Second Chapter /「enter of executer」
5 Yars ago/November
シャーロック作
目が覚めるとそこは見知らぬ場所だった。
少し肌寒く、服を見ると薄着の白のワンピースな服だった。
ゆっくりと体を起こすとそこにはシエルさんがいた。
「目が覚めましたか?」
「あの……シエル…お姉ちゃん、ここは………」
「ここはイタリアのベネチアのある教会の中です」
「イタリア……ってあのイタリアですか?」
「はい」
どこかいつものシエルお姉ちゃんとは違う、私は少し怖くなった。
ゆっくりと部屋を見渡すと今座っているベッド、机、少し大きめの本棚、後は小物が少しというシンプルな部屋だった。
「でも何で私が…………イタリアなんかに……」
「私は貴女を調査し、それがあるならここへ連れてくるという命を受けていました」
私には分からなかった。
でもシエルお姉ちゃんは私に分かるように一つ一つ教えてくれた。
まず私に魔法とかに使われる魔力があること、お姉ちゃんの話だと普通、魔力は代々受け継がれながら力が強くなっていくと聞かれ、私は突然持ったこの力に驚いた。
そして天候が分かるのは自然に魔術を使っていたと教えられた。
「お姉ちゃん、大体の事はわかったよ……それで、私がお姉ちゃんの家から出てった後……覚えていないの……」
「…………知ったほうがいいですね……」
シエルお姉ちゃんは真剣な目で私を見て話し始めた。
吸血鬼に街を襲われ、ほとんどの人が死んでしまった事……そして……父さんと母さんが死んでしまったこと……。
最初は信じられなかったが、お姉ちゃんの顔を見ていて徐々に信じるようになった。
でも………
「そして今、貴女は完全ではありませんが吸血鬼になってしまっています」
「えっ?」
「街を襲った吸血鬼はあなたの魔力と血を取り、強くなりました。ただ幸いなことに貴女の魔力が多く、極少量しか吸血されなかったため、完全にはなっていません」
「わ……私が………吸血鬼………?」
「そしてそれがきっかけで貴女は魔力を攻撃に使用することが出来るようになりました。つまり、魔術を使用することが出来るようになったんです」
パンクしそうになった……お姉ちゃんの言っている事は本当のことだと分かる…………でも友達や父さんと母さんの死、自分が吸血鬼、そして………………魔術が使えるようになったこと……………。
その時、お姉ちゃんが私を抱きしめてくれた。
「ごめんなさい、こんなこと簡単に信じて貰えないでしょうけど……」
「うん………」
お姉ちゃんがゆっくりと私から離れるとにっこりと微笑んでくれ、頭を撫でてくれた。
「無理をしたらだめですよ? 辛い時は必ず言って下さいね」
「うん………」
「それでこれからなんですが……おそらく私が所属する機関の長が貴女に尋問、つまり質問をするでしょう」
「うん………」
「私は貴女のサポートと吸血を抑える治療を何とか捜してみます。見つかるかどうかはわかりませんが…」
その時、誰かがノックし中に私より少し歳が上の子供が入ってきた。
髪は肩にかかるかかからないか位の長さで、どこか勝ち誇った様な笑顔を作っている。
「シエル、機関長がお呼びだよ。その子を連れて来いってさ」
「分かりましたメレム、先に行っていてください」
「分かったよ」
「クリスさん、これから私の機関長のところへ行きます。あの人には嘘は通用しませんから正直に」
「うん………」
私はシエルお姉ちゃんの手を繋ぎ、部屋を出て長い廊下を私はトボトボと歩いてゆく。
お姉ちゃんの言う機関長の部屋に着くまで私達はずっと無言で俯いたままだった。
お父さんとお母さん、そして私の友達が死んでしまったと聞いてそれが本当なのかどうかお姉ちゃんの顔を見ればすぐに分かるけど……信じられないところもある。
機関長の部屋に着くとお姉ちゃんは扉を三回ノックし、失礼しますといい扉を開けた。
「少し遅かったなシエル。さてお前は先に部屋に戻っていろ」
「いえ、ここに残ります」
「妙に感情移入をしたなその小娘に……まあ良いだろう。さて小娘……確かクリスと言ったな、そこの椅子に座りたまえ」
私は黙って椅子に座った。
その後ろにシエルお姉ちゃんが座り、私を見守るような視線で私を見る。
そして機関長は、ナルバレックという名だと教えてくれ、尋問が始まった。
何を質問されるかと思っていたら右手を私の前に翳した。
私の魔力がどれだけあるのか調べたのだ。
「フム、かなりの能力保持者だな君は。まだ10歳前後だというのに君は強い能力を持っている。そして君はすでに一匹の吸血鬼に相当なダメージを与え、シエルを助けるという成果を挙げている」
ナルバレック機関長はクスッと笑い、じっと私の顔を見た。
「君は両親を失って故郷も失ったショックで黙っているのかな?」
