02/日常
ルイ作
「………ん…。」
目が覚めると、いつもより少し天井が高かった。
「…あれ?」
周りを見回し、自分が小さくなったのでは無いの確認する。
それと同時に自分が布団で寝ていることを思い出した。
そこまで分かると後は早い。
「そっか、私が彼にベッド貸したんだっけ。」
目覚まし時計を見ると、まだ6時を回っていなかった。
カーテンの隙間から見える空は、まだ夜の色を背負っている。
「……起きよ。」
体を起こし、被っていた布団を少し乱暴に払い除ける。
布団のうえに立ち、自分の後ろにあるカーテンと窓を勢い良く開け放つ。
窓からは、まだ寝呆けている頭の中を引き締めるように冷えた空気が流れてくる。
朝の景色は好きだ。
周りのもの全てが引き締まって見えてくる。
ピンと張った空気。
眠っているように静かな街。
昼や夜とは違う、どこか清らかで、少し廃れたような雰囲気を持っている。
だから好き。
「………。」
気の済むまで外を眺めたあと、視線を部屋に戻す。
「ようやく起きたか。」
いかにも馴染んでいるように、来て一週間も経っていない彼が私の椅子に座っていた。
しかも何処か偉そうに。
「……色々と突っ込みどころ満載だけど、まずはお早よう。」
腹の奥から沸き上がるものを感じながら出来る限りの笑顔を浮かべ、挨拶をする。
「あぁ…。」
相変わらずぶっきらぼうな返事をする。
「……ま、いいや。それにしてもえらく早い時間に起きたねぇ。まだ6時も回ってないよ。」
「……ふと目が覚めてな。」
「ふぅん…前からそうだったのかな、眠そうじゃないね。むしろはっきりしてるみたい。」
「そうか?起きたのはほんの……半時前だ。」
聞き慣れない言葉に眉を寄せる。
少し考えてから、ああと声を上げる。
「一時間前って事ね。てか、古い言い方知ってるね、普通は言わないよ。」
「……そう言うお前は、なぜ知っていた。」
その問い掛けに対して至極当然のように、こう答えた。
「辞書を読むのが、私の趣味なんだ。」
時計は7時を回った。
お互い着替えを済ませ、私は朝食を作り始めた。
彼はというと、意外といろいろやってくれる。
私の布団を片付けてくれたり、今も私の隣で朝食の準備の手伝いをしている。
「…………意外だ。」
豆腐を切りながら、彼が昨日から漬けていた浅漬けを切ってくるのを見て呟く。
「ここに世話になっている以上、何か手伝うのは当然だろう。」
軽快な音を立てながら胡瓜を切っていく。
包丁裁きはなかなか…。
「なんか更に謎が深まったような……。」
豆腐を切り終え、ぼやきながら新たに油揚げと長葱を冷蔵庫から取り出す。
「何故だ。………切るか?」
漬物を切り終えた彼が、出したばかりの材料に手を伸ばす。
「こう言うことする人だとは思わなかった。………長葱。」
選ぶように二つを見た後、彼の手の上に長葱の青いほうを乗せる。
「…。そこまで恩知らずでは無いぞ。」
軽く握って受け取り、ねぎをまな板の上に乗せて、軽やかに切っていく。
それを横目でちらりと見ながら油揚げを切る。
「……だからそれが謎なんだって。」
その包丁裁きが。
最近の男の子は料理がお上手なのかしら?
どうせなら、ヒラヒラのフリル付きでカワイイエプロンを付けさせて…………………………………………………………………………………やめよう、似合わなすぎて笑えない……それ以前に、殺されかねないかも…。
などと考えながら油揚げを切っていく。
「どうした?」
「え?……っ!!」
彼に呼び掛けられ、そちらを向く……が、風を切るような速さで彼から目をそらし、口元を押さえる。
(止まれっ、止まれ!私の想像力っ!)
