01/出会い
シャーロック&ルイ作
真夏の真っ只中、セミは鳴き続け気温は40度に達しているのではないかと錯覚するくらい暑かった。
その中、ユイ・キサトとエレイス・ステアーは学校の補習に追われていた。
今までの遅れを取り戻そうと二人は先生の指示に従い、ここしばらく学校に通っていたのだ。
「う〜、手が痛くなってきた・・・・・・」
「ほら、もう少しじゃない、頑張って」
二人はせかせかと出された課題を取り組んでいるが、何時間もなっているせいでシャープペンを持つ手が痛くなって来ているのだ。
二人は進級出来た者の、埋葬機関との激闘のせいで少し遅れが生じたのだ。
「これでラスト〜」
ユイはカリカリと問題を解き、ついに最後の問題になると最期のせいか勢いがついた。
エレイスもなんとか最後の問題になり、綺麗な文字で問題を解いていく。
数分して二人は問題を全て解き終わり、ユイはバタンと机に倒れる。
エレイスはテキパキと片づけをし、提出する物を綺麗にまとめるとスッと立ち上がる。
「ほら、早く片づけして出すもん出して帰ろ」
「ふぁ〜い」
ユイもテキパキと片づけをして、綺麗にカバンの中に荷物をしまうと提出する物をまとめる。
二人は職員室に行くが先生は見当たらず、二人は書置きをして提出物を机に置
くと玄関に行き、靴を履いて外に出る。
まだ昼なのにほんとに溶けてしまいそうなくらい暑い。
二人は外に出ると、ユイ、エレイスと同じくらいの歳の男女とすれ違った。
真夏だというのに黒のスーツに身を包み、男性はサングラスをはめ、女性は周りの風景をジッと眺めていた。
「どうだこの街は?」
「情報どおりの街ね・・・・・・教会本部の情報は本当に的確だわ」
男性の名は如月優希、埋葬機関とは違い教会本部に属する者で教会に属してからまだ日は浅い。
しかし潜在能力が高く、特に射撃に関してはかなりの技術を持っており、優希は強力な銃を好んで使う。
基本的な武装は45口径のコルトガバメン トハイキャパ5.1を所持しており、これをメインにして使う。
女性の名は水沢実理、優希と同じく教会に属しており優希と共に行動ししている。
彼女には特殊な能力があり、対象の人物に何らかの能力が備わっている場合、その色を判別する事が出来、さらにはその色の強さによって能力の強弱が分かる特殊な目を持っている。
さらには肉弾戦が得意で、優希が後衛、実理が前衛と互いをサポートしあっている。
二人はこの三咲町に来たばかりで、任務に付く前に街の状態を知っていこう
と散策していたのだ。
だが日本の暑さに優希はダウンをし始め、実理も汗を拭う。
「どうする街の散策はこんな物でいいじゃないのか?」
「そうね、ほんとに日本の暑さにはたまらないわ・・・ホテルに戻りましょう」
「賛成だ」
二人は滞在しているホテルへ戻るためにタクシーを止めるとそれに乗り、三咲町では名の知れたホテルへと向かう。
タクシーの中の冷気が体を暑くした二人の体を冷却し、火照った為にぼやけた頭を覚まさせる。
ユイとエレイスは遠野家の屋敷に向かっていたが、ふとユイの思いつきで、シエルの元へ行く事にした。
しばらく顔を合わさず、寂しいと思っていた時だったので少し駆け足でシエルの元へ向かった。
シエルのアパートに着くとインターホンを鳴らし、シエルからの反応を待つ。
すぐに扉が開くといつもの優しい笑顔で二人を出迎えてくれ、中へ招き入れる。
部屋の中はカレーの匂いで充満しており、お昼を食べていなかった二人の胃を刺激する。
「先輩、カレー作っていたんですか?」
「はい、お腹空きましたからね〜。お二人は食べたんですか?」
「それがまだ・・・・・・」
「じゃあ、みんなで食べましょう。みんなで食べた方がさらに美味しくなりますしね♪」
荷物を置き、エレイスはシエルの手伝いをし、ユイはテーブルの準備をする。
