01/揺れる心と誓いの絆
シャーロック&ルイ作
春になり、僕達は最後の高校生活を送り始めた。
例年より暖かく、桜も少しだけ遅く咲き、至る所で花見をする人がいた。
僕とエレイスはもうすぐ始まる学校の準備をしていた。
といっても筆記用具などの文房具やルーズリーフなどを揃えるだけだけど…。
一通り揃え終えた僕は部屋を出て中庭へと出る。
定例の射撃訓練である。
民家から離れたこの屋敷は、サイレンサーをつける必要が無く、音も森林が吸収してくれるため気にする必要が無かった。
的を起き、20mくらい離れて、基本姿勢でワルサーを構える。
深呼吸して、ゆっくりとトリガーを引く。
一発、また一発とトリガーを引き続け、的に次々と当たってゆく。
このワルサーは、僕の血の能力を注ぎ込んで弾丸を作り出して撃っているため、弾切れの心配が無いが、規定道理の15発でワル
サーを下した。
的に近づき、何処に当たったかを確認する。
「相変わらず、見事なまでに射撃の腕を上げてゆくなユイ」
振り返ると、何時から見ていたのか木にもたれ掛かり、ジッと見ている七夜がいた。
始め、エレイスのことを気にかけており、僕とは嫌煙とまでは行かないがお互いを避けているところがあった。
しかし、遠野シキ、六道神楽をエレイス、そして七夜と一緒に乗り越え、今ではよき兄貴分兼親友として付き合っている。
「ありがとう、で、何の用かな?」
「あぁ、琥珀がお茶を用意したそうだ」
「うん、ありがとう。後で行くよ」
その頃、フェーダーはクローゼットから法衣を取り出し、それに着替えていた。
タンクトップ、太ももにホルスターをつけ、法衣に袖を通す。
そして肩まで伸びた髪を紐で結び、窓の外に向かってキリストの祈りの格好をする。
「主よ、お許しください。私は今から友を裏切ってしまいます。もしそれを無くす機会があれば私は何でもします……」
祈り終わり、フッと目を開ける。
戦闘の目に変わり、ゆっくりとドアに向かう。
とその時、誰かが扉をノックした。
フェーダーは扉の隣に背をつけ、誰かを確認する。
「失礼します」
翡翠だった。
返事をし、ゆっくりと扉を開けると、掃除をしにきたのか叩きを持っていた。
私は翡翠の首筋に手刀を食らわせ、気絶すると翡翠を受け止め、ゆっくりとベッドへと寝かす。
ドアから誰もいないことを確認すると、そのままユイ達の部屋へと向かった。
その頃、エレイスは部屋で学校の準備をし終えたところだった。
ベッドにごろんと寝転がり、ゆっくりと深呼吸をする。
「ん〜、あったかくて今日はサイコー」
といつもの様に猫のようになっていた。
と、その時、誰かが扉をノックした。
は〜いと返事すると、フェーダーは何もいわずに中へ入り、エレイスだけ確認するとサイレントを向けた。
「エレイス、黙って付いてきてくれ」
エレイスはゆっくりと体を起こし、真剣な目でフェーダーを見た。
「どういうつもりなの?」
「……今は言えない…」
と、その時、フェーダーの背後に何かを感じた。
とっさに振り返り、銃口を向けるとそこには七夜がいた。
そう、エレイスが狙われている事を察知し、ここに現れたのだ。
しかしフェーダー、七夜共にまったく動じていない。
二人の心の中では、どのように攻めるのか考えているのだ。
何分か経ち、先に動いたのはフェーダーだった。
ザッと後ろに飛び移り、エレイスの首を腕で巻きつける。
「動くな七夜」
「何処へ行くつもりだ?」
「………」
七夜はこっそりとポケットに手を忍ばせようとするが、フェーダーは七夜の太股めがけてトリガーを引いた。
「ぐっ!」
バランスを崩し、足を押さえながら床に倒れた。
「な、七夜っ…フェーダーっ、何も撃つことなんて……がはっ!」
フェーダーはエレイスの鳩尾に拳を食らわせ、気絶させる。
そしてスペルを唱えながらエレイスにある魔術を行った。
それはエレイスとユイ、そして一番特殊な力で繋がっている七夜とのリンクを一時的に断ち切ったのだ。
