17/限界
13day/November 1(Sat.)
シャーロック&ルイ作
日が沈むと、外の気温はぐっと下がる。
私たちは、あれからずっと部屋の中にいた。
といってもユイは寝てしまい、ぐっすりだった。
私はふと七夜のことを思い出し、彼に謝りに言った。
振り払ったことを誤りにいくと、彼は……
「そうか」
で済ましてしまった。
何かたんぱくだなっと思いつつ、部屋に戻ってきた。
ぐっすりと寝ているユイを見て、七夜に盗られても知らないからねと呟き、いいことを思いついた。
そっと、彼の頭を持ち上げると、私の膝に頭を乗せた。
起きてからじゃないと楽しくないと思いつつもそっと彼の頭を撫でた。
ユイは、寝言で、
「ス……テ……アー………………」
という。
私は思わず吹き出し、小さく笑ってしまった。
「たまにはこんなのも良いかな?ね、ユイ」
「ステアー……………ぼくが………………まも…………るか………………ら」
「ユイ?……寝言か。頼りにしてるよ」
しばらくそうしていると、志貴が扉をノックして入ってきた。
「夕食だけど…………ってユイ、寝ているの?」
「起こしたらすぐに行くから、先に行ってて」
「わかった」
早く行かないと、遠野家の当主の雷が落ちる。
はやく起こさなければ…………。
私はユイの方をゆすり、起こそうとするがなかなか起きない。
「ユイ、ほらっ、起きて」
「スゥ〜〜……………スゥ〜……………」
仕方ない、「あの手」を使うか。
私は、弱点の首から背中にかけて、指を滑らした。
すると……………
「ひぃ!!!!アゥーーーーーー!!」
うん、効果抜群。
私の膝の上で暴れ始めた。
「起きた?」
「背中はないよ〜〜〜〜、背中はぁ〜〜〜!!」
「起きないから悪いんでしょ?」
「あう〜〜背中が………」
「ほら起きて、ユイが起きないと私も動けないんだから」
「えっ?」
ユイはこのときまで気づかなかったのか。
周りを見渡し、やっとユイは理解した。
「膝枕だったんだ、にしてもなんで…………」
「ユイが寝ているとき。ほら、起きたんなら行こ?待たせると怖い人がいるんだから………」
「う……うん……。あっ、また良いかな?膝枕…?」
「ふふ、良いよ。さっ、行こ」
部屋を出て、居間へ向かう。
居間へ付くと、案の定、秋葉は少し不機嫌な顔をしていた。
「お二人とも、これからはもう少し早く来てください。どんな用があったかは知りませんが、人を待たせるのは感心しませんね」
「うっ……はい…」
「すいません…」
やっぱり……。
しかし、琥珀さんが助けてくれた。
「まあまあ、秋葉様。久々に平和な時間なんですから、これくらいで勘弁してください、ね」
「たしかにそうね、次からは気をつけてくださいね」
「はい、わかりました…」
珍しい、秋葉がここまで優しいなんて。
まっ、いいか。
「あれ?アルクエィドと先輩は?」
ユイが二人の姿が見えないことに気づいた。
そういえば二人の姿が見えない。
「ああ、二人ならさっき帰ったよ」
私とユイが席に付くと、恒例の静かな食事が始まった。
今日の琥珀さんは、いつも以上に力を入れている。
メニューがいつもより多い。
夕食が食べ終わると、ユイと志貴は、ソファーで躰を伸ばしていた。
「うぷ……」
「食べ過ぎちゃった………」
二人ともダウンだ。
さすがに私も、久々に食べ過ぎた。
太る………あんまり言いたくないけど……。
「二人とも行儀が悪いですよ」
「ごめんなさい、食べすぎちゃって………」
「俺もだよ、秋葉………」
「ちょっと作り過ぎちゃいましたね。すみません」
「そんなことないですよ」
「ユイの言うとおりですよ、琥珀さんの料理って美味しいから、ついね……」
ホントに美味しいのだ。
私も教えて欲しいと思ったくらいに。
琥珀さんに教えてもらったらこれまでになく美味しい物が作れそうだ。
「うふ、ありがとうございます」
私は、ちょっと外を見た。
何故かわからないが、食事の途中から、気分が優れなくなったのだ。
それを察したのか、秋葉が声をかけてきた。
「元気がありませんね?」
「っえ?」
志貴もちゃんと座り直すと、私の元気のないことに気づいたのか声をかけてきた。
「ホントだよ、大丈夫か?」
「あ、いや……」
琥珀さんがいつものごとく、にこやかな顔で話して来る。
「悩み事があるのでしたら話してくださいね」
「まさか…何か隠し事でもあるの?」
