16/不死の躰
13day/November 1(Sat.)
シャーロック&ルイ作
居間へ入ると、あの戦いで参加したメンバーがそろっていた。
初めてここへ来た時より、皆、落ち着いていた感じがする。
特にアルクェイド、シエル、秋葉の三人は戦いの中で絆が深まったのか普通に話し合っている。
前の三人だと考えられない感じだ。
「あら、エレイスさん、ユイさん」
秋葉は紅茶を置くと、今までのきつい顔から、やさしい顔で私たちを迎えてくれた。
「お二人とも、もう大丈夫みたいですねぇ〜」
私はちょっと焦ってしまった。
「なっ、何でですか?」
「シエル先輩から聞いたよ、ユイとエレイスに何かトラブルがあったとね」
「そっ、そんなことないですよっ」
「そういえば、遠野君、さっき中庭にいませんでした?」
「せ……先輩!!」
「俺すか?俺はずっと自分の部屋にいましたよ」
「ぼっ僕もそれは確認していますよ!」
シエル先輩の目がだんだんと怪しい目つきになってくる。
気づけば秋葉、そしてアルクェイドも同じ目で見ていた。
「怪しいですね」
あぁ、秋葉が元の厳しい目に戻った。
これはまずい……。
「別に何も怪しくないですよ……」
「そ……そうですよ〜」
「そうやって必死になっているところがますます怪しいですよね」
「ねぇ、琥珀、翡翠」
アルクェイドが腰をあげ、琥珀さんと翡翠さんの元へやってくる。
「あの二人を拘束できる?」
「「はい?」」
私たちは、声をそろえて首をかしげた。
すると……
「おやすいごようですよ〜♪」
何時の間にか背後にいた翡翠さんと琥珀さんは、私とユイの腕を縄で縛ってしまった。
少々きつく結んだのか、動かすと痛かった。
「いてってて……二人とも、何を!?」
「い、痛い!」
「我慢してくださいね〜」
せ…先輩……顔が怖い。
いや、みんな怖い……。
「さあ、何から話していただきましょうか♪」
「ちょっと待ってくださいよ、何を話せって言うんですか?」
「当然、ユイ君とエレイスさん、貴方達のことですよ。何があったのかをね」
「さぁ、話してください」
うっ、翡翠まで……。
最初に口を開いたのはユイだった。
まず、先輩と話したところから始める。
「えと……ステアーが、中庭に用事があるから外へ出て行ったんですよ。僕も暇だったので先輩のところへ行ったんですよ」
「それは確かですね。ちゃんと私と話しましたから」
「しばらく話していると、急にステアーのことが気になって………それで中庭にいったら……七夜といっしょだったもので……お邪魔だと思い、部屋に………」
視線が、ユイから私に向けられる。
鋭い視線が私を刺し、肩を竦めて小さくなる。
「あう……」
そ…そんな鋭い目で見ないでよ、わかりましたから、話しますから。
私は、一つ一つ、七夜のことを含め、話し出した。
しかし、秋葉さんたちは容赦がなかった。
「ユイさんが、お邪魔だったとか言ってましたけど〜……」
「どういうことかしら?エレイスさん」
に……二段コンボ……これは痛い。
「あ、えと……」
気がつくと、志貴がじっとこっちを見ていた。
そして、腰をあげ、私の近くまで顔を近づけた。
そして……
「吐け……」
「うあぁ、志貴が怖い……」
「さぁ」
秋葉まで志貴のバックアップをする。
これはたまったもんじゃない。
「説明しろっといわれても………」
そのときだった。
「口で説明できんなら、再現でもするか?」
今にいた全員が驚いた。
志貴達の背後にいきなり、七夜が現れたのだ。
私達に気をとられていたの為、まったく気づいていなかったようだ。
「どうした?」
「貴方が突然出てきたからでしょ」
私は突っ込むと、七夜はフッと冷たく笑った。
「再現できますか?」
翡翠が鋭く言うと、また冷たく笑い、可能だといった。
私は、はぁっとため息をつき、しぶしぶそのときの再現をする羽目になった。
あの時同様に椅子に座り、七夜が再現し始める。
私は、ユイを見て、目でごめんねと合図する。
一つ一つ、思い出しながら再現すると、志貴達はだいぶ納得してくれた。
ちょうど、ユイが現れ、「邪魔だったね」といい、立ち去った場所まで終った。
しかし、何故か七夜は、私を放さなかった。
「いつまでやっているのよ?」
「ん?何ならさらに前もやるか?」
前……それは私と七夜が始めてあったときのことだった。
さすがにそれだけは私も引いた。
「いや……それだけは勘弁して」
しかし、秋葉が……
「何かあるのなら、きっちり話してくださいね」
もう、秋葉………
もちろんこれで終われる筈がなかった。
秋葉が更に私達を追及したのだ。
ユイも次第に焦りの色を見せ始める。
ユイは、少しずつ後ずさりをしている。
しかし、アルクェイドが行く手を阻み、ユイの襟をつかむと、軽々と持ち上げた。
「これは貴方から聞くわ、それじゃ、そっちは任せたよ」
「アッアルクェイド!!まってって………あ〜〜〜!!」
困った。
非常に困った。
別の取調室へ向かうというかなんと言うか、別の部屋へ連れて行かれるユイ。
ここも居間では無く、取調室になっている。
