04/あんなに一緒だったのに
シャーロック&ルイ作


 朝、目が覚めると僕は胸が高鳴り、息が出来なくなった。
遠野の血が抑え切れなくなっているのがよくわかった………。
外を見ると雪が降り積もり、温かくした部屋も少し寒くなっているはずなのに寒くない。
達上がろうにも足が制御できない…………。
力を抑えるにはエレイスの「不死の躯」にリンクして抑えるが、それだけでは間に合わないときがある。
その時は彼女と触れ合い、体で直接、力を抑える。
しかし今はエレイスとリンクが切れ、予想以上の戦闘とダメージが蓄積し、力が抑えれなくなっている。

「くそ…………力が…………」

「どうしましたユイ君?」

「っ!」

振り返ると先輩が僕を見ていた。
おそらく僕の力は知っているはず………。

「力が抑えれなくなっているのですね?」

やはり見抜いていたか…と心の中で呟く。

「は、はい…………」

「何か抑える事はできないのですか?」

「い、いつもエレイスと……………体で繋がるか………力を注いでもらうか…………」

「つまり体を重ねると……………ユイ君、一時的ではありますが魔力で暴走を抑えることができます。私に任せてみませんか?」

思わぬ発言に僕は驚いた。
だが今は時間がない、目的はわからないがナルバレック機関長はエレイスを使って何かをしようとしている。
僕は先輩に向かって頷いた。

「じゃあ座ってください」
僕は先輩の指示通りに座ると、先輩は何をするのか上着をぬがし、僕を裸にした。

「今から、エレイスさんには申し訳ないですが、あなたと体を重ね、直接あなたに魔力を注ぎます」


先輩はは有無を言わさず僕にキスをし、僕のを触る。
スイッチが入ると刺激に弱く先輩は志貴とで経験しているであろう、見事なテクニックで僕を快楽と安心感を得ていく。
そして…………僕らは一つに繋がり、何度も果てた……………………。




日が正午になる頃、僕は体の制御がなんとか戻り、装備品を整えた。
先輩のおかげである程度は楽になり、ニ、三日程度なら何とかなるレベルまで戻った。
メレムが新しく提供してくれた服に袖を通し、ホルスターを付け、ワルサーP99、グロック26アドバンスを入れる。
服はバックパックの中に入れ、証拠は残らないようにする。

「準備できたようですね」

「はい、あの先輩………」

「何ですか?」

僕は赤くなる。

「さっきはありがとうございました…………」

「可能な手段をしたまでです。でも、エレイスさんと遠野君には内緒ですよ」

人差し指を立て、内緒のポーズをすると僕も頷く。
その時、どこからかバイクの音が聞こえてきた。
さっとグロックを構え、窓際に隠れて外を覗く。
バイクの音はどんどん近づいて来る。
僕はスライドを引き、弾を薬室へと送る。
先輩も黒鍵を構えスタンバる。
じっと構えていると、草木の中から一台のバイクが飛び出し、この基地の前に止まった。
そのバイク、トライアンフ・デイトナに跨がっている人物に僕は驚いた。
フェーダーだったのだ。
バイクに付いているのはヘッケラー&コック G36、こっちにある装備はハンドガンにスナイパーライフル………、部が悪い。
だがフェーダーはG36Kを持たず、サイレントガンナーも聖霊の姿に変えてデイトナの側に立つ。

「フェーダー、何を?」

「彼女に武器はありません、出ても大丈夫でしょう」
先輩の言う通りに僕は外に出る。
周りを確認しつつ、慎重な足取りでゆっくりと進む

「敵はいない、安心しろ」

「何しに来た?」

「シエル姉さんの味方に付くんだ。私はもう仲間を裏切るなんてできない、大切な仲間を失いたくない」

「フェーダー………」

「信じていいでしょうユイ君」

「うん、彼女の目を見たらすぐに解るさ」

彼女の目は鋭い鷹のような目の奥には偽りなき綺麗な目が見える。
彼女は信じていい。
僕はグロックをしまい、フェーダーの前に立つ。

「フェーダー、ナルバレック機関長の目的はなんだ?」

「お前とエレイスの確保だ。お前は生死ギリギリの戦闘でレベルを上げさせ、仲間に入れようと考えているんだ。エレイスを拉致し仲間にすればお前は必ずフィッシュするはずと考えたんだ」