「まさかっ、そんなのないよ。大体、隠し事ができるようなメンバーじゃないし……」
志貴、秋葉、琥珀、翡翠…………。
アルクェイドとシエル先輩がいなくても、これだけのメンバーがそろえば十分だ。
またか………。
「ユイ様、お風呂が沸きました」
「ま…まぁ皆さん、ステアーも疲れているんですから ……さっ、ステアー、先に入って来いよ、ほらほら」
「うんそれじゃ……先に行ってきます」
ナイス、ユイ。
私は小走りで居間を出て、風呂場へと向かった。
しかし、今度はユイの番だった。
「怪しいわね」
「ユイさんは何かご存じないのですか?」
「僕は知りませんよ、ってそんな目で見ないでくださいよぉ!ほんとですって」
「じゃあ、何か変わったことはありませんでした?」
「さっ……さぁ〜…、あっ、そろそろ部屋に戻ります…おやすみなさ〜い」
秋葉の疑いの目を避け、居間を出て行くユイ。
しかし、秋葉はユイが消えるまでずっと見ていた。
絶対聞き出しててやるという目を向けながら…
「逃げたわね」
「よろしいじゃないんですか。エレイスさんが戻ってからでもじっくり聞けるんですから」
「それもそうね」
ニヤッと口元をにやつかせ、
ユイが部屋に戻り、ベッドに座ると肩の力を抜いた。
眠気がユイを襲い、まぶたが少しずつ重くなる。
その時だった。
「はぁ〜……ああいう風になると秋葉も苦手だな………」
「誰が苦手だって?」
「!!」
ユイは、背後からの声に驚き、振り返った。
そこには、月の光に照らされた七夜がいた。
「そんなに驚くことでもなかろう……」
「そんなこといわれてもな……」
「あいつは、居ないのか?」
「今、風呂で入浴中だ。もう少しすれば来るよ」
七夜はそうかといい、近くの椅子に座り込んだ。
そしてジッとユイの顔を見始めた。
「ステアーには何の用だい?」
「あいつに会いにだが?」
「そう……」
ふうっとため息を付くと、ベッドに座りなおした。
首を回し、コキッと鳴らすと背伸びをした。
「ふぅ〜…」
ふと突然、七夜はユイにエレイスの体調は大丈夫なのかと聞いてきた。
特に以上はないというユイ。
しかしふと頭の中に「不死の躰」のことが思いついた。
「最近になってよく「力」はつかってるけど……それで体調も回復するんじゃないの?」
「それも良いだろうが、あいつの躰が持たないだろう」
「えっ?」
「確かにあいつの力は無限にある。しかし、傷を回復する際にはあいつ自信の体力を要する。つまり、傷を治せば治すほど、あいつの躰は疲労してゆく。まあ、しばらく休めば体力は戻るが」
「もし……使いすぎたら死ぬなんてことはないよね……」
「死にはしないが……数日間眠り続けることになるだろうな」
「そんな……」
ユイも、さすがにショックを受けていた。
いつも助けてくれた自分が、まさかステアー自身の体力を削ってまで救ってくれたのかと、思ったのだ。
ユイは、それが信じられなかったのだ。
「ステアー…嘘だろ……自分を犠牲にして…」
「今のお前では、あいつの躰を疲労させることしかできん……。それではあいつがもったいないからな。なんなら、あいつを貴様から…獲ってやろうか?……」
「何!?」
普段はめったにキレないユイも、この言葉でキレてしまった。
ユイは、七夜の胸倉をつかむと、壁に押し付けた。
それでも七夜は、平然とした顔をしていた。
今…なんて言った……と少々息を荒げながらユイは七夜をにらみつけた。
「聞こえんならいくらでも言ってやる……、あいつを貴様から奪ってやろうかといった……」
平然と、いや何処か真剣さの漂う顔で言う七夜に、ユイはさらに胸倉を掴んでいる手に力をこめた。
「誰がそんなことさせるか!!ステアーは、僕にとってかけがえのない人なんだ!!だれも……ステアーを渡さない!!」
その時、ユイは気づかなかった。
怒りのせいで、ユイの目が赤くなっていることを。
目を真っ赤にさせ、激しく七夜をにらむ。
七夜はユイの手を払うと冷たい目でユイを見た。
「なら、まずそのおかしな力を何とかする事だな…。いくら自らの血とはいえ、所詮は自分自身だ……。最小限に押さえることはできるだろう?」
ユイは何のことかさっぱりわからなかった。
七夜はユイの目の前で指をさした。
「気づいていないか?目の色が赤くなっているぞ……」
「そんな!?」
ユイは七夜から飛び離れると、鏡の前に向かった。
そして自分の顔を見ると、ユイもはっきり分かった。
