03/自由という名の孤独
シャーロック&ルイ作


  日が開け、僕は目が覚めた。
僕の前にはシエル先輩が寝ていた。
 ゆっくりと体を起こすと、体にあった傷はエレイスの力が残っていたのかすべて消えていた。
 ワルサーP99を出し、トリガー上部のロックを外し、マガジンを出してスライドを外す。
マズル内部、薬室などすべての箇所を調ると、スライドを元に戻してワルサーを元の形に戻す。
 ワルサーPPKも同様にすべての箇所を調べると元の用の形に戻す。

「目が覚めましたか?」

「先輩、おはようございます。眠れましたか?」

「ええ、何とか…。先輩は?」

「大丈夫ですよ、さて、準備して行きましょうか?」

「うん…」

 僕はワルサーP99とワルサーPPKをホルスターにいれ、身だしなみを整えるとコートを着る。
 先輩も身だしなみを整え、準備を整える。
 先輩と会いコンタクトをし、僕はステアーAUGを持って外へ出る。
 朝一番という事もあり、まだ冷え込みが強く、眠気を吹き飛ばす。
 ステアーAUGのスライドを引いて、5.56mm弾を薬室へ装てんする。

「まだかかりますから少し急ぎましょうか?」

「はい、そうですね」

 森の中を掻き分け、周りに神経をとぎらせながら歩いていく。
 落ち葉、折れた木などを出来る限り踏まずに進んでいくと、先輩が片腕を上げて静止をさせる。
 その場にしゃがみ込み、シエル先輩が指す方向を見た。
 その方向には要員がステアーAUGを持ち、回りを伺っている。

「回り道をしますか?」

「出来るならそうしたいですが、出来なさそうですね?」

「はい、ではユイ君、わたしが彼らを引き付けますからその隙にやっちゃってください」

 僕はコクッと頷くと、先輩は木を蔦って移動を始める。
要員に近づくとすばやく黒鍵を投げつける。

「誰だ!!」

 物音がした方に向かって要員が近づき、先輩の姿を見つけるとすばやくステアーAUGのマズルを向ける。
 僕も出来る限り殺傷させないように、スコープの照準を腕に絞り、トリガーを軽く引く。
 ステアーAUGはヘッケラー&コックMP5などのようにワンバースト、フルバーストの切り替えスイッチがなく、この銃の場合はトリ
ガーの絞り具合でワンバースト、フルバーストが変わるのだ。
一発、二発と次々と敵の射撃を封じ込め、銃撃の雨が少しずつなくなっていく。
 だが別の要員が通信をしたのか増援が来るのを見つけ、持っている銃を見て僕は焦った。
 ステアーAUGのフォアグリップの部分に、M230グレネードランチャーが装着されていたのだ。
 そして他の要員も何人かM230グレネードランチャーが装備されており、僕はすばやく照準をM230グレネードランチャー付きステ
アーAUG装備の要員に向かってワンバーストで撃っていく。
だが要員はすかさず僕のいる所に向かってM230のトリガーを引き、グレネードらしいポンという音が聞こえた。

「おい勘弁してくれ!」

 僕はその場を走り出し、近くの木の影に隠れた。
 そしてグレネードが炸裂し、爆風が背中に当たる。

「容赦ないなぁ…」

 僕はステアーAUGのマガジンを取り出すと装着してあるマガジンと交換しスライドを引く。
前部のフォアグリップを握り、一呼吸をして僕は一気に走り出した。
 要員は容赦なく僕と先輩に向かってトリガーを引き、5.56mm弾の嵐を降らせる。
 僕も走りながら要員に向かって照準を定めずに撃ちまくるとすぐに弾を使い果たし、残りが一つになってしまった。
 躊躇無くマガジンを交換し、再びスライドを引いて一度木陰に隠れる。