シエルが鍋のふたを開け、カレーを掻き混ぜ、準備が出来るとさらにご飯を注ぎカレーを綺麗にかける。
とその時再びインターホンがなり、エレイスは先輩の手伝いの手を止め、玄関へと向かう。
扉を開けるとそこにはセンチメーターという懐かしい顔がいた。
「おっす、久しぶりだなエレイス」
「センチメーター、またどうしてこんなところに」
「んっ?ま〜仕事の途中で寄ったまでだ」
「ほら、早く入ってくださいな、私たちもうすぐ食事の時間なんです」
「おっ、わりぃな」
センチメーターも中に入ると、ユイとセンチメーターはヨッと軽く挨拶しユ
イの隣に座る。
するとセンチメーターはクンクンと鼻を動かし、ユイを見る。
「お前、銃を携帯しているな?」
「えっ、ああ〜護身用にこれを」
腰のホルスターからワルサーPPKを取り出すとセンチメーターに見せる。
普段、学校などで何が起こるか分からない為にユイはフェーダーに頼み、ワルサーP99より小さいワルサーPPKを貰ったのだ。
もちろん、街中な為に銃声を聞かれるのはよくないと考え、サイレンサーも装備できるように調節してある。
従来どおりにグリップから能力を吸収し、それを弾丸として撃ち出す機能も備わっており、マガジン内には緊急用に備えて麻酔弾も装備してある。
「なかなかいい装備だ」
「どもども」
「はい、出来たよ〜」
カレーを二皿づつテーブルに置き、センチメーターの分の用意するとシエルはサラダを取り出し、机の真ん中に置く。
「あなたも食べてないでしょう? 一緒にどうぞ」
「おぉ〜、まだ食ってないから助かるぜ、ありがとな〜」
フォークとスプーンを人数分用意して飲み物も用意すると全員テーブル前に座り、頂きますと手を合わせる。
そしてゆっくりとカレーを食べるとセンチメーターはおぉ〜っと感激する。
エレイスとユイはサラダを食べると、サラダの甘さにニコッとする。
「美味しいです先輩」
「このサラダの甘さ、どうやって作ったんですか?」
「今度教えてあげますよユイ君、センチメーターも手が止まってませんね〜」
「上手いんだよマジでっ、ウンメっ!」
がつがつと食べるとあっという間にカレーがなくなってしまう。
サラダも食べ、水をクッと飲むとセンチメーターは子供みたいにお代わりと皿を出す。
シエルはクスッと笑い、子供ですねと言ってカレーを注ぎに行く。
そして一杯目より少し大盛りでカレーを注ぐとセンチメーターは子供のようにはしゃぎ始める。
それを見たユイとエレイスはクスクスと笑いだした。
「センチメーター、カレー、食べた事無いの?」
「今回が初めてだ、他のカレーは食ったことあるがな」
センチメーターは再びガツガツ食べ始めると、ユイもそれに釣られて同じように食べ始める。
賑やかな食事が終わると、センチメーターがこの街のことを聞きつけた事を明かした。
センチメーターはこの街の異変について独自に調査するといい、ユイとエレイスに協力を求めてきた。
二人はまず、今知っているだけの情報を教える事にする。
吸血鬼の事件の事、さらには今までと違った夜を迎えていることなど・・・・・・。
シエルが知っている情報も多く、センチメーターが知りえたのはほんの少ししかなかった。
「そうか・・・・ま〜参考にはなった。そういえば二人は時間は大丈夫なのか?」
「えっ?」
時間を見ると、遠野家の門限まで後一時間と迫っていた。
時間に遅刻すれば鬼の秋葉からのお仕置きが待っている。
そしてそれに便乗して琥珀からの悪戯も追加されてしまう。
二人は急いで荷物をまとめ、シエルにご馳走様と言ってアパートを出ると少し早足で屋敷へと帰っていった。
二人が帰ると部屋は急に静かになり、センチメーターは滅多に外さないバイザーを取るとシエルを見つめる。