そう、もしこのまま連れて行けば、エレイス自身が発信機になり、居場所を嗅ぎ付かれてしまうからである。
「これでいい……」
「待てっ」
僕は異変を察知し、ワルサーを構えながら部屋の中に入った。
中の状況を見て、ただ事ではないと判断できる。
「エレイスをつれて何処に行くんだ?」
「今はいえない……」
「言えッ、返答しだいでは撃つぞっ」
「……撃てるのか?」
フッと僕の表情に曇りが出ると、それを見逃さず、フェーダーは僕に飛び掛った。
腕を掴み、反対方向へとねじり、足払いして僕を倒すと、フェーダーはワルサーを奪う。
そしてスライド部分をグッと後ろへ引き、簡単にフィールド・ストリップ(解体)してしまった。
部品を所々破壊して、完全にもとの状態に戻らなくすると、ワルサーの部品を床に捨てた。
「付いて来るな、大人しくしていれば何もしない」
「何をっ……ガハァ!!」
鳩尾に拳を食らい、呻く。
バタッとひざを付き、激しく呼吸をして酸素を求める。
視界が揺らぎ、意識が失いそうになるが、何とか意識を保ち続けようとする。
その隙にエレイスを担ぎ、部屋から消えてしまった。
呼吸が出来るようになり、意識もはっきりとすると、七夜に近寄った。
傷の具合を見ると、弾を貫通しており、出血も何とか収まりかけていた。
「大丈夫か?」
「このくらい平気だ。それより……」
「分かっている、すぐに手は打つさ」
コートから携帯電話を取り出し、先輩のアパートへと番号を押した。
三回目のコール音でつながり、僕は事情を先輩に話した。
『なるほど……何かいやな予感がしたと思いましたが………いいでしょう、では私のアパートに来てください』
「分かりました、すぐに行きます」
電話を切り、七夜の傷を治療すると、すぐに僕達は先輩のアパートへと向かった。
足の怪我のために思うように動けない七夜であったが、エレイスのことを思って我慢をする。
いつもより時間をかけて、やっとの事でアパートに着き、インターホンを押すと、セブンが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、どうぞ」
中に入ると、法衣姿の先輩がそこにいた。
「先輩……」
「言わなくても分かります。武器が必要なんですよね?」
「うん、そのとおり。さすがに血の刃を使いすぎるとこっちのダメージが大きいからね」
「良いでしょう、では…」
先輩は立ち上がって、クローゼットを開けるとそこには様々な銃器がおいてあった。
ヘッケラー&コックMP5アサルトライフル、ヘッケラー&コックPSG1スナイパーライフル、スコーピオンVz61アサルトライフル、
パトリオットアサルトライフル、そしてハンドガンはワルサーPPK、ワルサーP99
、コルトガバメントM1911A
など、ぎっしりとあ
る。
一瞬、呆然としてしまうがすぐに我に戻り、銃を選ぶ。
ふとワルサーP99に目がいった。
形が違うからである。
手にとって見ると、それが改造銃であることが分かった。
まず、スライドが強化スライドになっており、サイトシステム(照準)もオリジナルになっている。
トリガーも違っており、ロングタイプに変更されており、指がかけやすくなっている。
トリガー前部にはレーザーサイトが取り付けられており、サイトシステムと併用すれば、かなりの高照準が得られる。
そのほかのパーツもかなり変更されており、非常に初心者でも扱いやすいワルサーになっている。
僕はそれを2つ取り、先輩のベッドの上に並べる。
その他にもヘッケラー&コックMP5を2丁、更には改造ワルサーPPK1丁、スモークグレネードを5つ、緊急時用のカロリーメイトを
並べる。
「先輩、これだけ借りてもよろしいですか?」
「ええ、構いませんよ。お好きに使ってください」
「しかしシエル、ここでで協力すれば自分の立場が危うくなるが……」
「ええ、でも大丈夫ですよ。今回はユイ君と七夜君の仲介役みたいなものです。ですから気にしないでください」
ワルサーのマガジンに麻酔弾を入れ、ワルサーに入れると、次はヘッケラー&コックに手をかけ、マガジンを入れる。