「だったらとことんハマってやろうじゃんか、それでエレイスに近づけるのならな」

「これからどうするのですかフェーダー?」

「とりあえず二手に別れて目的地に向かおう、サイレント」


サイレントはデイトナに付いてある折り畳んである板を出し、それを延ばすと、スキー板が現れる。

「ユイ様、これを。あなたなら使え熟せるはずです」

「いい手だ、よっ」

スキー板を足に嵌め、ストックを握る。
うむ、悪くない。
シエル先輩はデイトナの後ろに乗る。

「ユイ様、これを」

サイレントが渡してくれたのは腕時計に装着可能なコンパスだった。

「中にGPS発信機が入っています、これではぐれてもユイ様の位置を探すことが出来ます」

「こいつは便利だな、ありがとなサイレント」

「いえ、気にしないでください」

 ガンナーに戻り、フェーダーのホルスターに戻るとユイはデイトナの隣まで滑ってみる。
 スッとすべり、なかなか好調だった。

「いたぞ!」

 僕達が振り返ると要員が新たな装備をして来ていた。
 手にはG36Cを握っており、他の要員はスパス12ショットガンを構えていた。
 腰には手榴弾が見える。
 要員達は容赦なく僕らに向かって撃って来た。

「先輩!僕がメインです!先に基地に行っていてください!!」

 僕はストックをきつく握り、行きよいよく滑り出す。

「行くよ姉さん!!」

「ええ!!」

 フェーダーはアクセルを回し、タイヤスモークを噴かせながらウイリー装甲で発進する。
 銃弾が近くに当たり、地面を次々と削る。
 要員達はマガジンを交換し、僕達を追いかけようと撃って来る。
 僕は林に身を隠し、要員の装備を再びチェックしようとした時、目を疑うものが飛び込んできた。
 黒色のスノーモービルが飛び出し、僕らの方向へと向かってきたのだ。

「そんなものまであるのかよ!!」

 黒色のスノーボービルは見たところ、徹底した軽量化が計られており、かなりスピードが出るように設計されていると僕は思った。
 僕はストックを雪に刺して一気に滑り出す。
 幸いにもここは目的地に向かって坂になっている為、スピードはいくらか出る。
僕はブレーキをかけずに一気に駆け下りる。
後ろも振り向かず、スピードを上げることだけに専念する。
 しかしスノーモービルに乗っている要員が持っているヘッケラー&コックMP5Kが火を吹き、僕の滑った地面を削る。

「くそ、スノーモービルは三体かよ……」

 僕は林の中に向かい、木と木が狭い場所を出来る限り選び、スピードを落とさずに一気に滑っていく……。




フェーダーはスノーモービルの追ってを振り切ろうと必死だった。
雪を掻き分け、後輪のサイドに装着してあるボードとフェーダーのバイクのハンドル捌きのおかげで転倒はないが、バイクとスノーモービルを比べたらスノーモービルの方が圧倒的に安定性は高い。

「姉さん! スノーモービルの数は?」

「二台です!」

「捕まって!」

フェーダーはブレーキをかけ、後輪をスピンさせながらデイトナを回転させる。
そしてハンドルから手を離し、G36Kを手に取るとスノーモービルの右前部のスキッドに向かって5.56mm弾を撃ち込む。
するとスキッドを支えているパイプが折れ、スノーモービルはバランスを失い、木にぶつかって爆発した。
G36Kを戻し、前輪だけブレーキをかけ、その場でスピンをさせて180゜回るとブレーキを離すと急発進する。