「本当は別の理由があってここに来たのでしょうセンチメーター?」
「ご名答だ……」
持って来たブリーフケースからある書類を取り出すと、シエルの前に書類を置く。
そこには一人の少女が写っていた。
正面と横顔の顔写真に普段の行動が写っている写真と共にその少女のデータが書いてあった。
「この少女、確かシオン・エルトナム・アトラシアではないですか?」
「そうだ、お前が聞いている通りに俺もお前のサポートに回れとナルバレックからの指示でな…」
「あの鉄の女が……分かりました、任務をこのまま続け、あなたと共に行動します」
屋敷に戻ると翡翠が迎えてくれ、二人は部屋へと戻った。
部屋に入ると、汗を取ろうとシャワーを浴びるにし、先にユイが浴びる事になった。
必要の無い荷物を全て置くと、シャワーを浴びに浴室へと向かった。
エレイスはユイのパソコンをつけ、音楽を静かなボリュームでかけベッドの座り本を読み始めた。
新しく買った本で、前から読み買った本だった。
一人の刑事が一冊の小説の原稿から起こる殺人事件に立ち向かっていく小説で頭の中で小説の内容を思い浮かべながら読んでいく。
しばらく呼んでいると、学校での疲れからかウトウトと眠たくなってきた。
エレイスはそのまま眠りに入り、綺麗な寝顔で寝てしまう。
ユイは脱衣所で服を脱ぎ、裸になる。
エレイスの救出や宿敵の六道の戦闘からたくましく成長し、遠野家に来た頃に比べて体格がガッチリし、銃撃、剣術などで鍛えた体になった。
しかし今、ユイが悩んでいる事は最近、銃など近中距離戦闘ばかりで接近戦など剣術がレベルアップしない事にユイは真剣に考えている。
何かレベルアップする方法はないかと考える事が多くなったのだ。
「なかなか、上手くいかないんだよなぁ〜七夜だと本気過ぎてなかなか上手くいかないし…」
ブツブツ独り言を言いながらシャワーを出し、頭から浴びるとシャンプーを出し、頭を洗い出す。
エレイスは眠りの底へと入るとフッと夢の中で自分が現れた。
周りは草原……ユイといつも夢の中で出会う場所だった。
「そういえば最近ここへきたこと無かったなぁ〜…」
『エレイス……』
エレイスは周りを見るが誰の姿も見れない……。
草原を走って誰の声かを聞こうと探すが何処にも姿が見れない。
『訳あって今は姿を見せる事が出来ない……もし、もう一度出会ったら、目の前の『オレ』を信用するな……』
「どういうこと?」
『すまない……エレイス……すまない……』
「どういうこと?」
『すまない………』
声は静かに消え、ただ風邪の音しか聞こえなくなった…。
ハッと目が覚めると少し汗をかいていた。
「エレイス様?」
声のしたほうを振り向くと、そこにはユイの使い魔のツバサがいた。
ちょこんとエレイスの事を心配そうに見ていた。
「どうしましたエレイス様?」
「なんでもないよ、ちょっと夢が怖かっただけだからさ」
そう言うとエレイスはツバサの頭を撫でる。
頭を撫でると嬉しそうに目を細め、エレイスにじゃれ付く。
しかしエレイスの頭の中ではさっきの夢がずっと気にかかっていた。
さっきの声は明らかにユイとエレイスの大切な『親友』だったからだ…。
ユイはシャワーを終えるといつの間にか服が変えの服に変わっている事に気づいた。
「翡翠がやってくれたんだ」
ユイは新しい服に袖を通し、頭を乾かすといつものヘアスタイルに調節する。
そして脱衣所を出ると、そのまま自分達の部屋へと戻る。
部屋に向かっていると琥珀と会った。
琥珀は手に買い物から帰ってきたのだろう、買い物袋が手に握られていた。
「買い物から帰りですか琥珀さん?」
「はい、ユイさんはシャワーを浴びたところですか?」
「うん、汗かいたからね。あっ、今度台所使わせてくださいな、たま料理しないと感覚が忘れちゃうからさ」
