユイ……いえエレイス様」
おぉ、さすが翡翠さん。
いつもながら仕事が速くて助かりますよ。
さてと説明するか。
私は、志貴にこれまでの経緯を説明した。
すぐに志貴は納得したが、半分、信じれないという顔をしていた。
「で、私とユイが入れ替わっちゃったのさ。で、元に戻る手段として、志貴に来てもらったんだ」
私はユイの顔を見た。
酷く、青い顔をしている。
このままだと、この躰も、また暴走しかねない。
「ただ、いきなりで悪いんだけど、志貴の目を使ってこの薬を『殺して』もらいたい。たぶん方法はこれしかないから……ですよね?琥珀さん」
「勘のの良い人はきらわれますよぉ〜エレイスさん」
「騒動の首謀者よりはマシですよ」
「焦っていますね?エレイスさん」
秋葉は分かったか。
しかし、ホントに急がないと……。
「待って……躰をまだ元に戻さないで………」
ユイは、私の提案に反対をした。
ヨロッと立ち上がり、椅子のふちを杖代わりに立つユイ。
「なぜですか?」
「今日一日だけで良い。ステアーを自由にさせたいんだ。僕のせいでいつもステアーにはつらい思いをさせてしまっている。だから……」
「ユイさん……」
「泣けるはなしですねぇ〜」
うれしい……ホントにうれしい……でも……。
「ユイ、その気持ちはすごくうれしいよ。…でも、それはイヤ」
「エレイスさん!?」
「ど……どうして………」
「だって、どうせ好きなことをするなら自分の方が良い」
「でも……貴方の躰は………」
「だからこそ早く治したいんです。それに……ユイの明るい顔が見たい。最近は、沈んだ顔とかしかみていないし………私……もうユイに自分をせめて欲しくない……」
そう……、早くあの明るい顔を見たい……。
「それに、言ったじゃない。ユイだって強くならなきゃ。私だってユイの心配ばかりしたくないのよ」
それを聞いていていた志貴は、苦い顔をしていたが、やっと口が開いた
「わかった、やるよ」
「兄さん!」
「ふっふ〜、こうなることは呼んでいました〜」
やっぱり、琥珀さんのことだから、すんなりいくとは思っていない。
琥珀さんは腕を組み、ニヤニヤと笑っていた。
この人は……………。
「今回はすごいんですよぉ〜、なんと二人同時にやらなければ元に戻らないんですよぉ♪」
「琥珀、これは偶然の産物ではなかったの?」
「元の薬がそうだったんですよ〜」
はぁ〜、まためんどくさいことになったな……。
二人同時に「線」を切るとなれば、あの人物をつれてくるしかない
「翡翠さん、式がいる伽藍の堂に電話してくれませんか?」
「なるほど、両義さんを呼ぶのですね?」
あぉ、勘が鋭い。
秋葉の言うとおり、志貴とは別にもう一人「直死の魔眼」を持つ式ならば必ず成功するはずだ。
「分かりました、少々お待ちください」
「よろしくおねがいします」
これで一安心だろう。
にしても、疲れた……。
「まったく、人騒がせなんだから……。琥珀、減給は覚悟しなさい」
「まぁまぁ……ユイ、躰は辛くない?」
「う……うん、少しかな?」
しかし、躰はふらつき、ガクっと膝が折れた。
私は、すぐに彼を支えると、ゆっくりと立たせた。
「あんまり無理しないでよ」
「ダメそうなら言ってくださいね♪お薬はありますから」
「琥珀さん、また騒ぎを起こす気ですか?」
私は、彼を支えつつ、部屋へと戻り始めた。
居間を出ると、私は、彼を抱きかかえた。
私の躰って、ユイの躰だとこんなに軽いんだ………。
普通に人手は体験できないようなことを私は、いましている。
でも、何だか変な感じ。
「それじゃ、部屋に連れて行くよ」
「うん………」
二階へ上がり、私達の部屋に戻ると、ユイをそっとベッドに寝かした。
彼に布団をかけ、わたしは彼のそばに座った。
ふと、鏡に自分が映り、私はハッとした。
目が赤いのだ。
「赤いね、目が……」
「うん……、私も強くならないとな……」
「目が赤い以外、今はなんともないの?」
「う〜ん、今はなんともないよ」
「よかった……あっ」
何を思いついたのか、ユイはこっそり、腕を私の背中の回し……突っついた。
その瞬間、体中に電気が走ったような感触が起こり、私は驚いた。
「ぅあぁ! ………そっか、躰はそのままだからなぁ……」
「にひひ〜〜」
「な……なに?」
何だか、怖い……。
そしてユイは、私をベッドに押し倒すと、背中を集中攻撃をし始めた。