「あと一台ですよ!」

「了解っ!」

フェーダーはバックミラーで敵を確認すると、シエルに当たらないようにサイレントを取りだし、ミラーだけ見つつ、トリガーを弾く。
弾丸はスノーモービルのフロントボディー、フロントガラスを砕くが、要員には当たらず撃ち返して来た。
サイレントをホルスター戻し、さらにアクセルを回して速度を上げる。
 フェーダーが打つ手を考え始めたその時、見覚えのある人物が立っていることに気付いた。
彼女その人物の手前に木があるのに気付き、フェーダーはさらに速度を上げる。
それと同時にその人物は走りだし、フェーダーは木の上に乗ってジャンプする。
要員の視点はフェーダー達のバイクに目が行き、その人物が近づいてきたことに気づいたのはその数秒後だった。
 その人物はナイフを出し、ナイフを逆刃にして要員の首に切りつけた。

「たわいない…」

 要員はハンドルから手が離れ、スノーモービルはそのまま崖から落ちた。

「下のロッジでまた会おう」

「見事だ七夜」

「無事だったようだなフェーダー、シエル」

「あなたも無事で何よりです」

 フェーダーはバイクを止め、スタンドで立たせるとバイクから降りる。
 七夜の服は幾多の戦闘でぼろぼろになっており、少々疲れの表情も伺える。

「ユイはどうした?」

 フェーダーはバックパックに入れてあるモニターを出し、ユイの居場所を探す。
モニター上にはユイの居場所がオレンジのポイントとなって現れる。
 今ユイがいる場所は、ある道路を移動しているのが分かった。

「妙だな……スキーで移動している割には早すぎる」

「となれば…」

「捕まっているというのが妥当ですね」

「おそらく包囲されて、捕まったのだろうな…」

 三人は眼下に見える埋葬機関の施設を見た。
目指す目的地、エレイスの奪還及びユイの救助という任務が増えた今、上手く作戦を立てなければ自分達がやられることは三人とも分かっていた。

「さて、そうするかなフェーダー、シエル?」

「どうしましょうかね…?」



 目が覚めると、僕は手を縛られ天井に吊るされていた。
そういえば僕は要員のワナにはまり、捕まってしまったのだ。
 スキーで一体一体のスノーモービルを排除に気が向いていて、要員が仕掛けたワナに気づかずに突っ込んでしまったのだ。
 当然すべての武器を奪われおり、残りは刃の力に頼るしかなかった。
 だが僕はあえてそうしなかった。
 ここで脱出し、武器もないまま出るよりここでエレイスを待っていた方が得策だったからだ。
 僕は誰かが来るまで瞑想に入る事にした。
余計な力を使わず、ジッと力を溜める事が出来る。
 目を閉じ、周囲の感覚を研ぎ澄ませ、僕はゆっくりと深呼吸する。
 一時間、二時間と時間が過ぎた時、この部屋の扉が開き僕はゆっくりと目を開けた。

「ほら『訓練』の時間だ」

 要員はそう言い、僕を下して膝立ちにさせると脇を掴み、そのまま引きずっていく。

「歩けるんだけど…」

「黙っていろ!」

 容赦ないパンチが僕の頬に当たり、視界が揺らぐ。
 連れてこられた部屋は殺風景な部屋だった。
部屋の隅にはテーブルがあり、その上に何かが置かれていた。
そしてテーブルの前には箱があり、水が入っていた。
だがそれは普通の水ではなく、氷水だった。
 要員はその箱の前に僕を引きずると、いきなりその氷水の中に顔を突っ込ませた。
 あまりにも冷たい刺激が僕の顔に刺さり、息が出来ない。
10秒くらい経った後に一度顔を引っ張られ、氷水から顔が出ると僕は思いっきり息を吸う。
 そしてもう一度氷水に突っ込まされ、また出されるというのを何度もさせられた。

「っ……はぁ……はぁ…」

「ほらっ!そこに座れ!!」

 要員は僕を床にたたき付け、椅子に座らせられ体を固定された。
ゆっくり肩で息をし、呼吸を整えると僕は要員の姿を見る。
 要員が何か弄っていると突然強烈な電流が僕を襲った。