「はい、いいですよ、今度一緒に作りましょう♪ もうすぐ夕食を作りますから後で居間へ来て下さいね」
「はい」
ユイは琥珀と分かれ、部屋に帰るとツバサとエレイスが共に何かを話していた。
ユイの姿を見るとツバサはペコリと頭を下げ、ユイの前に来た。
「お帰りなさいユイ様、さっぱりなされたようですね?」
「うん、何話てたの?」
「雑談よ、じゃ、ツバサちゃんシャワー浴びに行こうか?」
「は〜い♪」
「ツバサも浴びに行くの?」
「はい、エレイス様に誘われてです」
「じゃ、ゆっくりしてきな二人とも」
二人は部屋から出るとユイはデスクの椅子に座り、パソコンのコンソールを弄りだす。
メールのチェックをし、音楽を変えて自分の好きな曲にする。
手馴れた手つきでモニターに映し出される内容をマウスで弄り終えると、今度は銃器ボックスを取り出す。
デスクに置き、ケースを開けるとワルサーP99、グロック26アドバンスが出てきた。
麻酔弾を入れてあるマガジンがそれぞれ6つあり、ユイはさらに護身用のワルサーPPKもデスクに置く。
ワルサーP99を取り出し、手順どおりにフィールドストリップ(解体)をすると、一つ一つのパーツをチェックし、必要な部分にシリコンオイルを流し込む。
ワルサーP99のメンテナンスを終えると、次にグロックのメンテナンスを始めるとユイは苦い顔をする。
「かなり使い込んであるから、そろそろオーバーホールをしないといけないかなぁ〜?」
グロックも同じようにシリコンオイルなどを使い、自分に出来る限りのメンテナンスをする。
その頃エレイスは、ツバサと共に脱衣所に入ると服を脱ぎ、浴室へと入った。
ツバサはふっと目を閉じるとボォッと体が光りだし、裸にかわった。
腕には羽の名残か少しだけ形が違っている。
そして二人は浴室へ入るとシャワーを出し、湯を浴び始める。
エレイスはシャワーの取手をつかみ、湯をツバサへとかける。
「気持ちいいですねエレイス様♪」
「そうね、汗かいた後に入るシャワーは格別よね♪」
エレイスはスポンジをとり、それに洗剤をつけ泡立てるとツバサの背中を洗い出す。
優しく丁寧に擦ると、ツバサは気持ち良さそうに笑顔になる。
体の隅々まで洗い終え、シャワーを流すとツバサはスポンジを取り、背中を洗うと言い出す。
椅子に座り、ツバサに洗いやすいようにするとゴシゴシと洗い始める。
「気持ちいいよツバサちゃん」
「ありがとうございます♪」
ゴシゴシと洗い終えるとシャワーをかけ、泡を洗い落とす。
そしてシャワーをかけ続け、互いに楽しいひとときを過ごした。
メンテナンスを終えたユイはベットに寝転がり、窓の外を見ていた。
ここ最近、日中は何もないが夜になるとなぜか力が微弱だが不安定になり、胸
の鼓動が高鳴るのだ。
それが日が経つと同時に高鳴りが大きくなる。
「いったい何なんだ……」
その時、部屋の空気が変わったのを感じユイはとっさにグロックをホルスターから抜く。
だが何も感じない、ただ空気がさっきより冷たくなっている。
「誰だ……」
静かに目を閉じるとその空気の主が誰かわかった。
「七夜か…姿を見せろよ?」
『……今は分け合って姿を見せることができない…』
「どうして?」
『分かってくれ、そして俺が出てきた時、聞いてみろ』
「何を?」
『【本当の七夜か】とな……』
「どういう意味だよそれ?……七夜」
七夜に答えを聞こうとしたユイだったが答えを聞けぬまま元の空気に戻ってしまった。
七夜が消えてしまったのだ。
ユイはドアを開けたり窓を開け、外を見て探したりと七夜を探したがどこにも見つからずユイは七夜の言葉を考えた。
「本当の七夜かどうか……」
ユイはグロックをデスクに置き、椅子に座って考えるが答えが全く見つからない。
眉を指ではさみ、目を閉じて考え続けるとエレイスが帰ってきた。