「ちょ……まったっ〜、や、やめっ!!!」
私は必死でこらえる。
苦しい……ユイの気持ちがよく分かる……。
しかし、ユイは容赦がなかった。
もう、がまんできない………
「っ〜〜〜きく、ぁっはははは!!ひ〜〜、勘弁して〜〜!!」
「まだまだ〜、これはどうだっ!」
「ふふふっ〜あっははは………ひゃぁっ!!!」
思わず口を押さえる。
耳を攻撃されたからだ。
これは効く………。
「参ったか〜?」
「ま、参りました……てか、こんなに効くとは………知らなかった……」
「ははは〜………あぅ……はしゃぎすぎたぁ…………」
ユイは起こしていた体をバフッとベッドに倒す。
私は布団をかけなおし、彼の方に手をおいた。
「楽しいのは分かるけど、今は全開じゃないんだからね」
私は彼の額に、私の額をつける。
何だか照れるな……。
しばらくそうしていると、翡翠さんが部屋に来て、式と黒橙がすぐに来ると報告に来た。
私は、翡翠さんにユイをまかせ、式と黒橙を待つ為、門の前まで向かった。
待つこと10分、ようやく式と黒橙が到着した。
「ん?ユイか……。エレイスは?」
「まぁ、細かいことは居間で話すよ」
式と黒橙を居間へと案内し、私はこれまでの経緯をすべて話し始めた。
式は、ふぅっとため息をつき、とんだことをしているなと言われた。
「式、そういうこと言わないの」
「で?何を『殺せ』いいんだ」
「私とユイの中になる誰かさんの造った薬」
じろっと、琥珀さんをにらむと、あぅっと琥珀さんが体を引いた。
「でも体の中にある物を『殺す』ことなんてできるのか?」
「………どうなんだ志貴?」
「たぶん、できるんじゃないかな?でもかなりシビアなことは間違いないはずだ」
たしかにそうだ。
一歩間違えれば、私達の体を『殺す』ことになるのだ。
でも、そんなことは今は言ってられない。
その時、翡翠が慌てた様子で今へ入ってきた。
「大変ですっ、ユイ様の容態がっ」
「!!……しきっ、と。えーい、しき二人ともっ!急いで来てっ」
私は急いで今を出ると、ユイがいる部屋へ向かった。
ちゃんと名前を呼べと呆れ顔の式も、一緒に付いてくる。
部屋の中へ入ると、ユイがベッドの上でもがき苦しんでいた。
すぐに私はユイを押さえた。
ついに今の体に力を送っている「不死の躰」が制御不能になったのだ。
「ユイ!しっかりして!?」
「ホントに入れ替わっている……」
「二人とも、お願いっ。琥珀さん、翡翠さん、ユイを押さえてくださいっ」
「はいっ」
すぐに琥珀さんと翡翠さんが、ユイの手足を押さえると、私もユイの隣にねた。
「式、どこに見える?」
式は私の躰をくまなくチェックし、薬の居所を見つけた。
薬は腹の左の方にあった。
志貴はユイの躰を見ると、ちょうど私と反対の部分に薬を見つけた。
「私がカウントするわ。3よ。お願いね」
志貴と式は、線に集中し始める。
私は、カウントを開始した。
「3」
二人がナイフを構える。
「2」
周りの空気が慎重になる。
「1」
二人が、ナイフを振り上げる。
「0!!」
ナイフが、私達の中に入る。
その瞬間、私は意識が飛んだ。
すぐに意識が戻り、目を開くと、あの躰のだるさを覚えていた自分の躰に戻っていた。
「成功か?」
「大丈夫ですか、エレイス様」
「戻ってる………、私の体に」
「成功か………」
ユイも目を覚ました。
どうやら成功のようだ。
私は、ホッと胸をなでおろした。
とそのときユイが突然起き上がり、胸を押さえた。
「ぐ………ぅぅぅぅ………」
「ユイさん?」
秋葉が恐る恐る手を伸ばす。
しかし、ユイはそれを振り払った。
「僕……に……触らないで…………」
「どうしたんだユイ?」
式が声をかけると、ユイは突然部屋を飛び出した。
「ユイっ!」
私は完全にもとに戻っていない躰を起こし、彼の後を追い始めた。
「エレイス……」
「皆さんは居間で待っててください……私が何とかしますから」
「お前の躰は元に戻っていない……俺が行く」
「いい、私一人で行かしてっ」
式たちを部屋に残し、私はユイをおった。
ユイも反転しせいか、速く走っておらず、追いつけそうなスピードだった。
屋敷を出て中庭に向かうユイ。
私は、木を支えにしつつユイを追い続ける。
中庭の中腹あたりで、ユイは走るのを止めた。