ワルサーPPKにも7.65mmの麻酔弾を入れ、一緒にマガジンに入れる。
MP5は、特に教会使用に改造をしていないために、これだけは実弾を使用しなければならなかった。
9mm弾丸をバナナ型のマガジンへと詰め、それをMP5へと入れる。
予備のマガジンを含め、P99は4つ、PPKは2つ、MP5は4つである。
バックパックを腰につけ、マガジン、カロリーメイト、スモークグレネードをいれ、装備が整う。
七夜は非常食だけを取り、同じくバックパックに入れる。
やはり七夜は銃器より刃物が好みらしい。
「準備が整ったみたいですね?」
「ええ、ばっちりです」
「俺もだ」
「いいですか? 相手は私が所属している埋葬機関です。今までのように一筋縄のようにいかないはずです。それでもいきます
か?」
「当たり前だよ先輩、このままにしておいたら後で後悔をしてしまう」
「俺はフェーダーの真相を知りたい。そしてエレイスを助ける。これが俺の目的だ」
「いいでしょう、そこまで覚悟が出来ているなら…では、出発しましょう。行き先は私に任せてください」
こーとを羽織、銃器を隠し、ユイは外へと出る。
七夜も防刀ベストを中に着て、手にはドライバーグローブをはめ、ユイと共に外へと出る。
そしてシエルについていくような形でエレイスの救出に向かった…………。
その頃、一足先にある場所へと連れて来られたエレイスはある部屋に吊るされていた。
エレイスの意識はまだ戻っていない。
その光景を、埋葬機関長ナルバレックが見ていた。
その隣に、悲しい目をしているフェーダーがいた。
「お手柄だフェーダー、上出来だ」
「……」
フェーダーは黙ったままだ。
とそこに、埋葬機関の仲間である銃器を扱いが得意なセンチメーターが来た。
愛銃である教会使用ヘッケラー&コックUSPを指でクルクルと回しながら、サングラス越しにフェーダー達を見る。
センチメーター、銃使いのプロで現存する武器はすべて使いこなせることができ、銃弾を自分お手足のように操ることができる埋
葬機関第四位の人間だ。
「機関長の欲しかった人がついにここに来たんだな?」
「ああ、私が連れてきた…」
「これはなかなかの出来だな。いやいや、お見事としか言いようが無い」
USPをしまい、軽い拍手を叩く。
それを見てもフェーダーは動じることなく、軽く息を吐き、その場を後にする。
「まだ何か引っかかっているようだなフェーダーは?」
「気にすること無いだろう。情報では、ここにこいつの仲間が来るそうだ。警戒した方が良いな」
「どおってことないぜ、俺とタクティカルでやる。だろ?」
名を呼ばれ、センチメーターの背後に音も無く現れる。
彼は剣術を得意とした人間で、世界中の剣術などを習得している埋葬機関第六位に位置する人間だ。
背後から忍び込み、相手を仕留めるのが特技としている。
「ああ、構わない」
「じゃ、俺達は好き放題にしてもらうぜ」
「ああ、好きにしろ」
二人はその場から消えると、ナルバレックも自室へと戻った。
日が暮れた頃、僕と七夜、シエルはれれいすが捕らえられている地へと到着した。
移動方法は、シエルの同僚が飛行機を手配してくれ、最短ルートでここへ来れたのだ。
シエルが運転するBMW
X5、総排気量2.979cc、5速ATでオフロードにも対応しているこの車は今回の救出にはもってこいの車であ
る。
正直、僕も好きな車だから、免許を取ったら運転してみたいなと思っている。
アクセルペダルを踏み、更に加速してゆくX5。
30分くらい経っただろうか…先輩は森にX5を突っ込ませ、ブレーキを踏んだ。
「ここからは歩いていきます。まだ少しばかり距離がありますから大変ですが…」
「平気だ、で、全員で行くのはまずいだろ」
「そうですね、では二手に分かれましょう。これを…」
先輩は僕にインカムを渡した。
もう一個は先輩が持っていた。
「私は先に行き、偵察します。ユイ君と七夜君はここから二人で来てください」