そう、私の頭の中ではさっきのエプロン姿の彼と目の前にいる彼が見事に重なってしまったのだ。
「〜〜〜〜っ、ごめん…本当に何でもないから…。」
体が小刻みに震え、顔を押さえたまま、首を振る。
「そ、そうか……。」
不思議そうに見ながら、切ったねぎを水に軽く晒す。
彼がこちらに背を向けたのを確認し、気持ちと思考を落ち着かせる。
「………っはあ…危なかった……。」
そんなこんなで朝食の準備が終了。
味噌汁のほかにも、ご飯はもちろん、切ってもらった浅漬けや、鮭の塩焼き、サラダをテーブルに並べる。
「うん、今日も美味しそっ。さて、食べようか。」
「そうだな。」
椅子に座り、箸を取って親指と人差し指の間に挟む。
「いただきます。」
「いただきます…。」
彼は手だけを合わせ、静かに言う。
その後、お互い茶わんを持ち、食事を始める。
「そうそう、これからの予定だけど。」
特に反応もなくこちらをチラッと見てすぐ目を茶碗に戻す。
「取り敢えず、貴方の着替えが無いから買いに行って、その後に私の行ってる学校に行くから。」
学校と聞いてピクッと反応し、そして、また不思議そうに私を見る。
「………今日は休みだろう?なぜ学校へ行く…。」
「そりゃあ用事があるからよ、決まってるでしょ?」
当たり前のように返すと、少し眉を寄せながら更に言い返す。
「……その用事を聞いているんだが?」
「おっと、こりゃ失礼。……用事っていうのは貴方のことよ。」
「俺の……?」
余程意外だったのか、少し首を傾げる。
それに答えるよう頷いて、箸を置き彼を見ながら話す。
「そう。明日から貴方にも学校に来てもらおうと思って。家でジッとしてるよりはマシでしょ?」
「………。」
表情を少し硬くをしながら、考えるように視線を落とす。
「…………まあ、本当の事言うとね…、記憶が無いとは言え、知らない人に家に一人で居てもらうっていうのは、あんまり良い気がしないんだ。」
「そうだろうな……。」
「それに外に出て刺激を受ければ、少しは変化があるんじゃないかな、とね。」
少し、傷つけてはいないかと不安に思いながらチラッと伺う。
彼は組んでいた腕を解いて、椅子を引き、ゆっくりと座る。
「……気になるなら言うな。」
少し呆れたような声で言う。
「と、とにかく今日学校に行って、先生に話を付けるから。まあ、すぐに明日から行けるようになると思うけど……。」
「そうか……………………この後は買い物だったな。」
納得したように頷き、箸と茶碗を持ちなおす。
「そうだけど?」
「なら、さっさと食べていくぞ。……あまり人に見られたくないものでな。」
そう言って、そそくさとご飯を食べ始める。
「はいはい。」
彼に合わせるように私もいつもより早く食器を空にした。
もちろん、米粒一つ残さずに。
もし残すなんて事をしたら、お百姓さんに申し訳ないし。
何より日本人として如何かと。
「「ご馳走様。」」
いつものように洗い物を済ませ、出掛ける用意をして家を出た。
大きな通りに沿って歩くと、広い交差点に出る。
その交差点を抜け、更に歩くと、そこには駅の代わりにバスターミナルがある。
この街はバスが住民の足となっている。
中を循環バスが走り、他の街の駅に行く為のバスももちろんある。
私は使ったこと無いけど。
で、ターミナルから直接通路で繋がっていて、巨大と言っても足りないほどの広さをもった白い建物がこの街一番のデパートであり、私たちの目的地だ。
「………ここで…か?」
白く高い壁のような建物を呆然としながら見上げる。
初めてここを見た人間は誰でも驚く。私も驚いた。
「凄いでしょ。この街の最大の目玉。」
「…………………………城か?」
「誰のよ。ほら、そんな事言ってないで中に入るわよ。」
未だ呆然としている彼の腕を引き、入り口へ向かう。
しかし、ここで問題が…。
「あれ?……………閉まってる。」
「休みか?」
時計を見ると、開店まであと1分だった。
「………私らが早すぎただよ、にいちゃん。」
仕方なく入り口が開くのを外で待つ。
程なくして入り口が開き、私たちは中に入る。
「凄い……誰もいないデパートなんて初めて…なんか貸し切りって感じ?」
自分達以外の客はおらず、いるのは私たちだけ。
「…よーし、買い物するぞっ!」
その帰り、両手いっぱいの袋を持って帰ったことは言うまでもない。
あとがき
はい、再びこんにちは。
ノロマな小説担当、紗倉ルイでございます。
ようやく先に進みましたね。やっとこさ第二話ですよ。
でも、本当は七夜が学校に行くところまで進める予定だったんですけど…………七夜の台詞とか動きとかが難しい。
記憶喪失と言っても、日常生活に支障をきたす程ではないので、普段では記憶が無いようには見えないんですよね。
でも、その何処かに記憶が無いと言う事を入れないと、普通の話になっちゃいますから。
まあ、次で学校の方に行く事になるので、そっちで頑張ります。
では、次回をお楽しみに〜♪