「はぁ、はぁ、はぁ……うっ…………はぁぁぁぁ……来るな………来るな…………」
ユイは、うずくまり、必死で力を押さえようとしている。
私は、ユイに近付こうとしたが、とうとう足がもつれてしまい、ユイの前で倒れてしまった。
「はぁ、はぁ………ユイ?」
ユイが私に振り向くと、私は背筋に悪寒が走った。
ユイの目が、先ほどより赤く、明らかに遠野よりの目になっていた。
「くくく………」
二度と聞きたくないユイの冷たい笑い声。
髪も赤くなり、私は背筋に悪寒が走った。。
ユイは私の首を掴み、軽々と持ち上げると、木に押し付けた。
「がっ……っん………」
私はユイの頬を触ろうと、腕を伸ばした。
しかしユイは手に更なる力を込め、私は意識がなくなりそうだった。
「ハハハハハハハハッ」
「ユ……イ………」
「お前は簡単には殺さない……いい血を持っているからな………」
さすがに限界になり、ユイの腕を握る。
その時だった。
突然、ユイの背中に七夜が現れ、背中を切った。
その反動で私は彼の腕から離れることができ、地面に倒れた。
「げほっ!かはっ!」
「ぐっ……七夜か…」
「貴様が何を目的でこんなことをしているかは知らん。だが……あいつを殺るのはオレだ。誰であれ、横取りするなど……極刑に値する」
七夜は姿勢を低くし、ユイに向かって走ってきた。
ユイも七夜に向かって走り出し、素手で攻撃を開始した。
ナイフが空気を裂く。
ユイの腕が彼の腕を押さえながら、打撃の連続を繰り出す。
「やめて、二人ともっ!!」
「無駄だ、今の奴に何を言っても無駄だ……もう、お前の声は届かん」
「そんな事は……有り得ない!!」
私は鋭く七夜のにらんだ。
今でもずっと信じている。
まだ戻れると……。
「……ふん。勝手にしろ」
私は意を決死、二人の争いの前にたった。
両手を挙げ二人を制す。
「七夜、やめて。後は私に任せて」
「何?」
「何って?決まっているじゃない、彼を戻すのよ」
「貴様にできるのか?」
「やってやるわ、必ず……まぁ、このままユイのものになるのも悪くはないんだけどね」
「何か策はあるのか?」
「ない」
七夜は、固まって私をみる。
それはそうか、何か策があってと言ったと思ったからだ。
でも、作戦なんて考えてられない。
「ユイ……」
ユイは、一瞬で私のもとへ来て、私を抱くと、空高く跳躍した。
屋根を蔦って、どこかへと向かう。
向かった場所は、あのユイが、暴走したアルクェイドに半殺しにされた路地裏だった。
「くく………、これで邪魔する奴はいなくなったな」
「…そうだね」
「やけにおとなしいじゃないか」
「もう慣れたからね……いまさら騒いでも……」
「しかし、琥珀の作った薬には感謝しないとな……おかげであいつは殻の中へ……オレは目覚めることができた」
「そう……やっぱり私の血を?」
「あぁ………」
「そうはさせないわよ………」
振り返ると、そこにはアルクェイドが立っていた。
おそらく騒動に気づき、私達を追いかけてきたのだろう。
「エレイス、ユイから離れて」
アルクェイドの言うことはもっともだ。
今のユイは危険だ。
でも……
「…ごめん……アルクェイド…………私……無理だよ………」
私は、ゆっくりと立ち上がると、ユイとアルクェイドの間に立つ。
アルクェイドに微笑みながら、私はごめんという。
ちょうどアルクェイドの後ろに七夜も現れる。
しかし、七夜は、厳しい目で私を見ていた。
「どういうことだ……」
「自分を犠牲にして彼を助ける気?」
「ギセイ?違うよ、アルクェイド。これは…希望かな?私は、まだずっとユイと居たいだけだから……ただそれだけ」
「エレイス………」
ユイは、私の腕を掴むと、思いっきり引き寄せ、七夜たちをにらんだ。
それを見た七夜は、私達に向かって走り出しだした。
ユイの爪が伸び、七夜を攻撃しようとする。
爪の攻撃を避け、私の腕を掴み、ユイから離そうととする。
「っな!七っ」
「伏せろ………シッ!」
七夜は、ユイの躰を切る。
ユイも寸前で避けるが、かすり傷を負ってしまった。
ユイは、七夜の顔面目掛けて爪を振り下ろすが、後ろへ跳び、それを避ける。
七夜が後ろへ避けた瞬間、突然、アルクェイドの腕が飛んできた。
ユイも、さすがにこれには気づかず、見事に喰らってしまった。
その隙に、七夜は、私の腕を引いた。
痛いと言って、振りほどこうしたが、振り切れなかった。
