Third Chapter /Shangrila
5 Yars ago/November
シャーロック作
数日が経ち、ついに私達は故郷の村へと帰ってきた。
故郷の村は静まりかえっており、ゴーストタウンと化して………………いなかった。
街が綺麗なのだ。
それも未だに人が住んでいた形跡も残っている。
「変ですね……まだ生き残っている人はいない筈ですが……」
「ああ、ほとんどの人は死んでしまったはず……」
私達は夜まで街を見張る事にした。
そうすれば分かるはず……。
日が落ち始め、空が暗くなる数十分前、街に変化があった。
街にほのかに光が出始めたのだ。
電灯などの光ではない、自然な光が……。
私はガンナーを構え、街へ向かう。
しかし明かりはあっても人の姿は見えなかった。
「変だな……この明かり、何か……」
ふと気配を感じ、その場所にガンナーを向けた。
そこには魂も無に帰した筈のあの吸血鬼がいた。
「お前、あの時に小娘か……分かるぞ……私と同じ匂いがするからな」
「貴方、私の聖典によって召されたはず……」
「あぁ、しかし理由は知らないがギリギリの所で助かって、あの時は瀕死だったが何とか生き返えってな…」
私達は踏み込むタイミングを計った。
しかし吸血鬼は身動きせず、隙を見せるだけだった。
その時だった。
地面から手が伸び、シエル姉さんの足を掴んだのだ。
シエル姉さんは声を出す暇も無く、あっという間に地面に引き込まれた。
「貴様!!」
「おっと、俺を今殺せばお前の仲間は一生助けられなくなるぞ」
「くっ…」
私は奥歯をぎりっとかみ締め、しぶしぶ銃口を下げた。
一度目を閉じ、深呼吸をすると心の中で決意を決めた。
姉さん、何らかのダメージがあっても恨まないで………っと。
そして私は敵に一気に接近した。
右手にナイフを出し、吸血鬼に切りかかった。
しかし右手に拳を食らい、ナイフを落としてしまうと、今度は吸血鬼から連続して腹に拳を食らってしまった。
首を掴まれ、宙吊りにされると吸血鬼は不敵な笑みを浮かべた。
「まだ未熟だな」
「くっ……うるさい…」
「しかし貴様は私をヴァンパイアと思っているのではないかな?」
「な、にっ?」
「その昔、ヴァンパイアとウォーウルフとの戦いがあった。その戦いにはあの真祖の姫君アルクェイド・ブリュンスタッドも参加し、戦いは広がっていった。そのさなか、被害にあった人間、ウォーウルフに襲われ抹殺されそうになり、重症をあった。その時、一人のヴァンパイアがその命を助けようとした。だが、その人間はウォーウルフによってヴァンパイアの治療はひとつも無い。しかしその人間は特別だった…」
目を閉じ、過去を振り返るように思い出す。
「ヴァンパイアとウォーウルフは遺伝子レベルでも争うほど、熾烈を極めていた。だがある一部の者は遺伝子を交配できるものがいた。その人間が重症を負った人間であった。そしてそのヴァンパイアはその人間にヴァンパイアの力を与え、初のヴァンパイアとウォーウルフが合体した人間が誕生した。そしてその子供が誕生した…………それがこの私なのだ。そして数年前、私にも完全な子孫ではないが手に入れることが出来た。それが…お前だ。そしてお前と共に地上の楽園を作るのだ……」
私は信じられなかった。
この私が二つの種族の末裔になったのだ。
そして私とアイツでこの世界に「シャングリラ」を作ろうとしている…。
息が苦しいのも忘れるほど頭が混乱した。
その時、「彼」の腕に黒鍵が刺さった。
腕の力が無くなり、私は後ろに後退した。
「大丈夫ですかフェーダー?」
「ね、姉さんっ…」
「話は聞きました。 私も驚きましたが…しかし安心してください。私は貴方の味方です」
「あっ、うん……」
「ふん、教会の代行者が……貴様らにに殺されてたまるかっ」
「黙りなさい、罪も無い人を自らの欲望の為にもてあそぶとは言語道断っ、神の名の元にあなたを処断します!」
姉さんは黒鍵を構え、腰を低くする。
だけど私は姉さんの腕を掴んだ。
姉さんの前に立ち、サイレントガンナーを構える。
「フェーダー?」
「姉さん、ここは私に任せて……援護に回ってほしい」
「分かりました。無理をせずに慎重に行きましょう」
「了解!」
