15/夢の自由
12day/October 31(Fry.)
シャーロック&ルイ作
琥珀さんが、薬を置き外へ出て行くと、ふと私は目を覚ました。
躰を動かそうとしたが、力を使い過ぎたせいか動かなかった。
動くとしたら、頭だけだった。
「おきた?」
「えっ?」
隣を見ると、ユイが私を見ていた。
さっきの戦いの疲れなのか、いつもより元気がなかった。
「大丈夫?」
「だいじょうぶ・・・・ユイは・・・・」
「僕は大丈夫・・・・ステアーのおかげで」
「よかった・・・もう、かわったりしないから・・・・・ずっと、このままだから・・・・ね」
ユイは、そっと私を抱きしめてきた。
彼のぬくもりが伝わってくる。
あたたかい・・・・・・。
「ありがとう・・・・ステアー」
「ううん・・・・っ?」
私は、抱き返そうとしたが、腕が動かなかった。
「動かなくて良いよ、ステアーには辛い思いさせたからね」
「っ・・・うん。ごめん・・・・ちょっと寝て良い・・・かな?眠く・・・・て・・・・」
「いいよ、このまま眠って」
「ん・・・あり・・・・がと・・・・」
私は、ユイに抱かれたまま、眠った。
これだったら今までの疲れが取れそうな感じだった。
ユイも、私と一緒に眠り、私たちは至福の時間をすごした。
その頃、秋葉、シエルとアルクェイドの治療を終えた琥珀、翡翠は、居間で雑談していた。
秋葉と志貴は、紅茶を飲みながら、先ほどの戦闘の疲れを癒していた。
「琥珀、お二人の様子は?」
「二人とも、ぐっすり眠っていますよ」
「そう、ならよかったわ。あの二人は十分な睡眠が必要だから」
「ふぅ・・・・でもこれで、やっと平和な生活が送れるかな?」
ここは・・・・どこ・・・・・・。
何時の間にか、私は広い草原の上に立っていた。
もう秋で、木の葉が赤くなり、落ちているじきだというのに、草原に立つ一本の木は、青々としていた。
何だか、すごく気持ちいい・・・・。
「ステアー?」
どこからか声がした。
声がしたほうへ顔を向けると、そこにはユイがいた。
私は、彼のもとへと歩き出す。
しかし、足がもつれ、倒れそうになった。
「危ない!」
とっさに、ユイは私をキャッチした。
私は、ユイに抱き起こされると目が会った。
「あっ・・・ありがとう、ユイ。やっぱ、ユイのそばがいいや、私は」
ほんとにうれしかった。
彼がいると、何故か心が楽になる。
でも、今日はいつも以上に楽になった。
「ここは、どこだろう…」
「わからない…みんなは…いないみたいだし…。ん、ユイ、もう足、大丈夫だから」
私は、自分でも赤くなっていることがはっきりとわかった。
心臓も激しく鳴り、ユイに聞こえるんじゃないかと心配になった。
「あっ…、うん、わかった」
草原に足をつけると、私はもう一度あたりを見回した。
やっぱり私たち以外誰もいない。
となれば答えは一つしかない。
『夢』、そう、夢しかないと私は思った。
「これって夢かな、だったらどっちの夢だろう…」
「二人の、じゃないかな?」
「二人の夢…か…」
ユイは、草原の上にすわり、寝転んだ。
そして、思いっきり背伸びをした。
私も、ユイの隣に座り、空高く背伸びをした。
「ん〜〜〜…気持ち良いかも」
「ねぇステアー、躰は大丈夫なの?いろいろ迷惑をかけちゃったけど」
「えっ、ううん、そんなことないよ。でも本当にこんなの久しぶりだよね。最近戦ってばかりだったから、いろいろな事と…特にユイは…ね」
私は、彼の片方の腕を握る。
するとユイは、私の腕を握り返した。
「そんなことないよ、ステアーも戦った。僕一人じゃないよ」
「ぁ…でも、ユイだって自分の血を使って戦ってたじゃない。…それだって…すごく、ツライことだし…、やっぱりえらいよユイは」
突然ユイは、私を抱き始めた。
びっくりして、私は緊張をしてしまう。
「っ…ユイっ」
「力を抜いて、こんなとこで力を入れちゃいけないよ」
私は赤くなってしまう。
「ん……じゃあ、ありがたく…こうしてる」
私は、ゆっくりと力を抜く。
ユイに抱かれながら、私はもう一度草原を見渡す。
何だか、変な感じ。
夢なのにすごく現実感がある。
「ねぇ、これってもしかして…普段は出来ないことをするための…夢、だったりして…」
「そうかもね、ずっとこのまま、時間が続けば良いのにな…」
「そう…だね」
ほんとにそう思った。
私はこのぬくもりがほんとに心地よかった。
「でも、ちゃんと戻らなきゃ…みんな心配しちゃうよ」
「わかってる、あっ、そうだ。ステアー、一つだけお願いしていい?」
「ん…?何?」
「すこし目を閉じてくれないかな?」
なんだろう?