「ぎゃあああぁぁぁ!!」

 あまりの強烈さに僕は驚く。
そして一度放電が止まり、また放電がする。
何分か置きに放電が繰り返されられ、それが開放される。
そして聞きなれた声が某の耳に入った。

「あとは私がやるわ」

顔を上げるとそこにはエレイスがいた。
レイスの目は冷たい…………。
その瞳に僕は鳥肌がたった。
要員がさっと引き下がり、扉が閉まるとエレイスはゆっくり僕に近づく。
椅子に繋がれた僕は動けない。

「あなたに…………………彼女がどれだけ辛い目にあったか…………………分かる?」

「な……………に?」

エレイスは遠慮もせず、僕の顔面を殴り、僕は椅子ごと倒れた。
エレイスのパンチは血の力で強化していて、並の人間が食らったら間違いなく首が折れて死んでいた。
 しかし僕はあえてその力のこもった拳を受けた。

「あなたに何度殺され、なんど苦しんだか………」

エレイスの蹴りが僕の腹に入り、呼吸ができなくなる。
何とか吸おうと必死で喘ぐ。
だが今度は背中をケリつけ、椅子に繋がれていたチェーンが切れて僕は壁まで飛ばされた。
だが僕は攻撃も防御も構えなかった……………いやできなかった。
こんな事、彼女が経験した事に比べたら軽いくらいだ。
エレイスはゆっくりと近づき、血の刃を出すと刃先を僕の手に向けてそのまま突き刺した。

「ひぎっ!!あぁ…………」

僕は必死で痛みを堪えた。
だが彼女の怒り、悲しみ、憎しみ、全てが刃を通じて痛みとして感じるようだった。

「簡単には終わらせないわユイ」

エレイスは僕の顎を掴み、苦痛に耐える僕の顔を見て笑みを浮かべる。
そして口から出る血を舐めとり、再びエレイスは復讐を始めた…。
冷酷に……………そして愉快に…………。
殴られ、蹴られ、切られ、苦しめられても僕は防御をしなかった。
全て僕はエレイスの攻撃を体で受け止めた。
何時間経っただろうか……………。
エレイスは手を止めた。

「なんで何もしないの? 防御もせずただ受け止めるだけ…………何考えているの?」

「べ、別に………………僕はただ…………………エレイスの受けた傷を受けたいだけだ…………」

「優しいわね、でもあなたのその優しさは時に人を傷つける武器になるわ」

「かもしれ、ない…………………だけど僕は、どんな事でも相手が傷ついてしまった………ら、原因突き止めて謝るっ」

「ふざけるんじゃないわよ!!」

エレイスは僕の掴み、みぞおちに拳を食らわせ、地面に叩き付けた。

「かはっ!」

「正義の味方を気取ってるつもり!?あなたのそういうところが憎いのよっ!」

「違う………………僕は君の辛さを変われるなら変わろう、過去の事を無くしたいなら僕は全力で君を助ける、誰かを殺したいなら代わりに僕が殺そう………君の為なら僕は地獄に落ちてもいい」

「…………………………」

「僕は……………エレイスに感謝している、エレイスのおかげで僕は今がある。今回の事でいい訓練になった。だから………………もしエレイスがつらかったら僕が何とかする」

エレイスは目を閉じ、俯く。
僕はゆっくり立ち上がり、血の刃を出す。
そしてそれをエレイスに握らせ、刃先を僕の胸に当てる。

「エレイスが……………………僕を必要が無くなったら…………殺せばいい。それがエレイスにとって楽になるなら………」

僕は迷いなどなかった。
エレイスが望むなら、僕は何でもする。
僕はそのくらい彼女に辛い目に合わしたのだ。
僕は目を閉じ、エレイス望む答えを待った。
だが…………エレイスは僕を刺さず、刃を落し、頭を僕の頭につけた。

「ごめ、ね………………ユイ…………」

「エレイス?」

取り戻した、エレイスを……………。
元のエレイスに戻ったのだ。
エレイスは僕をそっと抱き締め、胸の中で泣き始めた。
もう僕はエレイスを悲しませない。
今まで辛い目に合わせ、苦しませて来た結果、彼女の新たなる人格が生まれたのだ。
それを今まで気付かず、僕は普段通りに接した。今度は僕が彼女を助け、支え、過去の償いをする。