「先輩、聞こえますか?」

『聞こえますよっ、どうしますかね?』

「倒さないとダメじゃないですかっ」

 木影から体を出し、ステアーAUGのトリガーを弾く。

「今度は僕が牽制しますから先輩、奴らの相手をお願いいたしますっ」

『了解しました!!』

 木影に体を戻し、体の姿勢を低くしたままその場から移動をする。
 グレネードの爆発と発砲音が飛び交い、耳が痛くなってくる。
 そっと顔を出して先輩を見ると先輩も的確に要員を倒していくが、相手がグレネードやステアーAUGなどを使用している為、うか
つに体を出せないでいた。
 僕はステアーを置き、ワルサーP99のマズルにサイレンサーを付けて静かに要員を片付けて行く事にした。
 近くに落ちている石を広い、先輩を狙っている要員の一人に当て、射撃を止めると僕はワルサーのサイトを見て一発だけ撃つ。
要員の右手に当たると、握っていたステアーAUGを落とし僕は続けざまに左手を狙ってトリガーを引いた。
 別の要員が今倒した要員に気づき、僕の姿を見つけるとステアーAUGのトリガーを引いて弾を撃ってきた。
木影に隠れて弾を避けると、先輩が今撃ってきた要員の背後に飛び降り、巧みな体術で要員を倒した。

『もう大丈夫みたいですよユイ君』

「了解、怪我は無いですか?」

『はい、ユイ君は?』

「大丈夫です、今そっちに行きます」

 先輩の所に駆け寄り、先輩の無事をちゃんと確認する。

「あら、ユイ君、その銃…」

「えっ?」

 ふとステアーAUGを見るとストックの部分が破損していた。
 そしてワルサー一丁もグリップ部分に亀裂が入っていた。
 おそらくさっき戦闘で要員からの攻撃を避ける時に破損したのだろう…。
 僕はステアーAUGを倒れている要員の隣に置く。
 破損したワルサーP99はまだ使える余地があると考え、左のホルスターにしまっておく。
 ここから先はワルサーP99と割るさーPPKで行動をする事にした。
 ステアーAUGは扱いやすいがどうも僕にしっくり来なかったのだ。
 とその時、通信が入った。

『シエル、無事かい?』

「メレム、あなたなのですか?」

 メレム・ソロモン
 埋葬機関第三位に所属し、使徒でもある存在。
その人物が通信を入れたことに少し警戒をしてしまうが通信から聞く限り警戒をすることはないだろうと思った。

『どうやら無事だったみたいだね』

「で、何の用ですか?」

『そこに一人仲間がいるだろう? そいつに武器を上げようと思ってさ』

「あなたにしては気の利いた事ですね?」

『シエルたちがいるその場所から少し行ったところにある廃墟になった通信中継基地がある、そこで落ち合おう』

「わかりました、私たちもそこに向かいます」

『そこの彼に聞いてくれないか? どんな武器がいいかと』

「ども、ユイといいます。武器は僕の持っているワルサーP99と同じような特殊弾が撃てるH&K MP5、命中精度がいいハンドガンと
……あとはスナイパーライフルを」

『了解したよ、すぐに用意して向かう』

 先輩は通信を切ると、僕達は指定された通信中継基地に向かう。
 つり橋を渡り、周りの気配に気を配りながら進んでいく。
 先輩が先導して僕を案内してくれるが、途中で要員がいたりしてなかなか先に進めないでいた。
 日も暮れるころになり、僕達は何とか中継基地の近くまで到達できた。
 正直、体が重かった。
 疲れではない、別の何かが……体に作用して疲れている。
 頭を振ってその疲れを無くそうとする。

「どうしましたユイ君?」

「いえ、なんでもありません…あれですよね基地は」

「はい、あそこで一晩いた方がいいですね、今夜は更に冷え込みそうですし…」

「そうですね、そうしま………」

 その時、先輩の目つきが変わるのを見逃さなかった。 
 明らかに何かを経過している……。

「危ないユイ君っ!!」

 突然先輩が僕を突き飛ばし、近くの岩場に隠れた。
 それと同時に僕が立っていた地面に何かが当たり、地面がえぐれた……。
 僕はとっさにワルサーP99を抜き、辺りを見渡す。
 だが誰もいない……だけど確かに何処からか僕を狙って撃って来た。
 僕はすぐに答えが出た。
 相手はスナイパー、おそらくセンチメーターだと心の中で確信した。
 理由は無い、ただ直感で……。