「あらぁ〜、連れて行かれちゃった〜」
「さて、こちらは前のことというのを教えていただきましょうか?」
「いや、ホントにやめたほうが………」
私は手を振り、やめようと促すと志貴が私の前へと寄った。
そして私の前に顔を鼻がつかんばかりに近付る。
「吐け」
志貴がまた怖い目をして言う。
わかりました、わかりました、話しますよ……。
私は、あの日のことを話し始めた。
もちろんユイに秘密にといい。
初めて姿をあらわした時、なぜ現れたかなど。
「…それで用件を聞いても応えなかったから、ちょっと窓のほうを見たんです。…そうしたら」
私は、横目で七夜を見た。
「『こっちを向け』そういって」
七夜は顎に手を当てる。
先輩はすぐにその行為が「キス」と分かった。
私は正直にそれを認めると、七夜は、私の唇をふさいだ。
琥珀さんは、キャッと興奮し、翡翠さんは恥ずかしそうにうつむく。
唇が離れると、この前の夜のごとく唇に血が付いていた。
「そこまで……する?」
「やるなら徹底的にやらないとな」
そう言って七夜は、ついた血を舐めた。
まったく、この人は冗談とかないのかな?……ないか………………。
「それで、考えたんです、どうして遠野志貴がいるのに七夜志貴がいるのか……そうしたら彼は幻じゃないかって思えて来て……。『貴方は………夢?』」
「それに俺は『なら、試すか?』と返して……確か」
「うっ、やるんだ………」
私は椅子からソファーへ移る。
そして、七夜はあの夜とまったく同じ動きをして、空いた腕で私のボタンを外し始めた。
「えっ!ちょっと、ホントにやるの?」
私は全員を見た。
みんな興味津々で私達を見ている………もう最悪。
そして………
「!!……いっ…………………っはぁ」
「なっ、何を」
シエル先輩は驚く。
「!?どういうこと?」
秋葉が言う。
「生々しい…………」
志貴も驚く。
「へぇ〜〜〜」
感心するアルクェイド。
そして指を引き抜くと、あの時とまったく同じ台詞を言う七夜。
その時、琥珀さんの視線が気になった。
その視線の先には……ユイがいた。
ドアのそばでユイは呆然としている。
それはそうだ、七夜が私の心臓から指を引き抜けば誰でも驚く。
「あっ……ユイ………」
「つくづくタイミングの悪い奴だな」
「ちょっとどういう意味っ、ユ……ユイ………」
ユイは、ハッと我に変えると、ドアを閉め、無言のまま部屋へと戻っていく。
「ユイ!……っ!」
私は追いかけようとするが、七夜が私の腕をつかみ、放そうとしなかった。
「七夜っ話して!!」
「今は放っておけ……。ここで見ていたならまだしも、来たばかりの奴に理解しようと言うのは困難だ」
「だからって放っておけるわけないでしょう!」
私は、七夜の手を振り解くと、ボタンを止めつつ、後を追う。
ユイは部屋の中に入ると、ベッドに倒れこんだ。
やはり、さっきのことが相当なダメージだっただろう。
ユイに続いて部屋に入った私は、ゆっくりとユイに近付いた。
「ユイ?」
「あれは……なに?」
枕に顔を埋めながら、話すユイ。
少し声が震えている。
やっぱりさっきのことが相当に聞いているようだった。
「さっきのは………ほらユイがアルクェイドに連れて行かれる前に、七夜が言ってた………『少し前』の………再現…………なの」
「と言うことは、七夜とは?」
「うん、……七夜が始めて現れた……日の夜、だったと思う」
「なぜ、あんなこと?」
「彼が興味をもっているのは私の力………だけだから」
私は、ベッドの前の椅子に座り込んだ。
ユイは顔を枕から上げると、不安そうな顔で私を見た。
「もう、血は見たくない……、誰の血も…………」
ユイの言うとおりだ。
シキに襲われ、二度も重症を追ったユイの痛切な願いだった。
「そうだよね………あっ」
私は、自分の服を見ると、血がべっとりとついていることに気づいた。
このままには出来ないので着替えることにした。
「ユイ、ちょっと良いかな?」
「なに?」
「その、服が汚れちゃったし……血で……だから…着替えて良いかな?」
「あっ、わかった」
私は、この部屋を見渡す。
しかし着替えが出来るような場所がなかった。
私は迷った。
今はユイとは離れたくなかったので、ここで着替えることにした。
「ユイ!絶対こっちを見ちゃダメよ!良い!?」
「あっ、うん、わかった………」
ユイはクルッと寝返り、窓のほうを見る。
その隙に、私はシャツのボタンを外し始める。
すると、ユイが窓の方を見ながら、私に話し掛けてきた。
「もう傷は大丈夫なの?」
「っ!……傷?って………えと………ごめん、傷っていろいろついたから………」
服を脱ぎ、新しい服を取り出す。
「ああ、さっきのだよ……あっ………」
右手、左手を袖に通し、ボタンをとめる
「あれか、もう血は出ないし傷自体もすぐに消えるよ。心配してくれたんだ、ありがと。……………もう良いよ」
私はユイを見た。
すると彼は顔を真っ赤にして、少し緊張していた。
「ご……ごめん………」
「どうしたの?何か付いてる?」
「見ちゃった……………」
何だって?