「エレイス…………」

「ユイぃ………………ごめん、なさい」

「謝ることなんてない、さあ、もう泣かないで。今は脱出を……………」

「うん、でも待って、今のまま出たらすぐ見つかるわ。準備してくるから、ユイは傷を直すことだけに専念して私はもう一度[彼女]になるから」

「えっ?」

エレイスは一度深呼吸し目を閉じると、意識が変わる。
ゆっくりと目を開けると、さっきのエレイスになっていた。
僕は思わず警戒をしてしまう。

「そんなに警戒しなくていいわ、もう何もしないから。あっちのエレイスとちゃんと話し合ったんだから大丈夫よ♪」

一本指を立て、元のエレイスと違った笑顔を見せる顔に僕は少し安心感を得れた。
僕はエレイスの言葉を信じ、ここで待つことにした。
確かに今、この体で逃げるのは無理がある。
エレイスは拷問部屋を出て行くと、僕はその場に座り、瞑想に入った。
こうすれば痛みも少しづつだが引いていく。




夜になり、フェーダー達は一番監視の少ない場所を選びつつ施設敷地内に潜入し始めた。
幸いにも結界はなく、一般的な赤外線センサーや対人無傷兵器ばかりだった。
三人はフェーダーを先頭に慎重な足取りで進入して行き、施設内の潜入に成功する。

「ここまではよし、まずはユイのいる場所は……………」

モニターにユイの居場所を映し出すと、場所はここから地下に降りなければならなかった。

「ここからは別行動で動こう、七夜、ユイの救出を。私はエレイスを見つけてくる」

「私はここのセキュリティを解除してきます」

「わかった、救出後はここに集まろう」

三人はそれぞれの方向へと進む。
七夜は地下へ通じるドアを目指し、足音を立てずに進んでいく。
建物内は築何年立っているのか少々古めかしい感じで、ランプの光が燈るだけで少々暗かった。
地下へ降りる階段を見つけると、壁に背を付け、ゆっくりと顔を出す。階段には一人の要員がG36Cを持って警備をしていた。
七夜は要員の顔が振り向いた瞬間に跳躍し、要員の背後に回ると、ナイフを逆刃にし、要員を切った。
要員は気絶し、七夜は先を急いだ。
先輩は階段を登り、セキュリティルームへ向かう。
通路を進んでいくと先輩は足を止める。
要員がいないのだ。
普通、どのような場所でも警備を怠ることはない。
となれば残る考えは一つ、トラップがあるということだ。
先輩は回りを見ると足元にトラップがあることに気付いた。
そして天井の一部に隙間があり、センサーに触れればそれが落ちてくるとわかった。

「少々厄介ですね…………」

先輩は目に魔力を集め、赤外線を見定める。
赤外線は一定の感覚で消えたり点いたりしており、二拍子の感覚で点いている。
先輩はリズムを取り、一歩づつ慎重な足取りで進んでいく。
ゴールまで35メートル、先輩は焦らず進んでいく。
1、2、1、2と心の中でカウントし、半分まで来ると先輩は深呼吸し、再び足を進め、赤外線トラップをクリアした。
そしてセキュリティルームと書かれた部屋につくと、機材を一つ一つチェックする。


「これですね?」

全ての階のトラップ、ロックを外すと、先輩は合流地点まで戻っていった。
先輩がセキュリティを解除している時、フェーダーはエレイスのいる部屋に向かっていた。
G36Cを構え、風を読みながら進んでいく。
回りに漂う風は穏やかで、人がいる気配がない。センチメーター、タクティカルもいない。
いや今現れた…………………………忍びの達人にして剣術のマスター・タクティカルが背後に。