「先輩……」

「言わなくてもわかります、間違いないなく彼からの攻撃です。それもスナイパー戦ではおそらく逃げるのが精一杯です」

「僕もワルサーでスナイパーをするのはきついです……」

「私が劣りになります。ユイ君はこの先の通信中継基地に向かって銃を受け取ってください」

「でも……」

「ここは私の言うとおりにしてくださいっ、戦局を変えるのはあなたですっ」

 僕は先輩の言う事に心が揺れた。
相手はスナイパー、それもセンチメーターで先輩の動きでもすぐに捕捉され撃たれてしまう。
 でもここで立ち止まっていても仕方ない。
 僕は意を決し、その場を駆け出した。
 すると僕の足元に弾丸が撃ち込まれる。
 僕はとにかく走り続けた。
 先輩は僕にターゲットが向いている隙に弾道を読み、センチメーターのいる方向へとジグザグに走りながら近づいていく。
そして黒鍵の射程範囲に達すると手に持つ黒鍵をすべてセンチメーターに向かって投げつけた。
 センチメーターは薄笑いを浮かべ、サイトの照準を黒鍵へと向ける。
トリガーを弾き、弾丸を黒鍵へ撃ち込むと黒鍵が割れ落ちた。
これにはシエル先輩も驚き、身を近くの岩場へ隠した。
 センチメーターは通信チャンネルをシエル先輩のインカムのチャンネルへと設定する。

『聞こえるかシエル?』

「センチメーター!? あなた、黒鍵を破壊するだけの弾丸を作り出したのですかっ?」

『ついこの前完成したんだよ、最近のバンパイアは一発で仕留める事が難しいからな…。だから弾頭に特殊コーティングをしたオリ
ジナル弾丸を開発したんだよ』

「そしてこれがテストを兼ねた初使用と?」

『そういうことだ、まあ、普通の人間に当たれば、ただの通常弾丸と同じように貫通するだけだ』

「なるほど、なかなか効率のいい弾丸な事で」

 センチメーターはスコープを僕の方へと向ける。
 僕は走り続けた。
 中継基地はもうすぐだった。
 だがセンチメーターは僕に向かってトリガーをPSG-1の弾が無くなるまで引き続けた。
 一歩一歩足を踏みしめるごとに足元ギリギリに弾丸が地面をえぐる。
 と、その時先輩が僕を庇うように抱き、そのまま茂みの中へと倒れた。
 何て速さなのだろう……先輩の速さを改めて知った。

「せ、先輩っ!」

「む、無茶をする人ですね……」

 体を少し起こし、先輩を見ると脚から出血していた。
 弾丸が掠ったのだ。
 
「早く行って下さい、このくらい平気ですから…」

「でも…」

「ここはあなたの射撃が必要な時です。いくら私でもあの射程範囲は的になるだけです」

 僕は目を閉じ、深呼吸をして決意すると先輩にハンカチを負傷した部分に撒き付けて止血する。
今度は武器を持たず、全力で走る事にする。
 周りを見ずにひたすら基地に向かって走る準備をする。

「じゃあ先輩、無茶せずに……すぐに戻ってきます」

「はい、ユイ君も気をつけて」

 グッと腰を低くして、一度目を閉じ、僕は走り出した。
 センチメーターも僕をすぐに見つけるとスコープのクロスを僕に向ける。
 そしてトリガーを弾き、弾丸がギリギリ僕を外れてなびくコートに穴を開ける。
 僕が走り出した後に先輩も物陰から影へとすばやく移動する。
 可能な限り接近し、黒鍵を出すとセンチメーターに向かって投げる。
 だがセンチメーターはマガジンをすばやく入れ替え、自分に向かってくる黒鍵をすべてスコープ越しに撃ち落とす。
 その間に僕は何とか基地にたどり着き、建物中に飛び込む。