二人ともご機嫌の顔で帰ってきた為、ユイは一瞬笑顔にするのを忘れてしまった。
「どうかしたの?」
「いや、何でもないよ、気持ちよかったかい二人共?」
「うん、ツバサちゃんもすごくハシャイでたしね♪」
「えへへ〜♪」
ユイはそれを聞いて七夜の事について考えるのを止め、二人の話を聞いた。
しばらくして翡翠が扉をノックし、夕食だと教えてくれた。
三人は部屋を出て今へ行くと既に秋葉がいた。
三人の後に先ほど帰ってきた志貴も居間へ入り、夕食の時間が始まった。
今日のメニューは中華で、本格の物だった。
小龍包に揚げ餃子、ホイコウロウにチンジャーロースなど店に出るような品がたくさん並べられ、さすがのユイとエレイスも量に驚いていた。
しかし秋葉と志貴は平然とした顔で食べ初め、二人もそれに続いて箸を持つ。
ツバサは野菜中心に食べ、上品に食べると琥珀からジュースの差し入れが入った。
「はい、確かグレープフルーツが好きでしたよね?」
「ありがとうございます琥珀さん」
ぺこりとお辞儀して両手でそれを受け取ると少しずつ飲む。
グレープフルーツ100%の絞り立てのジュースは酸味が強く、ツバサが飲んだ瞬間、鳥肌が立っていた。
それを見た秋葉はクスクスと笑い出す。
「酸っぱいのだめなのツバサ?」
「大丈夫です秋葉様、ちょっと驚いて…」
にぎやかな食事が終わり、皆、それぞれの場所へと移動する。
ツバサは琥珀と翡翠の手伝いをする為に台所に向かい、志貴と秋葉がテラスで何か話している。
ユイとエレイスは居間のソファーで二人に起こった七夜の言葉について話し合っていた。
「ユイにもあったんだ…」
「うん、七夜の言葉、どんな意味なんだろう…」
「分からない……でも……意味はあるはず…」
「後で探しにいこうか?」
「うん、そうするユイ」
二人は居間を出ると自室に戻り、準備をし始める。
エレイスはウエストポーチをつけ、上着を着て髪を縛り直す。
さらにはユイが日中に持ち歩いている護身用のワルサーPPKをポーチに隠し、エレイスのスタンバイは終わる。
ユイはウエストタイプのホルスターを左右につけ、右にワルサーP99、左にグロック26アドバンスを入れ、さらにはそれぞれのマガジンに入れてある麻酔弾を一つずつホルスターについてあるマガジンポーチに入れる。
ずっしりとした重みが腰にくるがユイにはそれが普通の事である。
夏用の白の上着を着てハンドガンを隠すと二人はうなずき合い、部屋を出る。
琥珀の設置したセキュリティーをなんとか抜けると二人は目的地を公園に決めた。
夜なのにまだ残暑が残り、じりじりと暑さが体に染み渡る。
早足で二人は公園に着くと周りを見渡し誰か以内かを確認すると。
だがどこにも人はおらず、逆に静けさに二人は少し心の中で警戒し始める。
「まだ夜中じゃないのにこんなに静かな物かしら?」
「ちょっと静かすぎるよね?」
二人が周りをジッと見つめ続ける間、優希と実理が公園が見渡せるマンションに立っていた。
ユイとエレイスが見つけると、優希は実理に二人に何か能力がないか確認してもらう。
「ふむ、二人とも能力を所持、男の子は赤、女の子が青……女の子は優しい力ね。警戒すべきはあの男の子の方ね。鋭い赤じゃないけどどこか抜け目ないわ」
「ふむ……ちょっと待てよ?」
優希はジッと二人を見ると、フッと笑い出しホルスターに収めているガバメントHI-CAPを掴む。
「あの二人は埋葬機関がターゲッティングしているユイ・キサトとエレイス・ステアーだ。機関とは一度戦っているがその時に二人とも戦闘に関してはかな
りレベルアップしている。こいつは楽しめるぞ」
「そうね、じゃ、せっかくだし楽しませてもらいませてもらいましょうか」
実理はグローブを填めると指をパキッと鳴らす。