「銃等構えてどこへいく?」

フェーダーはG36Cをゆっくりおろし、タクティカルの方を向く。
彼に嘘はつけない。

「エレイスに会いにいくんだ、銃はいつもと違う風を感じたから」

「そうか、で、ユイを救出にいくと?」

フェーダーは表情に出さないが心の中で舌打ちした。
次の手を考えていると背後から聞き慣れた友人の声が聞こえた。

「フェーダー、ここにいたの?」

 振り返るとそこにはエレイスが立っていた。
フェーダーは少し驚くがすぐに平静を保ち、エレイスに寄る。

「ちょうどエレイスに用があったんだ」

「あら、私もよ」

「というわけだ、またなタクティカル」

 二人は部屋の中に入り、タクティカルと離れるとフェーダーはG36Cのマズルをエレイスに向ける。

「こうしたくは無かったがエレイス、一緒に来てくれ…」

「そんな物騒なものを私に向けないでよ、私は今は見方よ」

「えっ?」

「もうユイのことは許してあげたわ、今はここからの脱出を急がなくちゃ」

「どういうことだ?」

「だから言ったでしょ、もうすべて水に流したって。彼の馬鹿が付く位の優しさに私、負けちゃったの。だから今はユイの見方になったの」

「そうだったのか……」

「急いで、あまり時間はないわ」

「了解した、今七夜がユイの救出に向かっている」




 その頃、七夜は誰にも見つからず、シエル先輩がセキュリティーシステムをダウンさせた事ですぐに僕のいる部屋を見つけた。
扉を開けると、僕の姿を見て内心驚いた七夜が入ってきた。

「ユイ、大丈夫か?」

「七夜?」

 僕は七夜の無事な姿を見てホッとした。
僕は瞑想で、能力を回復だけに専念させたお陰で僕は何とか立つ事が出来た。
だがダメージはかなり大きく、足がガクガクしてしまう。

「肩を貸してやる」

 七夜は僕の腕を肩に担ぎ、一歩一歩確実に歩いていく。
拷問部屋から抜け出すとシエル先輩がこのフロアにたどり着いた。

「ユイ君っ、派手にやられましたね〜」

「大丈夫です、それよりエレイスを……もう彼女は僕らの元に戻りました」

「わかりました、それよりここから早く出ないと時期に要員に……」

 その時だった。
 このフロアに設置してあるセキュリティーカメラが動き出したのだ。
おそらく各所のセキュリティーシステムが再開したのだ。
 幸いにも監視カメラは僕らの死角になるところで、レンズに僕らが映る事はまず無かった。
 しかし下手に動けば見つかりかねない。

「厄介ですね、このままだと地上へ上がる事は出来ません………フェーダー、聞こえますか?」

『こちらフェーダー、エレイスと合流、今から合流地点へ向かう』

「待って下さい、先程解除したセキュリティーシステムが復旧し、地上へ上がる事が出来なくなってしまったんです」

『了解した、ユイの武器を回収して別の場所で合流を。』

「分かりました」




 インカムを切るとフェーダーとエレイスはメレムのいる部屋へと向かった。
フェーダーの予測では僕の武装が必ずメレムのところに預けられていると考えたのだ。
 二人は小走りでメレムの部屋に向かうと途中、センチメーターに出くわした。

「おう、どうしたそんな急いで」

「ちょっとね、傷の具合は?」

「もう平気さ、さて、そろそろあいつらがここまでたどり着く頃かな?」

「もうユイは捕まっているは、今はわたしが『訓練』しているわ」

「そうか、ならお前に任せた方が得策だな」

「あなたはまだ部屋でゆっくりとしていたら?」

「そうさせてもらうぜ」

 そういってセンチメーターは自室へと戻った。
エレイスたちはホッとし、再びメレムの部屋へと向かった。
階段を上がり、三階のフロアに着き、フェーダーがある扉を開くとそこにはメレムがいた。

「メレム」

「用件はわかっているさ、はい、ユイの武器」

 メレムが無邪気な顔で指をさすとそこにはユイの武器が綺麗に並べられて置いてあった。
そしてその横にはユイが着ていた服が置かれてあった。
 フェーダーは一つ一つ手にとって銃をチェックする。

「中身の麻酔弾もちゃんと補充されている、さすが」

「ありがと、ほら、早くしないとユイ達、また捕まっちゃうよ」

「そうだな、ありがとう」

 エレイスとフェーダーは銃と服を手に入れ、急ぎ合流地点へと急いだ。
 その頃、先輩と七夜と共に僕達は牢の中でどうするか考えていた。
僕はダメージを追い、走ることが出来ず、歩く事がやっと状態だった。
どうやってここから抜け出すか、その答えを見つけたのは七夜だった。