アルクェイドも、ユイに連続攻撃を仕掛けるが、ことごとくかわされてしまう。
そして逆に、アルクェイドの鳩尾にユイの拳が入り、数メートルも吹っ飛ばされた。
「がふっ………」
「ユイ…………」
突然、七夜が私の腕を離すと、鋭く行いをにらむ。
そして、ナイフを握りなおす。
「前のお前は相手にならない奴だったが………面白い……」
「七夜……」
「いくぞ……」
ナイフを構え、一気に走り出す。
ユイも七夜に向かって走り出す。
私は、吹き飛ばされたアルクェイドのそばへよる。
ダメージはそこまで酷くないようだ。
私は思い切ってアルクェイドに聞いた。
「アルクェイド、どうして………こんなことするの?」
「何って…………彼を止める為よ………貴方こそどうしてあいつをかばうの?」
私は、アルクェイドの耳に顔を近付る。
「ホントは嫌ですよ……私は………ユイが…………やさしくて………ちょっと頼りなくて……………………でも……いつも私をも守ってくれる……ユイに戻って欲しいです……」
その時、私の頬に生暖かい物かかった。
視線を落としてみると、アルクェイドの胸がユイの手で貫かれていた。
「ユ…………ユイィ!!!」
「かはぁ!!!…………」
ユイはアルクェイドを持ち上げると、乱暴に投げ飛ばした。
私は恐る恐るユイを見た。
「くくく…………さすがに真祖の姫君………なかなかの血だ」
「ユイ………ホントに………変わってしまったんだね……」
私は無性に悲しくなった。
お願いだから………戻ってと。
そんなユイを見るのが耐えれなくなり私は彼に抱きつくと、背中の印に触れた。
そして手に力を込め、「不死の躰」を入れ始めた。
「させるかぁ!!!」
ユイは私の首に噛み付き、血を吸い始めた。
「こいつを目覚めさせてたまるか!!」
「あっ……ああ……っ、いや、ユイ………いやぁ!!!」
自然に涙があふれ、さらに手に力がこもる。
なんとしてでもユイを助けなければいけない。
あの優しいユイをもう一度見るために……。
「ぐぅぅう!!!」
「あぁぁ……くっ……ユイっ………」
まだ一向に元に戻らない。
次第に、私の視界もぼやけてくる。
このままだと、私が倒れてしまう。
「くぅぅぅ…………とりあえず貴方だけでも………押さえる!………っぁああああああ!!!」
今までに見たことがないほどの光を放ち、力をユイの中へと入れてゆく。
すると、ユイは、私の首から顔を離し、地面に倒れた。
しかしまだ髪の色は元に戻らず、遠野の血を半分押さえただけだった。
「はぁ、はぁ、はぁ…………ユイ……」
「ご………めん…ステ…アー……また…………変わっちゃった…………」
「エレイス…………そこをどきなさい……今のうちに………ユイを殺す………」
ユイの頭をアルクェイドの手が掴む。
そして、私と同じように持ち上げ、手に力を入れてゆく。
私はアルクェイドの服を掴み、それをやめさせようとする。
「やめて!、そんなことするのは!」
「貴方の気持ちは分かるわ……前に式から聞いた事があるの、遠野家のことを。志貴の妹は例外としてだけどね。確かに貴方には『不死の力』が備わっている・・・だけど・・・・これ以上ユイに力を与えることができる?私が見た限り、これ以上与えれば……自分自身を制御ができなくなるわ」
「そんなの、わかっています……。それでもっ………それでも…………一緒にいたいです………ユイと」
「………分かったわ………」
アルクェイドは、ユイを離し、そのままどこかへ消えてしまった。
私は、ユイを抱きしめた。
「大丈夫………私がちゃんと………戻してあげる………」
「でも………強くなれるのかな…………」
「ユイ………大丈夫だよ…………。急いで強くなおうとしなくてもいいよ……。ただ、一緒にいて………」
「あり………がとう………ステアー………」
「ほら、部屋にもどろ」
「……うん」
ユイをゆっくりと立たせると、私の肩を貸し、夜の道を歩きながら、屋敷へと戻っていった。
そういえば、七夜はどうしたんだろう………。
まっ、いいか。
屋敷の門前に着くと、私は扉に触れた。
すると扉のかぎが閉まっていないことに気づいた。
「翡翠さん、開けておいてくれたのかな?」
「多分そうじゃない?………いこ」
私達はやっと部屋にたどり着き、ユイをベッドに促した。
そして、汚れたシャツを取り替えた………