私はサイレントガンナーのトリガーを弾き、弾丸を撃ち出す。
だが頭の中ではさっきの言葉が頭をよぎっていた。
私がウォーウルフとヴァンパイアの力を持った人間……。
しかし私はその考えを忘れ、戦う事に専念した。
私は姉さんと共にヴァンパイアから離れるように走った。
ヴァンパイアは姉さんを追うのではなく、私を追ってきた。
その間に私はサイレントガンナーのマガジンを取り出し、シルバーバレット(銀の弾丸)をマガジン内に入れる。
「サイレント、この弾丸を私の魔力で初速を速くしてくれ」
『了解しましたマスター、お任せください』
「頼んだぞ」
サイレントガンナーのスライドを撫で、笑顔をこぼす。
そう、あのヴァンパイアは半分はウォーウルフの血が流れている。
その為、この新型の弾丸「シルバーバレット」を使えば傷の再生が不能になり、止めを刺しやすくなるのだ。
シルバーバレットの弾頭部分の中には鉛ではなく銀の液体が入ってあり、相手に命中するとその部分から腐食が始まるのだ。
今私が持っているシルバーバレットは全部で6発、その弾丸を一発でも心臓に命中することができれば完璧な致命傷を負うことがで
きる。
ヴァンパイアは空を飛び、フェーダーに一気に近づこうとする。
私は周囲に漂う風を読み、一気に二階上の屋根まで跳躍する。
そしてそのまま風を使ってスピードを早くし、屋根を飛び越え続ける。
「私の力が役に立っているようだな、お前が完全な体になったらさぞかし私に噛まれてよかったと思うだろうに!」
「確かに私の力はお前の力で増幅された!だがそれには感謝していない!」
私はその場で後ろに体を回転させ、ツーハンドホールドでサイトをヴァンパイアに向ける。
そしてすれ違い座間にトリガーを弾く。
シルバーバレットはグリップから吸収された私の魔力を薬室に装てんされたシルバーバレットに注入され、弾丸の速度を一気に上げ
る。
「くっ!」
ヴァンパイアは身を翻し、何とか弾丸を避けようとしたがシルバーバレットの早さに間に合わず左腕に命中した。
すると焼け爛れたように被弾したところから煙が出た。
効果はあった。
左手は少しずつ腐り始め、灰になっていく。
「か、考えたな、銀の弾丸を使って俺を倒す、確かに俺とお前にはウォーウルフの血が流れている。だがお前に……」
その時ヴァンパイアは突然、姿を消した。
私が気配を捉えた時には背後にヴァンパイアがいて振り向いた瞬間にサイレントガンナーを構えた腕をつかまれ、ヴァンパイアの前
に引き寄せられた。
「くく、お前はもう私の物なんだ、大人しく私の事を聞けば共に最高の快楽を得れるものを…」
「私は私だ!誰が貴様の……」
「その美貌、力、すべてが揃うのもお前は放棄するというのか?」
何かの暗示なのだろうか……頭がくらくらする。
まるで麻薬に頭を犯されたようにヴァンパイアの言葉が脳を支配されていく。
だめだ、これは暗示だ! だまされるな! 奴の言葉を聞くな…。
「お前は美しい……私の愛を受け入れば、そのままでいられるんだぞ…」
今日の月は満月……。
月の力の効果なのか耳元で妖しく囁きが、甘い蜜の中に体を浸すような感覚だった。
次第に頭の中がおかしくなる。
彼の体、力すべてが美しく見えてきたのだ。
それと同時に様々な実験で、抑えられた力が徐々に私の中からあふれそうだった。
「あ…アァ………ぃ………やぁ……」
「そうだ、自分を解放しろ、そうすればすべてを受け入れられる……」
「フェーダー!」
その時、姉さんが黒鍵を投げ、私とヴァンパイアの距離を広げてくれた。
続けざまに何本もの黒鍵が姉さんから投げられ、ヴァンパイアは後退せざる終えなかった。
ヴァンパイアは一時姿を消すと、姉さんが私に近づいて来た。
「大丈夫ですか?」
「ね、姉さん………ち、力が……」
「あいつに何かされましたね? 今日は満月、奴にとっては絶好の日ですからね……」
「ク…ぁぁあ……ぃや…ぁ…」
抑えられない……ウォーウルフの力とヴァンパイアの力、双方のダムが決壊しそうだった。
「くっ……くそ…」
「……フェーダー、少し我慢してくださいよ!」
姉さんは私の足に装備されているナイフを取り出すと私の腕に一気に刺した。
強烈な激痛が私の腕から全身へと広がる。
私は必死で激痛と戦うと、次第に力が治まってきた。