グローブには指の形に合わせて概念武装を施したパーツが装着されており、実理の鍛えたパンチ力と共に数倍の破壊力が備わっており、さらには銃弾をも弾く固さが備わっている。
「行こっか?」
「ああ」
二人はバッとその場から飛び降りると魔術を使用して公園に着地する。
急に空気が変わった事にユイとエレイスは体で感じ、二人はそれぞれの武器を持つ。
背中合わせに前後を見続けると足音が聞こえ、その方向にユイはワルサーを、エレイスは血の刃を向ける。
「初めましてお二方」
優希と実理の姿に二人は少し戸惑うが、ユイは優希の手に持っているハンドガンを見つけ、ワルサーを下ろさなかった。
エレイスは実理のグローブに目が行き、刃を握る手に力がこもる。
「何者だ?」
「彼女は水沢実理、俺は如月優希、共に境界に属す者だ。君たちに用があってな」
「私たち?」
「ええ、埋葬機関と戦い、教会は貴方達をマークしているのよ。そこで私たちが貴方達を見つけ、今から捕縛しようとしているところ」
ユイとエレイスはそれを聞いて完全に戦闘モードに切り替えると互いにギリップを握り直す。
「そう簡単に捕まる僕らじゃないぞ」
「そうでしょうね、あの埋蔵機関の手から逃げ延びているんですものね。私たちもそう簡単に行くとは思ってません」
「じゃ、行動開始!」
優希の言葉に実理もパンと腕を叩き、二人に攻めて来た。
優希はエレイスに、実理はユイをターゲットに指定する。
「エレイス、やつの持っている銃はかなり威力が高い、防御力を重点的にしておいた方が有利だよ」
「ありがとう、ユイも気をつけてね」
エレイスは優希と実理に向かって走り出すと、ユイはグロック26アドバンスを抜くとワルサーと共にマズルを優希と実理に向けてトリガーを引く。
血の弾丸がエレイスの横を通り過ぎ、優希と実理に向かって飛んでいく。
それを見た実理はグローブに包まれた手をきつく握り、動体視力をフルに生かしそれを弾丸を一つ一つ弾いていく。
エレイスは力を足に込めるとその場から一気に跳躍し、優希に向かって刃を向ける。
HI-CAPのグリップを握り直し、マズルをエレイスに向けると教会使用の特殊弾丸を撃ち出す。
ワルサー、グロックと違い、9mm口径ではなく45口径という強力な弾丸を使用している為、弾丸の発射音が耳に劈く。
エレイスも刃を両手で構え、向かってくる弾丸を弾こうとするがユイの言われた事を思い出し体全体に力を込め、刃で弾けない弾丸を腕で防御する。
優希はHI-CAPのスライドがロックされるのを見ると素早くマガジンを交換しスライドを元に戻すと再びマズルをエレイスに向ける。
だがその間にエレイスは優希に一気に近づく事ができ、一気に優希に向かって刃を振り下ろした。
「はぁぁぁ!!」
「おっと」
優希はひらりと刃を避けるとエレイスは続けざまに刃を水平にし、そのまま大きく振りかぶる。
だが優希は体をくねらせながら刃を避け、その合間に右手に持つHI-CAPをエレイスに向けて向け、すぐさまトリガーを弾く。
弾丸がエレイスの肩をかすり血の力で防御力を高めているが45口径の強力な弾丸な為、顔が歪んでしまう。
実理はユイに向かって走るのを止め、歩きながらユイの撃ち出す弾丸を弾いていく。
「なんて固さだよあのグローブっ」
「もう終わり? じゃあ今度は私からね」
実理は一気に跳躍するとユイに向かって拳を繰り出し、攻撃だったユイは防戦に一方になる。
風を切る音と共に豪快な拳がユイの顔面に向かって撃ち出す実理。
接近戦が弱点のユイにとって接近戦の戦いはワルサーとグロックを封印せざる終えず、避けるだけになってしまう。
「ほらほら、大好きな銃はもう終わり?」
「こんな、状況じゃ…うわつ! 使えないよっ!!」
思わずグロックを握る手を挙げてしまい、そのグロックに実理の拳があたってしまった。