「シエル、要員をおびき寄せる事は出来るか?」

「何とか……」

「七夜、何を・・・」

「変装だ、俺が要員に変装してユイを運び出す、シエルはセキュリティーを何とか突破セキュリティールームに行って俺達を誘導してくれ」」

「なるほど、それは名案ですね。ではすぐにそれを実行しましょう」

 先輩は手短に壁を削って手のひらサイズにすると、セキュリティーカメラに見つからないように階段に向かって投げる。
んっと声がし、階段を降りる足音が聞こえる。
七夜と先輩は扉の死角に隠れ、僕はダメージを追ったように床に倒れる。
 先輩はさらに扉をノックすると、要員はこの部屋の前にたどり着き、扉を開ける。
その瞬間、まず七夜は要員を足払いし、要員を倒すと先輩は黒鍵を出し首元に刃先を向ける。

「お見事二人とも」

「さて、七夜君」

 七夜は要員に手刀を食らわして気絶させると上着、ズボンを脱がせG36C、FNファイブセブン等の武器類も回収する。
幸い、体系が七夜と似ている為、スーツ姿の七夜に簡単になれた。
だが一つ問題が……

「ユイ、こいつの使い方はどうやるんだ?」

 そう、七夜は銃器を扱う事が出来ないのだ。
僕はまず簡単にG36Cの扱いを教え、さらに要員が持っていたスタングレネード、グレネードの扱いも教える。
幸い七夜の飲み込みは早く、後は実践で使用するだけとなった。
僕は懐にファイブセブンを隠し、ばれたときの為にすぐに動けようようにしておく。

「準備OKだ」

「解りました、では私はセキュリティールームに行きます。あとこのインカムを・・・」

 先輩は自分につけてあったインカムを七夜に渡す。
それを受け取り、七夜は耳につける。

「私はセキュリティールームで支持しますからしばらくここに残ってください」

「解った、手短に頼むな」

 先輩は深呼吸し、軽い足取りでババッと部屋から出て行く。
僕達はジッと先輩の連絡を待った。
10分達、先輩からの連絡が入った。

『七夜君、聞こえますか?』

「はっきりと、で、着いたのか?」

『少々手こずりましたが何とか。セキュリティーはオフにしました。これからカメラであなた達を誘導します』

「了解した、行くぞユイ」

「うん……」

 僕は七夜の後ろを歩くように着いて行き、僕達は階段を上がり、地上へと出る。
階段を上がり終え、先輩からの指示通りに動く。
所々に要員がいるが、護送していると間違われそのまま通り過ぎていく。

『ストップ、そこから二階に上がってください。そして二階に上がったら近くの部屋に隠れてください』

「了解」

 正面に二階に通じる階段があり、僕らはゆっくりとその階段を上がる。
そして七夜はさりげなく近くの要員に挨拶して、その要員が振り返った瞬間、すぐ側の部屋に隠れた。
 そこは倉庫で、様々なものが揃っていた。
ふと治療キットを見つけ、七夜はそれを取ってくれた。
そして負傷したところを丁寧に治療をしていく。
不死の躰の能力は今限りなくゼロに近い。
 オキシドールを直接傷口につけると傷口があわ立ち、激痛を伴いながら消毒をする。

「っ……染みる…」

「直したら行くぞ」

「了解……………………よしっと、いいぞ」

「うむ、シエル、出てもいいか?」

『場所の変更です、このまま外に出ると要員に捕まりますっ、地下のトンネルに向かってください。そこから出て近くのダストシュートに飛び込めば地下へいけます』

「了解した、二人には?」

『もう連絡しています。すぐに合流できるはずですから安心してください、私もすぐに行きますから』

「分かった」

 七夜はインカムのスイッチを切ると首を振って合図して僕達は外へ出る。
静かに外へ出ると僕らはすぐにダストシュートを探しに歩く。
 とその時、背後から声が掛かった。

「待て?何処に行く?」

「…こいつの移動だが、センチメーター様に呼び出されていて」

 七夜は怪しまれないように要員の会話を思い出しながら話していく。

「そうか、なら俺が連れてってやるよ」

「いや、手を煩わせるわけには行かないからな、それにセンチメーター様の指名だからな…」

「そうか………なら仕方ないか…、まっ、頼むぜ」

 そういって要員は自分の持ち場に戻っていった。
僕達は心の中でホッとし、再びダストシュートの場所を探し始めた。
だが何処にも見当たらず、時間が経つにつれて僕らは少しずつ焦ってきた。