「やっとたどり着いたね」

「っ!」

 ワルサーを出して声のしたほうに銃口を向けると、その先には一人の少年が立っていた。
足元には教会の十字架のマークが入ったボックスが置いてあった。
 
「まさか、君がメレム?」

「そうだよ、初めましてユイ・キサト君」

「どうも、今は君と話している時間は無いんだっ…先輩が」

「分かっているよ、この床に置いてあるボックスが注文してくれた銃だよ」

 急いでボックスの側に行き、フタを開けるとそこにはヘッケラー&コックPSG-1スナイパーライフル、レーザーポインター、赤外線
機能付きスコープ等が装備されたヘッケラー&コックMP5A4サブマシンガン、そしてグロッグM26アドバンスがあった。
それぞれにマガジンが三つ、十分すぎる内容だ。
 一つ一つ取り出してチェックし、最後にマガジンを取り出して弾をチャックして戻すとスライドを弾いて弾を薬室へと装てんす
る。
 ホルスターもついており、右太股につけるガンホルスター、左太股にロングタイプのマガジンホルスターがあった。
ガンホルスターにグロッグ26アドバンスを入れ、マガジンポーチにPSG-1マガジン、MP5A4マガジンを入れる。
 グロック26アドバンスとはコンシールドキャリーピストル「グロック26」の改良型である。
グロック26は麻薬捜査官などが使用し、外観からは銃があることを察しないほど小さな銃である。
これにインナーバレルを延長し、標準装備のロングマガジンに対応したグリップ・エクステンダーを装備したのがこのグロック26ア
ドバンスなのである。
先端にはフラッシュライトを装備する事ができ、マガジンには15+1発装弾可能な銃である。
 破損したワルサーP99、ワルサーPPKをボックスを置き、PPK予備のマガジンも置く。
ここからはグロック26アドバンスとワルサーP99でいくつもりだ。

「よくここまで持ってこれたねメレム」

「僕を甘く見たらダメだよ、さっ、シエルが君を待っているから急ぐんだ」

「ああ、また後で話そうっ」

 僕は装備した武器を持ち、急いで先輩の元へ向かう。
ただ装備したのはいいが装備品が重い。
PSG-1とMP5A4をあわせて約10Kg、さらにワルサーP99とグロック26アドバンスで2Kgの計12kgだから体力の消耗が激しくなるのだ。
 だが今はそんな事は言ってられない。
いくら先輩でもセンチメーターの弾を何発か食らえば重態になってしまう。
 僕は出来るだけ弾道から影なるところを選んで走る。
 すると微妙に血の匂いがした。
 ふと足元を見ると、そこには血の垂れた後があった。
 それと同時に銃声が鳴った。
 僕はとっさに近くの岩陰に隠れると、僕が立っていたところに弾丸が当たった。
 先輩が気になり、インカムで先輩に話そうとした時、誰かが僕のインカムに通信を入れてきた。

『よく気づいたなユイ』

「センチメーター! 先輩はどうしたっ」

『急所は外して撃った、お前の近くにいるぞ………お前のその銃、ヘッケラー&コックPSG-1にMP5A4か……それにホルスターには形
状からしてグロックだな?』

「ご名答だ……」

 僕は驚いた。
 センチメーターはスコープから覗いただけで銃を割り当てたのだ。
改めてセンチメーターの銃の正確さ、技術などがずば抜けていると思った。
 そして僕は岩影からあまり体を出さないようにPSG-1を構えた。
その場に座り、セーフティーを解除し、スライドを弾いて7.62mm弾を薬室へ装てんする。
そしてスコープを覗き、センチメーターの居場所を探す。
するとピカッと何かが光った。
 確かスナイパーは必ずスコープの光が太陽に反射しないようにしなければならなかったはず。

『どうやら俺の居場所を見つけたようだなユイ』

「わざとだな……仕留めるならすぐに出来たはずなのにあえてしなかった……何を考えているっ」 

 初心者のミスを犯すなんてセンチメーターの行動からはおかしい。
 その考えを頭に残しつつ、僕はスコープのラインクロスをセンチメーターの腕へ狙う。
 そして一拍置き、トリガーを弾くと弾丸はセンチメーターに向かっていった。
 だが、性格に狙ったはずなのに弾丸はセンチメーターから少し左の木に当たってしまった。
 PSG-1はボルトアクションではなく、オートマチックの為、弾を一発ずつ薬室へ装てんしなくていい。
 続けてセンチメーターに撃つがどうしても少しだけずれてしまう。

『風はお前の方から見て左に吹いている。狙うなら風と反対方向に少しずらして撃つといい…』

「何?」

 ますますセンチメーターの行動が分からなくなった。
 なぜ僕に有利なアドバイスをするのか…。
 その考えを頭に残しながら僕はセンチメーターのアドバイスを無視して照準を絞る。
 一発、また一発と撃つがセンチメーターの周りばかりに当たってしまう。
 そして弾切れになると、僕は木影に隠れてカラのマガジンを捨てる。