「わ、私はどうなるのですか?」
「………二つの選択肢がある………一つはここで私達のことに従い、その力を強くしていくこと。もう一つは………何事も無かったかの用にここから去り、元の普通の生活に戻るか………だが君は故郷を失い、更に自分も不完全ながら吸血鬼となってしまった…………つまり二つ目の選択肢は消えたということになる」
「もう……ここにいるしかないと……」
「ああ、本当なら君は殺されていい存在だ、だが君は惜しい人材だ。訓練もせずに膨大な魔力保持者は珍しいからな…だからチャンスをやることにした」
ナルバレックは不気味な笑みを浮かべながら椅子から立ち上がり、自分の机に戻る。
その時後ろからシエルお姉ちゃんが肩に手を乗せ、部屋に戻りましょうといい、私達は部屋へと戻った……………。
それからも私はずっと無気力な状態が続いた。
お姉ちゃんが出してくれた食事も口に入らない。
そんな状態が続いたまま夜になり、私は疲れのせいか眠ってしまった。
朝を向かえ、私は自然に目が覚めた。
夢であってほしい、あのことが嘘ならと思いながら眠ったが神様は酷く、夢の中であの時のことを見せ、私を苦しませた。
「やっぱり………あれは夢じゃなかったんだ………」
それを考えると私はため息を吐き、心が苦しくなった。
朝食を迎えるがやっぱりあまり口に入らない。
「クリスさん、これから大事なお話があります」
「はい……」
「今、あなたにはここに残って訓練を受けるか、もしくはこの場で処断されるか、二つしか選択がありません。訓練を受けるなら、私はあなたを全力でサポートします」
「…………なんでそんなことをする必要があるの? 私は本当なら死んでいる……お父さんとお母さんだっていない…………それに私にはもう何もない…………」
「何も無くはありません、あなたはこうして生きているのですから。ここで逃げてはいけません。生きることは自分との戦いです。あなたに出来る事は今なんですか?」
「今出来ること…………」
「はい、貴方にはまだ早いかもしれませんが選択に迫られています。これからあのような惨劇を繰り返さないようにするか、もしくはここで諦めるか…………」
それを聞き、私はしばらく考え込んだ。
生き残った理由………私に出来ること……………それは一つしかない………
それからのクリスは訓練に入った。
何が出来るのかをすぐに見つけ、それに答え始めたのだ。
私自身やはりクリスは魔術も知らず、普通の女の子として育ってほしいと思う。
しかし今はそんなことを言っていられない。
こうなってしまった以上私は彼女を全力でサポートするだけだ。
彼女はまず初めに魔力がどれだけ所持しているか、どこまで体力を持っているかなどを調べた。
私も訓練で経験しているVR訓練でまず魔力の使い方を頭の中に一つ一つ性格に入れ、使用方法を知る。
数時間かけ、頭の中に使用方法を入れると今度は簡単な模擬訓練を始めた。
まずはいくつか的を出し、それをクリスの魔力で当てるという簡単なものだった。
「あの子、この訓練、受け入れたのかいシエル」
「メレム、ええ、戻る場所もない、ご両親も殺された、私は何も起こらずに平穏に暮らして欲しいと思いました。でもすべてを吸血鬼に狂わされ、彼女も不安定な吸血鬼になってしまった……私もあの子を全力でサポートし、吸血衝動を抑えられる限り抑えるつもりです」
「ふーん、相当あの子に感情移入しているんだね」
「どうしてかは………分かりません、でも、あの子は私に似ているんです。ですからなんだか…………」
「なるほどね、まあー分からなくはないよ、じゃっ、頑張ってくれよシエル」
メレム・ソロモン、本名はフォーデン・ザ・グレートビースト。
死徒でありながら埋葬機関第五位のレベルで、私の先輩である。
趣味は古今東西の秘宝を集めること、言わばコレクターである。
あまり好きな人ではなく、正直、あまり会いたくない人の一人だ。
日が落ち始めると、今日の訓練が終わり、疲れた表情でクリスは部屋に戻ってくるとゆっくりと椅子に座った。
私は隣に座り、クリスの首の筋肉をほぐし始める。
「お疲れ様です。大丈夫ですか?」
「うん………お姉ちゃん………その、お腹が空いちゃって……」
「食欲が出て少し安心しました。今日はシーフードのカレーですよ」
クリスの訓練が終る前に私はクリスの為にご飯を作っておいたのだ。
ナンを机に置き、器にカレーを乗せるとそれをナンの隣に置いた。
クリスを呼び、椅子に座らせるとゆっくりとカレーを食べ始めた。
「美味しいですか?」
「うん……美味しい……」
「まだたくさんありますからどんどん食べてくださいね」
「うん………ぐっ……うぅ……美味しいよ、お姉ちゃん」
がつがつとすべてを忘れるように食べるクリス。