それを見た七夜は、ため息をついた。
「話にならんな」
「そんな…なぜ……」
「自身のことも分からんのか……、その力がお前の感情によって現れることは知っているか?」
「し……らない……」
「以前戻るとき、あいつから力を受け取ったな…」
「そのおかげで……僕は普通に戻れた」
ユイは、最後に変化したときのことを思い出した。
それを思い出したユイは、胸を痛め、服をギュッと掴んだ。
「では、もう一つ聞く。あいつと同じ夢を見てはいないか?」
それを聞いたユイは、驚いた。
まだこの事は、誰にも話していないからだ。
どうして知っているんだと思った。
シキとの戦い以来、お互いの意識がリンクするようになり、夢でもよく会ったりするのだ。
「ぁ……ああ、見た……ステアーと同じ夢を………」
「ならば、話は早い……」
七夜は、部屋を飛び出すと、階段へと向かった。
ユイも彼の後を追い、部屋を飛び出し、階段へ向かう。
七夜は、階段を降り、浴室へと向かう。
そして扉を開ける。
「あっ…なな……や……」
私は、上にシャツを着た状態で、床に座り込んでいた。
何故か知らないが、躰に力が入らないのだ。
「何で……」
「黙れ……奴も後で来る」
「ユイが?……ぁっ」
私はそのまま床に倒れ、気を失った。
七夜はゆっくりと私を抱き上げた。
ちょうどそこに、ユイが浴室に到着した。
「七夜、いったい……ステアー!?」
「部屋に行くぞ。説明はそれからだ……」
部屋に戻ると、七夜は私をベッドに寝かせ、布団をかけてくれた。
そして七夜は、ユイに志貴を呼ぶように言った。
すぐに志貴の部屋に行き、部屋につれてくると、説明を始めた。
「志貴に来てもらったのは、彼に証人になって貰うためだ。志貴、お前はユイの力が目覚めたとき、あいつが…エレイスが力を与えて戻したことは知っているな?」
「ああ、はっきりと覚えているよ、もう思い出したくもないことだけどね」
「なら良い。……では説明する。お前とエレイスが無意識下に繋がっている。お前が傷を負えば、あいつも負う……それは知っているな?」
「うん、知っている。だから僕はできるだけ怪我をしないようにしてきた」
「お前の中には今、二つの力がある。遠野の血…そして「不死の躰」。しかし、「不死の躰」はあいつから受け取った為不安定だ。だが、お前の中にある血は、日に日にその力を増している」
「そんな……」
「黙って聞け。その血を押さえているのは他でもない、あいつの力だ。そこにお前の知らない仕組みがある…。それは、あいつが常にその血を抑えているということだ。まあ、それは最近の話だがな。・・・しかしその場合、一つ問題がある」
「そ……その問題…って?」
ユイは信じられない話や初めて聞く話に、動揺を隠せないでいる。
「…もし、その血がお前ではなく、あいつだったら問題はない。直接力で抑えれば良いからな。しかしその対象が他人となると話は別だ。物には限度という物がある。器で考えてみろ、今回お前はその器を超えそうになった。それが原因だ」
「すべて…僕の……せい…なのか……」
ユイはベッドのそばに置いてあった椅子に座り込むと、眉に手を当て、考え込んでしまった。
ステアーが倒れた原因がすべて僕なのか、とユイは思っていた。
気づくと、ユイは肩を震わしていた。
泣いているのだ。
すべては自分のせいでこうなっていると思い、涙があふれ出てきたのだ。
七夜、少し辛そうな顔をした。
「七夜、部屋を出よう…、今は二人だけにしよう」
無言で出る七夜。
七夜は一つの質問を志貴にたずねた。
「遠野、なぜ、あいつはあそこまでリスクを背負ってまで、ユイと一緒に居る?」
「分からないが、一つだけいえるのは、エレイスがユイのことをそれだけ想っているってことだろう…、なぜそんなことを聞く?」
「さあな。まあ、アレがあのままなら……エレイスはオレが奪うがな」
七夜は冷たく笑うと、フッと消えた。
志貴は自室へ戻る。
ユイはそれからもずっと私の隣に居てくれた。
しかし七夜からの真実を聞き、うつむいたまま気力を失っていた。
夜中になり館内が消灯すると、誰かがドアをノックした。
「失礼します……あのエレイスさんの具合はいかがです?」
入ってきたのは秋葉だった。
手には、薬が乗ったお盆を持っていた。
「まだ…寝ています……聞いたんですね?七夜から」
「はい、意外だったのですが……まさか、エレイスさんがそんなリスクを背負っていたんだなんて…」