『無駄弾の使いすぎだ、スナイパーは的確に敵を撃ち、相手の行動を奪う事だ』

「どういうつもりなんだ、俺に有利な情報を与えるんだ?」

『ふん、お前は俺と同じように射撃をメインとしている。だから俺と同じ匂いがしてお前をさらに鍛えたいと俺個人が思ったんだ』

「だからこうやって教えてくれていると?」

『ああ、こうやって緊迫している方が人間は記憶をしやすい、得にお前みたいなヤツほどな』

「それはどうも!」

 僕はその場を走り出し、先輩のいる場所を探した。
その間もセンチメーターは僕に向かって弾丸を撃ち込んだ。
 そのうちの一発が僕の足を掠り、僕はいきよいよく地面に倒れた。

「うぐっ……くそっ……」

 傷口を見ると弾丸が掠っただけで、直撃は免れた。
ポケットに入っていたハンカチを取り出し、傷口をきつく絞め止血をする。
 先輩を探すと、先輩の血が集まって垂れているのを見つけた。
 僕は先輩の心配をしつつ、出来るだけ体を出さずに匍匐で別の場所に移動する。
何とか別の岩陰に移ることが出来ると、再びPSG-1を構える。
 センチメーターの居た場所をスコープでさがす。
その時、センチメーターの居た場所付近で風が東側の方向に強めに吹いていた。
 僕は先程のセンチメーターのアドバイスを思い出しながらセンチメーターを探す。
 しばらくしてセンチメーターを見つけると、今回は僕の位置を見つけていなかった。
 スコープのクロスをセンチメーターに合わせるが、少し右にずらし、僕はセンチメーターを気づかない事を祈りつつゆっくりとト
リガーに力を込める。

『撃ってみろ、一発でもかすれば俺はここから撤退する』

「っ……」

 ゆっくりと深呼吸し、トリガーを弾く。
7.62NATO弾は風の影響を若干受けつつもセンチメーターの方向へと進む。
 続けざまにPSG-1の特性を生かしながら連続でトリガーを弾切れになるまで弾く。
最初の弾丸が外し、次の弾がセンチメーターの側へ当たると三発目の弾丸はセンチメーターの左腕に直撃した。
 すぐさまマガジンを交換し、再びセンチメーターに照準を向ける。

『っく………まだ未熟な部分は多いが、飲み込みは早いな……今回はこれで弾いてやるよ……』

 スッとその場からセンチメーターが消えると、僕は周りをスコープで捜索し安全を確認する。

「先輩、大丈夫ですか?」

『は、はい………ですがかなりダメージが……』

「すぐに行きます、待っていてください!」

 足の傷の痛みを我慢しつつ、僕は先輩の血の跡をたどっていく。
進むごとに血の跡が増えていく。
 すると草むらの中で先輩は体中に弾丸を食らっていた。

「先輩!」

「大丈夫です……急所は外していますから……」

 先輩を抱き上げ、傷を見ると弾丸はすべて貫通していていたが、出血がかなりひどかった。
 僕はダメージを堪え、急ぎ足でメレムのいる基地へと向かった。
 何とか残っているエレイスの能力を振り絞って、傷の手当てをする。
 エレイスとのリンクが切れたときに、時間が経つにつれて自分の力が強まっていっている。
 おそらく明日にはかなり制御が難しくなっていると思う。
 だが、僕はある意味これは訓練だと考えている。
何時までもエレイスに頼ってはよくないと考えているからだ。
だが100%これを制御できるとは思っていない。
少しでも力の制御が出来るなら少しでも制御したい。
そう僕は思っているのだ。
 ゆっくりだがエレイスの「不死の躰」のお陰で傷が癒され、痛みが減っていくと徐々に走る速さが早くなる。
 いつの間にか全力疾走で走っていて、中継基地にも早く着いた。
 扉を開け、床に静かに先輩を置くと僕は先輩の法衣を血の刃で破る。
 
「おかえり、無事だったみたいだね」

「メレム、武器以外に何も持ってきてくれなかったのかい?」

「君達の装備のことだから念には念で食料とか医療キットも持ってきたよ」

「助かった、じゃあ医療キットを…はやくっ」

 メレムから医療キットを貰うと、すぐさま包帯と消毒液、止血剤をだす。
 不死の躰を使えば先輩も簡単に治療できるが負傷している部分が多く、能力では追いつけないと判断した。
まずはPSG-1についているスリリングベルトを外し、傷口の止血をする。
 以前、屋敷で琥珀さんに傷の治療の仕方を教えてもらった事がある。
 僕は手順を踏んで、先輩の治療をしていき、何とか先輩の治療を終える。