「了解です。じゃ、救出できたらここに集合という形で……」
「分かりました、幸運を…」
車から降り、先輩は木の枝を蔦って先に行ってしまった。
僕たちは遠くに見える建物を目指し、歩き出した。
幸い、自然の道が出来ており、歩くには支障がなかった。
「七夜、久しぶりの戦い、大丈夫?」
「俺は問題ない、ただお前はいいのか? 今回はあの瑞希の実家の闘い以来、銃を使うんだぞ?」
「……正直不安さ、でもやらなきゃ」
僕はワルサーを出し、サイレンサーをつける。
幾度の戦いで手に馴染んだワルサーP99。
しかし今は改造ワルサーP99である。
新たな銃の感触を感じながら、森の中心へと進んでゆく。
しばらく歩いていると、ふと七夜の足が止まった。
「誰かがいる」
「えっ…」
その場にしゃがみこみ、ジッと目を凝らすと、背広にサングラスを掛けた教会の人間が立っていた。
手にはマガジンがグリップの後ろにあり、全体的にプラスチックのような材質が見られる。
僕はそれが分解整備が簡単に行えるステアーAUG(アウグ)であると確信した。
これもプラスチックを多様に使用して軽量になっているため、H&K同様に命中精度が高い。
更には銃口にサイレンサーを使用しているため、うかつには手を出せない。
「少々厄介だが、ここを進まなければならんしな」
「二人いるね、じゃあ、一人はお願いできるかい?」
「分かった。気をつけろよ?」
「分かってるよ」
静かに茂みの中に隠れながら進んで行く七夜。
僕も足音に注意しながら進み、要員に近づいていく。
七夜が首を縦に振って合図をすると、僕はまず要員の足の関節を蹴ってバランスを崩させると、首を掴んで銃口を要員の頭につけ
た。
七夜は相手の首を掴んで、一気に地面に叩きつけ、鳩尾に拳を食らわせて気絶させる。
「お見事な七夜」
「お前もなかなかな動きだったぞ」
「さて、ここから先、何人くらいの教会の要員がいる?」
「だ、大体……30人、くらいだ…」
「かなりいるな、ここからまっすぐで良いんだな?」
「つ、つり橋がある。そこにたどり着ければそのまま道沿いに進め…」
「情報をありがとう、っ!」
首に手刀を食らわせ、情報を聞いた要員も気絶させると僕はあたりを見回した。
「気づかれてはいないだろう、しかし30人となると、発見された時、少々厄介だな?」
「かなり慎重に行かないとね」
僕は要員が使用していたステアーAUGを拾い上げた。
ブルパップ式小銃、つまり発射機関を後方に移してバレル長を確保しつつ、コンパクトさを実現した銃ということだが、正直僕はあ
まり好きになれない。
マガジンの交換の際、ワルサーやH&Kなら発射体制のまま交換できるが、マガジンが後ろにあるステアーAUGは一度発射体制を説か
なければならないからだ。
僕は静かにステアーAUGを元の位置に戻す。
「使わないのか?」
「使いにくいんだこの銃は」
「そうか、俺は銃に関しては知らんからな。だが扱いやすさは個人個人だからしかたないな」
「うん、さっ、先を急ごう」
僕達は要員の情報どおりに森を進んでいき、先を急いだ。
しばらく進んでいくと、何処からか銃声が聞こえた。
そして僕達がいる近くの木に銃弾が命中すると、さっと木の陰に隠れた。
そっと様子を伺う僕達。
七夜がこちらを向き、手で合図を送ってきた。
別の場所に移動して敵を探すと。
静かに頷くと、気配を隠しながら七夜は移動しようとした。
だがその瞬間に、七夜の隠れている木に弾丸が命中し、移動が出来なくなった。
僕は深呼吸して意を決っすると、上半身だけを乗り出し、ワルサーのトリガーを弾いた。
木の上の方、正面、少なくとも15発は撃った。
一度身を戻すと、僕はワルサーをしまい、MP5に切り替えた。
と、その時、声が聞こえた。
「へぇ〜、なかなかの腕前じゃねえか」
「誰だっ」
「まあ、姿を見せろよ、今は撃たないぜ」
七夜と目を見合わせると、七夜は首を縦に振った。
一緒に木の陰から出る僕達。
すると、何処からか一人の少年が出てきた。
年齢は僕達より少し上だろうか?