「あっ!?」
「あらら…」
グロックは所々ひびが入り、スライドは完全に拉げていた。
ユイはグロックをしまうとグロックを持っていた手に血の刃を出す。
グッと腰を低くし、実理に向かって切り出す。
実理はグローブでそれを受け止めると空いている手をユイの腹に向かって撃ち出す。
それを避ける事もできず、ユイはまともにくらい、地面に叩き付けられる。
そして倒れたユイに向かって実理は拳を顔面に向かって撃ち出すと、それに気づいたユイはとっさに顔を移動させて拳を避ける。
撃ち込まれた拳は地面をめり込み、コンクリートが打ち砕かれていた。
「ひぇ〜…たまんないよ」
「降参しなさい、貴方の負けです」
「どうかな?」
実理は自分の腹を見るとそこにはユイに握られたワルサーの銃口が向けられていた。
このまま動けば共に引き分けになる事は明確だった。
実理はそれを見てフッと笑い、ユイから離れた。
「いいでしょう、あなた方の実力は分かりました」
エレイスと優希の戦闘は攻防戦がさらに激しくなっていた。
エレイスも力をさらに込め、切れのある攻撃をするが優希の素早い身のこなしによって避けられる。
そして隙あらば優希もエレイスに向けて銃弾を放つが指の動きと腕の動きを同時に読み、逆刃で腕をなぎ払う。
このままではいずれどちらかが消耗してしまうのは目に見えていた。
そこでエレイスは使っていないカードをきる事にした。
一度後退し、体制を立て直すとエレイスは優希に気づかれないようにポーチのチャックを開ける。
そして再び優希に攻めかかり、飛んでくる銃弾を避けると刃を降り優希を切ろうとする。
優希は同じように刃をさらりとかわすとエレイスは腰のホルスターからワルサーPPKを抜き、優希にマズルを向けるとそのままトリガーを弾いた。
その動きに優希は驚き、地面を転がって避けようとするが血の弾丸が腕を掠った。
右手に刃、左手にワルサーPPKを握り、エレイスは優希からの攻撃に備えた。
だが優希はすっと起き上がり、HI-CAPをしまってエレイスの目を見る。
「俺の負けだ、刃だけと思っていた俺のミスだ。PPKを持っていたとはなかなかだな」
これ以上攻めてこないと思ったエレイスは刃を消し、ワルサーPPKをしまうと目を閉じ、受けたダメージを治療した。
血の力で防御していた為、酷いダメージはなくすぐにダメージは回復しエレイスは目を開く。
ゆっくりと体を柔軟させると優希に近づく。
「うん、ユイよりキレがあってすごかった、本当に」
「僕より?」
エレイスが振り向くとユイと実理がエレイスと優希のもとに来ていた。
優希はユイを見てフッと笑い、同じ空気を感じていた。
「確かワルサーを使っていたな?」
「うん、撃ちやすいし狙いやすいからね」
ホルスターからワルサーを抜くとそれを優希に見せる。
ワルサーを手に取ると優希は隅々までワルサーを見つめ観察した。
「教会使用の物だがここまで見事な銃を使っているとはな…、グリップからその人が持つ能力者の力を弾丸に変える力、まだ俺は試した事がないが…」
「僕の知り合いがね、大切に使っているよ」
「でも一丁壊しちゃったんだよね〜」
苦笑いしながら実理はユイのグロックを指差す。
変形してしまったグロックを見て、実理を見る。
「まあ、戦いの場では常に壊れる事もある。仕方のない事だな」
「そういえば、なんで二人はこの街へ? ここには埋葬機関がいるから十分なはずだけだけど」
エレイスの質問に実理は丁寧に説明してくれた。
教会と埋葬機関が組織は一緒だが管轄が違うため、独自の管轄で行動していることも。
そして今回の任務が特例である事を教えてくれた。