「………」
「気を落とさないで…と言っても無理ですよね。……ごめんなさい気の利いたことが言えなくて……」
「大丈夫です…大丈夫……」
お盆をテーブルに置くと、秋葉は部屋を出ようとした。
「ユイさん……私……失礼しますね。……信じてあげてください、エレイスさんのことを……」
「………」
秋葉が部屋を出ると、ユイは手を組んだ。
またどれくらいの時間がたったのだろう、私は意識を取り戻した。
「っ………」
「ステアー?ステアー!」
「ユイ?」
目を閉じたまま、私は返事をした。
ユイは私の手を握り、じっと私を見つめた。
ゆっくりと目をあける私。
「大丈夫ステアー?」
「うん………大丈夫だよ。ユイが……ここに……いるから……」
「ごめん……ごめん………ステアーにばっか苦労をかけて………」
「ユイ………」
私はゆっくりと体を起こすと、彼の頭を抱いた。
とその時……
「クッシュン!!」
……くしゃみをしてしまった。
何だか躰が冷えるのだ
「くくく……アハハハハハ〜!」
「わ……笑わないでよ!」
やけに冷える。
私は布団の中を見た。
私はそれを見て驚いた。
「どうしたの?ステアー……」
私はユイに小声で驚く理由を話した。
「何で……私、上のシャツしか着てないの?」
そう、私は七夜にそのままここまで運ばれた為、素肌にシャツ一枚という格好だった。
「ええ〜! 七夜…図ったか?」
「……彼、そういう事しないでしょ…っうう、寒い」
「後ろ向くから………早く着なよ」
「う…うん」
ユイは後ろを向くと、タンスからショーツと寝巻きを取り出し、それを履いた。
でも、ホントにビックリした……。
「あっ…もう良いよユイ」
「う…うん……!!」
ユイは私のほうを向くと,頬をぽりぽりとかいた。
ユイも赤くなっている。
ふとユイは、もう一度鏡を見た。
「まだ…赤い……目が……」
「ユイこっちに来て」
私はユイを呼ぶと、彼を抱きしめ「印」に触れた。
そして手に力を込め、ユイの血を調べた。
彼の血は少し遠野よりなっているが、特には問題なかった。
「問題はないみたいね、よかった……」
「何をしたの?また力を?」
「今、力を入れたらまた倒れちゃうよ。ただ調べただけよ。でも…やっぱり不安だよね……」
「うん、ごめん……」
「いや、悪いのは私よ。後先考えずに「力」を使いすぎたからね、しょうがないかもしれないけど」
「でも…ステアーには……、自分の体力を削ってまで……僕を助けてくれる。もう……ステアーには苦しい思いをさせたくない……もう、いいよ……」
それを聞き、私ははじめてユイに向かって叫んだ。
胸倉を掴み、私の前まで引き寄せると、彼の目をみた。
「いい?私はしたいからしたのよ、勝手に。貴方は別に頼んだわけじゃないでしょ。…すべて私の勝手なの」
「でも……ステアーが………」
私は、鼻がくっつく距離まで引き寄せた。
胸倉を掴んでいる手にも力がさらにこもる。
「人の心配するくらいなら…自分の血に負けないように、強くなりなさいっ!今、貴方ができることは自分自身を強くすることよ!」
「……うん…」
私が叫んだことに、ユイはキョトンとしてしまった。
胸を掴んでいた手を離すと、腰が抜けたのか椅子にドッと座り込んでしまった。
「ごめん、つい叫んじゃて……」
ユイを元気付けるためにはこうしなきゃいけないと思ったからこうした。
しかしユイは笑顔になり、私を恨むことなく私を見た。
「ありがとう……」
「…えっ?」
「ステアーの言うとおりだよ……、僕が強くならなきゃいけない……」
「ユイ……、ちゃんと強くなってね。じゃないと……」
私はユイの顎を持ち上げ、再び目と目の先まで近付く。
「ほんとにあいつが奪いに来るからね」
それを聞いたユイは、激しく首を横に振った。
「いやだっ、それは絶対にやだ!」
その時だった。
目の前がゆがみ、上半身を支えれなくなってしまった。
ベッドに横になり、ユイの顔を再び見る。
「ステアー、大丈夫か?」
「はぁっ…まだ……ダメみたい」
ユイは私の布団のなかに入り、隣に来ると、私を抱き寄せてくれた。
このまま寝て良いと言われ、わたしは、そのまま意識を手放した。
「ありがとう……ステアー。いい薬になったよ」
ユイは空いているほうの腕を私の肩に添えると、ユイもそのまま寝てしまった。
ユイも迷いをなくし、私を守ると心に誓った……。