手には元は僕と同じ短機関銃のH&K
MP5が握られていた。
しかし形状は、銃口にサイレンサーをつけ、更にはレーザーサイト、マウントスコープなどが取り付けられており、元はH&K
MP5SD5ではないかと思われる。
SD、正式にはシャルダンファーという意味でこれもサイレンサーと同じく消音機能がある。
つまり、マガジンの前に取り付けられているグリップを改造し、そこにレーザーサイトを取り付けたかれオリジナルの銃なのだ。
「お前達が情報で聞いたユイ・キサト、シキ・ナナヤか。俺はセンチメーター、見てのとおり、銃をこよなく愛するものさ」
「お前も埋葬機関の仲間か?」
「ご名答だよナナヤ君。ナルバレック機関長がエレイスを必要としているからな。お前達はここで引き返してもらいたいわけだ」
「そんなこと、僕達が聞くと思うか?」
僕はMP5の銃口を向けた。
その時、センチメーターは不敵な笑みを浮かべ、銃の事を話し始めた。
「その銃、特に改造はされていないH&K
MP5A3か。スライドストックが固定スライドから変更されているな」
「ああ、しかし僕にはこれで十分だっ」
「どうかな?」
「散れっユイ!!」
七夜はセンチメーターの気配を読み取り、いち早く僕に教えてくれた。
木を蹴り、一気に木の枝にたどり着く七夜。
僕は一度茂みの中に飛び込み、木に隠れた。
するとセンチメーターは僕達がいたところに、腰のホルスターから抜いたH&K
USPハンドガンを撃って来た。
七夜の判断が数秒遅れていれば間違いなく撃たれていただろう。
だが、それと同時に僕はセンチメーターが射撃のプロだと分かった。
見事なまでの早撃ちだからである。
「ふむ、気配に関してはナナヤの方が上だな?」
「……くっ!」
僕は上半身だけを出し、センチメーターに向かってトリガーを弾いた。
するとセンチメーターは空中で側転し、弾丸の計算を瞬時に行い、見事に避けていった。
「七夜!!」
七夜に叫ぶと、木の上から飛び降り、センチメーターに向かって襲い掛かった。
ナイフの刃を出すと、センチメーターのいる場所に刃を振った。
しかしそのナイフをMP5で受け止め、左手でUSPを抜き、七夜の腹に向かって照準を合わせた。
とっさに上へと跳躍するが、センチメーターからの蹴りを食らってしまい、地面に激突してしまった。
「くっ!」
「センチメーター!!」
僕はワルサーとMP5のトリガーを同時に引き、何とかセンチメーターを後退させた。
そして七夜の手を引き、その場から駆け出した。
「あいつはまともに遣り合ったらかなわないよ!」
僕達はMP5の射程範囲外を全力疾走で抜け、森のなかを更に走る。
どれくらい走っただろうか…
ある広場へとたどり着く。
思わず僕達は背中をつけ、七夜はナイフで、ユイはワルサーとMP5で周りを注意する。
「誰かいるよな?」
「うん、間違いなく……」
二人は周りの空気を慎重に呼んだ。
とその時、何処からか足音が聞こえてきた。
足音が消えると、そこには両手に1m弱であろうか、シエル先輩の基本武装である黒鍵と同じ形の剣を装備していた。
「俺の名はタクティカル…、お前達がユイとナナヤか…」
「お前も埋葬機関のメンバーか?」
「そうだ、ここから先には行かすなという命令が私におりてな…」
なら僕達は考えるより先に行動する。
お互い頷くと、七夜がナイフを抜き、僕はMP5で七夜の援護に回った。
MP5でタクティカルの足元を威嚇すると、七夜はナイフを振る。
タクティカルは表情を変えず、剣でナイフを受け流し、もう一つの剣で七夜を切ろうとした。