「ふぅ……」

「お疲れさんユイ、さて、僕はそろそろ戻らせてもらうよ。これ以上いたら変に思われるしね」

「ああ、ありがとなメレム。また連絡するよ」

「リョウ〜カイ、じゃね〜♪」

 軽い足取り使わなくなった武器を入れたボックスを持って基地を出て行くと、僕はメレムが持って来た装備品を見てみた。
 装備はなかなかいいものが揃っていた。
 ヌードル、缶詰、飲料など栄養がいいものが揃っていた。
 そして食料のほかには暖を取れる装備品が多めに入っていた。

「メレムもいいものを持ってきてくれましたね」

「うわぁ、先輩!? 大人しくしてなきゃダメじゃないですか!」

「大丈夫ですよ、ふむ、今日の夕食はサバイバルにしてはいいものが食べれますね……ユイ君、レトルトはあるのですか?」

「えっと……あっ、中辛のカレーがあった…先輩専用みたいですね〜」

「メレムも今回はかなり気が利いていますね、さて、お腹も空きましたし夕食にしますかね?」

「先輩はゆっくりしてください、僕が作りますよ」

 僕は装備品の中にあるバッテリータイプの電熱コンロを出し、その上に鍋を置く。
水を中に入れ、沸騰させるまで他の食品に手を付ける。
 残っている水を少し飲み、鍋を見ると沸騰した小さな泡が見え始めている。
 そのままカレー、ライスが入っている袋を入れてゆっくりと暖める。
 先輩は後ろで僕のコートを布団代わりに膝にかけ、暖を取っている。
 先輩に飲料を渡し、再び鍋を見ると完全に沸騰し、ゆっくりとカレーとライスが暖かくなる。
 しばらくしてカレーとライスを出して、袋口を開けるとスパイスの効いたいい匂いがする。

「先輩できましたよ、どうぞ」

 さらに盛り付け、先輩に渡すと先輩の顔がウキウキしている。
 スプーンを渡すともう子供のようにウキウキした先輩はとてもおもしろいと思ってしまった。
 僕は残っているお湯を使って、ヌードルを作る事にした。
 日本のヤツとは違い、どうやらこちらのニードルらしく、日本語が書いていない。
 過去の経験上、こういうのは1分くらいで出来る。
 麺を入れ、ほぐれるのを待つ間、僕は先輩に質問をしてみた。

「先輩、どうしてフェーダーはエレイスをさらったんでしょうか?」

「いきなりですね…。私の知り合いから聞いたところでは、埋葬機関トップのナルバレック機関長はあなたとエレイスさんをどうす
るかの処遇を考えていたそうです。もしユイ君がエレイスさんの『不死の躰』を貰わなければ、あなたは狙われる事は無かったそう
ですが今は違います」