今、なんとおっしゃいました?
「み……見たの!?…どこ見たの?」
「あっ、その………傷のとこを話しているとき…………」
となると………ちょうど私が、血の付いた服を脱ぎ、新しい服に袖を通したあたりだ。
となると………。
「ユイ…………」
鋭くユイを睨む。
ユイは、ベッドに沿うように後ずさりする。
私は、ベッドに乗り上げると、ユイのおでこを指で軽く弾いた。
「いてっ!」
「これで許す、今回だけよ」
「う……ん、ありがと…………うわっ!!」
ユイは、左手をベッドから滑らし、床に落ちた。
その時、私の服をつかんでしまった。
「うわっ!」
とっさにわたしもユイに倒れこんでしまった。
するとピンッとボタンが外れ、胸がはだけてしまった。
「いてて………大丈夫ステアー………!?!?」
「うん、大丈夫………どうしたの?」
「そのごめん、ボタンを外しちゃって………」
「えっ?」
反射的に胸の辺りを手で隠す。
その後、慌てて取れたとこを手で持ち、胸を隠す。
「着替えなきゃ………またいい?」
「あっ、うん。今度は見ないから」
私は、ジ〜ッと疑いの目で見たがユイの言葉を信じ、新しいシャツを取り出し着替え始めた。
「あっ、ねぇユイ」
「なにっととととと…………」
ユイは危うく、私のとこを振り向きそうになったが、寸前で回避する。
「いや、ユイを戻すため、ちょっと力を強めに入れたじゃない?」
「うん………そのおかげで僕は戻れた。何か問題でも?」
「いや、問題はないよ。ただ、ユイの場合は、はじめから能力があったわけじゃないでしょ?」
私は両腕を袖に通しボタンを留め、着替えが終った。
「だからこそかな?私は、心配してるんだ。私はこの力を無限に持っている。でもユイには許容量っていっていいのかな?簡単言えば限度があるの・・・・」
物にはすべて限度が存在する。
入れた物にもよるが、ユイも今まで力をたくさん注ぎ、どれだけユイという容器に入れたか分からない。
「それを超えたら……僕は……どうなるの?まさか死ぬのか………」
「それはないと思う……でも一つだけ覚えといて」
私はユイにすがるように彼の服をつかんだ。
もう離さないというくらいに……
「私はユイに生きて欲しいから力を分けた。あの時だって……事故にあった時だってただ貴方に死んで欲しくなかったから……ずっと一緒にいて欲しかったから……」
幼い頃、誰も友人がおらず一人で遊んでいた私。
そこにユイが手を差し伸べ、一緒に遊ばないかと言ってくれたこと…。
私はその事を思い出しながらユイに話す。
「私は、死ぬために力を分けたんじゃない。生きるために……貴方に、分けたの………」
ユイもそれを聞き、少し驚いた目をした。
ゴメンと誤り、俯いてしまうユイ。
私はゆっくりとユイの服から手を離した。
そして突然、ユイは私を抱き締めた。
「ありがとう………ありがとう………ぐっ………………」
ユイは泣いていた。
もし私がいなければ、あの時ユイも死んでいた。
そして、私もひとりになっていた。
私はやさしく、彼の頬に手を添えた。
「だって、うれしいんだ……すごく……………」
私は、ベッドに膝で立ち、彼の頭を抱いた。
母親が、子供を慰めるように、私も同じようにした。
彼は、親を無くし、それ以来「甘える」ということをしていない。
だから私は、私の出来る範囲で彼を「甘え」させてあげるようにしている。
つまり、「母親」の代わりになっているということだ。
「泣きたいなら……泣いていいよ………私の胸でよければ、何時でも貸すから…ね?」
「エレイス………」
私は強くユイを抱きしめる。
私はこのときだけ、神を恨んだ。
ユイの不幸は誰のせいなのかと………。
ユイが落ち着くと、私は、彼の指で涙を拭いた。
「落ち着いた?」
「うん、ありがとう、あっ……」
ユイは鏡を見る。
何かと思い、ユイの顔を覗き込むと、目が真っ赤になったいた。
まるでウサギだ。
「う〜、これじゃ外にいけない〜」
ユイは、枕に顔を埋めた。
ウ〜とうなり、枕を押さえる。
「良いじゃない、もうしばらくここにいても」
私はユイの背中を、ツゥ〜っと背中を撫でた。
「ひぅ!!」
海老ぞりになり、うぁぁ〜とうめき声をあげつつ、背中をよじる
「せなかだめ〜………………」
「ホントに背中弱いよね」
悪戯をして、ユイが元気になったのを確認すると私はユイの隣に寝て、再び彼を抱きしめた。
もう絶対に独りにしないと誓いながら ………