しかし切らせまいと、僕はMP5を撃とうとしたが、カチッカチッと空撃ちになってしまい、僕はとっさにMP5から腰の後ろのホルス
ターにしまってあるワルサーPPKを取り出し、剣に向けて撃つ。
タクティカルは剣を巧みに使い、PPKの7.65mm弾を切り落とすが、タクティカルの隙を作るのには十分な時間だった。
七夜はこの隙にタクティカルの足を蹴り、足払いさせバランスを崩す。
しかし倒れる寸前に片手で体を支え、七夜の顔面に蹴りを食らわせる。
僕はウエストポーチから装備してあったスモークグレネードを取り出した。
セーフティーを外し、七夜に向かって叫ぶ。
「七夜!!」
目だけを僕に向け、すぐに何をしようか分かった。
そして僕の方へ飛び込むと、僕はスモークグレネードを投げた。
地面に落ちると同時にスモークが噴出し、タクティカルの周りを煙が包んだ。
「ここで体力を消耗させるのは得策じゃないよ、先を急ごう」
「同感だな」
僕達は今来た道と反対方向に繋がる道を走った。
少しでもタクティカルから離れるためだ。
息が続く限り走った。
すると、つり橋を見つけた。
あたりを見回しても他に道はなかった。
僕達は出来る限り揺らさないようにそのつり橋を渡り始める。
もしここではさまれたら逃げ道はない。
誰も来ないことを祈った。
だがそれもむなしく、つり橋の出口で誰がいた。
センチメーターだ。
USPを使ってガンアクションをして、僕達を待っていたようだ。
「っ!!」
七夜は一気にセンチメーターに接近し、首にナイフを向けた。
しかし首にナイフを当たられながらも余裕な笑みを浮かべ、ガンアクションを止め、つり橋のつり紐に向けてトリガーを引いた。
9mm弾丸は僕の近くのつり紐に当たり、つり橋はバランスを崩し始め、大きく揺れ始めた。
「うわぁ!!」
僕はいきなりのゆれにバランスを取ることが出来ず、落ちそうになってしまう。
七夜は舌打ちし、センチメーターから離れると、僕の元に駆け寄り、腕を引っ張ってくれた。
「戻るぞユイ!」
「賛成…っ!」
しかし戻ることも出来なかった。
入り口にはタクティカルが立っていたのだ。
「チェックメイトだ、ユイ、ナナヤ」
タクティカルは、このつり橋で一番太い紐を切り、つり橋は更にバランスを崩し、落ちるのも時間の問題となってしまった。
僕は揺れる視界の中で必死で脱出ルートを探し始めた。
近くには根太い木があり、距離は比較的近かった。
僕はこれしかないと思い、血の鞭を出し、その木の枝に向かって鞭を巻きつけた。
そしてグリップ部分を七夜のベルトに巻きつけ、七夜を押した。
「ゆ、ユイ!!」
「先に行って!! 僕は何とかするから!!」
「お前も来いっ、一緒に行くんだろ?」
七夜は手を差し伸べてくれ、反動を付け、僕に近づいてきた。
僕は七夜の手に捕まろうとした。
しかしそれを見逃すはずはない二人であった。
タクティカルとセンチメーターはお互いに頷くと、更に紐を切り、紐を撃ち、つり橋は完全に崩壊した。
「うわっ!! ぁああ!!」
「ユイ!!」
「うわあああぁぁぁあぁぁぁ!!!!!!」
七夜は必死で手を伸ばしたが、その甲斐もなく橋が完全に崩壊し、僕は谷底の川に落ちた。
七夜は舌打ちし、鞭を蔦って木に上った。
そしてユイの安否を確認しようとするが、谷底が深すぎて確認が出来なかった。
顔を上げ、橋のサイドにいるセンチメーター、タクティカルを探そうとするが、用が済んだかのように消えていた。
「ユイ、無事でいろよ…」
心の中で無事を祈りつつ、木を飛び降り、森の先にある施設へと進んだ……。
ユイのことを考えながら……。