「でしょうね……でもそれだけじゃこの騒動の理由が………」

「分かっています、まだ続きがあります。今回の発端はあなたが瑞希さんのご実家での出来事がきっかけなんです」

「彼女の……」

「はい、何処からか入った情報……おそらくミス・ブルーが軽く言ったことでしょうがナルバレック機関長はこの重大差を重く受け
止めたようです」

「な…」

「理由は一つ………あなたとエレイスさんは人の越えてはならない道を踏み込んでしまっている。そう、不老不死というところで
……」

 そう、確かに僕達は人間の越えてはならない場所を歩んでいる。
だがそれは僕達が望んだ事じゃない……。

「そして、今後も吸血鬼などのイレギュラーは増えるでしょう。そのために永久にイレギュラーを処断できる人物を見つけた、それ
があなた達なのです」

「じゃあ、僕が戦っている今は………」

「はい、これは一種の訓練と思ってくれば分かりやすいです。さっきの状況はいかにあなたがすばやく行動し、状況判断をするかの
テストみたいですね」

 僕は火を止め、かやくを入れて掻き混ぜると麺をすすった。
 そして水を飲み、先輩を見る。

「エレイスは? 彼女は何も……」

「いえ、彼女は今、反転している状態です。おそらくはこれはわざとでしょう。反転させれば優しさは消え、任務を遂行しやすくな
る」

「あまりいい手とはいえませんね………、そこで僕達の中で友人のフェーダーを使って油断させた」

「そういうことです、私より彼女の方が感情を消す事が得意ですからね」

「でもフェーダー、あの時悲しそうな目をしていました」

「おそらくあなたや私達と接して、人との接し方が育ったのでしょうね。ですからまだ諦める事はありません」

「ですね、でもこれからも油断は出来ませんね。要員といい、本気で撃ってきていますから……」

「グレネードまで使ってくる相手ですからね……油断したらこちらがお陀仏ですよ……」

 麺を食べ、先程暖めたご飯を食べると僕は二つ目の質問をした。

「もう一つです。もし僕がこれを拒み、エレイスも拒んだらナルバレック機関長はどうしたと思います?」

「おそらくあなた達を誘拐し、周りの記憶は消して洗脳という形であなた達を仲間にしたと思います。機関長は手段の為なら何をし
ても問わない人ですから…」

「非道な人ですね、まっ、作戦を遂行する上ではいろいろと文句無いですけど」

 食事を終え、ふと外を見ると雪が降っていた。
 僕は装備品から防寒具を取り出し、先輩に渡す。
 僕も防寒具を取り出し、それを羽織るとその場に座り込む。

「寒い……今夜はかなり冷え込みますね……」

「ここは日本で言ったら北海道の位置に当たりますからね、寒いのは当然ですよ」

 僕の装備品のワルサーP99、グロック26アドバンスを置き、銃の状態を確認して緊急時に備えて弾を装てんしておく。
ふと一丁を先輩に渡す事を思いついた。
 使いやすいワルサーP99を先輩の側に置く。

「ユイ君?」

「緊急時用に使ってください、黒鍵よりは簡単に撃てます。先輩なら命中精度は問題ないはずです」

「あまり銃は好みませんが、今はお言葉に甘えときますよ」

 先輩は銃を手に取り、じっくりと見た後に自分の近くに置く。

「じゃあ、もう寝ましょうか?」

「そうですね、おやすみなさい先輩…」

「おやすみなさいユイ君…」




 僕達が寝た時フェーダーは一人、施設の教会に座っていた。
 この教会はだいぶ前に立てられたものらしく、ステンドグラスはかなり値打ちの出るものだった。
 しかしフェーダーはそのことも気にせず、ずっと俯いていた。
 そう、この任務の事についてずっと考えていたのだ。
 自分の一番信頼しているユイとエレイス、そして……特別な感情を抱いている七夜を傷つけてしまったからだ。
 フェーダーはどうすればいいかずっと悩み、悩み続けているが答えが出ない。