「その痛みであなたが元に戻るのならあなたはまだ人間の証です。だから絶対にその痛みを忘れないでください…」
「くっ……あ、ありがとう…姉さん」
私は痛みをこらえながら精一杯の笑顔を見せる。
姉さんはハンカチを取り出し、傷口を縛ると私はゆっくりと立ち上がる。
「はぁ……はぁ……逃がしてしまったかな?」
「いえ、まだあいつの力を微弱ながら感じます。この近くにいます、あなたの風を読む力で先回りをしていく事はできませんか?」
「そうか…」
私はゆっくりと目を閉じ、周囲の風の流れを調べる。
風が建物等にぶつかり、風向きを変える。
その中で一箇所だけ風が妙な方向に向いていた。
見つけた…………。
「こっちだ………」
私は一気にシエルと共に飛び上がりヴァンパイアが隠れている所に一気に跳躍する。
私はサイレントガンナーを出し、姉さんは黒鍵を出す。
サイレントガンナーの中にあるシルバーバレットは残り5発。
充分な弾数だった。
私は風の流れを読み取り、ヴァンパイアの位置を性格に掴むとサイトをヴァンパイアに向け、トリガーを弾く。
弾丸はヴァンパイアが先に私たちを見つけた為、腕を掠る程度だった。
「姉さん離すよ、私がおびき寄せるから集中砲火を浴びせて」
「わかりました、気をつけてくださいよフェーダー」
「任せろ」
不敵の笑みを見せ、姉さんは微笑むと私は姉さんを離した。
私は再び風を読み、ヴァンパイアを追う。
ヴァンパイアは建物の壁を利用して自分を隠しているらしいがそんな物は私には通用しない。
「サイレント、一発デカいのを行くぞ」
『イエス、マスター』
私はグリップに自らの魔力を送り、トリガーを弾く。
「イグナイトヴェステージ!!」
イグナイトヴェステージ(点火の痕跡)、魔力を推進がわりに使用し、弾丸の初速を一気に上げる。
そしてそれが相手の弱点となる場所に近いほど相手のダメージは大きくなる。
弾丸は通常の弾丸から特殊使用の弾丸と弾の種類によっても相手へのダメージが大きくなる。
今回、使用したシルバーバレットはあのヴァンパイアにとって致命的になる弾丸、私はヴァンパイアの足を止める為に撃ち込んだのだ。
ヴァンパイアは私が打った弾丸に気づき、避けようとしたが弾丸の速さは倍以上に早く、見事ヴァンパイアの腹部に命中した。
「姉さん!!」
「っ!」
姉さんは法衣を脱ぐと、それが第七聖典に変わりすかさずトリガーを弾いた。
「カルバリオデスティオー!!」
鉄槌は今度こそヴァンパイアの心臓に命中し、悲鳴を上げることなくヴァンパイアは姿を消した。
私はそれで終わると思った。
だがシエルの背後にこの町の人間が襲ってきたのだ。
「姉さん!」
振り返りざまに黒鍵を投げる姉さんに私は援護射撃で攻撃する。
先程の地面から出てきた手といいやはりこの町の人間はまだ「生きて」いたのだ。
私は姉さんの隣に着地すると近くの人間を撃ち、少しづつ距離を広げていく。
「どう思う姉さん?」
「明らかにこの人たちはゾンビですね……、生命の息吹を感じる事が出来ません…」
「という事は……」
「ここの人たちはすべて浄化せねばなりませんね」
行動が決まった瞬間、私達は動いた。
姉さんは黒鍵を投げ、私はサイレントガンナーのサイトをゾンビの頭に向けてトリガーを弾いてゆく。
そのまま一発一発正確に弾丸を撃ち込んでいくが数が多い。
徐々に数で攻められ、距離を縮められていく。
私達は互いに背中をつけ、囲まれた私達の周りにいるゾンビを見る。
「姉さん、これじゃこっちが……」
「結界を張って、まずはここから出さないようにしましょう。そして朝日が昇るまで残り一時間です、それまで私達が時間を稼ぎ、応援を呼びましょう」
「賛成、じゃ、私が時間を稼ぐから姉さんはその間に結界を・・・」
「分かりました」
私たちは一気に空に向かってジャンプし、一度宙返りをしてそれぞれの方向へと向かう。
サイレントガンナーを再び構え、シエル姉さんに向かうゾンビに向かって頭を狙って撃つ。
しかし数が多すぎ、サイレントガンナーだけでは対応できない。
私はナイフを出し、地面に着地して接近戦を挑む事にした。
サイレントガンナーを構えながら、左手でたくみにナイフを動かしながらゾンビの首を狙って切っていく。