食べていくうちに徐々に明るさを戻し、笑顔を作れるようなると、一緒にシャワーを浴び、眠りに着いた。
腕枕をしてあげ、ネコのように丸くなって眠るクリス。
私も頭を撫でていると、久々に安眠できるせいかまぶたが重くなり、そのまま私も寝てしまった。
次の日からも、ずっと私は訓練の毎日であった。
来る日も来る日も訓練の毎日、次第に私の心は冷たく、機械のように何事もこなすようになってきた。
メレムや他の代行者達とも少しは話をするが、シエルだけは心を許していた。
何事も疑え、これが訓練を重ねて得たキッカケだった。
そしてそれがいい結果ならばそれを信じ、もし違うものなら最悪、破壊するというのが私の中でできた。
特に私の中で得意とするのが銃を扱った訓練だった。
教会使用に改造された拳銃を使い、初めは10発中2〜3発しか当たらなかったが、次第に命中力が上がり、バランスが悪い場所や天候が悪い場所でも命中を上げていった。
そして中でも特に気に入ったのがシグ・ザウエル・P228とワルサーP99、ステアーそしてワルサーPPKだった。
すべて教会仕様に改造されており、私のオリジナルにサイレンサーやレーザーサイトなどを取り付けたりも出来た。
ステアーAUGなどの突撃銃、H&K(ヘッケラー&コック)PSG1やワルサーWA2000などの小銃、ベネリM3などの散弾銃、U.S.M79などのグレネード類などを中心に腕に磨きをかけた。
そして体術、特にカンフーを中心に体に叩き込む。
そして今では様々な吸血鬼を抑えるために自ら実験体となり、薬を投与され続け、成長が急激に促進され、シエル姉さんと同じぐらいの背になった。
最近になり、時々シエル姉さんと組むことが多くなった。
訓練でカンフーなどを使い、シエル姉さんと戦うがやはり数々の戦線で戦っているだけあり、なかなか勝てない。
そして訓練を続けて約1年と7ヶ月が経過したときだった。
私はナルバレック機関長に呼び出された。
シエルと共に向うと相変わらずの冷たく、妖しい笑みを浮かべた表情で私を見た。
「お前にテストをする、これからお前に伝える任務を見事に達成すれば予備員のクラスを与える」
「私にですか?」
「そうだ、長年、予備員は死亡者が続出したがお前なら予備員のクラスを保ち続けていられると思ってな……」
「それで任務は?」
「今回はシエルと共に行動してもらう。所載は追って通達するが場所はドイツ、クリスの故郷だ」
心を機械にし、何事にも動じずに過ごしてきたが、これには私も動揺を隠せなかった。
ナルバレック機関長の話だと、クリスを吸血鬼にし、街を壊滅させたあの吸血鬼がまだ生きている情報を得たのだ。
それを発見次第、殲滅せよとの命だった。
私は手をきつく握り、怒りの炎が心の中に広がるのが分かった。
すぐに私とシエル姉さんは部屋に戻ると、準備を始めた。
「クリス、行く前にこれを使用してください」
「えっ?」
手渡されたのは箱だった。
それを受け取り、蓋を開けるとそれは少し大きめの銃だった。
形的にはワルサーP99とロングスライドのハードボーラーを混ぜたような形だったが、底から魔力を感じた。
「これ、シエル姉さんが持っている第七聖典と似た様な魔力を感じる……」
「その通りです、これは私がメレムに頼み、貴方専用に何か武器はないか捜してもらったんです。」
私はそれを取るとじっくり見て、あることを思いついた。
「シエル姉さん、ちょっと時間をくれないか? 出発は?」
「明日です。何をするのですか?」
「わたし様に改造するのよ、使いやすいやすいようにね」
「なるほど、私もセブンを改造しましたからね。いいアイディアですよクリス」
シエル姉さんの付き添いの元に私は銃の改造を始めた……………。
日付けが変わる前に、ついに私の銃が完成した。
この銃の名は「サイレントガンナー」、
元はワルサーP99、スライドの下に教会の刻印をいれ、更に通常の拳銃と同じような使用にし、ペガサスの羽根を弾丸にしてしまった。
これもシエル姉さんの第七聖典と同じ転生批判の弾丸となっている。
そして魔術で風をスライドの中に収束させ、弾丸の威力を増すことも出来るようにした。
また、これにはもう一つの秘密がある。
「サイレント」
その言葉でサイレントガンナーがポォッと青白く光だし、人の姿へと変わる。
「貴女がマスターですか?」
「よし、成功だな?あぁ、私がお前のマスターだ」
「これからよろしくお願いしますマスター、今から何かすることはありますか?」
「大丈夫だ、今は何も無い。なんならしばらくこの姿でいたらどうだ?」
「分かりましたマスター」
工具を片付け、シエルの部屋に戻るとシエル姉さんは先に寝ており、出来るだけ足音を立てずに私もベッドへと入り、就寝についた。
サイレントはちょこんと床に座り、すぐに寝てしまった………。