「はぁ……」

「どうしたのフェーダー?」

「ンッ……エレイス…………なんでもない…」

「うそ、落ち込んでいる顔に何も無いなんてあるか。言ってみてよ」

「……この任務についてずっと考えている」

 エレイスはフェーダーの隣に座り込み、顔を覗くようにフェーダーを見る。
 ずっと俯いたままで目を閉じている。

「お前やユイをだまして、さらにお前達に重要なリンクを強制的に断ち切り、お前達の信頼を削ぐ事をしてしまった」

「私は気にしてないわ、だって、これは彼にもいい機会だと思うし…」

「えっ?」

「彼はずっと私の力を頼ってきた、そして今回その力がたたれ、何処まで持つかは知らないけど自分を鍛える訓練になる」

「だが………………そんなことで友を傷つけるのはいやだ……」

「あなたは優しいねフェーダー、でもこれは避けられない試練なのよ。ナルバレック機関長は私達の力を必要と言っている…。でも
私やユイはそれに便乗するつもりはないわ」

 スッと静かに立ち上がり、教会を出て行くエレイス。
だだふと立ち止まり、肩を壁につけた。
 フェーダーは振り返り、エレイスを見ると異常さに気づいて駆け寄る。

「どうしたエレイス? 顔色が……」

「くぅ……ふぇ、ふぇ…ダー……」

 目の色が変わり、ゆっくりと元のエレイスの体になっていく。
 フェーダーはゆっくりと抱き上げ、椅子へと座らせる。

「エレイスっ、エレイス大丈夫か?」

「だい……丈夫……フェーダー…」

「お前……「元の」エレイスか?」

「うん……少ししかこの状態でいられないから………エレイス、ユイをサポートして…」

「何?」

「彼の中にある私の力がもうギリギリなの……だから…」

「エレイス……」

「お願い、彼を助けて……」

 エレイスはバッと立ち上がり、教会を飛び出していった。
 今、エレイスも力の制御が不安定になっているのだ。
 ユイから貰った力「遠野の血」、これを今まで自然に彼女自身の「不死の躰」で制御をしていたが今は彼とのリンクを急に断ち切
られたために、力のバランスが取れなくなり、制御が出来なくなってしまったのだ。
 フェーダーは彼女を追おうとした。
 だが自然に足が止まり、エレイスの言葉が頭の中を回った。
 彼を助けてくれ……との言葉が…
 エレイスは自室へ戻り、扉を閉めるとドアに背をつけ、そのまま地べたに座り込んだ。

「ユイ……」

 心臓が高鳴り、胸を押さえながらうずくまった。

「くぅ……」

 ゆっくりと目の色が変わり、元のエレイスの人格が隠れるとゆっくりと立ち上がる。
 そしてベッドへ向かい、ゆっくりと座ると胸を押さえる。

「やっぱり……あなたは彼が大切なのね……でも、今までしてきた彼の行いは必ず返すわよ…」

 エレイスは手をきつく握り、眼を閉じる。
 その時、左腕を押さえたセンチメーターが入ってきた。
椅子に座り、自分の装備に入っている治療道具を出した。

「ユイにやられたの?」

「アイツのレベルアップの為さ、このくらい平気さ…」

「治療は私に任せてセンチメーター」

 エレイスは負傷した腕に手を沿え、ハンドヒーリングを行う。
傷がふさがり、痛みも消えるとそっと手を離す。

「すまないなエレイス」

「ううん、気にしないで……」

「どうした?暗い顔して?」

「なんでもない……ねえ、どうしてナルバレック機関長はこんなことをさせるのかな?」

「さあな、俺もただユイに対してただ実戦同様に訓練しろだの………俺もナルバレック機関長の考えは分からん」

「そう……よね……」

「今日はもう遅い、寝ろ、一緒に側にいてやる」

「えっ?」

「つらそうにしている女性を前にここから出て行けるかってんだ……、いいから俺が側にいてやるから今日は寝ろ」

「う、うん……」




 その頃フェーダーは覚悟を決め、地下の倉庫に向かった。
 そう、ナルバレックから離れ、シエル、そしてユイの方へ付くのだ。
彼女もナルバレックのユイを攻撃する真の意味を知らない。
だが彼女は大切な親友をこれ以上裏切る事が出来ない。
 布をかぶしてある所から布を取ると、そこには彼女用にチューンナップされた「トライアンフ・デイトナ675トリプル」だ。
総排気量675ccの6速ギア、そして彼女用にスモーク噴射機、一時的な加速を生み出すターボ噴射を装備してある。
 まだ彼女が訓練生の時に独学でバイク技術を学び、腕を磨いたのだ。

「これを使うようになるとはな………」

 彼女は法衣姿から黒の革のジャンパーに黒の革のズボンに着替る。
そして太股にホルスターを付ける。

「サイレント…」

 フェーダーの呼び声にサイレントが光、ゆっくりと人の姿へと代わる。

「イエスマスター」

「これからユイとシエルの援護に回る。その後はエレイスを奪還し私達の帰るべき場所に帰る、いいな?」

「マスターの考えに背くつもりはありません、私もユイ様たちといたいですし♪」

「では決まりだ、共に頑張るぞ」

 フェーダーは優しくサイレントの頭に手を乗せ、撫でるとサイレンとは微笑む。
 フェーダーは思った、必ず皆で幸せな時間を作ってやると……。

「行くぞ」

「イエスマスター!」

 再びガンナーになるとスッとホルスターに収まり、トライアンフ・デイトナ675トリプルにまたがるとエンジンをかける。
ドアを開き、アクセルをフルスロットルにしタイヤスモークを出しながら急発進をする。
 そしてフェーダーはシエルのいる場所まで、可能な限り敵に見つからないように迂回しながら走っていった……。


 フェーダーがトライアンフ・デイトナ675トリプルで走って言った時、一人、屋上で周りの景色を見つめている人物がいた。
 タクティカルだ。
 彼は座禅を組み、瞑想に入っていたのだ。

「フェーダーは彼らの元へ行ったか………さて、これからどうなるか……」








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