体を回転させながらナイフ、サイレントガンナーをたくみに使い、姉さんと私を狙うゾンビを倒していく。
姉さんはこの町の一番高いところ、教会のベルの屋根上に立つ。
そしてナイフをいくつか出してそれを地面に向かって放ち、スペルを唱えるとそのままナイフは意思を持ったかのようにそれぞれの方向へと地面を削りながら動く。
ナイフは四方に飛んで行き、姉さんはスペルを唱え続ける。
その間にも私はナイフとサイレントガンナーをたくみに使い続けながら敵を倒していく。
「早くしてくれ姉さん、数が多すぎるっ」
徐々に周りを囲まれ、私のスタミナも切れてくる。
私はゾンビの背後から攻めてくる事に気づかず、不意打ちを食らって地面に倒れてしまった。
その時にサイレントガンナーとナイフを落としてしまい、私は四肢をゾンビにつかまれてしまう。
「くそっ!離せ!!」
鍛えられた私の筋肉でも長時間連続の戦闘で疲弊した体に振りほどくだけの力が今は残っていなかった。
迫り来る生きた屍……。
一匹のゾンビが私の上の乗りかかり、私の肉をジッと見つめる。
そして私の法衣を首から胸元にかけて破り、ジッと胸元を見つめる。
「は、離せぇ……けだものっ!」
だがその人物を見て私は言葉が詰まってしまった。
父さんだったからだ……。
そしてその後ろには…………母さんもいた。
「父さん…………母さん…………」
思わず抵抗する力が無くなり、私は涙が出てしまった。
「と…・・・さん…………母さん…………」
「フェーダーっ!」
私の四肢を掴んでいたゾンビの頭に黒鍵が刺さり、掴んでいる力が弱まると姉さんは私を掴み、サイレントガンナーとナイフを回収し教会の屋根上へと一気に上がる。
「大丈夫ですか?」
「ああ………父さんと母さんがいた……」
「フェーダー、もうあなたのご両親は天に召されています。今のあの体はもはや抜け殻です」
「分かっている、だが………」
「この街の浄化の準備は終わっています、後は結界を発動させ、この街の人々をちゃんと供養するのです」
「分かっている………」
「あなたの力が必要です、私だけの力では出来ません」
「私の?」
「私だけではこの街すべての浄化なんて出来ません、あなたと力を合せれば出来ます」
先輩は優しく手を差し伸べてくれた。
そうだ、もう父さんと母さんは死んでしまったのだ。
出来るのなら、私自身が供養したい。
「分かった、一緒に……」
「はい……」
私は姉さんの手を掴み、ゆっくりと目を閉じる。
そして姉さんも目を閉じると一緒にスペルを唱え始める。
ラインを書いた部分から町全体が光だし、私たちはさらに魔力を強める。
そして………生きる屍は灰になり、魂を失った体は消える。
目を開け、父さんと母さんを見る……。
結界の光に苦しみ、灰になると私は再び涙を流す。
その時、両親からの声が聞こえた。
頑張って生きてくれ、私たちはいつもクリスを見守っていると………。
すべてが終わると、私は崩れるように床に座った。
それと同時に朝日が昇り、私たちの冷えた体を温めてくれる。
「終わりましたね……」
「父さんと………母さんの声が聞こえた………クリスって呼んでくれた…・・・」
「そうですか……『クリス』」
「えっ?」
姉さんがクリスと呼び、私は姉さんの方を振り向くと姉さんは優しい顔で私を抱きしめてきた。
「いつでも私はあなたを守ります。たとえあなたの中に吸血鬼とウォーウルフの混血の血が流れていても私はあなたの見方です」
「姉さん………ぐっ………うあぁぁぁぁ!!」
私は子供のように大声で泣き出した。
体の中の水分が無くなる位に……。
朝日は昇り、私達は街から出た。
私たちとすれ違うように教会の要員がこの街に向かい、街から『証拠』を消すように動き始める。
ふと私は地面に落ちていたあるものに気づいた。
それは母さんと父さんが一緒につけていたクロスのペンダントだった。
「ご両親のですか?」
「うん、偶然に………」
「この世界に偶然はありませんよ、すべて必然に出来ているのです。だからこのクロスはご両親があなたにプレゼントしてくれたんですよ」
「プレゼント………そうだな、そうだね…ありがとう、父さん、母さん…」
私達はそのまま朝日を浴びながら、機関本部へと帰っていった…・・・。