ちょっと考え込み、まぶたを閉じた。
すると彼は・・・・
「ん!?」
驚いた。
お互い、初めての「キス」だった。
でも、私はすぐにそれを受け入れ、躰の力を抜いた。
どれくらいの時間がたったのかわからないけど、彼は私の唇からはなれた。
「これが僕のお願い」
「ふぅ・・・え、う・・・うん」
何だかすごくうれしい、言葉じゃ言い表せないくらいうれしい。
「ユイは・・・嫌じゃないから・・・・・なんて・・・」
「もっとしてあげようか?」
さすがにドキッとする。
力を与えすぎたのだろうか?
「が・・・・がまんして・・・・ね?」
「ふふ、冗談だよ」
なんだかいつものユイとは違って見えた。
でも・・・・・こんなユイでもいいかも。
私はそんなことを思った。
「そういえば、どうやってこの夢から覚めるんだろう?」
「そうだね、さすがに僕もそれはわからないや」
あたりを見回しても、当然出口なんて見当たらない。
それに何だか、眠くなってきた。
「何だか気持ちいいから・・・・眠くなってきちゃった・・ファア〜〜〜」
「僕も・・・だよ・・・・」
そして、私たちはこの世界で寝た。
そよ風にあたりながら・・・・・・。
「まだ置きませんねぇ」
「あの二人も疲れているのよ、そっとしてあげましょう」
「ふふ♪そうですね〜。でも、寝顔がお二人ともかわいい〜。食べちゃいたいくらいかわいらしいです♪」
「琥珀、そんなこと言ってないで、部屋を出るわよ」
「秋葉様、何だか顔が赤いですよ?まさか〜、うらやましいとか思っていたりして?」
「そんなことあるわけないでしょ!?」
「んにゃ?」
ユイは、夢からさめ、躰を起こした。
同時に、私も夢からさめ、同じように躰を起こした。
「あっ、おはようございます」
「おはようございます、お体の方はもう大丈夫なようですね」
「はい、おかげさまで」
秋葉の後ろに立っていた琥珀さんは、クスクスと笑っていた。
「どうしたんですか?」
「どうもこうも、お二人とも気づいていないんですか?」
私たちは首をかしげる。
「お二人とも、ずっと抱き合って寝ていらしてたんですよ♪」
私たちはいっぺんに赤くなった。
そうだ、ユイに躰を預けて、そのまま寝てしまったのだ。
そして、夢の中で・・・・。
そして琥珀さんのとどめの言葉。
「寝顔もかわいかったですよ〜」
「こ・・・琥珀さん!」
「琥珀、あまりからからわないの」
「は〜い♪あっ、お二人ともお薬を置いておきましたから飲んでくださいね?」
「あ・・・ありがとう・・・ございます・・・」
「どうも・・・・」
赤くなり、緊張したせいか、声があまり出てこなかった。
秋葉と琥珀さんが出て行くと、ユイは布団の中に包まってしまった。
「う〜、からかわれた・・・」
「ま・・・まぁ、何事も前向きにいなきゃ。とりあえず薬は飲みましょう」
「うん」
はぁ〜、ほんとにさっきのは効いた。
まっ、仕方ないか。