『シエル、見つからないが……』

「おかしいですね……ではその隣にある部屋に入ってください。そこの壁下にダストシュートがあるはずです」

「了解した」

 七夜は扉を開け、壁下を見るとそこには僕らにはちょうどいいサイズのダストシュートがあった。
フェンスを開けて中を見ると、ひんやりとした空気を感じた。

「よし、先に行け、俺は後から行く」

「了解」

 僕は勢いをつけて一気にダストシュートの中に入る。
そのまま流れに乗って滑っていくと空気がドンドン冷たくなり、僕は地下のトンネルに転げ出た。
そして隠してあったファイブセブンを出して回りに敵がいない事を確認するとゆっくりと僕は立ち上がった。
ダストシュートから摩擦音が聞こえてくると、その数秒後に七夜が僕と同じように転げ出て来た。

「大丈夫?」

「平気だ、それよりここは冷える……早くエレイスたちと合流しないとお前が凍えてしまう」

「もう凍えそうだけどね」

 そう、体の震えが止まらないのだ。
思わずその場にしゃがみ込んで寒さを耐える。

「シエル、聞こえるか?」

『な……か……聞こえ……が………少し………ズが……』

「なんだって?」

『聞こえ・・・か………』

 ここのトンネルのせいか電波の通りが悪い。
七夜は通信を諦め、上着を僕に羽織ってくれた。

「すまない七夜……」

「気にするな……っ?」

 ふと足音が聞こえ、僕らは銃を構える。
足音が大きくなり、七夜はG36Cに装備されているフラッシュライトを点灯させる。

「うわっ!眩しいよ七夜っ!」

「エレイスかっ」

 七夜はG36Cを下ろすと、肩にかける。

「無事か二人ともっ」

 エレイスの後ろからG36Kを持ったフェーダーも合流すると、フェーダーはメレムから受け取ったユイに新たな服を渡す。
その前にエレイスにヒーリングをしてもらい、一つ一つの傷を癒してもらう。
打撲、切り傷などすべての傷を癒してもらい、体が軽くなると僕は服を着る。
ぼろぼろになった服は小さくたたみ、証拠が残らないようにバックパックに入れる。
ズボンを履き、シャツを着るとベルトをつけ、ホルスターをつける。
レッグホルスターにワルサーP99、バックホルスターにグロック26アドバンスを入れる。
そして七夜が持っていたG36Cをマガジンと共に受け取り、ワンバーストでロックを外す。
そしてコートを着るとゆっくりと服の温もりを感じつつ、体の調子が戻ってくる。

「あとは先輩を待つだけか……」

「ここで待っていよう。ここから移動するわけには行かないしな」

「そうね、先輩、大丈夫かな?」

「大丈夫さ…信じよう」

「うん」

 僕らは先輩が来るまで、このトンネルの中で待機した。
10分、20分、そして30分……。
しばらくしてダストシュートの方から摩擦音が聞こえてきた。
すぐに僕とフェーダーは銃を構え、エレイスと七夜はナイフと血の刃を構える。
音が徐々に大きくなり、姿を現すとシエル先輩が飛び出してきた。
僕と七夜と同じように加速が付きすぎている為、着地できずそのまま地面を転がって立ち上がる。

「よかった、無事だったんですね」

「大丈夫ですよエレイスさん、さっ、早くここから逃げ出しましょう」

 僕らは同時に頷くと、出口に向かって走り出した。
もう怖いものはない、このメンバーなら何があろうとも越えてゆけるはず、僕は走りながらそう思った……。













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