拿捕する人間の名は「シオン・エルトナム・アトラシア」、エジプトの錬金術のアカデミー・アトラス学院の学長であり、現在ある事件によって園美を追われる事になり、埋葬機関だけではなく教会本部からも発見次第拿捕するとの命が下っていると教えた。
「その人を拿捕する……」
「そう。シオンがこの街に来ているとの情報を得手な。どうやら誰かと接触を試みている世なんだがその相手が誰かは不明だ」
「にしてもかなり大掛かりじゃないか一人を拿捕するのに?」
「それだけに危険な人物という事よユイ君」
「なるほど、じゃ、僕らはもう帰るけど二人は?」
「俺たちもやるべき仕事をしたら帰るよ。二人とも最近のこの街の夜は危険だそうだから注意をしろよ」
「ありがとう優希さん、実理さん」
ユイとエレイスは二人に別れを告げ、公園を出ると屋敷に向かって進む。
その間ユイは二人の言葉をずっと考えていた。
「シオンって人の事を考えている?」
「うん、どうして教会や埋葬機関が最重要人物として追っているのか気になってね」
「それもいいけどどうするのその銃?」
「えっ?」
ユイは思い出したようにグロックを見る。
使えなくなってしまった銃を修理しようにも今、フェーダーが機関に呼び出され屋敷を離れている。
二人は屋敷に向かう方向を変え、シエルのアパートへと向かった。
幸運にもセンチメーターがこの街へ来ているからだ。
近道を使い、最短でアパートに着くとインターホンを押し、シエルを呼び出す。
すぐに包囲姿のシエルが姿を現し、事情を説明して中に入れてもらう。
センチメーターも戦闘服になっており、今さっき見回りから帰って来たよう
だった。
ユイはグロックをセンチメーターに見せると眉をひそめ、やられ具合を見る。
「こいつはかなり派手にやられたな、確かに教会使用の物はすべて強度を増しているがここまで壊せるのは早々いない。誰にやられたユイ?」
「教会の人間、僕らの事を見つけ、戦いになったけど実力を確かめたらそれで終わったよ」
「二人ともかなり強かったです。一人は銃を使っていました。たしか…ガバメントだったっけユイ?」
「うん、普通のじゃなくてHI-CAPだったよ」
「ふ〜む、シエル、心当たりあるか?」
「いえ、私は……でもおそらくは新人でしょうね」
センチメーターは持って来た銃器ボックスから新たな銃を取り出す。
一つはヘッケラー&コックUSP.45タクティカル、コルトガバメント5.1HI-CAP
をテーブルに置く。
渡された銃がすべて45口径と強力な銃でユイは少し戸惑ってしまった。
口径が強力になり、扱えるかどうかと考えてしまったのだ。
「お前用に持って来たやつだ。まあさっき渡そうと思っていたんだが渡し忘れてな。ま〜土産代わりにもらってくれ。もちろんお前用に特別な改良を加えてあるから通常通りに使えるぞ」
ユイはUSPを手に取るとグリップを握ってみる。
ワルサー以上の重さが手に来るが今後の事を考えれば必要な物だと考える。
「ありがとう、でもこのワルサーは気に入っているからこれからも使うね」
「もちろんかまわんさ」
「二人はまだ帰らなくていいんですか? もう遅いですよ」
二人は時間を見るともうすぐ日を超す時間になっていた。
これ以上の外出は秋葉達に言い訳が出来なくなってしまう。
センチメーターに礼を言って立つと二人はシエルに挨拶をしてアパートを出た。
ユイは慣れない二丁の新たな銃に少し戸惑いを感じていた。
「よかったね、新しい銃が来て」
「うん、でもこいつを慣らさないとな」
「さて、屋敷のセキュリティーをまた抜けないと…」
そう、二人にはまだ課題が残されていた。
夜になると一層セキュリティーが増す遠野の屋敷に侵入をしなければならないのだ。
我が家なのに侵入するという行為に戸惑う二人だが夜の街に出たなら仕方のな
い事だと二人は割り切り、我が家であり秋葉(セキュリティーは琥珀)の城と
いう屋敷に向かった。